グリア線維性酸性蛋白(glial fibrillary acidic protein,以下GFAPと略記)抗体関連疾患は,近年新たに提唱された免疫介在性神経疾患である.病態機序は十分解明されていないが,病理学的に血管周囲を主体とするT細胞の浸潤が報告されており,抗原特異的T細胞の関与が推測されている.主に髄膜脳炎・髄膜脳脊髄炎をきたし,意識障害,排尿障害,運動異常症,髄膜刺激徴候,認知機能障害などを呈する.脳脊髄液検査では単核球優位の細胞増多を認め,cell-based assayによりGFAP抗体が検出され,抗体の確認が確定診断に必要である.頭部MRIでは約半数に線状血管周囲放射状造影病変を認め,脊髄MRIで連続する長大な脊髄病変を認めることがある.免疫療法が奏効し,主にステロイド治療が施行されるが,難治例や再発例も存在する.
組織球症(histiocytosis,以下HCと略記)は単球系細胞が様々な臓器に集簇し傷害する炎症性骨髄腫瘍で,ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis,以下LCHと略記)やエルドハイム-チェスター病(Erdheim–Chester disease,以下ECDと略記)が含まれ,BRAFV600Eを代表とする分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(mitogen-activated protein kinase,以下MAPKと略記)経路の活性化遺伝子変異を認める.LCH例の数%は,診断後数年以上経過し初期症状が消失した時期に,左右対称性の小脳病変や脳萎縮が現れ小脳失調や高次脳機能障害が生じる.ECDにも同様の中枢神経変性症(neurodegeneration,以下NDと略記)がある.近年,MAPK阻害剤によりこれらが改善することが報告された.この中枢神経障害を原因不明のNDやHC例から早期に見出しMAPK阻害剤により治療すれば,改善が期待できる.
症例は49歳男性で,活動性の高い潰瘍性大腸炎で下血を繰り返していた.某日に左口角下垂,構音障害が出現し,翌日に左上下肢の脱力がみられ救急搬送された.左半側空間無視,構音障害,顔面を含む左片麻痺を呈し,脳MRIで右前・中大脳動脈領域に拡散制限を認めた.造影CTで右内頸動脈起始部閉塞と上行大動脈血栓を認めたため,大動脈病変を塞栓源とする脳梗塞と診断した.抗血栓療法により,48病日に大動脈血栓は消失した.入院時に血液粘稠度の上昇,proteinase-3-anti-neutrophil cytoplasmic antibody(PR3-ANCA)や抗β2GP1-IgG抗体が上昇していたことから,活動性の高い潰瘍性大腸炎に加え,血液粘稠度や自己抗体の上昇が血栓形成に起因した可能性が考えられた.
症例は30歳男性.クローン病に対してインフリキシマブで治療中にけいれん重積発作を生じ,Epstein–Barrウイルス脳炎の診断で加療され,症状改善後左同名性下四分盲が残存した.脳炎の9ヶ月後から,自身の手や物が大きくまたは小さく見える,動いているものが速くあるいは遅く見える,コマ送りで見える,視界に霧がかかって見えにくいという視覚症状,身体浮遊感が出現し,その後も約10年間にわたり主に疲労時に出現した.各種検査により脳炎の再発や焦点てんかんは否定され,脳炎による遅発性の後遺症として,後頭葉,頭頂葉,側頭葉における皮質機能障害により,不思議の国のアリス症候群を示したと考えられた.
A 75-year-old man developed sudden-onset tetraparesis preceded by chest pain. MRI of the cervical spine on the day of onset showed no abnormalities. Although his motor symptoms improved gradually, the weakness of the muscles innervated by the C5 nerve root persisted. Sensory and autonomic deficits were detected on an additional neurological examination, and follow-up MRI eight days after onset revealed spinal cord infarction at the right anterior horn at C3–C4. This case suggests that motor symptoms mimicking a radiculopathy could be present during the course of spinal cord infarction.
症例は74歳女性.30歳代で重症筋無力症(myasthenia gravis,以下MGと略記)を発症し,翌年に胸腺腫を摘出したがMG症状が安定せず,fast-acting treatment strategy(FT)目的の頻回な入院治療が必要だった.X−2年3月よりエクリズマブを開始し,MG症状が軽快したため外来で経過観察していた.X年2月に全身倦怠感,発熱が出現しSARS-CoV2 PCR検査で陽性となり胸部CTで軽度の肺炎像を認め,入院した.入院中はMGとCOVID-19関連肺炎の症状は重症化しなかったが,その際にエクリズマブがそれぞれの病態に良好に作用した可能性があるため文献的考察を踏まえて報告する.
進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy,以下PSPと略記)と特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus,以下iNPHと略記)の合併例13例を後方視的に検討した.全例PSP-Richardson’s syndrome(PSP-RS)で,シャント術は5/11例(45.5%)で有効であった.シャント術が有効な5例とその他6例では,脳血流SPECTの前頭葉血流低下に有意差を認めた(P = 0.018).以上よりPSPとiNPHの合併例はPSP-RSが多く,シャント術の効果予測における脳血流SPECTの有効性が示唆された.