日本認知心理学会発表論文集
日本認知心理学会第7回大会
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  • :身振りと発話産出の比較
    齋藤 洋典, 井藤  寛志, 大井 京, 劉 涛
    セッションID: O1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    本研究の目的は,人の手による身振りの生成過程の解明にある。人は,発話中に話題の対象となる物の特徴を手で表して説明を加える際に,例えばボールを投げる身振りや,ボールが転がる身振りを用いる。前者は,人が物をとり「扱う」過程で生じる操作者自身の身体動作を示す身振り(action gesture: AG)であり,後者は扱われる対象物自体の「動き」を表す身振り(motion gesture: MG)である。本研究では,両タイプの身振りの生成過程に差異を仮定し,その生成過程に随伴する心的負荷を評定尺度法によって計測した。被験者は2群に分けられ,ジェスチャー・発話群の課題は,絵で呈示された対象物に対して言語的説明を加えることなく,AG,あるいはMGを単に生成することであり,発話群の課題は,同一の対象物に対してAGとMGを生成せずに,言語のみによって説明することであった。実験の結果,ジェスチャー・発話群は発話群よりも, AG条件よりもMG条件で高い困難性を示した。
  • 柴田 寛, 乾 敏郎, 小川 健二
    セッションID: O1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    二者間で物体を受け渡す際の動作理解に関与する脳活動をfMRIを用いて検討した。実験1では、参加者は画面手前の人物(自分とみなして観察)と奥の人物(他者とみなして観察)が対面して物体を受け渡す映像を観察した。一方の人物が二つの物体を差し出してどちらを受け取って欲しいかの要求を出し、もう一方はどちらかの物体を受け取った。参加者は受け取る人物(「自己」もしくは「他者」)が相手の要求どおりの動作を行っているかを評価した。その結果、受け取る人物にかかわらず、要求に反する動作の観察において右下前頭回(BA45/47)の賦活がみられた。実験2では、画面手前か奥に一人だけが登場する映像を用いた。それ以外は実験1と同様とした。その結果、要求に反するかどうかの条件間で脳活動に顕著な差は見られなかった。以上の結果は、二者が共同して行う動作を理解する際には右下前頭回が重要な働きを果たすことを示唆する。
  • 片山 正純, 川治 誠明
    セッションID: O1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    本研究では,「対象物把持を目的とした対象物認知において,手の身体モデルに基づいて対象物認知を実現している」という仮説を主張している.この仮説の妥当性を検証するために,手の身体モデルを学習するための実験パラダイムを構築した.モニタには対象物および被験者自身の手の動きと同期して動く手を表示し,この手の指の長さまたは関節角を操作する.被験者はこのモニタを見ながら対象物を精密把持する.正確に把持できるようになるためには,手の視覚的位置と被験者自身の手の関節角との運動学的関係(手の身体モデル)を学習する必要がある.そこで,学習前と学習後のそれぞれの対象物認知(認知課題と分類課題)について調べた.この結果,学習後での対象物認知の結果が手形状の変形に伴って変化することを確認した.この結果は,手の身体モデルと対象物認知が密接に関係していることを示している.
  • 藤田 貴大, 中山 健, 片山 正純
    セッションID: O1-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    錯視を用いた心理物理実験より,知覚と行動の独立性に関する多くの議論がなされている.しかし,これらの研究では多くの課題が指摘されている.そこで,本研究では,錯視を用いないで,日常的な把持運動に関する視覚と運動の独立性の存在について調べた.重心位置の異なる様々な対象物の把持位置を計測した.視覚課題として,把持位置を視覚的に推定する課題を行った.運動課題として,対象物をつまむ課題(持ち上げない)と把持して持ち上げる課題を行った.この結果,視覚課題における把持位置と持ち上げ課題における把持位置は異なり,日常的に行っている把持運動においても視覚と運動の独立性が存在することを明らかにした.さらに,興味深いことに,運動課題であるつまみ課題と持ち上げ課題のそれぞれの把持位置が異なった.これらの結果は把持運動における視覚と運動の統合メカニズムを研究する上で非常に重要な結果である.
  • 三戸 勇気, 篠田 之孝, 丸茂 美惠子
    セッションID: O1-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    本研究は、日本舞踊の動作が観者にどのような感情を喚起させるかを検討することを目的としている。特に今回、日本舞踊の流派とキャリアの違いが観者の印象に与えるの影響について検討を行った。また、その流派とキャリアの違いが、どのような動作の影響を受けているのかの検討も行った。 実験は、SD法を用いた印象評価とモーションキャプチャシステムを用いた動作解析で行った。日本舞踊の代表的な5流派の4年代の女流舞踊家に「娘道成寺」という演目の一部分を所属する流派の『振』で踊ってもらい、それをビデオ収録した。その映像についてSD法による印象評価を行った。また、その踊りをモーションキャプチャで計測し、動作の相違についてのデータ解析を行った。 今回は、SD法の結果を多次元尺度構成法による分析と、モーションキャプチャデータの位置座標を用いた相関分析の結果から、日本舞踊に対する印象評価と動作解析の関連について検討を行っていく。
  • 空間イメージ機能による検討
    時津 裕子, 永井 聖剛, 西崎 友規子, 河原 純一郎, 熊田 孝恒
    セッションID: O1-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    自動車運転の得手不得手は何に起因するのか?発表者らはこれまで,個人の認知機能が運転行動の特徴を決定するという仮説を検証するため,認知機能課題の成績と実車運転時行動との関係を検討してきた.本研究ではとくに,空間イメージ機能と運転行動の関係に着目した.まず当該機能の計測課題を開発し,課題成績(高機能/低機能)と日常の運転頻度(高頻度/低頻度)に基づき,運転実験の被験者12名を選定した.運転実験では,走行後に出発点まで逆向きに戻る「帰路再生課題」,駐停車やS字路走行等の課題を行った.高機能群の被験者は帰路再生や駐停車の正確性,後進走行の遂行時間等で高成績を示しており,空間イメージ機能がこれらの運転行動と密接に関連するとわかった.また「低頻度・高機能群」の成績が,高機能群と同等かそれに次ぐ程度に高かったことから,認知特性の違いが運転操作に与える影響は,経験により小さくなりうるとわかった.
