片頭痛は遺伝的基盤を持つ頻度の高い疾患であり,しばしば生活に支障をもたらす.片頭痛には多くの共存症が報告されており,それらは慢性片頭痛へと進展する危険因子とされている.共存疾患の各々は独自の遺伝的荷重を有し,片頭痛といくつかの共通する特徴を有している.片頭痛共存症の同定は疾患間に共通する遺伝学的や生物学的機序を明らかにする助けとなる可能性がある.片頭痛患者の治療には多面的アプローチが必要であり,リスク因子や共存因子を同定し,減少させることを目指さなければならない.このアプローチは片頭痛の慢性化への進展を阻止し,さらに薬物に対する治療抵抗性を回避することになる.
小脳失調症関連自己抗体陽性の自己免疫性小脳失調症(autoimmune cerebellar ataxia,以下AICAと略記)では免疫治療の奏効が期待できるとされるが,検査結果と治療効果が一致しない例も報告されている.本研究では,進行性小脳失調を呈する患者の中から免疫治療有効なAICA患者をみいだすため,マウス小脳組織由来抗原に対する抗体を検出し免疫治療効果との関係を検討した.両者には有意な相関が認められ,さらに抗GAD抗体と抗グリアジン抗体検査の併用では感度94%,特異度86%で免疫治療有効患者を予測できることが示唆された.抗マウス小脳組織由来抗原抗体検査は自己免疫性機序を疑う小脳失調症患者における免疫治療施行において有益な情報を提供する可能性が考えられた.
16歳男性.発熱,群発型けいれん重積で救急搬送,febrile infection-related epilepsy syndrome(FIRES)と診断した.発作と多発する合併症の管理に苦慮した.超難治てんかん重積状態(super-refractory status epilepticus,以下SRSEと略記)に対し,他の抗けいれん薬とともにケタミン持続静注,デキサメタゾン髄腔内投与を追加した.第170病日に人工呼吸器から離脱,月単位の焦点運動発作と中等度の運動障害を残したが自宅生活が可能となった.SRSEが遷延するFIRESにおいて,より積極的な治療の追加も選択肢となりうる.
42歳男性で小児期発症の運動亢進発作が難治に経過していた.MRIで右前頭葉に皮質形成異常を疑う所見があり発作焦点と考えられたが,発作症候から左半球が焦点である可能性も示唆された.脳波所見が重要であったが頭皮上脳波では明瞭な発作時脳波が捕捉できなかった.全身抑制帯を必要とする激しい運動発作であり安全面から硬膜外電極留置にて頭蓋内脳波記録を行い,画像所見と局在が一致する発作時焦点を確認でき,焦点切除術に至った.硬膜外電極留置術は今日選択されることは少ないが,発作時運動症状が激しい場合は,硬膜下ないし脳内留置電極よりもはるかに安全性が高く本例のような場合に必要十分な情報が得られる手法である.
症例は69歳男性.2年前より心不全症状が出現し,洞不全症候群に対しペースメーカー植込み術を受けた.1年前より歩行時に両下肢の疲労感が出現した.近位筋の筋力低下,腰椎前弯の増強,筋CTで胸腰椎傍脊柱筋,腹直筋,ヒラメ筋の萎縮を認めた.血清CK値は1,455 U/lであった.筋病理では軽度から中等度の筋線維の大小不同,壊死再生線維を認めたが,細胞浸潤は無く,HLA-ABCの発現は僅かであった.抗ミトコンドリアM2抗体が陽性であり,プレドニゾロンの投与により臨床所見の改善を得た.抗ミトコンドリアM2抗体陽性筋炎は筋生検で診断が確定し難く,致死的な心合併症が先行・合併しうることに注意が必要である.
This case involved a 72-year-old woman. From the day after mitral annuloplasty, a fever over 37°C and ballismus-like involuntary movements of the right upper and lower limbs appeared. A few month later, involuntary movements spread throughout the body, and she developed impairment of consciousness and difficulty speaking and eating. Levels of protein in cerebrospinal fluid were high. Positive results were seen for serum mumps immunoglobulin G and M antibody. Because steroid pulse therapy proved effective, we suspected autoimmune encephalitis associated with mumps virus infection.
症例は75歳女性.2015年4月某日左内頸動脈閉塞を発症し血栓溶解療法と機械的血栓回収術により再開通を得た.僧帽弁狭窄症と心房細動を認め,弁膜症性心房細動による脳塞栓症と診断し抗凝固療法を開始した.その後2年間で抗凝固療法中にも関わらず2度の左内頸動脈閉塞を再発した.僧帽弁狭窄症に対する弁置換術を予定したが経食道心エコーで大動脈弁に浮動性構造物を認め,塞栓リスクを疑い僧帽弁と併せて大動脈弁置換術も施行した.病理所見はランブル疣贅であった.術後より脳梗塞は再発していない.ランブル疣贅が合併した脳塞栓症の治療に関してコンセンサスは得られていないが本例では手術介入が再発予防に有用であった可能性が示唆された.
沖縄型神経原性筋萎縮症(hereditary motor and sensory neuropathy with proximal dominant involvement,以下HMSN-Pと略記)進行期の患者16名(年齢48~70歳)に対し,病名告知・受容・治療への期待などについて調査票による調査を実施した.本症は30年を超える緩徐進行性であり,また家族歴を有することから,病名告知の際に多くの患者は疾患について予想していた.しかし,若年者や発症から告知までの期間が短い患者では,精神的に動揺し,仕事を継続できるか子供へどう説明するか悩んだと書き込まれた.治療については,核酸医薬などの特異的治療の開発に期待するという回答がみられた.
70歳女性.2018年に両側視神経炎と左三叉神経障害で入院した.血清と髄液のaquaporin 4抗体陰性,myelin oligodendrocyte glycoprotein抗体陰性,頭部MRIで両側視神経の腫大と造影病変,左三叉神経intramedullary trigeminal tractと起始部から3 mm末梢側に伸びて途絶する病変を認めた.Seronegative neuromyelitis optica spectrum disorderと多発性硬化症(multiple sclerosis,以下MSと略記)が鑑別に挙がったが,三叉神経中枢性髄鞘に限局した病変からMSと考え,フマル酸ジメチル投与により再発が抑制された.