日本認知心理学会発表論文集
日本認知心理学会第5回大会
選択された号の論文の201件中1~50を表示しています
口頭発表
  • 松田 憲, 楠見 孝
    セッションID: o1A-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
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    Jカーブ効果とは,不快情動を伴う広告の商品評価が遅延によって不快から快に転じる効果を指す.松田・北岸・楠見(2003)は,広告とは無関係な画像によって喚起された情動によってもJカーブ効果が生じることを示した.Jカーブ効果の生起は時間経過によって情動刺激と商品の結びつきが失われることで説明されているが,それを示すデータはこれまでに得られていない.そこで本研究では,商品評価課題とともに広告と対呈示された情動画像の再認課題を行うことで,Jカーブ効果の生起要因の検討を行う.広告は様々な情動価の画像刺激と対呈示された.実験の結果,広告学習直後では画像によって喚起された情動的反応が商品への反応として転化された.また,1週間の遅延によってJカーブ効果が生じ,商品の記憶は保持されるが,情動画像と広告との連合記憶は低下した.不快画像と対呈示された広告の画像再認判断において快画像への誤選択は見られなかった.
  • 鍋田 智広, 神垣 彬子, 目久田 純一, 松井 剛太, 朴 信永, 山崎 晃
    セッションID: o1A-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    特定の単語(ルアー語; 椅子)の連想語から成る単語群(学習語; つくえ,かたい,足…)を学習する課題を行うと,呈示された学習語ばかりでなく,呈示されなかったルアー語が再生される(虚再生)。本研究では幼児(5歳児)を対象に,記憶課題を実施する時間帯が虚再生の発生に与える影響を調べた。すなわち,朝(9時-11時)に課題を実施し再生する群と夕方(15時-17時)に課題を実施し再生する群の虚再生を比較した。その結果,朝に実施した群は夕方に実施した群に比べてルアー語を虚再生しやすかった。その一方で,ルアー語以外の呈示されなかった単語を再生するエラーについては,時間帯の効果が認められなかった。これらの結果は,幼児は夕方に比べて,朝に連想のような意味的処理が促進されることを示唆している。
  • 高橋 雅延, 川口 敦生, 北神 慎司
    セッションID: o1A-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
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    本研究では車の目撃記憶と背景情報の記憶について検討した。すなわち、女性学生100名を参加者として、10枚の車の写真を2つの背景情報(青色か緑色の背景)のいずれかと一緒に提示した後で、車そのものの再認記憶と、その背景情報の記憶(すなわちソース記憶)について判断を求めた。その結果、従来のソース記憶の研究と同様に、車そのものの記憶は優れるものの、ソース記憶の成績の低いことが明らかとなった。これらの結果は、車の目撃記憶においても、いわゆる無意識的転移の起こる危険性のあることを示唆していると思われる。
  • 増本 康平, 須谷 康一, 山口 雅彦, 外池 光雄
    セッションID: o1A-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
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    ある行為文(「コップをもつ」)を憶える際に、言葉だけで憶える(言語条件)よりも実際にその行為を行いながら憶える(実演条件)方が、記憶成績は優れている。なぜこのような差が生じるのかについて、これまで機能的脳画像研究から、運動野と関連した運動感覚情報や頭頂葉と関連した運動表象の処理が、行為を伴った記憶の検索に関与していることが示されてきた。しかしながら、運動感覚情報や運動表象といった処理がどの順序で行われているのかを検討した研究は報告されていない。そこで本研究では、時間分解能に優れた脳磁図(MEG)を用いて、脳内活動の時間的な変化を実演条件と言語条件で比較することにより、行為を伴ったエピソード記憶の検索プロセスを検討することを目的とした。実験の結果、運動野の活動が頭頂葉の活動よりも早い段階でみられ、運動感覚情報が実演条件と言語条件で異なった検索プロセスを経るトリガーとして機能している可能性が示唆された。
  • 小川 奈保, 余語 真夫
    セッションID: o1A-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
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    本研究では,ストレスに関連する思考を意図的に抑制することが,ワーキングメモリ容量に及ぼす影響を,思考抑制の実験パラダイムを用いて検証した。1回目のワーキングメモリ容量測定課題の後,実験参加者にはストレスとして,実験の最後にスピーチ課題を行うことが予告された。その後,5分間の待機期間が設けられた。その間,抑制群にはスピーチについて一切考えないよう指示が与えられ,統制群には特に指示が与えられなかった。最後に2回目のワーキングメモリ容量測定課題が実施された。1回目から2回目にかけてのワーキングメモリ容量の変化率を算出したところ,両条件においてワーキングメモリ容量は増加しており,課題の練習効果が確認された。ただし,課題の練習効果は,抑制条件において統制条件よりも小さかった。以上の結果より,ストレス関連思考の抑制がワーキングメモリ容量測定課題における練習効果を阻害することが示唆された。
  • 無意味な聴覚刺激を用いて検出される2ヶ月前の学習効果
    寺澤 孝文, 上田 紋佳, 泊 直希
    セッションID: o1A-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
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    これまでの研究で、意味を同定できない無作為に作られた聴覚刺激を1,2度聴いた学習の効果が、2~3ヶ月後の再認記憶実験の成績に頑健に、また大きな効果として現れる事実を実験的に明らかにしてきた(寺澤・泊・上田,2006)。本発表は、顕著な変化量として検出される効果の大きさに着目し、実験参加者が記憶テストの成績を容易に集計し、自覚できない学習の効果を自らの反応に見出すことが可能な実験材料とその課題セットを開発し、それを約150人の大規模授業で活用した実践例を紹介する。そこでは、自覚することが難しい潜在記憶の存在を、自らの反応データに見出せる状況を作ることに成功した事実を、ビデオ映像を踏まえ紹介する。さらに学術的には、この事実が従来の記憶表象理論に与えるインパクトに説明を加える。
  • その2
    北守 昭, 北守 敦子
    セッションID: o1A-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
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    本研究は、これまで情報量、及び注視時間の制御が困難とされ、組織的研究が遅れていた歩行時の偶発的記憶について、左右広角メガネを使用することで、実験的に明らかにしようと試みた。
  • 一川 誠
    セッションID: o1B-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
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    刺激画像全体に複数の斑点様の視覚刺激を瞬間的に提示することで画像の変化が気づきにくくなる現象が知られており、mudsplashによる変化盲と呼ばれている(O'Regan et al., 1999, Nature).この現象は通常複数の斑点刺激を提示することによって生じることが示されてきた.本研究では、ターゲット刺激を運動させた場合、単一の点フラッシュ刺激や,あらかじめ提示していた刺激の消失によってもターゲット刺激の形状変化が高い頻度で見落されやすくなることを見出した.この見落し現象は,ターゲット刺激とフラッシュ刺激とが左右視野のうち同一の視野に提示された場合に高い頻度で生じることが見出された.これらのことから、この見落としににはフラッシュ刺激による注意の捕捉が関与していることが推測される.フラッシュ刺激とターゲット刺激の形状変化の時間差,および距離が見落としの頻度におよぼす効果から、この現象の基礎にある過程について考察する.