  • 数字選択課題による検討
    原田 悦子, 浅野 昭祐, 須藤 智, Hasher, Lynn
    セッションID: O2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    数字選択課題は,可変型課題切換タスクの一つであり,より複雑なエラー反復現象や追及者尺度との関係も示されている(Harada & Suto, 2008).本研究は可変型課題切換課題の持つ意味をさらに明らかにしていくため,数字選択課題コンピュータ版に用いて,加齢 (若年成人vs.高齢者),日内変動(テスト実施が午前vs午後)を検討する実験を日本およびカナダで実施した.実験の結果,(a)正答率は加齢の主効果はあるが日内変動の効果はない,(b)反応時間は加齢の主効果と加齢*日内変動の交互作用が有意であり,高齢者のみに日内変動の効果が見られた.一方,カナダと日本の結果には反応時間の差の他,各項目ごとの反応時間における課題切換,教示(数vs大きさ),刺激統合性などの要因の影響が異なることが示され,使用言語により処理過程が異なる可能性が考えられた.認知的コントロールとこれらの諸要因との関係について検討する.
  • 黒川 育代, 蓮花 のぞみ, 石岡 良子, 上野 大介, 権藤 恭之, 藤田 綾子
    セッションID: O2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    認知機能は、個人の全体的な健康やwell-beingの重要な指標である。また、加齢とともに認知機能が低下するということは、一般的に知られており、個人差が大きいといわれている高齢者を対象とした研究を実施するにあたり、認知機能の測定をおこなうことは、きわめて重要であるといえる。しかしながら、認知機能の測定は対面式の測定手法が多く、かつ、測定に膨大な時間を要するため、他の研究分野と関連させて検討されることが少なかった。 以上のことから、将来的には電話での測定可能性をもち、簡便に利用できると考えられる、音声刺激による認知課題を開発することには意義があると考えられる。そこで本研究では、認知機能のなかでも、抑制機能を測定する「ストループ課題」に着目し、音声刺激によるストループテストを開発した。
  • 増本 康平, 田淵 恵, 門永 隆太郎, 河崎 円香
    セッションID: O2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    注意や記憶といった認知機能と情動の相互作用に加齢が及ぼす影響に関する最近の欧米の研究は,若年者でみられる注意や記憶におけるネガティヴィティ・バイアス(ネガティヴ優位性)が高齢者ではみられず,加齢とともにポジティヴな情報に注意を向けその記憶が高まるポジティヴ優位性がみられることを報告している。本研究ではこのポジティヴ優位性に関して,自伝的記憶を指標とし,以下の点を明らかにすることを目的とした。まず,これまで日本人を対象とした研究はほとんど報告されていないため,日本人高齢者にポジティヴ優位性がみられる検討した。次に,ポジティヴ優位性の生起には方略的な情報処理が仮定されているため,認知資源(ワーキングメモリ・処理速度)とポジティヴ優位性の関連について検討を行った。最後に,想起された自伝的記憶の感情価によって,想起後の気分に違いがみられるのか検討した。
  • 健常児との比較
    永井 知代子, 乾 敏郎, 岩田 誠
    セッションID: O2-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    我々はこれまで,Williams症候群(WS)の模写障害には,短時間に視覚対象の特徴を把握する能力の障害が関与することを指摘してきた.しかしこの能力は健常児でも低いことが知られている.そこで,平均年齢18歳のWSの描画が,描画レベルは同等といわれる健常5-6歳児と同じなのかどうかを知るため,正方形・菱形・正五角形・正六角形・凹を含む多角形・波線直交・ジグザグ直交図形を見本として,タブレットPC上に0.5, 2, 5s間見本をランダムに呈示してトレースさせ比較した.全体の成績はWSが有意に低く,中でも六角形・五角形の成績が不良であった.呈示時間ごとの成績をみると,0.5s呈示では差がないが,2s,5sと呈示時間が長くなると健常児は有意に成績が伸びるのに対しWSではほとんど改善がみられなかった.描画要素ごとの成績では,図形の角数や角度の成績が有意に不良であった.以上より,WSの模写障害は全般的な発達遅れだけでは説明できず,図形の特徴点記憶に特異的な障害が示唆された.
  • 竹村 尚大, 乾 敏郎
    セッションID: O2-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    自己の身体運動制御は、運動指令からその結果としての感覚フィードバックの予測(順変換)、および感覚入力にもとづいた運動指令の生成(逆変換)の2つの機能により実現されている。ヒトの幼児は、このような順逆変換を明示的な教示を必要とせずに獲得する。本研究では、到達運動における視覚-運動順逆変換を、幼児の運動バブリングおよび手の注視によって獲得するニューラルネットワークモデルを提案する。モデルの順変換部は、運動指令入力と出力層からの再帰結合を持ち、手先の視覚位置座標を出力するように学習する。逆変換部分では、運動後の手先の視覚位置座標と順変換部の中間層からの結合を入力とし、実行された運動を実現するような運動指令を出力するように学習する。学習には誤差逆伝播法を用いた。学習後のネットワークが内的な順逆変換を実現できることは、幼児は運動バブリングと手の注視により順逆変換を獲得することを示唆している。
  • 知識変換モードと批判的思考態度との関連
    楠見 孝
    セッションID: O2-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    本研究の目的は,ホワイトカラーの実践知と批判的思考の関係を明らかにするために29人のホワイトカラーに対して,質問紙調査をおこなった.評定結果に基づいて,仕事に関する実践知の構造を,テクニカルスキル,ヒューマンスキル,コンセプチュアルスキルに分けた.そして,それらのスキルの獲得は,省察と知識変換といった思考活動,批判的思考態度と柔軟性といった学習の態度が支えていることを明らかにした.さらに知識のリソースとして,自己経験,上司同僚の役割が大きいことを明らかにした.あわせて,対照群である教員と比較検討した.
