脳卒中後てんかんの大規模研究は少なく,一定のコンセンサスが得られていない.今回,本邦での脳卒中後てんかんの診療実態を明らかにすることとした.2015年2~5月の脳梗塞治療症例数上位500施設を対象に患者数,検査,治療について,計14問のアンケートを依頼し,189施設から回答が得られた.てんかん入院症例の39%に脳卒中既往があった.検査については頭部MRIや脳波検査はそれぞれ99,97%の施設で施行されていたが,検査陽性率は低値であった.治療については発作の再発抑制にはカルバマゼピン,バルプロ酸,レベチラセタムの順に第1選択薬とされていた.
症例は63歳男性.左臀部から左下肢のしびれ,下肢筋力低下,膀胱直腸障害などの馬尾症候群を発症し,亜急性に症状が進行し入院した.腰仙髄造影MRIにて馬尾下部領域に造影効果を認め,神経伝導検査では両側脛骨神経の導出が不良で,腓骨神経はF波潜時の延長を認めた.M蛋白血症を認め,多発性骨髄腫を疑ったが,血清可溶性IL-2受容体が4,490 U/mlと著高で,FDG-PETにて椎体,馬尾の集積増加を認めた.L4椎弓根生検にてび漫性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断し,R-CHOP(rituximab, cyclophosphamide, hydroxydaunorubicin, oncovin, prednisone(prednisolone))療法を行い症状の改善が得られた.M蛋白血症を伴う馬尾症候群の場合,悪性リンパ腫の可能性も考慮すべきである.
症例は妊娠37週5日の25歳女性,発熱後に異常言動,記憶障害が出現し,辺縁系脳炎と診断した.後に奇形腫ではないことが判明したが,帝王切開の術中に両側卵巣腫瘍を認めた.不穏,口部ジスキネジア,薬剤抵抗性の全身性ミオクローヌス,中枢性無呼吸,自律神経障害を呈したが,免疫治療に良好に反応した.経過から抗N-methyl D-aspartate(NMDA)受容体脳炎が疑われたが抗NMDA受容体抗体は陰性,一方,抗SS-A抗体が陽性であり,唾液腺生検でシェーグレン症候群(Sjögren’s syndrome; SjS)と診断した.SjSに合併した辺縁系脳炎は過去に数例報告があるが,抗NMDA受容体脳炎様の経過を呈した報告はなく,辺縁系脳炎の鑑別を考える上で重要な1例と考え報告する.
症例は55歳の男性.頭痛や脳卒中の既往なく,2年前から物忘れとうつ症状で発症.認知症,両側錐体路徴候を示し,脳MRIで深部大脳白質,皮質下,脳幹に多発性ラクナ梗塞(Lacunar infarction; LAI),多数の微小出血,大脳白質に広範な高信号病変を認めた.側頭極白質の変化は認めず,両側の基底核領域の脳血流が低下していた.NOTCH3遺伝子の第75アミノ酸がアルギニンからプロリンへのシステインが関与しない変異を認めた.塩酸ロメリジンを3年間投与したが,認知症は進行し,大脳萎縮も進行した.LAI,微小出血,大脳白質病変の進行は軽度で,脳血流はむしろ増加した.本症の認知症は大脳皮質の病態が関与する可能性がある.
症例は41歳男性.2015年5月からメキシコに赴任.2016年5月右肺結節影を指摘された.6月下旬より頭痛,発熱があり,12月当院を受診した.頭部MRIで小脳,脳幹周囲の髄膜に造影効果を認め,慢性脳底部髄膜炎と診断.メキシコへの渡航歴から輸入真菌症を疑い,血清,髄液ヒストプラズマ抗体陽性からヒストプラズマ症と確定した.アムホテリシンBリポソーム製剤で症状は改善した.国内でのヒストプラズマ中枢神経感染症の報告例は少ない.ヒストプラズマ症は免疫正常者においても発症する.渡航歴のある脳底部髄膜炎では積極的に同症を考える必要がある.
症例は75歳の男性である.認知症,生活習慣病で治療中であるが,左頭頂葉皮質下出血および左後頭葉の小梗塞を発症した.脳アミロイドアンギオパチー(CAA)と思われる皮質下の微小血腫と脳血管に多発性血管狭窄も認めた.入院6日目に臀部に帯状疱疹を発症し,脳脊髄液中水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)-DNAが陽性で,VZV髄膜炎を併発した.その後,左前頭葉および右頭頂葉の皮質下出血が短期間で多発し,入院18日目に死亡した.VZV髄膜炎後,急速に悪化した要因は,脳動脈硬化や皮質下の微小血種とVZV血管症が関与した可能性が推測された.VZV血管症とCAAとの関連は今後検討する必要がある.