  • 事崎 由佳, 岩崎 祥一
    セッションID: o1B-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    この研究では、発話課題を用いた注意の切り替えが干渉抑制に与える影響を調べた。注意の切り替え課題はランダムに英語と日本語で数字を読む条件と、英語もしくは日本語のみで数字を読むコントロール条件から構成されていた。実験では、切り替え条件8試行に続きSimonあるいはStroop課題を10試行行うセットを数回繰り返した。実験参加者は、予めアンケート調査によって主観的幸福感の高い学生と低い学生を各20名ずつ選んだ。干渉課題としてはSimon課題とStroop課題を用いた。実験結果は、Simon課題では、英語で数字を読む条件においてSimon効果が高く表れ、幸福度の影響は見られなかった。一方、Stroop課題では、英語で数字を読む条件と英語と日本語の切り替え条件においてStroop干渉が抑えられるとともに、幸福度の高い群は全体として低い群よりも干渉が小さかった。以上の結果は、それぞれの課題における干渉が異なる過程によることを示唆している。
  • 永井 淳一
    セッションID: o1B-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
     視覚探索の実験において,妨害刺激の一部を先行して呈示した後,標的刺激を含む残りの刺激を追加して呈示すると,標的の探索時間は先行呈示された妨害刺激の影響を受けず,あたかも後続呈示された刺激のみの中から探索が行われうることが報告されている(先行呈示効果)。この現象は,先行刺激の抑制処理,あるいは後続刺激の優先処理のメカニズムを仮定することによって説明されている。本研究では,先行呈示効果に刺激の親近性が影響を及ぼすかを検討するため,実験1では探索刺激として平仮名文字の正像,実験2では倒立像(180度回転像)を用いて比較した。実験の結果,実験1・実験2ともに頑健な先行呈示効果の生起が確認され,実験間での相違は殆ど認められなかった。刺激の親近性が先行呈示効果に影響しないという本研究の結果は,旧刺激の抑制処理ないし新刺激の優先処理が,意味的・概念的情報とは独立に生じていることを示唆するものである。
  • 守谷 順, 丹野 義彦
    セッションID: o1B-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    高不安者は注意の資源容量が多く,様々な刺激に注意が向くと考えられる。本研究では知覚的負荷(perceptual load)の理論に基づき,社会不安者の注意の資源容量について検討した。同心円上に提示された6つのアルファベットの中から,1つあるターゲット(XまたはN)をすばやく識別するよう求めた。高負荷条件ではターゲット刺激以外は全て異なったアルファベット,低負荷条件では全て同一のアルファベットである。課題無関連刺激として,ターゲットと一致・中立・不一致なアルファベットを提示した。その結果,低社会不安者は低負荷条件でのみ課題無関連刺激からの干渉が見られ,ターゲットと不一致な課題無関連刺激提示時に,ターゲット刺激の処理が遅れた。一方,高社会不安者は低・高負荷条件の両方で課題無関連刺激からの干渉が見られた。したがって,高社会不安者は注意の資源容量が多く,高負荷条件でも課題無関連刺激の処理が行われたと考えられる。
  • 木村 貴彦, 篠原 一光, 駒田 悠一, 三浦 利章
    セッションID: o1B-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    ドライビングシミュレータ環境での運転時において,聴覚刺激の処理が視覚刺激検出に及ぼす影響が二重課題法を用いて検討された.その際に,n-back課題を用いた聴覚刺激によるメンタルワークロード課題の有無と先行車両の有無が操作され,光点の検出反応時間が計測された.結果,聴覚課題がある場合には反応時間の遅延とNASA-TLXによる主観的負担感の増加がみられた.また,先行車提示の場合,反応時間は遅延しないが主観的負担感は増加した.これは注意資源をより配分することで反応課題へ適応していることが示唆された.検出反応時間は標的刺激が周辺に提示される場合に最も遅延した.これらのことより,聴覚情報提示が運転操作に対する心的負担を増大し,前方での情報獲得を妨害することが示された.
  • 高原 美和, 三浦 利章, 篠原 一光, 木村 貴彦, 原田 悦子, 須藤 智
    セッションID: o1B-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,客観的な注意機能の測定結果と質問紙を用いた主観的な注意機能の評価を比較し,注意機能に関して実際の課題成績が主観的評価と関連しているかどうかについて年齢差を検討した.実験には高齢者19名と若年者14名が参加し,客観的評価として課題切替テストを主観的評価として日常注意経験質問紙と失敗傾向質問紙が用いられた.結果から,若年者と比較して高齢者の場合は客観的評価では注意機能の低下が示されているにも関わらず,主観的評価では自らの注意機能の状態をよりよく報告し,失敗の頻度を少なく回答する傾向が見られた.また,高齢者の中でも注意機能が低いと考えられる群ほど自己評価が高かった.本研究より,注意機能が低下した高齢者ほど機能低下を意識できないという特徴が見出された.高齢者における問題には注意など認知機能そのものの低下だけではなく,自己モニタリング機能の低下も関係している可能性が示唆された.