  • 芦澤 充, 乾 敏郎
    セッションID: O3-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    本研究では,心的回転と物体認識の複合的な神経回路モデルを提案する.提案モデルは,心的回転を担う頭頂葉ネットワークと物体認識を担う側頭葉ネットワークから構成され,これらの平行した処理によって視点に対して頑健な物体認識が実現される.心的回転は,3層の双方向型神経回路により頭頂葉に存在する対象の3次元表現が仮想的運動によって回転されることで実現される.物体認識は,RBF(Radial Basis Function)ネットワークにより側頭葉に存在するテンプレート画像と視覚画像とのマッチングで実現される.側頭葉ネットワークでは,テンプレート画像と視覚画像とが比較されると同時に,両者のおおよその角度差が推定される.この情報を基礎に仮想的運動が生成され,頭頂葉ネットワークで心的回転が実行されることで,トップダウン的に画像マッチングが行われると考える.
  • 小川 健二, 乾 敏郎
    セッションID: O3-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    ヒトが観察した他者の行為を認識するには,他者に対する視点や距離,使う手等に応じて変化する属性に対して不変な行為の表象が必要である.本研究では,このような行為の神経表象が後部頭頂皮質で符号化されているという仮説を検証するため,ヒトの他者行為観察時のfMRI活動に対して多ボクセルパターン分析を行った.実験では,物体を操作している画像を実験協力者に提示し,行為・物体・視点・手・画像サイズという5属性を独立に操作し,脳の関心領域がどの次元(刺激属性)で刺激画像を識別し得るかを検討した.結果,初期視覚野では刺激画像自体の画素毎の非類似性に一致した識別精度が見られ,提示サイズ・視点・手に対して高い識別精度が得られた.一方で後部頭頂皮質では,それら3属性よりも行為と物体に対して高い識別精度が得られた.本研究から,後部頭頂皮質では刺激属性変化に対して不変な行為の表象が符号化されていることが示唆される.
  • 前原 由喜夫, 龍輪 飛鳥, 齊藤 智
    セッションID: O3-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    前頭葉機能は日常のさまざまな意思決定に関与しているが,認知心理学では他の人たちとひとつの目標に向けて協力行動する状況における前頭葉機能の働きはほとんど研究されてこなかった。本研究では,伝統的な前頭葉機能課題のひとつである乱数生成課題を2人で協力して行ったときの制御行動が,課題を1人で実行したときと比べてどのような点で優れているか,劣っているかということを実験的に検討した。使用した乱数生成課題は1から10までの数字をなるべくランダムな順序で報告してゆく課題で,ランダムな数字列を生成するには高度な制御能力が必要とされることがわかっている。実験の結果,参加者は相手の反応を考慮して自分の反応を調整していたことが判明し,協同課題成績は全体的に良好だったが,一方で成績が低下する側面も観察された。結果を踏まえ,協力行動における人間の制御行動の特徴と協同認知に関する今後の研究の可能性を議論する。
  • 水原 啓暁, 佐藤 直行, 山口 陽子
    セッションID: O3-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    海馬を含む側頭葉内側面と前頭葉との皮質ネットワークは,ラットやヒトなどにおいて記憶に重要であると考えられている.従来のラットの空間記憶課題を用いた研究により,この記憶のためのネットワークは,シータ帯域での神経の集団電位に関連して動的に創発すると考えられている.そこで我々は,ヒトにおいても脳波シータ波により前頭葉と側頭葉内側面をつなぐ皮質ネットワークが動的に形成されることを示すために,新規風景の記憶課題中のヒトの脳波と機能的MRIの同時計測を実施した.その結果,前頭からのシータ波の発生に伴い,前頭葉内側面と側頭葉内側面が活動することが明らかになった.また,これらの活動に加えて,シータ波の発生に伴い,前頭眼野が活動することが明らかになった.これらのことは,側頭葉内側面を要する記憶課題において,ヒトにおいても前頭を含む動的な皮質ネットワークの創発がシータ波により実現されていることを示している.
  • 川崎 真弘, 山口 陽子
    セッションID: O3-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    円滑なコミュニケーションを達成する上で、他者への視点切り替えは重要である。これには、脳のミラーニューロンシステムが関与すると推定されるが、自己視点で見た刺激がどのように他者視点に立った表象へ投影されるかについては明らかになっていない。本研究では、この脳情報処理を明らかにするために、矢印と円を同時に呈示し、矢印の向きに対し円が右か左か方向判断を要求する課題遂行時の脳波を測定した。脳波解析より、自己視点条件(例:上向き矢印に対して右側の円を右と回答)では、視覚刺激に対して反対側の頭頂葉θ波(4-6Hz)が増加した。興味深いことに、他者視点条件(例:下向き矢印に対して右側の円を左と回答)では、この反対側θ波出現後、前頭葉、同側の頭頂葉θ波も観測された。以上の結果は、各視点に立った視覚表象が頭頂葉で表現されること、その視点の切り替えは同一の脳リズムでつながる前頭葉とともに行われることを示唆する。
  • 笹岡 貴史, 水原 啓暁, 乾 敏郎
    セッションID: O3-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    心的イメージ操作には,生成・変換・比較照合といった過程が含まれるが,それらに対応する神経基盤は明らかではない.そこで本研究では,時計を用いた課題を遂行中の実験協力者の脳活動をfMRIによって調べた.実験協力者は予め3Dマウスを右手で操作し,針の回転速度を学習した.課題では,まず時計の文字盤が呈示された後,消去された.実験協力者は文字盤が消えている間,最初の文字盤の針の配置から学習した速度で針を回転するイメージを作り,その後呈示された文字盤の針が正しく回転されたものか判断した.その結果,針の回転のイメージ時に左IPL,左運動前野,前補足運動野,左下前頭回(BA44)で活動が見られた.先行研究より,左IPL,運動関連領野は運動のシミュレーションを利用した心的回転に関与し,下前頭回は運動計画に関与すると考えられる.以上の結果は運動イメージが心的イメージの変換に利用されたことを示唆している.
