Kumarは硬膜,特に脊柱管前部硬膜に欠損あるいは損傷があり,髄液漏出を呈する疾患群に対してduropathiesという概念を提唱した.脳表ヘモジデリン沈着症(superficial (hemo) siderosis,以下SSと略記)と多髄節性筋萎縮症(multisegmenal amyotrophy,以下MSAMと略記)はduropathiesである.SSの硬膜欠損は,脊柱管内および頭蓋内手術時の不完全な硬膜閉鎖による例と,原因不明例がある.後者は大多数がC7/Th1~Th2/Th3の前部硬膜にある.MSAMの自験7例全例に,C3脊髄前角にT2強調像にて高信号を認めた.その内6例に硬膜欠損が判明し,C7/Th1~Th2/Th3の前部硬膜にあった.SSと同様な部位であり,同部位のFIESTA(fast imaging employing steady state acquisition)横断像が必須である.
症例は50歳の健常女性.一過性の健忘を繰り返した後,強直間代性痙攣が出現し,当院に搬送された.頭部MRIで左側頭葉内側にFLAIR高信号,脳波で左側頭部を起始とするてんかん性放電が確認され,急性辺縁系脳炎に伴う側頭葉てんかんと診断した.健忘発作時に記憶以外の高次脳機能は保たれており,臨床症候から一過性てんかん性健忘(transient epileptic amnesia,以下TEAと略記)と考えられた.中年女性に初発した原因不明の急性辺縁系脳炎であり,自己免疫性脳炎を念頭に免疫療法を施行し,健忘は消失した.後日,髄液中の抗GABAB受容体抗体陽性と判明した.本症例は,GABAB受容体の機能障害により,TEAが惹起された可能性を示唆する貴重な症例である.
症例はGuillain-Barré症候群(GBS)の63歳・女性.経静脈的免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin,以下IVIgと略記)の施行2日目に,意識レベルの低下(JCS III-200)と低Na血症をきたした.頭部MRIで両側後頭葉に血管原性浮腫を認めたが,後に改善し,posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)と診断した.既報告におけるGBSおよびPRESの発症のタイミング,これらの症例に合併した低Na血症や高血圧の程度を考察し,本症例のPRES発症の原因はIVIgとそれに伴って生じた低Na血症が考えられた.
症例は49歳男性.2005年に気管支喘息重積発作による心肺停止状態となった.覚醒後に動作時のミオクローヌスが出現し,Lance-Adams症候群(LAS)と診断された.発症11年後にペランパネルを開始しミオクローヌスは著明に減少し,3年以上持続してactivities of daily lifeが改善した.近年進行性ミオクローヌスてんかん症候群にペランパネルが有効な報告があり,本例のようにLASのミオクローヌスに対してもペランパネルによる治療の余地がある.
症例は86歳女性.調理中に突然出現した複視を主訴に来院した.両眼性複視,両側眼球内転障害と輻湊障害,両側側方注視時に外転眼のみに粗大な単眼性眼振を認めた.入院翌日のMRIで中脳下部背側に拡散低下域を認めた.入院1日半後に尿閉,尿意の消失に気付かれた.脳梗塞を念頭に抗血小板薬で治療を行い,発症2ヶ月後には眼球運動は正常になり,複視も消失.尿閉も消失した.眼球運動障害については動眼神経の内転筋亜核から両側medial longitudinal fasciculusにかけての病変を想定している.尿閉については排尿中枢の一つである中脳水道周囲灰白質への障害が原因と考えている.中脳の微小な梗塞で尿閉を呈する例は稀であるため報告する.
症例は,79歳,女性.意識障害,全失語,左共同偏倚,右片麻痺で発症し,胸部X線とCTで肺水腫,低酸素血症を認めた.頭部MRAで左内頸動脈から中大脳動脈は描出されず,MRIでは島皮質を含む左中大脳動脈全域に梗塞を認めた.左内頸動脈閉塞症に対して経皮的血栓回収療法を施行しTICI3の再開通を得た.呼吸状態が悪化し経皮的血栓回収療法直後に気管内挿管行い,人工呼吸器管理を行った.肺水腫は第2病日には著名に改善,第3病日には消失し呼吸状態も改善した.経胸壁心臓超音波,心電図では,心疾患はなく脳梗塞に伴い二次性に生じた神経原性肺水腫と診断した.本症例は左島皮質梗塞が神経原性肺水腫の引き金になったと考えられた.
症例は44歳男性.食事中に突然の肩甲背部痛が生じ,その後両下肢の完全弛緩性麻痺,第6胸髄髄節レベル以下の表在覚・深部覚の完全脱失,膀胱直腸障害を生じた.造影CTで大動脈,Adamkiewicz動脈に異常なし.MRIで第2~6胸髄に広範な拡散強調画像高信号域がみられ,同部位のT2高信号域は経時的に拡大した.免疫治療に反応なく,脊髄梗塞と診断した.塞栓源検索を行ったが明らかな異常なく,椎間板の変性とSchmorl結節を認め,脊髄梗塞の原因として椎間板線維軟骨を塞栓源とする線維軟骨塞栓症を疑った.突発完成型の脊髄障害では線維軟骨塞栓症による脊髄梗塞も可能性の一つとしてあげられる.
63歳女性例,右耳介部・左肩の複発性帯状疱疹(herpes zoster,以下HZと略記)に伴い右Ramsay Hunt症候群と左C5~6神経根性疼痛・左上肢運動麻痺を呈し,頸椎MRI 3D nerve viewにおいてC5~C8神経根が椎間孔外側で高信号,造影T1WI脂肪抑制像にて増強を示した.上肢正中・尺骨運動感覚神経伝導速度・F波には異常を認めなかった.神経障害を伴う対側複発性HZは極めて稀であり,本例を類似症例と比較し,HZに伴う末梢神経合併症における多発根神経炎の存在と免疫グロブリン大量静注療法の有用性について考察を加えた.
症例は37歳女性.25歳時発症の再発寛解型多発性硬化症(multiple sclerosis,以下MSと略記)で,29歳時にフィンゴリモドの内服を開始した後は再発なく経過していた.35歳時に妊娠が発覚し内服を中断したところ,妊娠中から再発を繰り返した.また,出産後に肝胆道系酵素上昇・好酸球増多を認め,抗ミトコンドリアM2抗体陽性から原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis,以下PBCと略記)と診断された.妊娠やフィンゴリモド中断を契機に病勢が悪化し,PBCを発症した点からはMSの病態に変化が生じたと推測された.インターフェロンβなどの疾患修飾薬やステロイドパルス療法を契機に自己免疫性肝炎・PBCを合併したとの報告は散見される.MS治療に際して留意すべき合併症と考えられた.
症例は69歳女性.糖尿病による慢性腎不全と原因不明の心囊水貯留を指摘され,心囊水貯留に対してコルヒチンが開始された.開始後2か月より四肢筋力低下が出現し,緩徐に進行して1年半後に寝たきりの状態となった.コルヒチンの中止のみで筋力は軽快し,コルヒチンミオパチーと診断したが,コルヒチン中止後も四肢筋力低下が残存した.典型的なコルヒチンミオパチーは早期に改善するが,コルヒチンが長期に使用されたため筋力低下が残存した.これは筋量が少ないためCKが高値を取りにくかったこと,Crによる推算糸球体濾過量が実際の腎機能低下を反映せずコルヒチンミオパチーへのリスク認識が遅れたことによると考えられた.
第106回日本神経学会北海道地方会
2020年9月5日(土)
第234回日本神経学会関東・甲信越地方会
第229回日本神経学会九州地方会
2020年9月19日(土)
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