REM睡眠行動障害(rapid eye movement (REM) sleep behavior disorder; RBD)は,夢内容の行動化を呈する睡眠時随伴症である.長期的な経過観察で,αシヌクレイノパチーの発症が高率に認められる.将来の発症リスクの告知は,患者に動揺をもたらすものの,患者には知る権利があることから,適切な時期や方法を症例ごとに検討した上で告知し,告知後はRBDに対する生活指導と治療を行い,精神的にも支援する必要がある.またRBDは,他の検査との組み合わせによりαシヌクレイノパチーの早期診断を実現する可能性があり,病態抑止療法への応用が期待される.
症例は36歳男性である.初発症状は両下肢背面の疼痛で,翌年に潰瘍性大腸炎の診断を受けたが,同時期に下腿の筋萎縮を自覚した.臨床像はgastrocnemius myalgia syndromeに類似していたが,筋力低下や針筋電図異常は両下肢だけでなく左上肢にも及んでいた.MRIで左腓腹筋および左ヒラメ筋が高信号を呈し,筋生検にてCD68陽性細胞の浸潤を伴う非肉芽腫性筋炎像がみられた.ステロイドの投与で,疼痛は改善した.炎症性腸疾患に筋痛を合併した場合は,筋炎の可能性を考慮し,針筋電図,MRI,筋生検による評価を行うことが重要である.
症例は33歳女性.耳下腺炎後に情動失禁や運動性失語,両側の側方注視麻痺,痙縮がみられ,MRIで中脳大脳脚から内包後脚,中小脳脚,前頭葉皮質下の白質に異常信号を認めた.以前から眼や口腔の乾燥感があり,入院後にシェーグレン症候群(Sjögren’s syndrome; SjS)の合併が判明し,抗アクアポリン4抗体が陽性であった.ステロイドパルス後の単純血漿交換療法が著効した.ステロイド減量中に大脳に再発を来したが,免疫抑制剤導入後は再発なく経過した.本症例は耳下腺炎を契機に発症しており,唾液腺炎が視神経脊髄炎関連疾患の病態に関与している可能性が示された.
症例は60歳男性.小児期より運動後の筋疲労感や褐色尿を自覚したが症状は軽微であった.45歳頃より両下肢遠位部優位の筋萎縮,感覚障害が進行した.神経伝導検査で軸索型末梢神経障害を呈し,シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease; CMT)が疑われた.55歳より横紋筋融解症を繰り返すようになり,血清アシルカルニチン分析と遺伝子検査から三頭酵素欠損症と診断した.三頭酵素欠損症は先天性脂質代謝異常症の稀な一型であるが,末梢神経障害を合併してCMTに類似した臨床所見を呈しうる.筋症状を伴う進行性の末梢神経障害をみた場合,積極的に本疾患を疑って精査すべきである.
Tumefactive demyelinating lesion(TDL)を呈する多発性硬化症は小児において極めて稀であり,腫瘍性疾患との鑑別が困難である.確定診断のためには侵襲の大きい脳生検が必要だが,近年MR spectroscopy(MRS)によるグルタミン・グルタミン酸複合(glutamine-glutamate; Glx)ピークの上昇を参考に腫瘍性疾患を除外している報告も散見する.今回経験した9歳女児例の経過を示すとともに,TDLとGlxピークの上昇に関する報告を検討し,脳生検とMRSの有用性について考察した.