  • トイレマークの認知におけるストループ様効果
    北神 慎司, 菅 さやか, KIM Heejung, 米田 英嗣, 宮本 百合
    セッションID: O4-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    日本では,特に,トイレを表すマークにおいて,男女の区別は「形(男女それぞれのシルエット)」によって表されるだけでなく,男性用には青などの寒色系,女性用には赤などの暖色系の色を用いることが多い.このように,色によって,トイレの男女を区別するというデザインは日本特有のものであり,欧米ではあまり見られない.そこで,本研究では,日本人の大学生を対象として,トイレマークの認知に,色や形がどのような影響を及ぼすかについて,ストループ様課題を用いて検討した.その結果,ピクトグラム(トイレマーク)条件では,赤,ピンク,青,黒の各彩色条件において,男女の意味判断に要する反応時間に差が見られた(暖色系は「男>女」,寒色系は「男<女」).これらの結果は,日本人にとって,トイレマークの男女を識別する際の情報として,色が非常に重要であることを示唆するものと考えられる.
  • 主観的感覚と身体反応の乖離
    浅井 智久, 丹野 義彦
    セッションID: O4-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    画面に呈示されたゴム手に対する蝕刺激を観察すると,実際に自分の手に蝕刺激を感じ,ゴム手の方に向かって自分の手が移動したような感覚が生じることがある(ラバーハンドイリュージョン)。本研究では実験参加者に対して,ゴム手上に重りとしてボールを載せた画像を呈示した場合に,実験参加者はまっすぐ水平に伸ばした自分自身の手に主観的な重さを感じ,その結果,実際に手が動いてしまう錯覚を発見した(ダイナミック・ラバーハンドイリュージョン)。また,実際にそのボールの重さを知っているかどうかで,身体反応に違いが見られることがわかった。マルチモーダルなボトムアップ処理に加えて,認知的解釈による予測的なトップダウン処理がこの錯覚に関連する可能性が示唆された。
  • -聴取者の身体反応と音量の変化傾向の関係-
    安田 晶子
    セッションID: O4-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    多くの人が経験する音楽聴取による感動の生起メカニズムの一端を明らかにするため,以前の研究では,感動と身体反応の関係性を検討した。その結果,音楽聴取による感動と複数の身体反応が複合的に関係していることが示唆された(安田他, 2008)。そこで本研究では,感動と関連する身体反応が,どのような音響特性によって喚起されるのかを検討した。特に本研究では,数ある音響特性の中から音量の変化傾向に着目し,音量の変化傾向が感動と関連の深い身体反応に及ぼす影響について検討することを目的とした。聴取実験の結果,鳥肌が立つ,胸が締め付けられる,背筋がぞくぞくする,興奮するといった身体反応は,音量が増大傾向(クレッシェンド)の場合に生起しやすいことが示唆された。
  • 武市 尚大, 上田 真由子, 臼井 伸之介
    セッションID: O4-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、空間的手がかりパラダイムを土台として、持続的な聴覚刺激が視覚課題に及ぼす影響空間提示位置の観点から検討した。実験では左右双方から同時にされるRSVP(高速逐次視覚提示;画面上に視覚刺激が次々にごく短時間提示され、その中に含まれるターゲット刺激に対して反応する)課題を用い、課題と同時に画面の左右一方から持続的な聴覚刺激を提示した。また、聴覚刺激は、視覚ターゲットの提示される位置の手がかりとなる場合と無関係の場合があると教示した。ただし,本実験の新奇な点として、手がかり条件であっても実際に聴覚刺激が視覚標的を示す確率は50%であった。それにも関わらず,結果として、手がかりであると教示した場合に提示方向の影響が大きくなった。よって、視覚課題の遂行中に持続的な聴覚刺激を提示した場合聴覚刺激に対して内発的に注意を向けるだけで課題成績へ影響が生じると考えられる。
  • 非共感覚者における文字の出現頻度と連想色の関連性
    西本 真由香, 赤塚 諭, 高橋 理宇眞, 藤澤 隆史, 長田 典子
    セッションID: O4-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    文字に色を感じる色字共感覚が知られている.本研究では比較研究として,非共感覚者を対象に,文字から連想する色と出現頻度の関連性について検討を行った.具体的には,評定者にひらがなを呈示し,各文字に対して連想する色を選択してもらい,選択した色の色相・明度・彩度と文字の出現頻度の相関について分析した.実験には大学生男女70名が参加し,各評定者は呈示された文字から連想する色について,色空間の中から1点の選択を行った.選択された色の特徴量(色相・明度・彩度)を算出して,文字の出現頻度との関連性を検討した.その結果,文字の出現頻度において,色相と彩度には明確な関連性が見られなかったが,明度との間に弱い関連性があることが明らかとなった.先行研究では,共感覚者が文字から感じる色において,その出現頻度と明度・彩度との間に関連性があることが示されているが,本研究の結果より,文字の出現頻度と色特徴における関連性は,共感覚者に限らず見られる連合に基づいたものであることを示唆している.
  • 永井 聖剛, Carl Gaspar
    セッションID: O4-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    自人種の顔と比較し,異なる人種の顔に対する弁別成績等が低下する(他人種効果).本効果は自人種顔への日常的な接触によって説明されるが,その生起因については不明な部分が多い.本研究では個々の顔特徴(左目,右目,左眉毛,右眉毛,左目+左眉毛,右目+右眉毛,鼻,口)で他人種効果が生じるかを調べ,この効果の生起に重要な役割を果たす顔特徴を同定した.日本人被験者18名が参加し,顔全体,あるいは個々の顔特徴のみが提示され,個人弁別課題(10AFC)を自人種顔/他人種顔セットに対して行った.実験の結果,顔全体を提示した場合に加えて,左目,右眉,鼻の3つの特徴を個別に提示した場合にも,他人種効果が生じることが示された.これまで他人種効果は布置的な(configural)処理が関していると示唆されていたが,局所的な特徴の貢献に関しては報告されたことが無く,本結果は他人種効果の生起メカニズムに理解に重要な知見を提供するものといえよう.
