カウンセリング研究
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50 巻, 2 号
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原著
  • 古志 めぐみ, 青木 紀久代
    2017 年 50 巻 2 号 p. 61-72
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
    本研究では,ひきこもり状態にある若者が自己や状況の変容をどのように志向するのかを明らかにする。そのために,変容に対する志向性の分類と,性別およびひきこもり始めた時期(学校期・社会への移行期)との関連を検討した。18~29歳の当事者124名(男性53名,女性71名)のA機関に寄せられたメールテキストを分析に用いた。変容に関する記述を分類した結果,〈自己変容志向〉のほか,〈規範意識志向〉〈状況変容志向〉〈変容に対する抵抗〉の4カテゴリーが得られた。このうち〈状況変容志向〉が最も多く,〈自己変容志向〉の下位カテゴリーでは〈全面変容志向〉が最も多くみられた。ひきこもり状態にある若者の多くは,まずは状況を変えたいと望み,自己変容を漠然と志向する傾向にあることが示唆された。また,対数線形モデルの結果,移行期群は学校期群より,〈自己変容志向〉〈規範意識志向〉の記述が多いことが示された。数量化III類の結果,移行期群の特徴には性差がみられ,男性のほうが自己変容を具体的に志向することが示された。これらより,移行期群の中には,内在化された社会の価値観に沿うよう自己のあり方を模索している者もいることが推察された。
資料
  • 渡辺 将成, 長谷川 晃
    2017 年 50 巻 2 号 p. 73-80
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
    本研究は,楽観性と悲観性が重要性の異なる2つのストレス場面で選択されるコーピング方略とどのような関連があるのかを検討し,楽観性と悲観性の機能的な差異を明らかにすることを目的とした。145名の大学生が楽観性,悲観性,およびコーピング方略を測定する尺度に回答した。参加者は重要性の高い学業上のストレス場面と重要性の低い場面を想起しながらコーピング尺度に回答した。重要性の高い場面では,楽観性は計画立案,情報収集,肯定的解釈と正の相関が示された。また,重要性の高い場面と低い場面において楽観性と肯定的解釈の関連に差が認められ,楽観性が高い者は重要なストレス場面では積極的に肯定的解釈を用いるが,重要ではない場面ではそこまで肯定的解釈を行わず,認知的な資源を節約していることが示唆された。一方,悲観性は重要性の高い場面と低い場面の両方で選択される先延ばしと正の有意な相関が認められ,この関連は楽観性の影響を統制した場合でも有意であった。以上のようなコーピング方略との関連の差異が楽観性と悲観性を区別する特徴であると考えられる。
  • 中村 美穂
    2017 年 50 巻 2 号 p. 81-91
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,高校教師が,1)スクールカウンセラー活用事業をどのように評価し,当事業による教師自身の体験に伴う変化を認識しているかを明らかにし,2)スクールカウンセラーの教師へのコンサルテーションにどのような役割と機能を期待しているかを探索的に調査すること,さらに 3)予防援助的および危機管理的問題状況に対するコンサルテーションに期待するスクールカウンセラーの役割と機能は,各問題状況によってどのように異なるかを検討することである。112名の高校教師対象の調査の結果,スクールカウンセラーの専門性に対する安心感や教師への援助を評価している一方,スクールカウンセリング活動への不満や教師自身の葛藤を認識していることが明らかとなった。また,高校教師は,スクールカウンセラーに,予防援助的問題状況においては,(1)教師主体の援助活動のコーディネーター役,(2)教師の適切な援助活動のアドバイザー役,(3)教師の内省促進のモニター役,(4)教師と保護者の関係調整のコネクター役,危機管理的問題状況においては,(1)チーム援助活動のコーディネーター役,(2)教師の緊急支援活動のディレクター役,の役割と機能を期待することが示された。
ケース報告
  • 小沼 豊
    2017 年 50 巻 2 号 p. 92-100
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,発達支援者の省察が及ぼす“気になる子ども”に対する影響について,療育指導プロセスから検討したものである。対象児は園や関係機関から“気になる子ども”として紹介され,療育機関Xを利用した児童3名であった。分析1では,集団療育を行うことになった“気になる子ども”に対し,どのような働きかけを行っていたのかを検討した。働きかけのカテゴリーは,言語的コミュニケーションの領域,社会性・対人関係の領域,情動・行動の調整の領域において合計12のカテゴリーが生成された。次に分析2では,発達支援者の働きかけと“気になる子ども”の応答を1つの対と捉え,子どもの応答の変化について検討した。その結果,3名ともに受入率が上昇したことが確認され,発達支援者の省察が影響している可能性が推察された。最後に分析3では,発達支援者の省察が影響している可能性の検証として,療育期間の中間で実施したインタビューから,どのように自らの実践を省察していたのかということについて検討した。
  • 友納 艶花
    2017 年 50 巻 2 号 p. 101-111
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/05
    ジャーナル 認証あり
    本研究では,医療機関の受診を固く拒むひきこもり傾向を有する男子高校生とのカウンセリング過程を検討した。来談初期のクライエントは,対人関係に困難を抱えてクラスに入ることができず家にひきこもり傾向状態であった。「マスク」をつけてカウンセリングに通う中,クライエントは心の中に秘めて抑圧されていた思い,疑問,葛藤,本音を次々と言語化できるようになり,考えと行動が内から外の世界に向け変化していった。苦悩から辿り着いてひきこもる自分を「おたく」に喩えるが,カウンセラーの関わりにより,ダイエットに成功し,自宅から離れた大都市に出かけたり,集団クラスに入って自ら他者と関わったりなど成長を遂げていく。考察では,(1)カウンセリング経過におけるカウンセラーの「安定した受容的態度」を用いる面接のあり方を論じ,(2)クライエントがいうひきこもり状態,すなわち「おたく」から発達的「進化」を遂げたクライエントへの関わりについて検討した。
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