現在,筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)の治療には2種類の薬剤が使用されているが,さらに効果的な治療が必要である.そのためには,臨床的な治療効果判定を補助する信頼性の高いバイオマーカー(biomarker; BM)の開発が必須である.神経生理学的BMと神経画像法BMはALSの疾患を理解する上で重要で,興味を引くものの,BMとしては高価であり,さらに充分なる研究が要求される.一方,体液を使用するBMにはクレアチニン(creatinine; Crn),尿酸(uric acid; UA),2種のニューロフラメント(pNF-HとNFL)があり,共にALSの進行を示唆する可能性が報告されている.CrnとUAは安価であり,またNFは多くの研究室でも研究可能なので,今後,臨床治療試験などあらゆる機会においてこれらの更なる信頼性が研究されるべきである.
症例は18歳男性.約半年前に両眼視力低下,1か月前に右下肢麻痺と感覚異常を自覚.入院時,中心フリッカー値は両眼で低下.MRIは頸髄,胸髄に造影効果を伴う散在性のT2延長病変あり(頭部は異常なし).抗アクアポリン4抗体陰性,髄液オリゴクローナルバンド陽性.“視神経脊髄型多発性硬化症”を疑ったが,抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(myelin oligodendrocyte glycoprotein; MOG)抗体陽性であった.多発性硬化症を疑う病態から抗MOG抗体を認めた際の対処法は,2017年改訂のMcDonald診断基準にも詳細な言及はなく,今後の知見の蓄積を要すると思われる.
症例は58歳,女性.右下肢に急に激痛が現われ,数時間後から右下肢単麻痺が出現した.悪化して歩行不能になった.右下肢全体に高度の筋力低下と中等度の感覚鈍麻がみられlumbosacral radiculoplexus neuropathyと診断した.免疫グロブリン大量静注療法とメチルプレドニゾロンパルス療法の併用が有効であった.MRIで第10胸椎高位の脊髄右後部に梗塞巣と考えられる小病変が描出された.右傍脊柱筋群の急性脱神経を示すMRI所見および右後脛骨神経刺激での体性感覚誘発電位N20頂点潜時遅延は神経根の障害と矛盾しない.後角と後索の辺縁部を潅流する穿通動脈に微小血管炎が波及した可能性がある.
75歳男性.構音障害,左口角下垂で受診.頭部MRIで右中心前回に拡散強調画像で高信号病変を認め,脳塞栓症として入院したが,症状は悪化し画像でも病変の拡大も認めた.髄液JCウイルス(JCV)-DNA PCR検査は4回施行し陰性だったが,進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy; PML)に矛盾しない経過と画像であり,初診から2ヶ月後に脳生検を行いdefinite PMLと診断した.基礎疾患は特発性CD4陽性リンパ球減少症のみで,非HIV-PMLとしてメフロキンとミルタザピンの併用療法を行い,初診から約29ヶ月という長期生存の転帰であった.髄液JCV-DNA PCR検査が繰り返し陰性でも,脳生検が診断に有用なことがある.
症例は経過12年のパーキンソン病の77歳男性.発症4年後から絵画制作に没頭し,作品展を開催するまで上達した.しかし,発症11年後から人の顔を描く際に執拗に修正するようになり画風が変化した.当初の絵画制作への没頭は衝動制御障害(impulse control disorder; ICD)に起因し,後の画風変化はICDの増悪に加えて,運動性保続など前頭葉機能障害の関与も疑われた.
症例は91歳女性である.90歳時に右眼の視力低下が出現し,右視神経炎と診断された.その3ヶ月後に左視神経炎を発症したが,いずれもステロイドパルス療法で改善した.91歳時に左上下肢の筋力低下が出現し,MRIで頸髄に4椎体にわたるT2強調画像の高信号病変をみとめ,ステロイドパルス療法により筋力は改善した.血清抗アクアポリン4抗体が陽性であり,視神経脊髄炎(neuromyelitis optica; NMO)と診断した.その後も約1年の経過で脊髄炎は1回,視神経炎は3回も再発した.NMOは90歳以降でも発症することがあり注意が必要である.
症例は31歳男性.7か月前に前医で脳静脈血栓症と診断された.右顔面,右手のしびれ,構音障害が出現し救急搬送された.頭部MRVで上矢状静脈洞・皮質静脈の描出不良が認められ,脳静脈血栓症の再発と診断した.血液検査でプロテインC抗原量65%,プロテインC活性40%と低下しており,遺伝子検査でプロテインC遺伝子エクソン9にc.811C>T,p.Arg271Trp変異が認められ,先天性プロテインC欠乏症が原因と考えられた.若年発症や既往歴・家族歴がある場合,誘因となる疾患や内服歴がない場合に発症した脳静脈血栓症では先天性血栓性素因を疑い,血液検査や遺伝子検査を行う必要がある.
症例は27歳男性.頭痛,発熱,失語,全身痙攣が出現し入院した.髄液細胞数増多(205/μl)と蛋白上昇(84 mg/dl)を認め,頭部MRIでは左大脳半球の皮質が腫脹し,FLAIR高信号域を呈していた.MRAでは左中大脳動脈が拡張していた.入院後,精神運動興奮状態に至ったが,抗精神病薬,ステロイドパルス療法と経口ステロイド剤で加療し,神経症状は軽快し,第52病日に退院した.第86病日にはFLAIR高信号域も消失していた.血清抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体陽性であったことから抗MOG抗体陽性の大脳皮質脳炎と診断した.抗アクアポリン4抗体と抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体抗体は陰性であった.発症8か月時点で再燃していない.原因不明の急性発症の大脳皮質脳炎では,抗MOG抗体が何らかの役割をもつ可能性が推察された.
症例は,約2年前に単純ヘルペス脳炎(herpes simplex encephalitis; HSE)に罹患歴のある64歳男性.重症肺炎による敗血症性ショックに続き,HSEの再発を来した.敗血症では,初期の炎症反応後に抗炎症反応が増幅して免疫が抑制される免疫麻痺と称する時期が存在し,この期間に単純ヘルペスウイルス等の潜在性感染ウイルスの再活性化を来しやすい.本例で重症感染症への罹患を契機にHSEの再発が惹起されたことは,これを裏付ける結果と考えた.HSEの既往がある症例の重症感染症罹患時には,数日遅れて潜在性ウイルスの再活性化による脳炎再発を来す可能性があることを念頭に慎重に治療経過を観察する必要があると考え報告した.
第225回日本神経学会関東・甲信越地方会抄録
2018年6月2日(土)
第111回日本神経学会近畿地方会抄録
2018年7月21日(土)
2018年度(平成30年度)第2回日本神経学会理事会議事要旨
2018年5月23日(水)
第59回日本神経学会学術大会時 社員総会議事要旨
日本神経学会臨時理事会議事要旨
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