  • 情動喚起画像を用いた広告の認知過程
    松田 憲, 楠見 孝
    セッションID: O5-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    本研究は,連合形成による情動転移が商品選択に及ぼす影響,情動転移による商品選択が商品情報に誤帰属されるかについて,選好判断時の商品情報利用に商品考慮度が及ぼす影響,の3点を検討した。実験には94名の大学生が参加した。実験参加者は,情動(快,不快)喚起画像と対呈示された広告に反復接触した。続いて,新旧項目について商品購買意図の判断を行い,さらに判断の際の商品名および商品属性(ポジティブ情報,ネガティブ情報)の参照度評定を4件法で行った。実験の結果,以下の3点が明らかとなった。第一に,広告と情動画像を対呈示することで画像から商品に情動の転移が生じ,商品選択に影響した。第二に,対呈示情動画像によって般化された商品評価は,商品属性(中心情報)や商品名(周辺情報)に誤帰属された。第三に,誤帰属情報は,高考慮商品では中心情報,低考慮商品では周辺情報がそれぞれ優位に働いた。
  • 清河 幸子, 田中 大介, Dienes Zoltan, 山田 歩
    セッションID: O5-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
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    先行研究(e.g. Nisbett, 2003)により,意識的な知覚,記憶,推論において,東洋人は全体的処理を好むのに対して,西洋人は分析的処理を好むという文化差が存在することが指摘されている。本研究では,そのバイアスが無意識的な知識の獲得,すなわち,潜在学習にも影響するかという点を検討した。Tanaka et al (2008)では,日本人を対象として,小さな文字(局所文字)が集まって大きな文字(大域文字)を表すGLOCAL刺激を用いて,潜在学習における選択的注意の役割を検討した。そこでは,局所文字よりも大域文字について潜在学習が成立しやすいという結果が得られた。本研究では,注意の操作を行わずに,日本人とイギリス人の潜在学習について比較した。その結果,日本人では大域文字に関してのみ潜在学習が成立したのに対して,イギリス人では大域・局所の両方で学習が成立していた。この結果は文化的なバイアスが無意識的に獲得される知識にも影響していることを示唆している。
  • 伊藤 朋子
    セッションID: O5-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    コンピテンス要因(確率推論課題の解決に不可欠な知的操作(確率量化操作))とパフォーマンス要因(知的操作の働きに影響する課題内容や文脈等)を区別する伊藤(2008)では,課題内容を可能な限り単純化した「ベイズ型くじびき課題」(形式的な課題)を中学生と大学生に出題し,基準率無視(Tversky & Kahneman, 1980)が皆無だったのは事象HとDの関連性が低いからではないかという仮説や,推論様式は課題解決者のコンピテンス要因の反映と考えられることを示した。本稿では,(1)パフォーマンス要因の影響,(2)両要因の関係,(3)基準率無視の出現条件を解明するために「ベイズ型くじびき課題」と「ベイズ型医学診断課題」(主題化された課題)を中学生と大学生に出題する被験者内計画の実験を行った。基準率無視を含む様々な誤判断と正判断の出現メカニズムや,形式的な課題と主題化された課題に出現する推論様式の関係は,確率量化操作の獲得水準という観点で説明できるように思われる。
  • 中村 國則, 渡邊 匠子, 山岸 侯彦
    セッションID: O5-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    従来の意思決定研究では複数の不確実性を含む賭け(”~%で~円貰える”)を被験者に提示し、個々の賭けに対する主観的価値を測定した上で価値関数と確率加重関数を用いて意思決定過程の分析を行ってきた.ここでデータ収集の手法に注目すれば,このような賭けに対する主観的価値のデータは多変量データとみなすことが可能であり,変数間の相関を分析することによって背後の認知構造を分析することが可能となる.本研究では多次元尺度法を用いて不確実性の賭けをマッピングすることを通じ,被験者の意思決定がどのような情報に基づいて下されているのかを検討した.分析の結果,被験者の意思決定は主として確率の大小に基づいており,価値の大小は決定を説明する主要な要因となっていないことが明らかになった.
  • 熱力学的エントロピー値とエントロピー概念の言語表現による心理量の相関関係
    佐藤 智明
    セッションID: O5-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    エントロピーの概念は分かりにくい概念のひとつである.そのため,熱力学の教育においてその概念をどのように表現するかということは非常に重要である.本報では,抽象的なエントロピー概念を説明する際に最も重要である言語表現に着目した.ここでは,これまで一般的に用いられてきたエントロピー概念を表す言語表現について調査し,特に熱力学的エントロピー概念を表現する場合の言語表現の問題点について検討した.更に,実際の分子運動を表現した粒子のアニメーションを制作し,運動範囲(体積)や粒子速度(温度)の異なる8種類の映像を被験者に見せ,それぞれ粒子の運動から計算によって得られるエントロピー値による順位と代表的な数種類の言語表現によって順位づけされた映像の順位との相関性について検討した.その結果,「拡散の度合い」と「捕まえにくさの度合い」という言語表現がエントロピー値と相関が高いことが分かった.
  • 山 祐嗣, マンクテロー ケン イワン, メルシエ ユーゴ, ヴァン・デル・エンスト ジャン・バプティスト, ド キュン・スー, 川崎 弥生 ...
    セッションID: O5-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Choi and Nisbett (2000) reported that Koreans showed stronger hindsight bias than Americans. The purpose of this study was to see whether hindsight bias is stronger among Easterners than among Westerners using a probability judgment task, and to test an ‘explicit-implicit’ hypothesis and a ‘rule-dialectics’ hypothesis. We predict that the implicit process is more active among Easterners to generate hindsight bias, and that Easterners are more dialectical thinkers, whereas Westerners are more rule-based thinkers. French, British, Japanese, and Korean participants were asked to make probabilistic judgments in a scenario including conditional probabilistic judgment (Experiment 1) and in a Good Samaritan scenario (Experiment 2). In the results, Easterners showed greater hindsight bias generally, and their cognition was more implicit and dialectic.
