症例は37歳男性.23歳よりけいれん発作を繰り返した.35歳から難聴や歩行時のふらつきが出現し当科に入院した.近親婚の家族歴があった.低身長で,腱黄色腫はなかった.mini-mental state examinationは19点,感音性難聴,断綴性発語,嚥下障害,四肢の痙縮,小脳症状を認めた.血中と脳脊髄液中の乳酸とピルビン酸が増加していた.頭部MRIで小脳半球,脳幹,内包に対称性の病変を認めた.ミトコンドリア病を疑ったが,筋生検とミトコンドリアDNA遺伝子解析に異常なかった.血清コレスタノール高値,CYP27A1遺伝子の新規遺伝子変異(c. 43_44delGGのホモ接合体)を認め,脳腱黄色腫症と診断した.
症例は64歳女性.後頭部痛と左耳痛,咽頭痛後に,左の第IX,X,XI,XII脳神経障害を呈した.髄液検査で細胞数増多と蛋白上昇,水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus; VZV)-DNAを認めVZVによる多発下位脳神経障害と診断し,抗ウイルス薬とステロイド薬の併用療法により症状は速やかに改善した.経過を通じて皮疹・粘膜疹は認めずzoster sine herpeteと考えられた.耳痛・咽頭痛を伴う急性発症の下位脳神経障害では,第VII,VIII脳神経障害や皮疹・粘膜疹が存在しなくてもVZV感染症を考慮する必要がある.