  • 複数目標維持の効果
    原田 悦子, 須藤 智
    セッションID: o1B-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    高齢者のIT機器利用時に特異な現象であるエラー反復をとりあげ,漢字選択課題実験により現象発生要因を検討した.若年成人(実験1)ならびに高齢者(実験3)の結果から「誤った漢字表記を選択する」誤回答条件ではエラー率は上昇するがエラー反復は生じなかったが,正回答試行と誤回答試行が3回ごとに替わる課題切替条件では両群ともエラー反復を示した(実験2,4) ことから,単なる課題複雑性による作業負荷ではなく,「複数の目標が作業記憶内に維持される」作業負荷がエラー反復現象の必要条件であることが示された.さらにAIST版課題切替作業テストでの高齢者536名のサンプルから,高成績群(12名)/低群(16名)を抽出,比較実験を行ったところ,低群の方がエラー反復の生起確率がより高かった.なぜ高齢者のIT機器使用時に複数目標維持の負荷が増大するのかを検討し,デザイン改善案を考察する.
  • 永井 知代子, 乾 敏郎, 岩田 誠
    セッションID: o2A-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    Broca野のうち弁蓋部と三角部は,神経解剖学的にも機能的にも違いがあることが指摘されている.本研究は,これらの部位に限局病巣をもつ日本人脳梗塞患者の統語理解力を比較し,その違いから各部位の機能を考えた.対象は主病巣が弁蓋部であるOp群と三角部であるTr群で,可逆文(例・リスがトラにゾウを渡した)を聞いた後にぬいぐるみを操作して文を再現することが求められるObject Manipulation Taskを行った.正答率とエラーパターンから,Opでは関係節文が,Trでは関係節文より与格文の方が不良であり,基本語順に沿った意味役割付与はTrで目立つという違いを見出した.一方両群ともかき混ぜ能動文は不良で,アイテムの誤選択,関係節文構造の単純化は両者でみられた.日本語の特性を考慮すると,これらの結果は,Broca野の中でも弁蓋部がより系列処理的な統語に関わり,三角部はより認知的・意味的処理を行うという仮説を支持するものである.
  • 乾 敏郎, 小川 健二, 大庭 真人
    セッションID: o2A-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    Inui, Ogawa, and Ohba(2007)は、助詞判断課題において下前頭回、特に BA47に限局した活動が見られることを示した。本研究では、単語を継時提示することにより単文処理における統語処理過程を事象関連fMRIにより検討した。名詞・助詞・動詞の構造を持つ単文を使用した。刺激語として、名詞4種類、助詞3種類、動詞4種類を用いた。文法課題では、名詞、助詞、動詞の結びつきが文法的かつ意味的に正しいかどうかをキー押しで反応させた。音韻課題では、助詞の母音部分と動詞の第一音節の母音部分が共通しているかどうかをキー押しで判断させた。その結果、文法課題では助詞が提示されると左BA47および左角回の活動が、単文最後の動詞を提示するとブローカ野および運動前野の活動が見られた。これらの知見に基づき、単文に対する統語処理過程の考察を行う。
  • 大槻 亮, 森藤 大地, 小川 健二, 乾 敏郎
    セッションID: o2A-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    日本語文は,名詞と助詞の言語情報のチャンク化により格を構築し,格を基礎に構文解析されている.本研究では,基本語順文(SOV文)とかき混ぜ文(OSV文)の理解時に活動する脳部位を比較し,格処理に関わる神経機構を検討した.各々文節毎に継時提示した後,絵を提示し,それが文の意味と同じか否かを判断させた.提示時間は,各文節3~5秒,絵3秒であった.OSV条件をSOV条件と比較した時,有意な活動は第1刺激時では見られないが,第2刺激時には左内側BA6/8で,第3刺激(動詞)提示時には左BA44/45で見られた.逆に,SOV条件をOSV条件と比較した時,活動はいずれの時点でも見られなかった.これらの活動は,日本語においてかき混ぜ文の方が基本語順文と比べ典型性が低いための活動と考えられる.左内側BA6/8はイメージ生成や目的語の保持のために活動し,左BA44/45は構文解析のために活動したと示唆される.
  • 田口 明裕, 笹岡 貴史, 乾 敏郎
    セッションID: o2A-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    聴覚フィードバックによる発話の自己モニタリングは音声生成において重要な役割を担っており,フィードバックを人工的に遅らせて聴かせる遅延聴覚フィードバック(DAF)条件下では吃音症状が発生することが知られる.本研究では,発話の自己モニタリング機構の特性を明らかにする目的で,遅延200msのDAF条件下で文章音読課題を行い,発話誤り箇所を解析した.この時,漏入する自己音声のマスクのためにフィードバックにノイズを加えるとともに,骨伝導の影響も最小限に抑える工夫を行った.かな表記された日本語文を視覚提示し,移動するマーカーに沿って一定の速さで音読させた.マーカー速度は,遅延時間がちょうど1音韻分になるよう統制した.吃が生じた箇所を解析した結果,隣り合う音韻の聴覚空間上の距離と吃発生率に負の相関が見られた.本結果を元にして,発話の自己モニタリング機構について考察する.
  • 日高 昇平, 齋木 潤
    セッションID: o2A-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    視覚的物体の認識や,名詞カテゴリを汎用する際に,人は色や肌理などの部分的特徴よりも,形状などの全体的特徴をより重視する事が示唆されている.本研究では,部分に対する全体的特徴の優位性は物体の分節化と関連すると仮説を立て,事前知識の介入しない人工的な「物体」の発見過程を検討した.実験では,一場面にランダムな配置で提示される四つのブロックパタン(要素)のうち二つの要素からなるペア(実験上定義された物体)を分節化し,要素ペアの特徴を答える事が協力者に求められた.学習目標である要素ペアは部分的・全体的特徴で定義され,協力者は未知の要素ペアの特徴をフィードバックにより探索・学習した.密集した要素が提示され分節化が困難な条件と,疎に要素が提示され分節化が容易な条件を比較した結果,分節化が容易な場合では要素ペアの全体的特徴をより重視する傾向があり,物体分節化が全体的特徴の優位性に関連する事が示唆された.