  • 直後と遅延の再生の比較から
    井上 智義, 川崎 弥生
    セッションID: O6-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では日本人大学生を対象に,第1言語である日本語の虚記憶に対する遅延時間の影響を検討した.実験材料として,1つの非提示語(ルアー語)を連想させる単語15個からなるリストを使用した.日本語リストが1リストずつ1単語あたり2秒の速さでCRT上に視覚提示された.提示リストは合計6リストであった.各単語リストの視覚提示後に2分間の再生テストを課した.また,1週間後に10分間の遅延再生テストを課した.その結果,遅延時間によってリスト語の再生率は減少するが,ルアー語の虚再生は増加することが示された.英語で同様の実験を行った川?・井上(2005)の結果と合わせて日本人大学生における2言語の単語の処理過程を考察する。
  • 野内 類
    セッションID: O6-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    符号化時にサバイバル判断を行うと記憶成績がもっとも良くなる現象を適応的記憶と呼び、記憶の進化心理学的・適応的意義を示す現象であると考えられている(e.g. Nairne et al., 2007)。本研究は、自己関連付け処理と自動処理と感情処理が適応的記憶に及ぼす影響を検討した。実験1と2は、刺激の呈示時間を、6秒(実験1)、2秒(実験2)と操作した。実験3は、快・不快・中立語を用いて実験を行った。すべての実験では、符号化時にサバイバル判断、自伝想起判断、意味処理判断を用いた。実験の結果、1) 刺激呈示時間が短くてもサバイバル判断は自伝想起判断よりも記憶成績が良く、2)刺激語の感情価に関係なく適応的記憶が生起した。以上の結果より、自己関連付け処理や感情処理は適応的記憶の生起に影響を及ぼさないことが示された。また、適応的記憶は自動的に生起する現象であることが明らかになった。
  • ―Virtual Week―
    蓮花 のぞみ, 権藤 恭之, 上野 大介, 石岡 良子, 黒川 育代, 藤田 綾子
    セッションID: O6-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    実験室場面の展望的記憶課題として、Virtual Weekを用いて高齢者の展望的記憶パフォーマンスを検討した。Rendell&Craik(2000)は、先行研究における問題点である課題材料が抽象的すぎる点、刺激が偶発的で予測できない点を改善し、朝食や夕食・買い物や通学といった一日の流れを想定したVirtual Weekを開発した。さらに、課題の条件は、毎日同じことを繰り返し行うという日常生活における規則性が導入された、規則・不規則・タイムモニタリング条件である。その結果、実験室場面において、高齢者は規則条件で高い結果が示された。
  • 本間 涼子, 齊藤 智
    セッションID: O6-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    展望的記憶課題の成績は、課題が複雑になると低下すると考えられる。しかし、課題を理解しているが適切な時機に遂行できないゴールネグレクトの研究(Duncan et al, 2008)では、課題遂行時の処理負荷が増えても遂行すべき課題間に競合が起きても、ゴールネグレクトの生起に影響はなかった。そして教示の時に形成される課題モデルが複雑になるとゴールネグレクトが生起しやすくなった。以上のことが展望的記憶課題でいえるのかを調べるために実験を行った。結果、教示によって生じる、課題の知識の複雑さ、課題モデルの複雑さが高い条件の方が、低い条件よりも展望気的記憶課題の成績が低かった。一方、背景課題の正答率と反応時間は教示による差はなかった。実際には不必要なものであっても課題情報が増えることで相対的に当該のターゲットアイテムと目標行動との関連が弱まり、展望的記憶反応に失敗すると考えられる。
  • 宮崎 球一, 大塚 聡子
    セッションID: O6-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    リーディングスパン・テスト(RST)遂行中における言語性ワーキングメモリのはたらきについて,そのリソースが処理と貯蔵に配分されるという考え方(リソース共有仮説)がある。本研究では,リソース共有仮説を実験によって検討することを目的とした。実験では,RST文の語順を入れ替えることによって,読解の難度のみが異なる2つのRST(通常RSTと処理困難RST)を作成した。実験参加者を通常RSTと処理困難RSTにランダムに振り分け実施した。実験の結果,通常RSTにおけるターゲット語の再生率が処理困難RSTにおける再生率よりも有意に高かったことから,リソース共有仮説が支持された。また,RST文に関する文理解度テストを実施したところ,通常RSTにおいてRST成績と文理解度テスト成績に負の相関がみられた。このことから,RSTにおける処理と貯蔵のリソース配分に,読解処理の負荷が影響することが示唆された。
  • 豊田 弘司
    セッションID: O6-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    社会的精緻化とは、記銘語に人物情報を付加することである。本研究は、偶発記憶に及ぼす人物情報の情動性と適合性の効果を検討した。実験参加者は大学生38名であり、各参加者は、記銘語と人物名が呈示され、その両者の適合性(記銘語から連想される人物として適合する程度)、及びその人物の快-不快の程度について評定し、その後、偶発自由再生テストを受けた。実験の結果、記銘語が人物名と適合しており、人物名から喚起される情動が快の場合が、記銘語が不適合であり、情動的に中立の人物名と結びついている場合よりも再生率が高かった。この結果は、人物情報が強い情動を喚起する場合にのみ、その情報によって精緻化された記銘語が認知構造に統合されることを示すものとして解釈された。
  • 直前の2つの学習セッション間のソースモニタリング
    山田 恭子, 中條 和光
    セッションID: P1-01
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究においては,学習間のインターバルが短く,学習後の保持期間が短い場合における時間判断バイアスについて調べた。学習時の第1,第2セッションでは,視覚呈示もしくはイメージ生成によってそれぞれ項目を学習した。セッション間のインターバル,学習後の保持期間はともに15分であった。その後,ソースモニタリングテストを実施した。テストでは単語を表す線画を思い出し,その線画を実際に見たのか想像したのか,どちらのセッションでのことかを判断させた。その結果,第1セッションの項目を第2セッション,第2セッションの項目を第1セッションへ誤帰属させるセッション間の誤帰属が確認された。また,第1セッションの項目を第2セッションへ誤帰属させる率の方が高かった。これは,よく似た学習が短期間に繰り返されると順向干渉が生じ,後半のセッションの項目は思い出しにくいというメタ記憶的知識に基づいた判断がなされたものと考えられる。
