臨床神経学
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54 巻, 12 号
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第55回日本神経学会学術大会(2014年)
大会長講演
  • 吉良 潤一
    2014 年 54 巻 12 号 p. 939-946
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    日本初の独立した神経内科を九州大学に設立した黒岩義五郎先生のモットーは,Keep Pioneeringだった.私は1980年に黒岩先生のもとで多発性硬化症研究を始めた.この間,神経科学と免疫科学は驚異的な進歩を遂げ,神経系と免疫系との間の密接な関連性がみいだされ,両者を統合する神経免疫学という新しい学問領域が形成された.神経科学と免疫科学の最先端のコア部分を絶えず取り込み統合していくことで,神経難病の新たなパラダイムシフトが生まれ,未来の医療が拓かれると期待したい.他方,根治療法のない神経難病患者に対しては,1998年に全国に先駆け難病コーディネータを配置した福岡県重症神経難病ネットワークを立ち上げ,重症神経難病患者の長期・短期レスパイト入院先の確保と療養相談にあたってきた.Keep Pioneeringは,明日の医学を切り拓く研究にとどまらない.今いる難病患者へのケアにも取り組み,社会に対して責任を果たす神経内科をめざすことが望まれる.
<教育講演ベーシック 09> MGの過去・現在・そして未来
  • 村井 弘之
    2014 年 54 巻 12 号 p. 947-949
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    重症筋無力症の最初の症例報告がなされてから約300年後,本疾患が抗AChR抗体によりひきおこされる自己免疫疾患であることが明らかにされた.その後のMGに対する研究成果にはめざましいものがあり,抗MuSK抗体,抗Lrp4抗体が相次いで発見された.治療として胸腺摘除と抗コリンエステラーゼ薬の投与が広くおこなわれてきた.その後,血液浄化療法や経口ステロイドの大量・長期投与がおこなわれるようになり,MGの死亡率は著明に減少した.2000年以降,タクロリムス,シクロスポリン,免疫グロブリン静注療法が保険適応となり,MGの治療の選択肢が増えた.近年,長期にわたるステロイド投与の弊害も指摘されるようになったことから,QOLを重視した治療戦略を立てる必要がある.
<レクチャーシリーズ 06> 診療に役立つ遺伝性ニューロパチーの話
  • 中川 正法
    2014 年 54 巻 12 号 p. 950-952
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    Charcot-Marie-Tooth病(CMT)はもっとも頻度の高い遺伝性ニューロパチーあり,その有病率は約10人/人口10万人と推定される.次世代シークエンサーによる解析で原因遺伝子が50種類以上同定されている.CMTの遺伝子診断は,予後予測,治療研究への展開などで重要である.外科的治療,リハビリテーション,装具療法,日常生活上の工夫が機能維持・改善に有用である.CMTの根治的な治療法の開発は不十分であるが,新たな治療の試みが始まっている.CMT患者会と協力した研究班が組織されている.CMTの診療においては,他の希少性神経難病と同様に患者の訴えに真摯に耳を傾けることが必須である.
  • 関島 良樹
    2014 年 54 巻 12 号 p. 953-956
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    遺伝性アミロイドポリニューロパチーのほとんどを占める遺伝性ATTRアミロイドーシスは,トランスサイレチン(TTR)遺伝子変異を原因とする常染色体優性の遺伝性疾患である.本症は全身性アミロイドーシスであり,多発ニューロパチー,自律神経障害,心症状,眼症状など多彩な症状が様々な組み合わせで出現する.診断には上記の症状に加え,組織へのアミロイド沈着とTTR遺伝子変異を証明する必要がある.本症に対してはすでに肝移植の有効性が確立しているが,近年TTR四量体安定化薬の有効性が臨床試験で証明され,2013年にタファミジスが治療薬として認可された.本症は治療可能な遺伝性ニューロパチーであり,早期診断が非常に重要である.
  • 髙嶋 博
    2014 年 54 巻 12 号 p. 957-959
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    遺伝性ニューロパチーは臨床的遺伝的に多様で,運動,感覚神経が両方とも障害されるhereditary motor and sensory neuropathy(HMSN)またはCharcot-Marie-Tooth病(以下CMT),運動神経のみが障害されるhereditary motor neuropathy(HMN),感覚,自律神経が障害されるhereditary sensory and autonomic neuropathy(HSAN)などに分類される.遺伝性ニューロパチーは,臨床的特徴と遺伝形式で分類されていたが,原因遺伝子の同定も相次ぎ,その整合性がとれなくなっている部分も多い.同じ遺伝子の異常でも臨床的な病型にかなりのばらつきがあるということを念頭におき,常に発症年齢,臨床的特徴などを拡大的に解釈し,大きな視点から鑑別をすすめる必要がある.遺伝子診断は診断確認に重要で,本邦では次世代シークエンス法による原因遺伝子の遺伝子スクリーニングがおこなわれている1)
<関連分野融合 05> 脳磁図をもちいた神経ネットワーク障害の解明
<Progress of the Year 2014 02> 多系統萎縮症― Update ―
  • 渡辺 宏久, 吉田 眞理, 祖父江 元
    2014 年 54 巻 12 号 p. 963-965
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    今回のレビューでは,2013年に欧米より報告された多系統萎縮症(MSA)の前方向的自然歴を紹介するとともに現行診断基準の問題点を検討した.現在の診断基準では自律神経不全と運動症状が必須であり,いずれかの異常のみを呈する罹病早期例の診断はできないが,われわれは,自律神経症状を主症候とし,運動症状は無いもしくは軽微で,発症2年以内に突然死したMSA 4例の剖検所見を報告した.一方,パーキンソニズムで発症し,発症から自律神経不全の発現までに9年を要したMSAの4剖検例が欧米から報告されている.“mono system atrophy”ともいうべき段階で診断できるバイオマーカーの開発が重要である.