  • McGurk効果を用いた検討
    田中 章浩, 浅川 香, 今井 久登
    セッションID: o2A-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    視覚刺激と聴覚刺激が統合されるための呈示タイミング差の許容範囲(時間窓)はおよそ200ms程度であるが,単純な刺激(フラッシュ光と純音)を用いた場合,一定の呈示タイミング差(例:音が200ms遅延)で呈示され続けると,時間窓が拡大する。しかし,この時間窓の補正が,生態学的に妥当性が高く,刺激構造も複雑である音声刺激においても同様に生じるのかは明らかではない。そこで本研究では音声刺激を用い,McGurk効果の生起率を統合の指標とした実験を実施した。実験の結果,音声が233ms遅延するタイミング差に順応した場合,映像と音声が同期するタイミングに順応した場合と比べて,音声が遅延した条件でのMcGurk効果の生起率が上昇した。この結果は音声においても時間窓の補正が機能することを示唆し,視聴覚メディアへの応用が期待できる。
  • 馬場 伊美子, 岩崎 祥一
    セッションID: o2A-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    分数の導入学年が文部省の指導要領改定のたびに変動している。2002年度から小学校における分数の導入は小学4年生の3学期からとなっている。 もう少し早い学年から分数の導入が可能ではないかと考えられる。そこで分数を理解する際のもっとも基本である等分の概念を皿や人形などの配分先を指定せずに、連続量と離散量について別個に調べた。対象者は、 幼稚園児(4歳)から小学校3年生(8歳)まで各年齢について20名ずつ、合計100名。これら対象となる個人毎に、連続量として粘土、離散量としておはじきを分ける課題を実施した。 離散量の等分割は連続量の等分割に比べてよりゆっくりと発達したが、8歳児になると、離散量と連続量の等分割ができた子どもの割合がほぼ同じとなった。
  • 荒川 歩
    セッションID: o2B-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
     メールに付与された顔文字のフォント(明朝体・ゴシック体)が変わる、あるいは、途中で改行される、という事態が、メールの印象評定および感情変化にどのような影響があるのかについて調査した。大学生(141名)が質問紙調査に参加した。実験参加者は、それぞれのスクリプト下における感情状態を報告し、その後、顔文字を付与されたメッセージを読んだ後に再び感情状態を報告した。その結果、メールの印象については、フォントの種類や改行の影響を受けなかったにもかかわらず、不安の感情状態時には、明朝体の顔文字のほうが、ゴシック体の顔文字および明朝体でも改行が含まれる顔文字に比べて、より大きく不安を低減することが示された。この結果は、(1)印象のレベルにおいては、顔文字がイメージではなく記号であること、(2)感情のレベルにおいては、顔文字は単なる記号ではなくイメージであること、を示す。
  • 三戸 勇気, 篠田 之孝, 川上 央, 丸茂 美惠子
    セッションID: o2B-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、日本舞踊の動きが観者にどのような感情を喚起させるかを検討することを目的とした。特に日本舞踊の流派の違いによる印象への影響について検討を行った。また、各流派の印象の違いが、どのような動作から導かれたものかも検討した。実験は、5流派を代表する女性舞踊家によって、「娘道成寺」という演目の一部分を所属する流派の型(振)で踊ってもらい、それをビデオ収録し、その映像についてSD法により心理評価の検討を行った。また、その踊りの型(振)をモーションキャプチャで計測し、型(振)の違いによるデータ解析を行った。その結果、同じ演目であっても、流派によって観者に与える印象が異なっていた。また、心理評価の結果でみられた男女性とモーションキャプチャで解析された回転速度の緩急とで相関がみられた。このことから、わずかな動作の差であっても観者はそれを認知し、異なった感情を喚起することがわかった。
  • ―共演者間の時間的調整における重要性についての検討―
    片平 建史, 中村 敏枝, 河瀬 諭, 安田 晶子, 小幡 哲史, 谷口 智子, 正田 悠
    セッションID: o2B-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    合奏場面において、演奏者が演奏を調整するのに共演者の身体動作を利用することが指摘されている。筆者はこれまでの研究で、対面条件で視覚情報が得られる場合には演奏者は共演者の身体動作を情報として利用し、それによって非対面条件と比較して時間的調整をよりよく行える可能性を示唆する結果を得た。一方、対面条件を行った後の非対面条件では対面条件と同等の水準で時間的調整が行われるという結果も示され、身体動作が常に合奏の時間的調整に重要であるわけではないことも示唆された。本研究では、身体動作がいかなる場合に合奏の時間的調整を行うのに重要となるかを検討するため、2名の実験参加者が電子ドラムを用いた等間隔の打叩を同期させる課題を行った。課題は対面条件で複数回にわたって実施し、打叩の同期成績と身体動作を試行間で比較した。本研究から得られる結果は、合奏場面での身体動作の役割を詳細に明らかにするのに重要である。
  • 河瀬 諭, 中村 敏枝, 片平 建史, 安田 晶子, 小幡 哲史, 谷口 智子, 正田 悠
    セッションID: o2B-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    音楽演奏において,演奏者は演奏音のみを手がかりとしてコミュニケーションしているわけではない.演奏者らは演奏中,音響的コミュニケーションとともに視覚的コミュニケーションを行っている.河瀬ら(2006)は演奏中に演奏者間,演奏者-聴取者間において用いられるコミュニケーション・チャネルについて検討し,その結果から演奏場面において演奏者は複数のコミュニケーション・チャネルを用いてコミュニケーションを行っていることが示唆された.本研究ではその中でも視覚的手がかりに注目した.本研究ではまず,演奏中にやり取りされる視覚的手がかりの中でもその重要性が指摘されている身体動作に注目し,身体の各部位の使用について検討した.加えて練習およびライブ場面での演奏者の配置についても検討した.本研究は音楽演奏中のコミュニケーションの全容を解明するための一助になると考えられる.