  • 尾田 政臣
    セッションID: P1-02
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    前額平行面上に描かれた左向き及び右向き矢印の指示方向の認知が,矢印の形状,提示位置によってどのような影響を受けるかを実験的に調べた。形状は矢軸の先端が細い,後端が細い,等幅の3種,提示位置は左,右,中央の3種を用いた。その結果,左向き矢印と右向き矢印では指示方向認知に違いがあることが明らかになった。線遠近法的に描いた(等幅以外)矢印は,提示位置の影響を受ける。左向き矢印は進行方向に見えることが優位となるが,右向き矢印では左位置に提示したときのみ進行方向に見えることが優位になった。
  • ‐睡眠中の嗅覚刺激呈示が嗜好に及ぼす影響‐
    菊地 史倫, 庄司 耀, 阿部 恒之
    セッションID: P1-03
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    睡眠中における香りの接触が、香りに対する嗜好と印象に及ぼす影響について検討した。34人の大学生は、5日間に渡る実験に参加し、睡眠中に香り(ローズ・ジャスミン)に接触した。参加者は、1・3・5日目の起床時に「接触した香り」と「接触していない香り」に対する嗜好と感覚・感情印象について評価を行った。その結果、ジャスミン接触群におけるジャスミンに対する嗜好が上昇し、香りの単純接触効果が確認された。ローズ接触群に対する嗜好も上昇する傾向はあったが有意な上昇は確認されなかった。また、香りの接触により接触した香りの印象が変化し、ジャスミン接触群はストレス感、ローズ接触群は強さ・濃さの評定値が低減していた。これらの結果から、睡眠中に香りを呈示した場合も単純接触効果は生じるが、香りの種類により影響が異なることが示唆された。また、香りの接触による印象の変化が嗜好の上昇に影響を及ぼすことが示唆された。
  • 日比 優子, 熊田 孝恒
    セッションID: P1-04
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    複数の項目中に単一の特徴で定義された標的が一つ提示される特徴探索課題で、現試行の標的の特徴が前試行と同じ時には、異なる時に比べ検出が速くなる。この効果を試行間促進効果(ITF)という。ITFは潜在的な記憶痕跡により生起し(Maljkovic & Nakayama, 2000)、加齢により減弱しないとされている(Kumada & Hibi, 2004)。本研究では、この潜在的な記憶痕跡の利用に加齢差がみられる否かを詳細に検討した。その結果、特徴探索画面において、見るだけで反応しなかった単一の特徴で定義されたアイテムが、後続試行で標的として出現した時、若齢者では試行間抑制効果が生起し、高齢者では試行間促進効果が生起した。高齢者は、記憶痕跡の中でも反応に関する履歴の利用が、若齢者とは異なる可能性が示唆された。
  • 快感情と不快感情の違い
    野畑 友恵, 箱田 裕司, 二瀬 由理
    セッションID: P1-05
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は,感情刺激の処理について自動的な処理と有効視野について検討した。実験では写真刺激(快,不快,中性)提示中に,画面の4隅のいずれかに提示される数字を検出できるかを調べることによって有効視野の範囲を測定した。さらに,提示された刺激の偶発再認課題を用いて刺激に対する自動的処理の程度を測定した。実験の結果,有効視野は不快刺激観察中に狭くなる傾向がみられた。一方,再認課題は,不快,快,中性刺激の順に正再認率がよいことがわかった。このことから,不快刺激の処理は有効視野を狭め自動的に処理されていることが示唆された。
  • 来田 宣幸, 赤井 聡文
    セッションID: P1-06
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    野球の打撃場面において、投手が投球したボールに対する球速感が投球コースや球種などによって異なることが経験的に知られている。すなわち、知覚される運動速度と客観的な運動速度は一致しないといえる。そこで、本研究では、客観的な球速と球速感の関係およびズレが生じるメカニズムを明らかにし、実際の場面での応用に活かす知見を得ることを目的として、心理物理学的手法を用いた探索的な実験を実施した。被験者は投手による投球を観察し、ビデオカメラで撮影された投球画像から2次元DLT法にて、ボールの運動速度を物理量として測定した。また、投球に対する感覚量は、マグニチュード・エスティメーション法を用いて測定した。技量レベルの異なる被験者群を設定し、見るポジション(打者、捕手、球審)の違いによる影響も検討した。その結果、一般学生は打者の位置から投球を観察した場合において、外角球と比較して内角球の方が速く感じることが示された。
  • 復帰抑制への効果について
    小川 時洋, 高澤 則美, 廣田 昭久, 松田 いづみ
    セッションID: P1-07
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,感情刺激に対する視覚的注意の特性を特に復帰抑制に注目して検討した。実験では手がかりとして快・不快刺激を画面の左右いずれかの領域に提示し,その後に手がかりと同じ位置あるいは異なる位置のいずれかに標的を提示した。実験参加者には,標的が提示されたらできるだけ早くボタンを押す検出課題を行うよう求めた。手がかりと標的のSOA(Stimulus Onset Asynchrony, SOA)は800msであった。手がかり提示位置と標的提示位置が一致する条件を有効条件,両者の提示位置が一致しない条件を無効条件として,それぞれの条件の平均反応時間を求めて分析した。その結果,無効条件の反応時間が有効条件に比べて短くなる復帰抑制の効果は,快刺激を手がかりとして提示した場合には不快刺激を提示した場合よりも短くなった。
  • 矢口 幸康
    セッションID: P1-08
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    オノマトペ(擬音語・擬態語)は高いイメージ表象力を持つ感性語とされている。オノマトペが喚起するイメージと表現する対象の物理的特長の一貫性が示唆されるなど,その性質が明らかにされつつあるなか,近年QOLの観点からその特殊な性質に注目が集まっている。特に,オノマトペのモダリティ情報の再現性の高さが多くの分野で応用されつつあるが,オノマトペとモダリティとの直接的な関連性についての検討した例は乏しい。本研究ではモダリティディファレンシャル法(MD法)という,語とモダリティの関連度を測る手法をもちいて,オノマトペ47語のモダリティ関連度を測定した。測定の結果,オノマトペには単一のモダリティに関連する語と複数のモダリティに関連する語が存在することが明らかとなった。また,基本五感覚の中では視覚と触覚が強く関連していることが明らかとなった。