  • 若林 孝一, 丹治 邦和
    2014 年 54 巻 12 号 p. 966-968
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    オートファジーは細胞内分解システムの一つであり,ヒトではオートファゴソーム膜の形成にAtg8ホモローグ(LC3,GABARAP,GABARAPL1,GATE-16)が必須である.レビー小体病(LBD)と多系統萎縮症(MSA)剖検脳を対象に,Atg8ホモローグの変化について病理学的および生化学的検討をおこなった.これらのタンパク質は正常対照では神経細胞の胞体に局在していた.一方,LBDではレビー小体に陽性所見をみとめ,MSAではグリア封入体がLC3強陽性を示した.凍結組織をもちいた定量解析の結果,LBDの側頭葉皮質ではGABARAP/GABARAPL1が正常対照と比較し有意に減少していた.MSAの小脳でもLC3,GABARAP/GABARAPL1およびGATE-16が有意に減少していた.LBDおよびMSAでは,オートファゴソーム膜の形成に異常が生じている可能性が示唆される.オートファジーの活性化や適切な制御によって,神経細胞内の異常タンパク質蓄積が抑制できれば,LBDやMSAをふくむ神経変性疾患に治療効果が発揮できる可能性がある.
  • 辻 省次
    2014 年 54 巻 12 号 p. 969-971
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    多系統萎縮症の多発家系に着目して,連鎖解析による候補遺伝子座の絞りこみ,全ゲノム配列解析による病因遺伝子の同定を進め,6家系中4家系で,COQ2遺伝子に病原性変異をみいだした.さらに,孤発性多系統萎縮患者,対照群において,COQ2の遺伝子配列解析を実施し,機能障害性COQ2が,MSA発症のリスクとなっていることをみいだした.コエンザイムQ10の機能としては,ミトコンドリアの電子伝達系における電子の運搬,細胞内で発生する様々な活性酸素種の除去にかかわっていることが知られており,COQ2変異は,ATP産生の低下や酸化的ストレスに対する脆弱性を増すことが病態機序として想定されている.
<Progress of the Year 2014 03> 脱髄性疾患の新たな切り口
  • 中辻 裕司
    2014 年 54 巻 12 号 p. 972-974
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    多発性硬化症(MS)患者の約3割で血中セマフォリンSema4Aが著明高値を示す.Sema4A高値群にはインターフェロン(IFN)-β療法が有効でないばあいが多く,逆に障害の進行が助長されるばあいもある.疾患モデル動物EAEで検証実験をおこなうと,EAEはIFN-β治療で軽症化するがSema4A投与によりIFN-βの治療効果が打ち消され,むしろ増悪傾向を示した.機序としてSema4AがIFN-β治療下でもTh1,Th17分化を促進すること,およびT細胞の内皮への接着を促進することが一因である.まずSema4Aを測定し,高値MS患者には第一選択薬としてIFN-β以外の治療を考慮することが望ましい.
  • 森 雅裕
    2014 年 54 巻 12 号 p. 975-977
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    HMGB1は本来,核内タンパクであるが,壊死細胞からの受動的遊離に加え,活性化したモノサイト/マクロファージ系細胞,神経細胞,血管内皮細胞などからの分泌により遊離し,敗血症や脳梗塞などに関与することが知られている.われわれはこれまでに急性期髄液中HMGB1濃度は視神経脊髄炎(NMO),多発性硬化症(MS)でその他の神経疾患に比して有意に上昇し,とくにNMOで著増していること,MOGで免疫した実験的自己免疫性脳脊髄炎が抗HMGB1抗体投与により改善することを報告した.これらの結果からHMGB1はNMO,MSのとくにNMOにおいて,その中枢神経内の病態に深く関与し,その治療標的分子となりえると考えている.
  • 河村 信利
    2014 年 54 巻 12 号 p. 978-980
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    中枢,末梢神経の両者に炎症性脱髄をきたす一群として,中枢末梢連合脱髄症(CCPD)がある.近年おこなわれた全国疫学調査ではオリゴクローナルバンド陽性率が低いなど,多発性硬化症とはことなる特徴が明らかとなった.CCPDの自己抗体検索において,一部のCCPDにおける標的部位がランビエ絞輪,傍絞輪部であり,本自己抗体が抗neurofascin抗体であることが判明した.CCPDではその他の炎症性脱髄性疾患よりも高い抗neurofascin抗体陽性率を示した.一部のCCPDでは中枢,末梢神経共通蛋白であるneurofascinを標的とする自己抗体が関与し,連合性脱髄をきたす可能性が示唆された.