  • ―聴取者の情動との関係(2)―
    安田 晶子, 中村 敏枝, 河瀬 諭, 片平 建史, 小幡 哲史, 谷口 智子, 正田 悠
    セッションID: o2B-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    我々は様々な場面で感動を体験し、日常的に感動という語を見聞きする。なかでも音楽聴取による感動は数多く報告されている。音楽聴取時の感動は、“General characteristics” “Physical reactions and behaviours” “Perception” “Cognition” “Feelings/Emotions” “Existential and transcendental aspects” “Personal and social aspects”の7カテゴリーから構成されているとも言われている(Gabrielsson and Lindstrom, 2003)が、各カテゴリーと感動の関係については明らかにされていない。そこで本研究では情動(“Feelings/Emotions”)に着目し、音楽聴取による感動との関係を実験により定量的に検討した。
  • 小幡 哲史, 中村 敏枝, 河瀬 諭, 片平 建史, 安田 晶子, 谷口 智子, 正田 悠
    セッションID: o2B-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    演奏者は複数人で演奏を行う際,演奏音やそれ以外の感性情報を用いて,演奏を合わせていると考えられる。本研究では特に演奏者が使用する呼吸情報に注目した。演奏者はお互いのタイミングを合わせることや,楽曲の構造上,演奏者が息継ぎをするためなどに,呼吸情報を使用していると考えられるが,このような点について定量的に分析した研究例は数少ない。そこで本研究では2人のバイオリン奏者による演奏実験を,対面条件と非対面条件で実施し,演奏音と演奏者の呼吸情報の使用について定量的に分析した。その結果,対面条件においてのみ2人の演奏者が呼吸情報を使用する箇所や,対面,非対面に関わらず2人の演奏者が呼吸情報を使用する箇所が見られた。このことから,演奏者は演奏を行う際に呼吸情報を使用してお互いのタイミングを合わせていることや,楽曲の構造上,演奏者自身のために呼吸情報を使用していることが示唆された。
  • 神宮 英夫
    セッションID: o2B-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    視覚情報と聴覚情報による遠隔コミュニケーションは、通常行われている。他の感覚情報が付加されることによって、コミュニケーションの現実感が増すことが期待される。今回、触情報と視覚情報とによる、遠隔コミュニケーション実験を行った。LANを経由した、2台の触覚マウスによる共同作業実験である。特に、感性側面に関する触情報の効果に着目して分析を行った。遠隔コミュニケーション場面について、触情報と現実感との関係を論じた。
  • 社会的カテゴリーの役割
    唐沢 穣, チャン クリスチャン S.
    セッションID: o3A-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
     人物の印象など、他者の属性についてわれわれが持っている表象は、しばしば具体的な行動をもとにした推論によって形成される。その代表例が、行動から性格などの特性が推論される「自発的特性推論」の過程である。本研究の目的は、特性だけでなく所属集団などの社会的なカテゴリーや役割についても自発的推論が喚起されることを示すことである。所属カテゴリーを暗示する多数の行動記述文を大学生に呈示した後、手がかり再生を求めた。結果は、手がかり語として社会的カテゴリー名を呈示した条件では、刺激文中に含まれた語と強く連合した語を呈示する条件や手がかり語のない条件よりも再生成績が優れることを示した。符号化特殊性の観点から、自発的推論過程とエピソード記憶との関連、および人物表象の内容との関連について議論する。
  • 浅井 千絵, 荒川 歩
    セッションID: o3A-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    2009年より導入が予定されている裁判員制度は,一般市民が裁判官と共に重大な刑事事件に対しその量刑を決定する制度である.この制度の導入により素人と専門家が同じ立場量刑判断を行うことになるが,その際法的知識をほとんど持たない一般市民が自分の意見をどのように形成していくかはひとつの議論すべき問題であると考えられる.そこで本研究では,裁判員が他者(裁判官・裁判員)の意見を聞くこと及び発言者の立場の違いが一般市民の意見に及ぼす効果について焦点を置き検討を行った.実験では参加者(大学生40名)はパワーポイントで提示された模擬裁判員裁判の様子を見せられ,その中で事件の評議前後で適切であると思われる量刑判断及びその判断に対する確信度について質問紙への回答を試みた.その結果,他者の意見を聞く前よりも聞いた後のほうが,量刑判断に対する確信度が高くなることが示された.しかし,他者が裁判官もしくは裁判員であっても参加者の意見に変化はなく発言者の立場が量刑判断や確信度の形成に影響を与えることはなかった.
  • 松尾 太加志
    セッションID: o3A-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    松尾(2006)では,追従する動きに対して生き物らしさを感じる要因として,遅れ時間と距離について検討した。ただし,被験者数が少なく,提示した刺激ごとに形容詞対に対しての評定尺度での回答をを求めたため,判断が難しく,信頼性が必ずしも高くなかった。そこで,本研究では,一対比較法を用い,集団実験によって行った。対象の動きは,ポインタの動きに対して遅れ時間を0.5s,1sの2条件,ポインタに対しての距離のとり方を5dots,50dots,100dotsの3条件設け,約15秒間の刺激を6種類作成した。6種類の刺激を2つずつ組み合わせ継時的に提示し,4つの質問項目(意思がある,反応がよい,従順である,生き物らしい)にどちらの刺激がより当てはまるか回答を求めた。サーストンの比較判断の法則により距離尺度を求めた結果,全体的に遅れ時間が短いほうが,生き物らしいという回答であった。
  • 集団レベルおよび個人レベルからの分析
    中村 國則
    セッションID: o3A-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    ある事象の起こりやすさ(例えば"雨が降る";当該事象)を見積もる場合,他の事象(例えば"晴れる""曇る""雪が降る";代替事象)も存在する中で特定の事象を選択し,評価を行っていると考えるのが自然であると考えられる.これまで,当該事象の確率判断に対して代替事象の様々な特徴が影響することが知られている.本研究の目的は,人が代替事象の情報をどのように統合して当該事象の確率判断を行っているのかを集団データ・個人データ双方を分析することによって明らかにすることである.先行研究,及び新たに行った2つの実験データを集団レベル・個人レベルで分析した結果,線形和型モデル(e. g., Dawes, 1979),距離型モデル(中村,2003)モデルが,比率型モデル(e. g., Luce, 1959; Tversky & Koehler, 1994)と比較してよい当てはまりを示し,以上の傾向は特に個人レベルの分析で顕著となった.
