めまいの病態は,眼球偏倚(および結果として生じる眼振)に反映されることが多い.末梢性めまいである良性発発作性頭位めまい症は,耳石が迷入した半規管刺激による眼球偏倚がそのまま出現する.良性発作性頭位めまい症以外の末梢性めまいでは,一側の半規管障害をすべて総和した眼球偏倚となる.一方,中枢性めまいでは,中枢前庭経路(半規管経路+耳石器経路)が小脳により抑制制御を受けているため,前庭経路の直接障害による眼球偏倚に加え,小脳からの脱抑制による眼球偏倚も出現する.小脳による中枢前庭経路の抑制制御は,めまいの回復に重要な役割を担う前庭代償にも深く関わっている.めまいを治療する際には,こうしためまいの病態を理解し,病態に応じて特異的に介入する必要がある.
71歳,女性,右利き.突然の会話困難で発症した.入院時,覚醒は良好であったが,多幸的であり,失見当識,近時記憶障害,病態否認を認めた.発話は流暢で復唱や単語理解は良好であり,視覚性呼称障害も軽微であった.一方,喚語障害,無関連錯語を認め,語流暢性課題時や自由会話,特に病院で激昂した場面の説明で顕著となる状況依存性を伴っていた.MRIでは左視床灰白隆起動脈領域に梗塞巣を認めた.SPECTでは左視床,前頭葉眼窩部,内側部,側頭葉内側部に集積低下を認めた.本例は非失語性呼称障害であると診断した.同症候の既報告例では喚語障害と無関連錯語に加え,情動障害,病態否認のいずれかが併存していた.
2度の脳梗塞による両側半球病変後に特異なジャルゴン発話を呈した伝導失語の1例を報告した.症例は84歳の右利き男性である.第2回目の発症当初(以下,発症はこの時点をさす)より語新作ジャルゴンと音韻性変復パターンを認めた一方,表出面全般にわたる音韻性錯語や接近行動を認め,失語症の病態像としては伝導失語に語新作ジャルゴンが混在していた.発症27ヶ月後時点で,語新作と音韻性変復パターンは消失したが,豊富な音韻性錯語と接近行動は残存し,伝導失語の病態像が明確化した.本例の語新作の発生機序としては,伝導理論が説得性を有していると考え,語新作と音韻性錯語との症候論的な関連性を指摘した.
症例は35歳男性.下痢,感冒症状後に開鼻声,鼻咽腔逆流,複視,歩行時ふらつきが急速に進行した.神経学的には両側軟口蓋麻痺,両側眼球運動障害,四肢腱反射亢進,四肢末梢の表在感覚障害,体幹と四肢の振動覚低下,体幹失調を認めた.入院時のIgM-CMV抗体が陽性であった.免疫グロブリン静注療法施行後,軟口蓋麻痺と体幹失調は著明に改善した.抗GT1a抗体に加え,抗GalNAc-GD1a抗体,抗GM2抗体が陽性となり,脳神経麻痺である軟口蓋麻痺を合併したと推察された.病態的にはFisher症候群とacute oropharyngeal palsyのoverlapと考えられ,両疾患の連続性が示唆された.
症例は43歳女性.2018年5月に北海道の山中で左肩をダニにかまれたのち39°Cの発熱,頭痛及び嘔気を認め,髄液検査より髄膜炎と診断した.入院3日目以降に不穏,意識障害,失調様呼吸を認め,脳炎の合併を疑った.ステロイドパルス療法及び気管挿管,人工呼吸器管理を行い,症状はしだいに改善した.入院10日目に抜管し,その後の各種評価では明らかな後遺症を認めなかった.経過中,ダニ媒介性脳炎(tick-borne encephalitis,以下TBEと略記)ウイルス抗体が陽性と判明し,TBEと診断した.入院24日目に自宅退院した.日本で5例目となるTBE症例である.既報の4例はすべて重篤な経過をたどっており,今回のような軽症例は日本初となる.
症例は男性,60歳から物忘れ,歩行障害,動作緩慢が出現,パーキンソン病や多系統萎縮症として近医加療受けていたが,軽度の意識障害も加わり入院となった.意識障害が1年の経過で悪化し無動無反応となった.臨床症状ではミオクローヌスはみられず,四肢の粗大な振戦の不随意運動があり,脳波で周期性同期性放電(periodic synchronous discharge)及び頭部MRI拡散強調画像で大脳皮質の高信号所見を認めなかった.プリオン蛋白遺伝子検査でオクタペプチドリピート(octapeptide repeat,以下OPRと略記)領域に4回の繰り返し挿入変異が確認され遺伝性クロイツフェルト・ヤコブ病と診断された.OPR挿入変異例は報告が少なく,その臨床症状,検査所見に多様性があり,診断には遺伝子検査が重要である.
症例は61歳の男性.橋右側,右被殻の脳梗塞のため当院へ紹介となった.血液検査で好酸球増加があり,造影CTで深部静脈に血栓あり抗凝固療法を開始した.心内血栓や右左シャントはなく,胃粘膜生検で好酸球浸潤をみとめた.特発性好酸球増加症候群(idiopathic hypereosinophilic syndrome,以下idiopathic HESと略記)による多発穿通枝梗塞と診断し,発症第10日目よりプレドニゾロンを開始した.発症第19日目に左被殻に新規梗塞を再発したが,プレドニゾロンで速やかに好酸球は減少し以降脳梗塞の再発はなかった.idiopathic HESでは穿通枝領域に限局した多発梗塞の報告は稀である.本例は脳梗塞巣が穿通枝領域にある場合でもidiopathic HESを鑑別疾患として念頭におく必要があることを示した.
86歳,女性.左半身脱力で救急要請し,搬送中に片側舞踏運動が出現した.意識障害と左半側空間無視,感覚障害を認めた.血液検査で腎機能障害を認め,頭部MRIで右中心後回および島皮質後部に急性期脳梗塞を認めた.経静脈的血栓溶解療法を施行して片側舞踏運動は徐々に消退し,左不全片麻痺と感覚障害も改善した.本例は体性感覚野の脳梗塞による運動制御機構の機能障害に加え,腎機能障害を併発したことで,片側舞踏運動を生じた可能性があると考察した.
薬剤性の首下がりの原因にはDipeptidyl peptidase(DPP)-4阻害薬が含まれるが実際の報告は少なく,またMRI所見の経時的変化を示した報告はない.症例は63歳男性.2019年2月からシタグリプチン50 mg/日内服が開始された.2020年1月中旬から首下がりが出現し4月上旬に精査入院された.頸部伸展筋の筋力低下(MMT 3)を認め,MRIで後頸部筋群にSTIR高信号を認めた.シタグリプチンの関与を疑い入院後中止とし,入院10日目には姿勢は正中位に改善した.中止1か月後のMRIでは後頸部筋群のSTIR高信号は淡くなっていた.DPP-4阻害薬開始後に首下がりを生じた場合は,同薬の関与を疑い内服中止を検討すべきである.
第108回日本神経学会中国・四国地方会
2020年12月5日(土)
2020年度(令和2年度)第3回日本神経学会理事会議事要旨
2020年8月31日(月)
第61回日本神経学会学術大会時 社員総会 議事要旨
日本神経学会臨時理事会議事要旨
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