  • 山﨑 亮
    2014 年 54 巻 12 号 p. 981-983
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルマウスの脱髄病変で活性化しているマクロファージには中枢神経ミクログリア由来のもの(MiDM)と末梢血単球由来のもの(MDM)があり,それぞれに特有の機序で病態形成に寄与する.単球は急性期に脊髄内に浸潤し脱髄を惹起するのに対し,ミクログリアは疾患ピーク時から回復期にかけて活性化し,髄鞘残渣を貪食する.MiDMとMDMは遺伝子発現パターンも大きくことなっており,これらの個別機能解析は脱髄性疾患のみならず他の神経炎症性疾患の病態解明および治療法開発に重要と思われた.
<Symposium 03> 神経疾患における睡眠障害
  • 川井 充
    2014 年 54 巻 12 号 p. 984-986
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    神経筋疾患においては呼吸障害と睡眠障害は不可分の関係にある.デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは低酸素血症がはじめにあらわれるのはREM睡眠期で,進行すると持続的になる.呼吸筋力低下と上気道の閉塞が原因である.主な症状は朝の覚醒不良,頭痛,食欲低下である.睡眠の分断は日中の過眠に結びつく.人工呼吸器装着によって換気が保たれるとほとんどの問題が解決する.一方,筋強直性ジストロフィー1型では呼吸筋病変に加えて中枢神経の異常による呼吸調節障害と睡眠障害が存在する.比較的呼吸筋病変が軽い段階から睡眠中の低酸素血症が出現することがある.日中の過眠も重要な症状である.人工換気によって低酸素血症を是正しても過眠は消失しない.
  • 野村 哲志, 井上 雄一, 中島 健二
    2014 年 54 巻 12 号 p. 987-990
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病(Parkinson’s disease; PD)患者は,睡眠障害を生じることが多い.原因としては運動症状,夜間諸問題や精神症状だけでなく,その他の睡眠障害である日中の眠気(Excessive daytime sleepiness; EDS),レム期睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorder; RBD),下肢静止不能症候群(Restless legs syndrome; RLS),睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea syndrome; SAS)などが挙げられる.とくに,RBDはPDの病前症状として注目されている.PDの1/3にRBD症状をみとめる報告があり,運動機能障害,自律神経機能,認知機能の増悪因子であるという報告もある.PDの睡眠障害の原因は多様なので,詳細を充分検討した上で対処する必要がある.しかし,PDでのそれぞれの睡眠障害の対応についてはエビデンスが不足しており,データーの蓄積が必要である.
  • 宮本 雅之, 鈴木 圭輔, 宮本 智之, 平田 幸一
    2014 年 54 巻 12 号 p. 991-993
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    慢性頭痛と睡眠関連疾患は相互に関連があり,その病態の解明と治療介入は慢性頭痛患者の生活の質の向上を図るうえで重要である.閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の症候のひとつにmorning headacheがある.国際頭痛分類第2版(ICHD-2)のsleep apnoea headacheと必ずしも一致しないがICHD-3βにより診断の精度が向上すると思われる.またOSASにおいて片頭痛や緊張型頭痛など他の慢性頭痛の併存にも注意が必要である.片頭痛において,下肢静止不能症候群,ナルコレプシー,睡眠時随伴症との関連について報告されており,これらと共通する病態基盤が存在するものと思われる.
  • 岡 靖哲
    2014 年 54 巻 12 号 p. 994-996
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    認知症患者では睡眠障害が高頻度にみられる.睡眠覚醒調節機構の障害に加え,感覚器からの入力低下,社会的活動の減少も加わり,概日リズム睡眠障害を生じやすい.加齢にともなって増加する睡眠障害や,中枢神経病変にともなうレム睡眠行動異常症も共にみられる.概日リズムと深く関連するメラトニンは,認知症患者においては分泌ピークが偏移し,振幅も低下しており,体内時計機構に即したアプローチが求められる.光環境を調節し,日中の活動性を高めることが治療の基本となるが,メラトニンも夜間の睡眠に改善に有効である.認知症患者の睡眠の改善は,認知症のマネジメントの上でも重要であり,対処可能な睡眠障害を的確に治療することが望ましい.
<Symposium 04> 頭痛診療におけるMissing Link
  • 山根 清美
    2014 年 54 巻 12 号 p. 997-999
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    片頭痛は本来Episodicな疾患である.しかし一部の片頭痛は発作に緊張型頭痛の要素が加わるなどの性状の変化を生じ,頭痛日数も増えChronic migraineへと進展する.Chronic migraineは薬物乱用頭痛との区別が難しいばあいも多いが,国際頭痛分類第3版beta版では慢性片頭痛と診断する時点で薬物乱用頭痛との診断並記が可能となった.片頭痛慢性化の機序は不明である.しかし疫学研究から,急性期頭痛薬過剰使用,頭痛頻度,肥満,低学歴,低収入,いびき,うつ状態,頭頸部外傷歴などが片頭痛慢性化の危険因子であることが判明してきた.これらの危険因子を是正することが片頭痛慢性化を防ぐために重要である.