  • Tarasenko Sergey, 乾 敏郎, Abdikeev Niyaz
    セッションID: o3A-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    黄金比(GR)は、視知覚や認知の機能と深く関わっている。先行研究では、GRの逆数が人間行動に重要な役割を果たしていることが示唆されてきた。本研究では、何ら事前情報が与えられない条件下で一列に配置された選択肢から一つを選択するという意志決定過程について検討した。この場合、協力者は潜在的に持つ原初的知識に頼らなければならない。実験の結果、それぞれの選択肢が選ばれる頻度はGRの関数(GR-proportions)で記述することができた。すべての条件でGR-proportionsが見られたことから、意思決定過程においてGR-proportions を生み出す単一の基盤メカニズムの存在が示唆された。したがって、GRの関数が人間の潜在的な原初知識に内在すると考えられる。
  • 都築 誉史, 太田 亨, 白井 俊行, 松井 博史, 本間 元康
    セッションID: o3A-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    多属性意思決定において,合理的規範から逸脱した数種類の文脈効果が知られている.これらのうち,本実験では魅力効果に焦点を当て,先行研究に基づく12刺激(商品,サービス)の2属性を操作した.さらに,実験参加者(10名)の眼球運動を測定し,3肢選択課題において魅力効果が生じるメカニズムを明らかにすることを目的とした.今回の眼球運動測定実験でも,選択反応率において有意な魅力効果が示された.眼球運動データ分析の結果,魅力効果が示された試行では,ターゲットに対する停留時間が有意に長く,ターゲット項目内部のサッケード回数が有意に多く,さらに,ターゲット-デコイ間,ターゲット-コンペティター間では,コンペティター-デコイ間よりもサッカード回数が有意に多いことが見出された.筆者らは文脈効果を包括的に説明するモデルを提案しており,眼球運動のさらに詳細な分析と,実験データに基づくモデルの改良が今後の課題である.
  • 横井 隆, 竹村 尚大, 小川 健二, 乾 敏郎
    セッションID: o3A-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    心的帰属・表象に関する視点取得の研究では、自己視点と比較して、他者視点で課題を行う際に前頭前野内側面(MPFC)や側頭頭頂接合部(TPJ)の活動が強まることが報告されている。これらの研究は条件間で異なる刺激を用いているため、異なる心的処理が行われている可能性があり、自己と他者の視点特異性を直接検討できていない。この点を明らかにするため、本研究は心的過程の中でも推論に焦点を当て、条件間で共通の刺激を用いることで、視点の違いのみが脳活動に与える影響をfMRIを用いて比較した。参加者は4コマのストーリーを1コマずつ提示され、4コマ目が他者および自己視点から推論される結末として妥当かをキー押し反応した。結果、MPFCの吻側部は他者視点、尾側部は自己視点でそれぞれ活動が強まった。また、TPJは両側で他者視点条件での活動が大きかった。これらの結果は推論に関して視点特異的な脳部位の存在を示唆する。
  • 小川 健二, 乾 敏郎
    セッションID: o3B-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトは模倣によって新規動作を獲得できるが,自己の運動レパートリにない動作を模倣するには,対象動作と自己動作との時空間的な運動パターンを含めた動的なマッチングが重要であると考えられる.本研究はこのような動作模倣における動的なマッチングに関わる脳部位をfMRIで同定した.実験では呈示方法(動画/静止画)と課題(模倣/観察)の2×2デザインを採用し,まず無意味ジェスチャーが動画(初期から最終状態に至るまでの運動全体),または静止画(初期と最終状態のみ)で呈示された.その後,固視点の色(青/赤)によって協力者は右手で模倣するか,何もしなかった(観察のみ).結果から,右外側後頭皮質(EBA),右頭頂弁蓋,および左上頭頂小葉の活動に有意な交互作用が見られ,動画模倣で高い活動が見られた.無意味動作の模倣において,時空間パターンを含めた動的なマッチングがこれらの部位で行われていることが示唆される.
