1999~2013年10月1日時点の全国27筋ジストロフィー専門施設入院患者データベースの筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,以下ALSと略記)情報を解析した.1999年に29例であった入院例数は,2013年に164例となった.50歳代以上の患者が中心で,1999年の人工呼吸療法施行率は68.9%,経口摂取率は41.4%であったが,2013年には各々92.7%,10.4%となった.死因は,死亡時自発呼吸30例中26例,非侵襲的人工呼吸療法6例中5例で呼吸不全,気管切開下人工呼吸療法82例中26例で呼吸器感染症の他多様であった.療養介護病床となった筋ジストロフィー専門施設には,今後もALS患者入院数の増加が見込まれる.
症例は60歳男性.慢性硬膜下血腫を背景に失語と一過性の右上肢不全麻痺を呈した.発症1時間後の頭部MRIで左大脳皮質領域にdiffusion-weighted image(DWI)高信号,apparent diffusion coefficient低信号を認め,鑑別疾患として超急性期脳梗塞が挙げられた.しかし,硬膜下血腫に沿った大脳皮質と同側視床枕にMRI異常信号域が存在し,DWI高信号域と一致してfluid-attenuated inversion recovery(FLAIR)高信号をすでに認めたことから超急性期脳梗塞は否定的と考え,てんかん性発作と考えた.また,FLAIRで硬膜下血腫からくも膜下腔へ血腫成分の漏出を認め,同領域の皮質が発作の焦点と考えられた.MRIの異常信号の局在と信号変化の時期が,発症早期より両者を区別するために有用である可能性が示唆された.
症例は54歳の女性,立位で増強し臥位で改善する頭痛と後頸部痛を主訴に来院した.33歳時より関節リウマチと診断され加療中だった.頸椎MRIとMRミエログラフィーより脳脊髄液漏出症と診断した.また,頸部X線で環椎の前方突出所見を認め環軸椎亜脱臼と診断した.環軸椎亜脱臼の部位に一致して画像上脳脊髄液の漏出を認め,物理的圧迫により硬膜が破綻し脳脊髄液漏出症を惹起したと考えた.症状は補液により軽快し第25病日に自宅退院となった.環軸椎亜脱臼などによる頸部硬膜の破綻が脳脊髄液漏出症の原因の一つとなりうる可能性が示唆された.
症例は47歳男性.細菌性髄膜炎で3回の入院加療歴あり.X年5月某日に頭痛・後頸部痛が出現.3時間後には発熱が出現したため救急搬送となった.診察時,意識清明で発熱,頭痛に加え髄膜刺激徴候を呈した.髄液検査にて多核球優位の細胞数増加と糖低下を認め細菌性髄膜炎の診断となった.治療はステロイドと抗生剤を開始した.鼻汁が多量に出ており,鼻性髄液漏を疑い鼻汁の糖の測定と脳槽シンチグラフィー検査を施行した所,鼻性髄液漏の存在が確認された.髄液漏部位は副鼻腔単純CTにて右篩状板付近と判明した.原因は特発性であり,治療は内視鏡下で修復術を行った.再発性細菌性髄膜炎の原因として特発性鼻性髄液漏の重要性が示唆された.
相貌および声を介した人物同定障害を呈した90歳,女性例を報告した.全般的な認知機能低下を認めたが,相貌以外の視覚性認知機能は保持.人物同定障害の内容として家族など親密度の高い人物は相貌,声による同定可能,有名人の相貌,声は同定困難であったが,既知感はあり名前の記憶は保持されていた.新規の人物は相貌,声ともに同定できなかった.画像検査では右優位の両側側頭葉前部萎縮と右側頭極を中心とした血流低下を認めた.相貌認知障害を含む進行性の人物同定障害は,右優位に側頭葉前部の萎縮を呈する前頭側頭葉変性症として捉えられているが,本例では行動異常や精神症状は認めず,アルツハイマー型認知症の可能性が考えられた.
症例は76歳女性.認知症の経過中に初発の全身性痙攣発作で入院した.頭部造影MRIで右後頭葉を主体とした髄膜の増強効果,大脳と小脳半球に多発する微小出血を認めたが,白質病変はなかった.右頭頂後頭葉からの生検組織でアミロイド血管症を認めた.生検の3日後,右頭頂後頭葉に白質病変が出現し,炎症性脳アミロイド血管症と考え,3クールのステロイドパルス療法,プレドニゾロン経口投与で加療を行い,髄膜・白質病変は徐々に縮小した.アポリポ蛋白E遺伝子型はε2/ε3であった.本症では脳生検によって病勢が悪化する場合があり注意を要する.また,その要因の一つとしてε2アレルの関与が考慮された.
症例は70代の男性3例.主訴は全例歩行障害だった.全例に縮瞳と四肢・体幹失調を認め,mini-mental state examinationは2例,frontal assessment batteryは全例で低下していた.頭部MRIで白質脳症所見と小脳萎縮,拡散強調画像で皮髄境界の高信号を認めたが,2例は経過観察となっていた.全例,皮膚生検で抗ユビキチン抗体と抗p62抗体陽性の核内封入体,遺伝子検査でNOTCH2NLCのCGGリピート伸長を認め,神経核内封入体病と診断した.本症は物忘れを主訴とすることが多いが,失調による歩行障害で受診することもあり,特徴的な頭部MRI所見を手掛かりに皮膚生検や遺伝子診断で精査を進めることが重要である.
症例は知的障害のある49歳女性.福祉施設入所後から高アンモニア血症による夜間の異常行動,意識障害を繰り返した.入所前はフライドチキンなどの高蛋白・高脂質を好む食嗜好があった.血清アミノ酸分析のシトルリン異常高値から尿素サイクル異常症を疑い,遺伝子検査によりシトリン欠損症(成人発症II型シトルリン血症)と診断した.低糖質食療法のみでは治療効果は不十分であり,中鎖脂肪酸(medium-chain triglyceride,以下MCTと略記)オイルを併用し,症状は消失した.再発性の高アンモニア血症では尿素サイクル異常症を鑑別する必要があり,その一型であるシトリン欠損症にはMCTオイルが有効である可能性がある.
囲碁で誘発されるてんかんの発作時脳波,および治療についての報告は少ない.今回,囲碁で誘発されたてんかんの発作時脳波が記録され,抗てんかん薬の頓服により囲碁の継続が可能となった症例を経験した.71歳の男性が1時間ほど囲碁に興じると,数分の強直間代発作を生じるようになったため来院した.発作時脳波では右頭頂部を焦点とした発作波を認めた.囲碁開始1時間前にレベチラセタムを服用させたところ,その後1年以上発作を起こさず囲碁に興じることができた.囲碁で誘発されるてんかんは焦点てんかんと考えられ,抗てんかん薬の頓服で抑制できる可能性がある.