  • 北川 泰久
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1000-1002
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    片頭痛と脳梗塞の関係について従来の報告をレビューし,自験例について検討した.従来,片頭痛性脳梗塞は前兆のある典型的片頭痛の経過中に発生する脳梗塞のみがその基準を満たすが頻度は低い.欧州でのMRI研究では前兆のある片頭痛でおこる脳梗塞は後方灌流領域に好発し,虚血性脳卒中のリスクは約2倍である.45歳未満の前兆のある片頭痛をもつ女性は,経口避妊薬を避けて禁煙することで,このリスクを避けうる.片頭痛は古典的な脳梗塞のリスクである高血圧,糖尿病などにくらべれば影響の少ない因子である.われわれの検討では片頭痛患者の白質病変は前方灌流領域に好発し,欧米とはことなった結果であった.本邦での多数例での検討を要する.片頭痛の白質病変の病態の1つにRCVSが関係している可能性がある.
  • 辻 貞俊
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1003-1005
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    片頭痛とてんかんは一過性発作性脳疾患であるため,関連が議論されている.国際頭痛分類第3版では,てんかん発作と関連する頭痛として,片頭痛てんかん,てんかん性片側頭痛,てんかん発作後頭痛があり,関連性は複雑でかつ双方向性であるとしている.ミグラレプシーの多くは後頭葉てんかんの症状といわれている.国際抗てんかん連盟のてんかん分類には頭痛関連てんかんはない.複雑部分発作後に拍動性頭痛発作を呈する症例は,臨床的には前兆のない片頭痛と区別ができないてんかん発作後頭痛であった.片頭痛とてんかんの病態には類似性があり,大脳皮質細胞の過興奮性や遺伝要因などの共通性もあり,今後の研究の進展が期待される.
  • 古和 久典, 瀧川 洋史, 中島 健二
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1006-1008
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    片頭痛の病態は,未だ不明な部分が多く残されている.前兆は,皮質拡延性抑制(CSD)による現象と考えられている.片頭痛の痛みに関しては,Moskowitzらが提唱した三叉神経血管仮説が支持されている.“missing link”とされていたCSDと痛みとの関連性について,動物実験よりCSDが皮質を潅流する血管に分布している三叉神経終末を興奮させること,すなわち,CSDが頭痛発作を惹起させうることが明らかとなった.前兆のない片頭痛とCSDとの関連性については解明されていない.痛みは,遺伝的素因や女性ホルモンなどの内的要因,種々の外的要因によって,影響を受けていると考えられている.
<Symposium 05> 遺伝性痙性対麻痺の最新情報
  • 瀧山 嘉久
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1009-1011
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    遺伝性痙性対麻痺(hereditary spastic paraplegia; HSP)は下肢の痙縮と筋力低下を呈する神経変性疾患群である.現時点でSPG1~72の遺伝子座と60を超す原因遺伝子が同定されているが,全国多施設共同研究体制であるJapan Spastic Paraplegia Research Consortium(JASPAC)により,本邦HSPの分子疫学が明らかになってきた.さらに,JASPACにより,はじめてC12orf65遺伝子変異やLYST遺伝子変異がHSPの表現型を呈することが判明した.今後,JASPACの活動がHSPの更なる新規原因遺伝子の同定,分子病態の解明,そして根本的治療法の開発へと繋がることが望まれる.
  • 嶋崎 晴雄
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1012-1015
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    遺伝性痙性対麻痺(Hereditary Spastic Paraplegia; HSP)は進行性の下肢の痙性麻痺を主症状とし,様々な随伴症状をともなう遺伝性の疾患群で,数多くの原因遺伝子が同定されている.本稿では自験例のSPG4,SPG11,SPG55,痙性対麻痺を呈したChediak-Higashi症候群についてその臨床像を紹介した.HSPは,同じ遺伝子の異常でも臨床症状がことなったり,症状が同じでもまったく別の遺伝子異常が原因であったりと,臨床的・遺伝的に多様である.さらに,HSPの原因遺伝子以外の異常でもHSP様の臨床像を呈することがあるため,痙性対麻痺を呈する疾患の診断には,幅広い鑑別が必要である.
  • 石浦 浩之
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1016-1017
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    遺伝性痙性対麻痺は下肢の痙性を主徴とする多様な神経変性疾患である.常染色体優性遺伝症例ではSPG4の頻度が多く,その他の病型を合わせ約60%の症例で変異が同定される.常染色体劣性遺伝症例では従来診断にいたる例は多くなかったが,次世代シーケンサーの登場により変異の同定率は4割を超える程に上昇した.一方,X染色体連鎖遺伝症例やミトコンドリア症例はまれである.非常に多くの遺伝子が一度に解析できる時代ではあるが,遺伝子診断を考える上で,家族歴と臨床型を鑑み,頻度の高い方から検討をおこなう鉄則には変化はない.遺伝子未同定家系,孤発例の遺伝学的基盤の解明は今後の大きな課題である.