  • 竹村 尚大, 乾 敏郎, 福井 隆雄
    セッションID: o3B-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    これまで、我々は到達把持運動の把持成分をモデル化してきたが、移動成分の制御メカニズムについては説明できていない。一般的に、ヒトの到達運動は左右対称なベル型速度プロフィールを生成するが、到達把持運動では速度ピークは運動の前半に現れる。このような特性は直径が小さな目標点への到達運動にも見られ、これまでの到達運動に関する最適化モデルでは説明されていない。本研究では、到達運動の速度プロフィールをベータ分布でモデル化し、カルマンフィルタを用いた到達時の予測誤差分散および運動指令によるエネルギー消費を重ね合わせたコスト関数を最小化することで、分布パラメタの最適化を試みた。その結果、コストに対する予測誤差分散の寄与が大きい場合には、ピークが運動の前半に見られる速度プロフィールが得られた。この結果から、到達把持運動の移動成分の制御においても、把持成分と同様に予測精度が重要であることが示唆された。
  • 浅井 智久, 丹野 義彦
    セッションID: o3B-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    幻聴や作為体験などの統合失調症の陽性症状は,健常者でも部分的に体験することが分かっている。さらにこれらの幻覚体験は,自己の行為や運動を正確にモニタリングできていない可能性が指摘されている。本研究では,視覚的なフィードバックを与えない状況において視覚到達課題を実施することによって,自己運動の予測と統合失調症傾向の関係を検討した。陽性統合失調症傾向を測定する質問紙(STA)によってレイティングされた実験参加者は,マウス装置を使いモニター上のターゲットをポインティングすることが求められたが,その際カーソルは呈示されず,自己受容感覚を頼りに自己運動を予測する必要があった。その結果,統合失調型高群はターゲットよりも行き過ぎてポイントする傾向が示され,これは自己運動を過小評価していると解釈できる。この知見は,陽性症状は自己運動を正確に自己へと帰属できないためとする説明と整合的なものである。
  • 柴田 寛, 行場 次朗
    セッションID: o3B-4
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では二者間で行われる協同動作の適切さを評定しているときの事象関連電位を調べた。二枚一組の写真が刺激として使用され、一枚目の写真では一方の人間が物体を手渡し、二枚目の写真ではもう一方がその物体を受け取った。実験参加者は、写真の組み合わせが適切か不適切かの判断を受け取り動作に対して行った。二つの時間枠において不適切な動作の観察が適切な動作の観察よりも大きな陰性電位を生じさせた。第一の陰性電位(300-500 ms)は頭頂付近で最大であったが、第二の陰性電位(700-900 ms)は前頭付近で最大であった。N400は意味的プライミング、N700は心的イメージを反映して引き起こされる傾向が知られている。そのため、第一の陰性電位は手渡し動作の観察が適切な受け取り動作をプライミングさせた処理を反映したのかもしれない。第二の陰性電位は不適切な受け取り動作を心的に修正させた処理を反映したのかもしれない。
  • -行動・脳活動・遺伝子連関の検証-
    野村 理朗, 近藤 洋史, 柏野 牧夫
    セッションID: o3B-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    衝動性の特徴は、即時的な報酬をもとめ中長期的なリスクを犯してしまうことと、行動の制御が不十分であることの二つに大別される。本研究では、後者のメカニズムに焦点をあて、Go/Nogo課題において衝動性の指標となる反応遂行エラー(commission error)、課題遂行時の脳活動、さらにはセロトニン2A受容体遺伝子多型性を指標とし、行動の制御プロセスにかかわる機能的連関について検証した。実験の結果、同遺伝子多型のサブタイプであるAA接合型をもつ被験者の誤答数が他タイプのものと比較して多いこと、さらにはfMRIにより、同タイプにおける前頭前野腹外側部の過活性化が確認された。その一方で、脳内報酬系の回路に存在する視床下部、線条体などの諸領域におけるタイプ間の差異は見出されず、以上のことから衝動的行動は、報酬への感受性、すなわち脳内報酬系の機能不全に起因するものではなく、抑制系統の問題によって生じうるという可能性が示唆された。
  • 有馬 美紀, 原田 悦子
    セッションID: o3B-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
     非接触式ICカードは,公共交通機関利用に必須の人工物となりつつあるが,その利用方法および概念は従来の人工物と大きく異なるため,多様な利用者が十分に学習可能であるか否かが重要な問題となる.本研究は26名の健常な高齢者を対象として,駅環境での実利用学習実験を行った.概念理解学習としては複合機能を分類・分解し,理解容易性の高いものから順次提示をしていく段階的教示方法をとった.また概念理解に有効と思われる既存の人工物について,対応付けを行う条件と行わない条件を比較検討した.「タッチする」という操作については,多様な行動・エラーが観察されたが,ほぼ全参加者が数回の利用から使用法を学習した.表示画面情報や券売機の理解や利用については,教示方法の相違や学習の効果が見られた.情報概念を要する電子マネー機能については既存事例との対応付けの有効性を示した.操作法獲得と概念理解とのズレについて,考察を加えた.
  • 森 健治, 原田 悦子
    セッションID: o3B-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    社会の高齢化・情報化に伴い,高齢者にも使いやすいIT機器開発は危急の課題である.しかし,とりわけ高齢者による機器使用の学習過程とその要因については未だ明らかではない.本研究は一般に「新奇機器の学習は周囲の他者からの支援が重要であり,社会的環境が機器使用に影響する」との仮説に立ち,高齢者の携帯電話使用を検討した.まず高齢者297名を対象とした質問紙調査から配偶者とのみ同居する世帯での携帯電話使用度は低く,同居者の多い世帯での使用度は高い「家族構成の効果」を見出し,しかし同居者数に関わらず独居者は最も使用度が高いことを示した.次に新規ユーザを対象とした3週間長期ユーザビリティテストにおいて家族構成の異なる群を比較した処,主観的使用度・使用記録・テスト課題成績等各指標から,配偶者のみの世帯よりも孫同居世帯・独居世帯の方が学習達成が高いことを示した.学習要因としての社会的支援について考察する.
