臨床神経心理
Online ISSN : 2758-0156
Print ISSN : 1344-0292
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  • 増田 柚衣, 朴 白順, 上田 敬太, 生方 志浦, 村井 俊哉, 月浦 崇
    p. 1-
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/10/01
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    未来思考とは、将来自分に起こり得る出来事を想像し、シミュレーションすることである。未来思考には、デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network: DMN)や前頭頭頂ネットワーク(Front-Parietal Network: FPN)などの大規模脳機能ネットワークが関与することが指摘されているが、これらの機能的ネットワークの基盤となる神経線維連絡がびまん性に損傷されることによって、未来思考がどのように障害されるのかについては、これまでに明らかにされていない点が多かった。本研究では、神経線維連絡が広範囲に損傷されているびまん性軸索損傷(Diffuse Axonal Injury: DAI)患者を対象として、神経線維連絡の広範囲な損傷が未来思考に与える影響を検証した。本研究では、DAI患者7名と年齢や教育歴を統制した健常者(HC)8名を解析の対象とした。全ての参加者には、半構造化面接による未来思考課題と自伝的記憶課題が実施された。未来思考課題では、1週間以内の近い将来と、1年後から5年後までの遠い将来に経験することが想定される出来事を想像し、その内容を口頭で回答することが求められた。自伝的記憶課題では、子供時代、成人期初期、成人期後期に経験した出来事を口頭で再生するように求められた。さらに両課題において、参加者は回答した全ての出来事に対しての主観的鮮明度を評価することが求められた。その結果、未来思考課題の成績は、近い将来と遠い将来の両時期において、HC群と比較してDAI群において有意な成績の低下が認められた。自伝的記憶課題では、成人期後期のみHC群と比較してDAI群での再生成績が有意に低下していた。鮮明度の評価については、HC群では近い将来の鮮明度が遠い将来と比較して有意に高かった一方で、DAI群では近い将来と遠い将来との間で有意差は認められなかった。これらのことから、DAI患者ではDMNやFPNなどの大規模脳機能ネットワークが障害されることによって、自伝的記憶や、自伝的記憶を用いて将来起こり得る出来事を再構成するための実行機能が障害され、未来思考の成績が低下することが示唆された。またDAI患者では、近い過去の自伝的記憶が障害されることにより、これを用いてシミュレーションされる近い将来の出来事の鮮明な想像が困難になっていることが考えられた。
  • 更井 智子, 諸冨 隆, 小野寺 英樹, 藤井 裕, 及川 忠人
    p. 3-14
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/10/01
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    右半球に損傷を持つ左半側空間無視患者の刺激図形の模写及び描画の縦断的変容過程について報告した。以下の事実が見出された。第一に、立方体透視図形の模写において、透視図形の各面が重ねられた二次元の模写から左側の面が省略された三次元の模写へ、さらに透視図形内部の奥行きの一部を表現する三次元の模写が出現し、患者の脳内における知覚表象の成長過程を顕在化しえたことである。第二に、花図形の右側半分の花弁と葉が描出する過程において、左側の葉が描出された段階が存在するが、この葉の半分しか描出されなかったことである。この事実は観察者中心座標系で半側空間無視を考えるよりは対象(物体)中心座標系で考えることの方が適切であることを示唆するが、描かれた葉が半分であったことの説明は対象(物体)中心座標系で考えても難しい。第三に、模写と比較して描画には思考活動の関与が大きく、描画は模写よりも自由度が高く、半側空間無視の評価には、模写の方が適切であることを示した。
  • アルコール性認知症への誤診と社会的文脈から外れた言語症状
    中島 明日佳, 船山 道隆, 中村 智之, 稲葉 貴恵
    p. 15-22
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/10/01
