血管内物質が脳機能へ与える影響を考えるに際し,血液脳関門の存在が問題となる.また,脳内の組織間液や脳脊髄液の脳外への排出に関しては,最近,二つの代表的な排出路の存在が確立されつつある.一つは脳組織間液が毛細血管基底膜から細動脈の中膜平滑筋層の中を通る経路で,他の一つは脳脊髄液が細動脈周囲腔からアクアポリン4依存性アストロサイト細胞質内を経て細静脈周囲腔から脳脊髄液にはいる経路であり,いずれも最終的に頸部リンパ節や静脈内に排出されるとされ,脳全体のバリア機能にも寄与していると考えられる.今回,血液脳関門を含む脳のバリア機能の障害と血管性認知症の病態との関係に焦点を当て,最近の知見を紹介する.
日本神経学会年次学術大会の脳波判読ハンズオン(以下年次大会ハンズオン)と日本神経学会近畿地方会の脳波判読セミナー(以下地方会判読セミナー)でのアンケートを元に,受講者の実態,ニーズとその変遷を検討した.地方会に参加した神経内科専門医の割合は年次大会よりも高かった.地方会参加者は年次大会参加者よりも月単位の脳波依頼件数と判読件数が多かった.年次大会と地方会の満足度の高い講義はそれぞれ,正常脳波とてんかんの脳波で,要望の高い講義はそれぞれ,脳波の読み方とてんかんの脳波であった.受講者のニーズを今後の講義内容に反映させて,神経内科専門医の脳波判読スキル向上に資する効率的な教育機会を提供する必要がある.
症例は49歳女性.スタチン内服歴なし.3ヶ月前から進行性の四肢筋力低下,嚥下障害が出現した.血清CK 13,565 IU/lと高値であり,筋病理では壊死性ミオパチーの所見がみられ,抗3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A reductase(HMGCR)抗体が陽性であった.リンパ節転移を伴う進行胃癌の合併をみとめ,根治手術をおこなったが,症状は進行し独歩不能となった.ステロイド治療では症状の改善はえられなかったが,免疫グロブリン大量療法にて筋力・嚥下機能の著明な改善をみとめた.抗HMGCR抗体陽性壊死性ミオパチーでは,腫瘍の合併に留意する必要があり,腫瘍摘出およびステロイド治療で改善がえられないばあい,免疫グロブリン大量療法が治療選択肢となりうる.
症例は78歳の男性である.右片麻痺で来院し,MRIで橋左傍正中枝脳梗塞と診断,血栓溶解療法を施行した.MRA上intracranial arterial dolichoectasia(IADE)を認めた.その後6ヶ月間に計4回の脳梗塞を繰り返し,計2回の血栓溶解療法を施行した.血栓溶解療法は短期的には奏功したが,抗血栓療法施行後も脳梗塞を繰り返し,機能予後は不良であった.一方,この間に脳底動脈は血管壁に新たな血栓を形成しながら急速に拡張しており,最終的に抗血栓療法は中止した.IADEへの抗血栓療法は画像検査を行いながら慎重に行う必要があると考えられた.
症例は79歳,女性.意識障害を主訴に当院に搬送された.来院時にはJCS 20であり,四肢の筋緊張亢進を認めた.頭部MRIおよび脳脊髄液検査では異常所見を認めなかった.血液検査でアンモニア値291 μg/dlと高値であったが,肝機能は正常であった.尿閉があり尿道カテーテルを留置したところ,入院後8時間で血中アンモニア値は57 μg/dlまで低下し,意識レベルも改善した.尿培養よりウレアーゼ産生菌であるCorynebacterium pseudodiphtheriticumを同定した.ウレアーゼ産生菌による閉塞性尿路感染症が高アンモニア血症の原因となりうることに留意すべきである.