  • 平 孝臣, 竹田 信彦
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1018-1020
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    バクロフェンは脊髄後角のGABA-B受容体に作用して抗痙縮作用をもたらす.しかし血液脳関門を通過しにくいため微量を脊髄髄液腔に持続投与する.バクロフェン髄腔内投与療法(ITB)は本邦では11,00例以上の経験があり,遺伝性痙性対麻痺(HSP)は50例あまりである.HSPでのITBの特徴は,通常より少量の投与量で効果がみられること,わずかな投与量の変化によって大きく効果が変化すること,長期投与で薬剤を低減できることがあること,があげられる.歩行改善,試験投与での効果推定については一定の結論はえられていない.筋攣縮痛の緩和には非常に有用である.合併症は新たなカテーテルが導入されたことで激減している.
<Symposium 06> 神経感染症における日本からの新たな発信
  • 石川 晴美, 亀井 聡
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1021-1023
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    細菌性髄膜炎診療における最重要課題は転帰改善である.その改善を目的として2007年に作成された細菌性髄膜炎診療ガイドラインの改訂作業がおこなわれた.初期診療では,患者の年齢や背景,その地域の起炎菌耐性化率に適した十分量の抗菌薬を迅速に開始する必要がある.改訂ガイドラインでは,本邦の年齢階層別主要起炎菌分布と耐性菌頻度,患者のリスク因子に適した抗菌薬が推奨されている.細菌性髄膜炎は,初期診療が患者の転帰に大きく影響するため,緊急対応を要する疾患(medical emergency)であり,早期診断と最適な治療こそが転帰改善のために重要である.細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014について解説をおこなう.
  • 西條 政幸
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1024-1027
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    アシクロビル(ACV)の導入により単純ヘルペスウイルス(HSV)による中枢神経感染症の予後は改善されているものの,後遺症を残す患者が多い.ACV治療に耐性のHSV-1による脳炎の報告はなされているが,脳脊髄液からHSV-1を分離することができないことからウイルス学的にACV耐性株による脳炎を証明することは難しい.私たちにより新生児におけるウイルス学的に証明されたACV耐性HSV-1による脳炎ついて,世界ではじめて報告された.また,ACV治療に抵抗性を示す脳炎患者について報告されている.そのひとつの原因としてACV耐性株の出現が挙げられる.ACV治療に抵抗性を示す患者の治療において,適切な治療には原因ウイルスの薬剤感受性の評価や治療薬の適切な選択が求められる.
  • 中道 一生, 林 昌宏, 西條 政幸
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1028-1030
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    進行性多巣性白質脳症(PML)はJCウイルス(JCV)に起因する中枢神経疾患である.PMLの診断では,脳脊髄液中のJCVのゲノムDNAを標的としたリアルタイムPCR検査が一般的である.しかし,この検査には偽陽性のリスクがあり,その可能性を解析するための新技術が必要である.PML患者において検出されるJCVには,ウイルスゲノムの調節領域に多様な変異が生じる.この特性を応用し,高解像度融解曲線分析をもちいて調節領域の変異を患者レベルで識別するための検査系を開発した.本検査系をルーチン検査後のPMLの確認検査にもちいることで,JCVゲノムの変異の有無,および汚染による偽陽性などを迅速に解析することが可能である.
  • 立花 直子, 池田 修一
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1031-1033
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    卵巣奇形腫非合併,抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体脳炎女性例における抗体提示部位を明らかにする目的でヒト・ウシ卵巣を検索した.ウシ卵巣と未受精卵から精製した蛋白をウエスタンブロット法で分析するとNR1,NR2Bの陽性バンドがえられ,アミノ酸分析ではNMDA受容体のペプチド断片を同定しえた.またウシ未受精卵細胞膜は蛍光抗体法で本症患者血清中のIgGと強く結合した.以上から正常卵細胞細胞膜にはNMDA受容体がほぼ完全な形で存在し,抗原決定基として作用しうると考えられた.生殖年齢の女性に偏って発症する本症は正常卵胞に発現したNMDA受容体が抗原として提示されることにより発症する自己免疫性シナプス脳炎といえる.
<Symposium 08> 自律神経の臨床
  • 山元 敏正
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1034-1037
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    圧受容器反射(BR)をもちいた自律神経機能検査について解説した.I.起立試験:BRを介して交感神経が賦活され,下垂体後葉からアルギニン・バゾプレシンが分泌される.II.心拍・血圧変動の周波数解析:心拍変動の高周波成分は副交感神経機能を反映し,低周波成分はBR機能の指標となる可能性がある.血圧変動の低周波成分は交感神経機能を反映することが示唆されている.III.Valsalva試験による圧感受性検査:血圧とRR間隔の相関からBR機能をみたものである.IV.心拍数・血圧の相関:心拍数・血圧の相関は中枢自律神経線維網内の障害の質的差を反映する可能性がある.
