カウンセリング研究
Online ISSN : 2186-4594
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45 巻, 4 号
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原著
  • 河越 隼人, 杉若 弘子
    2012 年 45 巻 4 号 p. 209-217
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/12
    ジャーナル フリー
    本研究では,弁護士を対象にマイクロカウンセリングによるカウンセリング技法習得の有効性について検討した。実験参加者は弁護士6名であり,マイクロカウンセリングで扱われる技法のひとつである“いいかえ技法”を習得課題とした。訓練前テスト,後テスト,追跡テスト(2週間後)におけるいいかえ技法に関する成績を検討したところ,後テストにおいて上昇がみられ,その成績を追跡テストでも維持していることがわかった。また,実際の法律相談場面でいいかえ技法を使用してもらったところ,情報整理,共通理解,情緒的支援,コミュニケーション促進に役立つことが明らかになった。さらに,弁護士がいいかえ技法を習得することで,他者と良好な関係を形成するためのコミュニケーション能力が高まることも示された。これらの結果から,弁護士はマイクロカウンセリングによってカウンセリング技法の習得が可能であり,習得されたカウンセリング技法は法律相談において有効に機能するであろうことが示唆された。
資料
  • 田中 輝美
    2012 年 45 巻 4 号 p. 218-228
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,大学生が自分自身の心理的自立に関与したと認知する親の態度を検討することを目的とした。大学生106名の自由記述から項目が収集され,親の自立促進的態度,自立した人物像,および同一性地位に関する質問紙が705名の大学生(男性404名,女性291名,不明10名)に実施された。因子分析の結果,親の自立促進的態度として,「指示の自粛」「掌握の停止」「対等な会話の開始」「生活管理の促し」の4因子が,心理的自立度を測定する自立人物像として,「自己決定」「社会との関係」「他者を通した自己理解」「他者との協調」「自己管理」「感情統制」の6因子がそれぞれ抽出された。次に大学生の心理的自立における親の自立促進的態度の影響を分析したところ,「掌握の停止」が「指示の自粛」に影響を示し,その上で「指示の自粛」は「自己決定」「自己管理」に影響を示した。「対等な会話の開始」については,「感情統制」を除く心理的自立の全体に影響を示した。「生活管理の促し」は「感情管理」に影響を示した。この結果から,本研究で得られた親の態度が,大学生の心理的自立の促進に効果的であることが示唆された。
展望
  • 岡島 純子, 鈴木 伸一
    2012 年 45 巻 4 号 p. 229-238
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/12
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,わが国における自閉症スペクトラム障害児(autism spectrum disorders: ASD)に対する社会的スキル訓練(social skills training: SST)の現状と課題を明らかにすることであった。そのためにまず,わが国で行われているSSTプログラムを検索したところ,7本の論文が抽出され,レビューされた。次に日本でのASD児へのSSTプログラムを検索したところ,12本の論文が抽出された。わが国における課題は,般化効果,維持効果について検討された研究が少ないこと,エビデンス蓄積のための介入デザインが少なく介入効果が不明瞭なこと,ASD児特有の社会的スキルを測定することが不十分であることが明らかとなった。本研究の結果から,治療効果を高めるために,標的スキルを選定する際に行動分析の手続きを使用すること,親を含めること,学校の文脈に合わせること(セッティングや内容)などが提唱された。
  • 中地 展生
    2012 年 45 巻 4 号 p. 239-247
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/12
    ジャーナル フリー
    本論文では,不登校児の親グループに関する研究を概観し,今後の研究課題を明らかにすることを目的とした。対象とする研究は,MAGAZINEPLUSとCiNiiの2つのデータベースを利用して1990~2010年までの文献の中から検索された。結果として53の研究が選定され,これを研究方法の違いによって,1)調査研究(質問紙調査やインタビュー調査などを用いたもの),2)実践研究(各文献の著者による実践をともなっているもの),3)その他の研究(文献や資料のみに基づいた研究),の3つのカテゴリーに分類した。1)調査研究と2)実践研究を中心にその動向を検討したうえで,今後の親グループ研究に必要なこととして,(1)各研究間のつながりを明らかにしていくこと,(2)参加者や家族全体の変化を把握する工夫をすること,の2点を指摘した。
ケース報告
  • 田中 輝美
    2012 年 45 巻 4 号 p. 248-255
    発行日: 2012年
    公開日: 2016/03/12
    ジャーナル 認証あり
    本事例の視覚障害を有する女子高校生は,過呼吸発作,失声,突発性難聴といった心因性とみられる多様な症状を呈した。小学校時代に登校を拒否し,中学校時代には同級生がいなかった彼女は,視覚障害に特化した特別支援の高校への進学を機に,同じ障害を有する同年齢の集団というこれまでに経験してこなかった対等な人間関係を求められる環境におかれ,学級内でほぼ孤立した状態で発症した。同級生への不適応が発症の背景にあるとみなしたカウンセラーにより,適応援助をめざしたカウンセリングが実施された。まず,自制してきた援助を求めるという依存ができるようになることが目標とされた。さらに,相手の負担の軽減を考慮した努力を伴う依存が同級生に対してできるようになるにしたがって,すべての症状の緩解がみられた。本事例では,上下の人間関係でも一方的な依存でもない,自分も他者も尊重した依存という,障害者として生きてゆく上での重要な課題に通じるカウンセラーの援助を報告した。
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