カウンセリング研究
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50 巻, 3.4 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 山下 陽平, 窪田 由紀
    原稿種別: 原著
    2017 年 50 巻 3.4 号 p. 121-132
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,対人関係ゲーム・プログラム(以下SIGsと略す)を小学3年生に実施し,過去の実践報告をもとに以下の仮説を立て,検証することを目的とする。SIGsの実施により,(1)対人不安が低減する,(2)引っ込み思案行動,攻撃行動が高い子は適切なソーシャルスキルを獲得し,引っ込み思案行動や攻撃行動が減少する,(3)群れが形成されることにより学級集団の凝集性が高まる。対象者は公立小学校3年生で,介入群31名(男子15名,女子16名),統制群64名(男子32名,女子32名)であった。結果として,特に引っ込み思案行動が高い児童に効果がみられ,SIGs の実施により,対人関与の苦痛傾向および引っ込み思案行動が減少し,集団凝集性が上昇した。集団凝集性については,フォローアップテスト時でもその傾向が維持されていた。また,引っ込み思案および攻撃性を併せもつ児童においては,攻撃行動が減少した。SIGsの実施により,児童に学級の雰囲気や級友の様子を肯定的に捉えさせ,集団凝集性が高くなるとともに,おもに社会的スキルの発現についての自己評価が高くなる可能性も見いだせた。

  • 尾野 裕美
    原稿種別: 原著
    2017 年 50 巻 3.4 号 p. 133-142
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,若年就業者において「今後のキャリアに向けた具体的取り組み」「キャリアに関する相談や現状整理」「有意義な仕事経験」が「視野の広がり」を介してキャリア焦燥感(「切迫感」「キャリア構築への衝動」「キャリアの懸念」)を緩和させるというモデルに従い検討した。20代の就業者475名を対象としたインターネット調査を実施し,共分散構造分析を行った。その結果,(1)「短期目標の設定と取り組み」「独学によるスキルや知識の習得」「自分の考えや現状の整理」「キャリアに関する相談」「有意義な仕事経験」が「多角的視点」を介して「切迫感」につながっていること,(2)「キャリアに関する相談」が「切迫感」と「キャリアの懸念」を緩和していることが明らかとなった。

資料
  • 杉本 希映, 青山 郁子, 飯田 順子, 遠藤 寛子
    原稿種別: 資料
    2017 年 50 巻 3.4 号 p. 143-151
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,大学生385名を対象に回想法を用いた調査を実施し,大学生個人がさまざまな心理教育をこれまでにどのくらい受ける機会があったのか,またそれらの心理教育の有効性をどう認知しているのかを検討することを目的とした。また,近年学校でのニーズが高まっている「いじめに関する教育」に焦点を当て,自由記述により収集した質的なデータの分析も行った。その結果,心理教育の種類により学校段階で受けてきた頻度には差があることが明らかとなった。受講頻度と大学生が現在感じている有効度には関連が認められ,受講頻度が高いほど有効度が高く,その傾向はスキルトレーニング系の心理教育で特に強かった。一方で「いのちの教育」「人権教育」「いじめ予防教育」については,受講頻度と有効度は高かったものの,両者の間には強い相関は示されなかった。いじめについての自由記述の分析からは,受講したことのポジティブな側面とともにネガティブな側面が明らかとなったことから,受講頻度以外の要因が有効度とは関連している可能性が示唆された。以上の結果を踏まえ,心理教育の現状と課題が考察された。

ケース研究
  • 岡村 章司, 渡部 匡隆
    原稿種別: ケース研究
    2017 年 50 巻 3.4 号 p. 152-159
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル 認証あり

    知的障害を伴わない自閉スペクトラム症幼児の両親に対して,夫婦間のコミュニケーション行動を高める支援方法の効果について検討することを目的とした。母親は主治医や他の親などの関係者と話すことで不安になり,父親に対する不満を述べることが多く,父親は母親に対して話すことが少なかった。両親でともに子育てをするといった面接の目的を明示し,幼児の具体的な課題を通して,幼児の家庭での行動記録をもとに面接を実施した。面接者が考える幼児の課題への対応に関する案を提示することは控え,両親が意見を言って話し合うことを促した。それらの意見に対しては肯定的なフィードバックを行った。その結果,父親の発言が増加し,父親の意見を踏まえた母親の発言がみられるようになり,相談して幼児の対応方法を決定することができるようになった。さらに,幼児の日常的な対応にも望ましい変化がみられ,夫婦間の日常的な会話の高まりがうかがえた。以上の結果より,親による記録を用いた夫婦での意思決定を促す行動カウンセリングの有効性が示されたと考えられ,ASD 児の保護者支援における夫婦間のコミュニケーション行動に対する支援の重要性が明らかになった。

ケース報告
  • 中村 有里, 武井 祐子
    原稿種別: ケース報告
    2017 年 50 巻 3.4 号 p. 160-169
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/09/26
    ジャーナル 認証あり

    本稿は,中学校での不登校以来ひきこもりの状態が続いていた青年期女性が,社会とのつながりを形成していった心理面接過程の報告である。そのかかわりは,クライエントが没頭していた架空世界の共有を重視したものから,面接担当者の交代をきっかけとして,現実生活を重視したものへと移行した。このかかわりの移行に伴い,「話すことが苦手」なクライエントが毎回持参していた日記は面接の台本としての機能が薄れ,クライエントの言葉で語られることが増えていった。また,この現実生活を重視した援助方法として,青年期の友人関係の発達変化に着目した。クライエントの友人関係における発達の残された課題をセラピストとの関係を通して発達変化させることで,社会の中で出会う友人との関係につなぎ,社会参加を促すものになることが示唆された。この示唆は,不登校や引きこもりなど,他者とのつながりが希薄であるクライエントの社会とのつながりを形成し,後押しすることにつながると考えられる。

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