  • 朝比奈 正人
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1038-1040
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    発汗異常には発汗亢進と低下があり,その評価は神経病変の高位・部位診断に役立つ.部位診断に役立つ発汗関連の症候にはHorner症候群やharlequin症候群がある.発汗機能検査には,温熱性発汗と精神性発汗を評価するものがあり,その誘発には生理的負荷あるいは薬物をもちいる.発汗機能評価は,神経病変の高位・部位診断に有用であり,疾患に特徴的な発汗異常の特徴をとらえることは神経疾患の診断に役立つ.本発表では,発汗の生理,臨床でおこなわれる発汗機能の検査法について概説し,神経内科診療で遭遇する中枢,脊髄,末梢性,機能性神経疾患の発汗異常について,主に神経診断学という観点から解説する.
  • 鈴木 圭輔, 宮本 雅之, 宮本 智之, 平田 幸一
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1041-1043
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    多系統萎縮症(MSA)において呼吸リズムの異常,閉塞性・中枢性睡眠時無呼吸や声帯外転麻痺などをふくむ睡眠関連呼吸障害(SRBD)は高率に合併する.さらにSRBDの存在下では夜間の自律神経系の変動に大きな影響をおよぼすことが考えられる.パーキンソン病(PD)におけるSRBDの原因として疾患による上気道筋の障害が考えられていたが,SRBDの合併頻度,疾患重症度や日中の眠気との関連については議論されている.本稿では当教室の今までの検討をふくめて睡眠と自律神経機能,とくにPD関連疾患とSRBDに関して解説する.
  • 大林 光念, 安東 由喜雄
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1044-1046
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーや糖尿病性末梢神経障害は発症早期から小径線維ニューロパチーを呈するが,有用な臨床指標がない現状では,この病態の早期発見は容易でない.そこでわれわれは,小径線維ニューロパチーを早期診断するため,レーザードプラ皮膚血流検査や換気カプセル法による発汗検査,汗腺の形態チェック,胃電図,胃内の小径線維やCajal細胞の密度測定,123I-MIBG心筋シンチ,血圧オーバーシュート現象をみる起立試験などの自律神経機能検査を考案した.これらは,ATTR V30M保因者やIGT患者にみられる早期の小径線維ニューロパチーを診断しえる.また,これらにC,Aδ特異的痛覚閾値検査を加えることも,診断に有用となる.
<Symposium 09> 炎症性ニューロパチーの新たな展開
  • 大山 健, 小池 春樹, 高橋 美江, 川頭 祐一, 飯島 正博, 祖父江 元
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1047-1049
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    近年,IgGのサブクラスのひとつであるIgG4の上昇をともなう疾患群がIgG4関連疾患(IgG4-RD)として報告され,注目されている.IgG4-RDは,臓器の腫脹・腫大,組織での線維化をともなうIgG4陽性形質細胞浸潤,血清IgG4値の上昇を共通の特徴とし,種々の臓器で報告されてきた.神経領域では下垂体炎や肥厚性硬膜炎が知られていたが,新たにIgG4-RDがニューロパチーでもみられることを明らかにした.IgG4関連ニューロパチーは,下肢遠位優位の運動感覚障害を呈する多発性単神経炎の様式で発症していた.腓腹神経生検では,神経上膜のIgG4陽性形質細胞浸潤および線維化をみとめ,有髄線維密度の低下,軸索変性像の出現がみられた.IgG4-RDもニューロパチーの鑑別疾患の一つとなる可能性が示唆された.
  • 神田 隆
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1050-1052
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    原発性血管炎分類の国際的スタンダードであるChapel Hill Consensus Conference 分類は大幅に改定され,CHCC2012として発表された.ANCA関連血管炎に関しても個々の疾患名の大幅な見直しがなされ,Wegener肉芽腫症は多発血管炎性肉芽腫症GPAに,アレルギー性肉芽腫性血管炎は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症EGPAに名称が変更された.血管炎性ニューロパチーの確定診断には発症の時点で血管炎の証拠を病理学的に証明しておくことが何より大切であり,末梢神経生検・筋生検の有用性は高い.血管炎性ニューロパチーの治療に特化したレベルの高いエビデンスは存在せず,患者の状態の変化に応じた柔軟な対応が要求される.
  • 福島 和広
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1053-1055
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    神経痛性筋萎縮症は片側上肢の神経痛で発症し,疼痛の軽快後に限局性筋萎縮を生じる疾患である.運動器疾患とも症状が類似しており,診断にいたらない患者が多い可能性がある.腕神経叢とその近傍を首座とする特発性末梢神経障害であり,感染や外傷,労作,遺伝性素因など複数の誘因が知られる.片側の肩甲・上腕部の筋萎縮を呈する典型症例では,STIR-MRIで腕神経叢上部に異常信号が描出されるばあいがある.典型例の他にも遠位筋優位例や,前骨間・後骨間神経麻痺,腰仙神経叢障害など,多様な臨床亜型が知られる.運動機能予後は必ずしも良好ではないが,治療法は確立されてない.