  • 中嶋 智史, Langton Stephern, 吉川 左紀子
    セッションID: o4A-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    表情と視線方向は他者との社会的コミュニケーションにおいて重要なシグナルであり,また他者の顔を記憶する際に有用な手がかりであると考えられる。本研究において,我々は顔の再認記憶における視線方向の影響が顔の示す表情によって異なるか否かを検討した。3つの実験を通して,怒り顔の再認記憶においては,直視の顔の方が逸視の顔よりも成績が良いのに対し,笑顔においては,視線方向の影響を受けないことが明らかになった。我々に対して向けられた怒り顔は,我々にとっての潜在的脅威を示すため,他の者に向けられた怒り顔に比べてより強く符号化されるのではないか。また,逆に,笑顔の人物を記憶することは彼らの注意の方向に関わらず潜在的報酬となりうるのではないかと考えられる。
  • 杉森 絵里子, 丹野 義彦
    セッションID: o4A-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    我々は,被験者をポジティブ,もしくはネガティブな妄想傾向の高い群と,低い群に分類し,ポジティブ/ネガティブな妄想傾向と性格特性形容詞の記憶の関係について検討した。ポジティブな性格特性を表す形容詞を呈示すると,ネガティブ妄想傾向高群において,似通った意味を持つがネガティブな性格特性形容詞が活性化される傾向にあることが明らかになった。また,ネガティブな性格特性を表す形容詞を呈示すると,ポジティブ妄想傾向高群において,似通った意味を持つがポジティブな性格特性形容詞が活性化される傾向になることが明らかになった。さらに,学習直後に行なった記憶再認テストでは,学習した形容詞のほうが,似通った未学習形容詞と比較すると,その活性化の度合いが強かった。しかし,時間経過後の記憶再認テストでは,被験者の内的な状態(ポジティブ/ネガティブ妄想傾向)に,より依存した形の結果になることが明らかになった。
  • 作田 由衣子, 行場 次朗
    セッションID: o4A-3
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    印象を規定する3因子(Osgood, et al., 1957)のうち,活動性・力量性では印象の一致が,評価性では印象の不一致が再認を促進する傾向があることが刺激の種類や実験手続きの違いによらずほぼ一貫して示されてきた(作田・行場,2003;Sakuta & Gyoba, 2006).これまでは学習の直後に思い出させる直後再認の手続きを用いてきたが,今回は,3日後に思い出させる遅延再認の手続きを用いて,印象が記憶におよぼすより長期の影響を検討した.その結果,3日の保持期間をおくと,活動性・力量性で印象が一致するペアでは著しい再認成績(d')の低下が見られたのに対し,評価性で印象が不一致のペアは再認成績が高いままであった.評価性因子は他の2因子に比べ主観性・情緒性が強いため,印象の不一致を説明あるいは解消するための精緻化処理をより必要とした結果,再認が促進されたのではないかと推測された.
  • 上野 大介, 増本 康平, 岩木 直, 須谷 康一, 藤田 綾子
    セッションID: o4A-5
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    感覚情報の再活性化とは、符号化時に活動した感覚情報を処理する脳部位が、感覚情報が呈示されない検索時にも活動する現象をさす。これまで聴覚情報と視覚情報を伴った記憶の検索時には、それぞれ聴覚野と紡錘状回で再活性化がみられることが報告されている。しかしながら、再活性化が検索プロセスのどの段階で起こるのかについてはほとんど検討されていない。そこで本研究では、時間分解能に優れた脳磁図を用い、再活性化の時間的ダイナミクスを検討した。9名の右利き健常若年者を対象とし、単語と単語に関連する音を対呈示する聴覚条件、単語と単語を描写する写真を対呈示する視覚条件、単語のみを呈示する文字条件の3条件で単語の記銘を求め、音や写真を呈示しない単語の再認課題時の脳活動を計測し、条件間で比較した。その結果、聴覚条件では左の聴覚野に、視覚条件では右の紡錘状回に再認単語呈示後約450-550msの潜時で再活性化がみられた。
  • 松田 崇志, 松川 順子
    セッションID: o4A-6
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    本実験では,Think/No-Thinkパラダイムを用いて,ネガティブとポジティブ,中立という感情価を持つ単語を使用し,感情刺激に対する記憶の意図的なコントロールについて検討した。その結果,記憶のコントロールの受けやすさに感情価が影響を与え,ネガティブな単語は抑制性のコントロールを受けやすいが促進性のコントロールは受けにくく,ポジティブな単語は抑制性と促進性の両方とも受けやすいということが明らかになった。このことは感情を喚起する刺激に対する記憶の意図的なコントロールの可能性とそのコントロールの影響がネガティブとポジティブで異なっているということを示唆している。
  • 須藤 昇
    セッションID: o4A-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    本発表では、1から9までの数字をランダムに配列したランダム数字列の反復学習と再認に関する2実験の結果を報告する。いずれの実験でも、被験者は、1数字ずつ提示されるランダム数字列を記銘し、直後に提示される3桁のテスト数字列に対する再認判断を行った。一部の数字列は 6、12、または24試行おきに4回提示された。その他の数字列は反復されなかった。実験1では、学習時の数字の持続時間が600ミリ秒であり、反復間隔が24試行の場合に、第3回目の提示においてヒット率が著しい低下を示した。実験2で、数字の提示時間を200ミリ秒としたところ、いずれの提示回においてもヒット率の欠損は認められなかった。これらの結果は、先行する数字列の学習から現在までに経過する特定の時間条件において再認の欠損が発生することを示唆している。
  • ストループ効果の消失
    嶋田 博行, 堤 教彰, 林 秋ヨ
    セッションID: o4B-1
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    ストループ効果を用いたスイッチングタスクを考案した。先行カラーワードのカラー次元とワード次元の特定のカラーまたは文字により、カラーネーミング 出力、ワードリーディング出力を切り替えた。
  • 永井 聖剛, Patrick J. Bennett, 熊田 孝恒, Melissa D. Rutherford, Carl M. Gaspa ...
    セッションID: o4B-2
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/10/01
    会議録・要旨集 フリー
    Classification image法により視覚情報処理方略を詳細に示すことが可能である.例えば,顔画像が提示され個人弁別課題が与えられたとき,「顔のどの部分にどれくらい強く処理ウェイトをおくか」をピクセル単位で明らかにすることができる(e.g., Sekuler et al., 2004).ただし,この方法は相当数の試行数を必要とし,障害者など特殊な被験者に適用することは容易では無かった.本研究ではサブ・サンプリング刺激提示,ならびにデータ加工法の洗練により,従来より遙かに少ない試行数で,従来と同等に高い精度で顔情報処理の特徴を明らかにすることに成功し,自閉症者の顔情報処理を詳細に調べた.実験の結果,自閉症者においても健常者と同じく目・眉の領域に処理のウェイトをおくが,自閉症者ではそのウェイトが弱く,額にも処理ウェイトをおくなど健常者にはみられない処理方略を示した.
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