  • 周藤 純, 菊地 正
    セッションID: P1-09
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    歩行者の赤信号やコンピュータの処理などを待っている時間は,日常の中で時間を意識する場面の一つである。そのような待ち時間において,経過時間あるいは処理の進捗状況が視覚的に表示されることがある。この表示をプログレスバーと呼ぶ。特に時間知覚の研究において,運動刺激は静止刺激と比較して提示時間が長く知覚される結果が得られている。そのため,数秒程度の範囲ではプログレスバーを表示することによって待ち時間を長く感じさせる可能性が考えられた。そこで本研究では,プログレスバーあるいは静止刺激の数秒間の提示後に提示時間の再生を求め,プログレスバーの表示が提示時間の知覚に与える影響について検討した。結果として,連続的なプログレスバーの表示は静止刺激よりも時間が長く知覚されたが,段階的な表示は静止刺激と同程度であった。
  • 石川 万里子, 南部 龍一, 高野 越史, 生駒 忍
    セッションID: P1-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
     Oura & Hatano(2004)は,日本民謡的なメロディのフレーズ区切りにおける音楽経験の影響を検討した。本研究ではその再検討を行い,フレーズ区切りと完全主義傾向および楽曲の印象との関連にも着目した。大学生34名を対象として実験を行ったところ,試行の反復によって区切り数は増加し,しかし区切り位置は試行間で安定するとはいえないことが示された。音楽経験の影響については,Oura & Hatano(2004)と同様の結果となった。完全主義傾向はフレーズ区切りとの関連をほとんど持たず,得られた判断がこのような内的要因のバイアスを受けていないことが示唆された。また,楽曲の印象がよいほうが,メロディをより細かいフレーズに区切る傾向が示された。
  • 積山 薫, 丸山 舞, 森 周司
    セッションID: P1-11
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    老視(老眼)での読字は、細かいものを見るときや照明条件の悪いときに困難が顕著になることは経験的に知られているが、心理学的に精密な方法でこのことを測定した研究は、日本語についてはあまりおこなわれていない。本研究では、高速逐次呈示法(Rapid Serial Visual Presentation; RSVP)を用い、日本語ひらがな単語の読字における読字可能最小呈示時間を認知閾として求める方法で、コントラストの影響を2つの文字サイズ(1°と0.4°)で調べた。平均年齢50才の老視群と21才の健常視群の両群で、コントラストが低下すると認知閾が上昇したが、両群を比較すると、老視群の方が認知閾が上昇に及ぼすコントラスト低下の影響が統計的に有意に高いコントラストで出現した。また、文字サイズが小さいほうが、コントラスト低下の影響が明瞭に現れた。
  • 宮澤 史穂, 田中 章浩, 坂本 修一, 西本 武彦
    セッションID: P1-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    映像と音声を同時に呈示した場合、話者の口の動きと音声が物理的に非同期であっても、ある程度までは同期して知覚されることが知られている。Sakamoto et al(2008)では、話者映像と時間伸長音声を組み合わせた条件、通常速度の音声と映像を時間的に非同期にした条件における、音声と映像のずれの検知限の測定が行われた。その結果、単語の長さが検知限に影響を及ぼすことが示唆されている。しかし、この結果が刺激全体の長さによるものか、モーラ数の違いによるものかは明らかではない。そこで本研究では、7,8モーラ語を、4モーラ語と同じ時間長にした刺激を用いて、検知限を測定した。その結果、伸長条件、非同期条件ともに、7,8モーラ語と4モーラ語の検知限に有意な差はみられなかった。これらの結果から、モーラ数ではなく、刺激の時間長が話者映像と音声のずれの検知に影響を及ぼしていることが示唆された。
  • -ブロック間配置で注意切り替え時間のバイアスを排除して-
    水野 りか, 松井 孝雄
    セッションID: P1-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Mizuno, Matsui, Harman, & Bellezza (2008) は,ブロック内配置ではSOAが短いほど長くなってしまう2文字間の注意切り替えの時間を単純反応時間で測定し,これを文字マッチング反応時間から差し引いて歪みをなくした正味文字マッチング反応時間から,日本語・英語母語者の表音文字の形態・音韻的符号化の完了時間を明らかにした。本研究では,SOAによる注意切り替えの時間の違いが生じにくいと考えられるブロック間配置で上と同様の文字マッチング実験を実施して上記実験結果と比較し,この配置の有効性を検討した。その結果,ブロック間配置のマッチング反応時間と上の正味文字マッチング反応時間のSOAに伴う変化は実質的に一致し,この配置が注意切り替えによる反応時間の歪みを排除するのに有効であることが検証されるとともに,上記研究で見出された符号化の完了時間の妥当性が確認された。
  • :空間記憶課題における干渉効果の検討
    藤木 晶子, 菱谷 晋介
    セッションID: P1-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    これまでの空間ワーキングメモリ研究によると,記銘・再認時に用いる感覚モダリティを一致させた視覚-視覚による空間記憶課題では,眼球運動が情報の減衰を止めるリハーサル機能を果たしており,同様に,記銘時と再認時に身体感覚を用いた課題においては,身体運動がその情報のリハーサルに関与していることが明らかにされている。このことから、空間ワーキングメモリには,眼球運動系と身体運動系の2つのリハーサルシステムが存在することが示唆されている。こうした知見をうけ、本研究では、記銘時に視覚,再認時に身体感覚を用いた視覚-身体感覚クロスモダル空間記憶課題を用い,その空間情報の保持に,眼球運動と身体運動による2つのシステムがどのように関与しているのかという問題を、二重課題法を用いて検討した。
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