  • 桑原 聡
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1056-1057
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    代表的な免疫介在性炎症性ニューロパチーであるギラン・バレー症候群(GBS),慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP),抗MAG抗体をともなう脱髄性ニューロパチーなどについて最近の治療の動向について概説する.GBSに対しては免疫グロブリン療法と血液浄化法の有効性が確立されているが,なお一定数の死亡や後遺症が問題となっており,新規治療として補体阻害剤(抗C5モノクローナル抗体:eculizumab)による治験が英国で開始されている.CIDPは典型的CIDP,多発単ニューロパチー型(MADSAM)などの病型に分類され,典型的CIDPに対する免疫グロブリン療法,血液浄化法,副腎皮質ステロイドの有効性は確立されているがMADSAM型の治療知見は乏しく,新たな治療ストラテジーが必要である.抗MAGニューロパチーに対してはrituximab療法が期待されている.
<Symposium 12> MSの高次脳機能障害
  • 新野 正明
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1058-1059
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)では様々な症状を呈するが,その評価は身体障害が主であることが多い.高次脳機能障害は身体障害に隠れがちであまり臨床的に評価されてこなかったが,患者によっては高次脳機能障害が前面に出るばあいもある.一方で,MSにおける高次脳機能障害では記憶障害や行動異常などがめだつことは少なく,長谷川式簡易知能評価スケールなどのバッテリーでは評価することが難しい.それは,MSでは“注意・集中・情報処理”といった項目が障害されやすいためと考えられる.このような高次脳機能障害のパターンを背景に仕事や日常生活に障害がおよんでいる可能性が考えられ,その評価はMS診療において重要である.
  • 河内 泉, 佐治 越爾, 西澤 正豊
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1060-1062
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    多発性硬化症(multiple sclerosis; MS)は時間的・空間的多発性を特徴とする中枢神経系自己免疫性疾患である.これまで中枢神経の乏突起膠細胞と髄鞘の障害がMSの主たる原因と考えられてきたため,髄鞘が豊富な白質こそが病変主座と信じられてきた.しかし近年,灰白質(皮質,深部)病変と認知機能障害との関連を問う報告が相次ぎ,灰白質病変の重要性が再認識されている.MSの灰白質病変は,白質の炎症性脱髄病巣による二次的なワーラー変性や経シナプス変性の他に,一次的な脱髄と神経変性が主な要因になっていると考えられている.今後,認知機能と灰白質病変にターゲットを定めた中枢神経系自己免疫性脱髄疾患の治療研究の発展が期待される.
  • 中原 仁
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1063-1065
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    多発性硬化症(MS)の約半数では,注意障害を主体とする高次脳機能障害が出現する.Clinically isolated syndromeの約1/3でも同様の障害がみとめられ,したがって脱髄巣の経時的蓄積のみでは説明できない.昨今,特定の脱髄や脳萎縮が高次脳機能障害に関与すると報告され,一方,脳容量が大きく知的水準が高い患者は総じて代償機構が強く機能し高次脳機能障害に耐性を有することが報告された.高齢者・男性・喫煙者は高次脳機能障害のリスクファクターであり,一部の病態修飾薬は逆に高次脳機能障害出現を抑制する.したがって,MSの高次脳機能障害は促進因子と抑制因子のバランスによって決定されると考えられる.
  • 水野 哲也
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1066-1068
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    多発性硬化症(MS)における高次機能障害の原因となる大脳皮質病変には,ミクログリアによる慢性神経炎症の関与が示唆される.脳内の免疫細胞であるミクログリアは,エフェクター細胞としてIFN-γ,IL-1βなどの炎症性サイトカイン,活性酸素,グルタミン酸などの分子を産生し,MSにおける神経細胞障害を誘導する.一方,障害神経細胞は,フラクタルカイン,FGF-2などの分子を産生し,ミクログリアの活性化を制御し,抗炎症作用および抗酸化作用によりミクログリアの神経保護作用を増強する.これらの分子は,ミクログリアによる慢性神経炎症を抑制し,神経保護的に作用することからMSにおける高次機能障害に対する改善効果が期待される.
<Symposium 14> 今開かれる筋ジストロフィー治療の扉
  • 木村 円, 中村 治雅, 三橋 里美, 竹内 芙実, 森 まどか, 清水 玲子, 小牧 宏文, 林 由起子, 西野 一三, 川井 充, 武田 ...
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1069-1070
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    国際協調に基づく遺伝性神経・筋疾患の臨床研究の推進を目的とし,国立精神・神経医療研究センターに,神経筋疾患患者情報登録Remudyを構築し,現在,ジストロフィノパチーおよびGNEミオパチーのレジストリーを運営している.設立当初の目的である臨床研究の計画および実施の際に対象となる疾患の疫学データを提供し,登録者へ正確な情報提供と迅速かつ効率的な試験参加者のリクルートフローを筋ジストロフィー臨床試験ネットワークMDCTNと共に構築した.さらに,疫学・自然歴情報を提供する臨床研究も実施している.これらの取り組みは,希少な難治性疾患の臨床研究基盤整備のモデルケースを提示している.
