日本における進んだamyotrophic lateral sclerosis(ALS)研究の今後のさらなる発展を期するために,日本において初期にALS関連疾患がどのように見出され,その原因や病態がどのように解明され展開して来たかについて今日的視点で纏めておくことは重要である.本稿では認知症を伴うALSや,紀伊半島を中心とした地域で見られるALS/PDC,遺伝性ALS(FALS),球脊髄性筋萎縮症(SBMA),小脳性運動失調など多系統に及ぶALSの5項目に焦点を当てて,それらの初期論文とその今日的展開について海外論文とも比較検証しつつ主要論文を中心に論じた.5項目ともに日本からの論文が極めて重要な貢献を果たし,初期から120年以上に渡って大きな今日的展開を継続していることを示した.
症例は58歳男性.進行性の両下肢筋力低下・四肢感覚障害で入院した.電気生理学的検査からchronic inflammatory demyelinating polyneuropathy(CIDP)を疑い,経静脈的免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin therapy; IVIg)を施行したが,症状は進行した.その後血清・髄液中のhumanT-lymphotropic virus type1(HTLV-1)抗体陽性が判明し,HTLV-1関連ニューロパチーと診断した.ステロイド投与で筋力は著明に改善した.HTLV-1感染者がCIDP類似の脱髄性ニューロパチーを発症した場合,IVIgよりもステロイド治療を第一選択とすべきと考えられる.
症例は46歳の男性.4年前に脳膿瘍のため穿頭ドレナージ術を施行.術後,症候性てんかんのため,抗てんかん薬を内服していたが自己中断していた.てんかん発作のため他院に救急搬送.第3病日に右不全片麻痺出現,また急性薬剤性腎障害のため透析目的で当院に転院となった.第15病日に脳梗塞を再発し,原因精査の結果,右上大静脈(right superior vena cava; RSVC)の左房(left atrium; LA)への直接還流,左上大静脈遺残および心房中隔欠損を伴う心血管奇形を認め,RSVCのLAへの直接還流による奇異性脳塞栓と診断した.塞栓源として静脈血栓は検出されず,静脈ルートによる血栓や空気塞栓が疑われた.奇異性脳塞栓症を契機に発見された大静脈還流異常の症例であり極めて稀な症例である.
症例は32歳男性.16歳から数秒持続する左眼窩部から側頭部に刺し込むような軽度の痛みが間欠的に生じる一次性穿刺様頭痛の既往があった.32歳時,ムンプス髄膜炎に罹患し入院した.入院2日目に充血,流涙を伴う刺し込まれる耐えがたい痛みが左眼窩部から側頭部にかけて出現した.痛みの持続時間は数秒程度で,間欠期も数秒から1分程度と短かった.三叉神経・自律神経性頭痛を疑いnon-steroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs),酸素投与,スマトリプタンと投与したが改善なく,リドカイン点滴持続静注を開始後にすみやかに改善したため,short lasting unilateral neuroralgiform headache attack with conjunctival injection and tearing(SUNCT)と診断した.一次穿刺様頭痛を既往に持つ患者がムンプス髄膜炎を契機にSUNCTに罹患した貴重な症例である.
症例は14歳,女性.眼神経(左三叉神経第1枝)領域に帯状疱疹を発症し,バラシクロビルによる加療で改善した.その4ヶ月後に一過性の頭痛,意識障害,構音障害,右上肢麻痺を生じた.頭部単純MRIで左中大脳動脈領域に多発する急性期脳梗塞を認め,頭部造影MRIで狭窄部位に一致して血管壁に造影剤の集積が認められた.髄液検査で水痘-帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus; VZV)IgG陽性であり,VZV抗体価指数も高値であったため,水痘-帯状疱疹血管症(VZV vasculopathy)と診断した.VZVは若年性脳梗塞と関連が深いことが報告されており,診断には脳脊髄液中抗体価指数および造影MRIが有用と考えられた.
症例は前兆のない片頭痛の既往のある69歳女性.右眼窩部痛と4時間以上持続する通常と同部位の吐き気を伴う右前頭部拍動性頭痛が出現した.前医にてエレトリプタンを処方され頭痛は改善していたが,1か月後同部位の激しい頭痛が出現し当科に入院した.神経学的所見に異常はなかった.頭部MR angiographyで海綿静脈洞に異常信号をみとめた.脳血管撮影にて海綿静脈洞部に還流があり海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻(cavernous sinus dural arteriovenous fistula; CS-DAVF)と診断した.経静脈的塞栓術を施行し5日後に頭痛は改善した.脳神経麻痺を伴わず片頭痛様頭痛のみをきたし,トリプタンの効果がある場合,CS-DAVFの可能性に注意する必要がある.
症例は75歳女性.約6カ月で進行する首下がり精査のため入院した.頸部筋力はMMT 3レベル,四肢近位筋MMT 4レベルの筋力低下を認めた.針筋電図で低振幅短持続のMUPを認め筋原性変化であった.三角筋の筋生検は異常なし.血清Ca 11.8 mg/dl,P 2.3 mg/dl,intact PTH 104 pg/mlと副甲状腺機能亢進症の所見であった.画像検査で副甲状腺腫を認め,原発性副甲状腺機能亢進症性ミオパチーと診断し腺腫摘出術後に症状は速やかに改善した.首下がりが初発症状となる原発性副甲状腺機能亢進症性ミオパチーは稀であるが根治可能であり見逃さずに治療しなければならない.
症例は受診時51歳女性.6年前より頸部の重みを自覚.1年前から頸部伸展障害が増悪し,歩行障害が加わった.首下がりを主訴に当院を受診した.頸部伸展筋力低下,構音・嚥下障害,頻尿・便秘を認め,両側バビンスキー徴候陽性であった.歩行は小刻みかつ痙性様であった.頭頸部MRIで延髄・脊髄の萎縮を認めた.遺伝子検査でGFAPに本邦ではこれまで報告のない変異p.Leu123Pro(c.368T>C)を認め延髄・脊髄優位型アレキサンダー病(Alexander disease; AxD)(2型)と診断した.首下がりを呈する(AxD)の報告は散見されるものの,本例は首下がりを初発症状とした点が特徴であり,その機序に対する考察を加えて報告する.
脳脊髄液漏出症は交通外傷や腰椎穿刺を契機に発症しうることは知られている.今回ボウリングにより発症した症例を経験した.57歳の女性.ボウリングフォームを改造した後,起立性の頭痛と複視が出現した.頭部・脊椎MRI,CTミエログラフィーにより,脳脊髄液漏出症,それに伴う右外転神経障害と診断した.保存的治療に抵抗性であったため,硬膜外ブラッドパッチを行ったところ頭痛・外転神経麻痺とも改善した.無理な投球フォームのボウリングで生じた腕神経叢・神経根への繰り返す牽引力が原因で微小な髄液漏出を起こし低髄液圧を来した可能性がある.ボウリングで発症した報告はなく発症機序を考える上で貴重な症例である.
2017年(平成29年度)日本神経学会第4回理事会議事要旨
2017年9月16日(土)
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