本研究は,魚醤発酵過程における脂肪酸の経時的変化について検討した。
発酵過程におけるろ過前試料中の総脂肪酸含有量は,リノール酸添加試料とコントロール試料間で有意な差は認められなかった。脂肪酸のうち22:6(DHA)と20:5(EPA)は発酵過程で減少したが,16:0は増加が認められた。リノール酸添加試料とコントロール試料の脂肪酸組成は,リノール酸以外は同様の傾向を示した。発酵過程における,リノール酸添加試料中のリノール酸含有量は顕著に減少した。添加したリノール酸は遊離脂肪酸であったため酸化され易く,発酵の進行とともに酸化されたと考えられる。
魚醤に含有される脂肪酸は,ろ過前試料よりも顕著に少なかった。このことは両試料ともに,ろ過過程において脂肪酸が試料中に残存したことを示している。12ヵ月経過後のリノール酸添加試料における脂肪酸組成は,コントロール試料とほぼ同様の傾向を示した。
これらの結果から,いくつかの長鎖脂肪酸は発酵過程において炭素鎖が切断されたと考えられる。添加したリノール酸は脂肪酸組成に大きな影響を及ぼさず,12ヵ月経過後のリノール酸添加試料とコントロール試料間での脂肪酸組成は同様の傾向を示した。そのことから添加したリノール酸は,短鎖脂肪酸へと変換されたのではないかと考えられた。
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