  • 武田 伸一
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1071-1073
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    重篤な遺伝性筋疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対しては,アンチセンス・オリゴヌクレオチド(AON)をもちいたエクソン・スキップ治療の実用化が期待されている.われわれはこれまでモルフォリノ核酸をもちいて,マウスおよびイヌのDMDモデル,ならびに患者由来細胞における同手法のproof-of-concept studyを報告してきた.これらの成果をもとに国内製薬企業との共同研究を進め,DMD遺伝子のエクソン53スキップ治療薬の開発に着手し,2013年より同薬の医師主導治験を開始するにいたった.また福山型先天性筋ジストロフィーへの応用,AONの取り込み機構などについても研究を進め,AONの応用可能性を探索する試みについても取り組んでいる.
  • 竹島 泰弘
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1074-1076
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は,ジストロフィン遺伝子の異常により発症する遺伝性筋疾患であり,全症例の19%がナンセンス変異による.ナンセンス変異リードスルー誘導治療は,蛋白の翻訳過程においてナンセンス変異を読み飛ばし,機能を有するジストロフィン蛋白の発現を誘導するものである.今までに,ゲンタマイシンおよびPTC124によるDMDに対する本治療の有効性が示唆されている.私たちはゲンタマイシンより副作用の少ないアルベカシンに着目し,本薬剤によるナンセンス変異リードスルー誘導治療の医師主導治験を開始した.根治治療法のないDMDに対する有効な治療法となることが期待される.
  • 高橋 正紀, 中森 雅之, 望月 秀樹
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1077-1079
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    筋強直性ジストロフィーの遺伝的原因は非翻訳領域におけるリピートの異常伸長である.本症の病態は,リピートの伸長したRNAが核内で蓄積し,スプライス因子の量・質の変化を惹起し,結果生じる多様なスプライス異常であることが判明した.この機序の各段階を標的として治療法開発が進行している.なかでもリピート伸長RNAを標的としたアンチセンス核酸治療がモデル動物で有効であったことから,米国で治験が開始されている.臨床試験にあたり,希少疾患の患者集積性に加え,本邦では既存治療の標準化・均てん化も問題であり,近日運用開始される患者登録の活用が期待される.
<Symposium 17> 運動ニューロン興奮性増大はALS病態の本質か?―Fasciculationの電気生理学―
  • 園生 雅弘, 東原 真奈
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1080-1082
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    線維束自発電位(FP)は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の特徴的所見として古くから知られていた.本稿では,fasciculationとFPの歴史をまず論ずる.FPはALS以外の神経原性疾患では,伝導ブロックを呈する一部の疾患を除けばあまりみられない.すなわち,ALS診断における特異度が高く有用である.改訂El Escorial基準ではFPの意義は過小評価されていたが,Awaji基準では再評価されたことは歓迎される.FPの鑑別対象としてもっとも重要なのは随意収縮MUPの残存である.その鑑別は発火リズムでなされる.FPの発火リズムは,低頻度,きわめて不規則で,しばしばクラスターを示す.これに対して,随意収縮MUPはsemiregularな発火リズムで特徴付けられる.
  • 木田 耕太, 清水 俊夫
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1083-1085
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    Fasciculation potential(FP)は,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の筋電図診断において非常に重要な意義を持つ.運動ニューロンの自発放電に由来するこの現象は,神経変性のもっとも早期からおきると考えられており,FPをいかに正確に検出するかが,ALSの早期診断には重要である.また5相以上のものをcomplex form FP(CFP)と呼ぶ.CFPはALS以外では出現することが少ない.CFPの発生部位は,多くが軸索遠位部であると考えられており,軸索膜の興奮性の増大や不安定性と関連した現象であり,脊髄前角細胞や神経根から生じていると考えられる他疾患のFPと性状がことなり,診断的価値が高いものと考えられる.
  • 澁谷 和幹, 三澤 園子, 桑原 聡
    2014 年 54 巻 12 号 p. 1086-1088
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/18
    ジャーナル フリー
    広範な線維束性収縮は筋萎縮性側索硬化症(ALS)を特徴づける症状であり,神経原性筋萎縮を呈する疾患の中でALSにほぼ特異的な所見である.線維束性収縮の多くは下位運動ニューロン軸索遠位部起源であり,軸索の機能障害・興奮性増大を基盤としている.ALSの皮質および下位運動ニューロンおよび軸索の興奮性を評価した研究では,興奮性増大の所見が報告されており,これが運動神経細胞死とかかわっていると推測されている.これらの所見に基づいて,運動ニューロンおよび軸索の興奮性を抑制することにより,ALSの病態進行を抑制できるかを検討するため,メキシレチン塩酸塩をもちいた臨床試験が実施されている.
<Symposium 18> 日常診療の中の神経心理学
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