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    前頭側頭型認知症の初期診断はしばしば困難である。その中でもとりわけ困難であるのは鑑別に役立つ症状が比較的少ないright temporal variant frontotemporal dementiaである。本稿で初期にアルコール性認知症と誤診されていたright temporal variant frontotemporal dementiaの例を提示する。初期には社会的文脈から外れた言語症状と顕著な行動異常を呈していたが、アルコール性認知症の影響と捉えてしまっていた。病気の進行とともに相貌失認、人物認知の障害、社会的文脈の認知や社会的知識の障害、意味記憶障害、語義失語、常同行動などright temporal variant frontotemporal dementiaに出現しやすい症状が展開し、発症からようやく8年後に正しく診断された。後方視的にみると、アルコール依存症自体がright temporal variant frontotemporal dementiaの初期症状であった。本例に出現した症状と過去の研究を参考にしながら、right temporal variant frontotemporal dementiaの特徴を検討し、概念知識の低下、社会的文脈の認知や社会的な知識の低下、意味記憶障害が一部の行動異常に導く可能性を挙げた。
  • 太田 祥子, 成田 渉, 西尾 慶之, 松田 実, 鈴木 匡子
    p. 23-
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/10/01
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    原発性進行性失語(PPA)には、臨床診断基準の3型に分類できないものがある。今回、長期にわたり失名辞失語のみを呈したPPAを報告した。症例は77歳の右利き男性。73歳頃より人や物の名前の出にくさがあり、77歳時に精査目的のため当科に入院した。神経学的所見としては、右優位のパラトニアを認めた以外に、明らかな異常所見は認められなかった。神経心理学的所見としては、軽度の失名辞失語を呈していた。自発話は流暢で、時に喚語困難に伴う停滞や迂言を認めた。聴覚的理解および読解は統語を含め良好で、復唱と音読も文レベルで良好であった。書字は、漢字の想起困難を認めたものの、ごく軽度であった。82歳時の再評価でも、失語としては呼称障害のみを呈しており、復唱や音読は良好であった。この時点では、軽度の近時記憶障害と構成障害が認められた。画像所見では、77歳時には左優位に側頭葉前方部の萎縮および脳血流低下を認め、82歳時には左側頭葉に加えて両側前頭頭頂葉の脳血流低下も認めた。PPAには、本例のように長期に失名辞失語を呈する例が存在することが示唆された。
  • 藤井 正純, 二村 美也子, 蛭田 亮, 菊田 春彦, 小林 俊輔, 齋藤 清
    p. 25-26
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/10/01
    会議録・要旨集 オープンアクセス
  • 伊関 千書, 高橋 なおみ, 猪狩 龍佑, 佐藤 裕康, 小山 信吾, 山口 佳剛, 小林 良太, 林 博史, 大谷 浩一, 鈴木 匡子
    p. 27-31
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/10/01
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    症例は54歳右利き男性。失書、失算を発症し、事務職の遂行困難となった。右上肢のごく軽度のジストニアと筋強剛が疑われる以外は運動症状は乏しかった。皮質性感覚障害(手掌書字覚)は右優位に低下していた。発症から1年後の受診時には注意の低下、ロゴペニック型失語の他、失算、漢字も仮名も顕著に障害された失書、失算、観念性失行、観念運動性失行、右手優位の肢節運動失行が顕著で仕事の遂行を大きく阻害したと推察された。検査上では記憶障害も認められたが、日常生活では健忘症は顕在化していなかった。頭部MRIの左優位に両側の頭頂葉の皮質の萎縮が認められ、99mTc-ECD SPECTでは、左の角回から前方に広がる血流低下が顕著で、DaT Scanでは、左線条体全体の機能低下が疑われた。11C-PiB PETの集積は陽性であった。漢字・仮名とも顕著な失書や多彩な失行には、角回より広範に背側・腹側に広がる機能低下・変性があることが想定された。バイオマーカーと合わせ、背景病理は、大脳皮質基底核変性症(Corticobasal degeneration、CBD)や後部皮質萎縮症(Posterior cortical atrophy)の原因として多い(Alzheimer disease、AD)を推定した。
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