カウンセリング研究
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51 巻, 1 号
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原著
  • 中村 聡美
    原稿種別: 原著
    2018 年 51 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,集団認知行動療法による介入の評価を質的・量的の両側面から行い,介入によるうつ病休職者の職場のストレスに対する認知および行動の変容過程を質的側面から明らかにすることである。企業組織に在籍し,うつ病休職中で復職を目指す16名に対して集団認知行動療法を実施し,前後に質問紙調査および半構造化面接を行った結果,当事者の語りおよびBDI-Ⅱの得点差(Z=-2.330, p=.017)から,介入後の抑うつ気分に改善が認められた。同時に,職場のストレス処理に対する認知および行動からなる労働スタイルにも変化が生じ,柔軟性が増していた。休職前の〈埋没的労働スタイル〉は,休職中に〈職務解放労働スタイル〉へと変化し,集団認知行動療法後は〈職務統制労働スタイル〉へと変化しており,各段階を連続的に捉えると,核となる現象特性として,《自己完結的労働スタイル》の緩和のプロセスが認められた。職場復帰を目指すうつ病休職者に対して集団認知行動療法を実施する際,《自己完結的労働スタイル》に関わる認知や対処行動(解決策)に着目し,緩和の方向を意識して介入することが目標になり得ると考えた。

  • 藤井 茂子, 石隈 利紀, 濱口 佳和
    原稿種別: 原著
    2018 年 51 巻 1 号 p. 14-26
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,母子保健室登校の援助経験によって生じる,養護教諭の心理的変容過程についての仮説的モデルを生成することである。小学生の子どもの母子保健室登校の援助を経験した13名の養護教諭を対象に,半構造化面接を実施した。面接によって得られた逐語記録を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによって分析した結果,57概念,14カテゴリー,3カテゴリーグループが抽出された。選択的コーディングにより,母子保健室登校の援助経験における養護教諭の心理的変化は,学校のサポート要因や母子保健室登校の学校の援助の影響を受け,養護教諭の子どもの成長発達と職務特性についての理解としてまとめられた。養護教諭の心理的変容は,母子保健室登校の援助過程を通して,担任や級友など学校の援助者や母親とかかわりながら,相互に影響を受けることが明らかにされた。また,養護教諭は援助者をつなぐコーディネーターとして機能していた。養護教諭が保健室でともに過ごした母親の心情を受容的共感的に理解したことで,養護教諭の子どもへの理解が深まり,保健室機能や職務特性を理解したことが明らかになった。

資料
  • 坂本 憲治, 千島 雄太
    原稿種別: 資料
    2018 年 51 巻 1 号 p. 27-38
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,大学生のカウンセリング,カウンセラーに対するイメージの経年変化を明らかにすることであった。A大学の大学生630名(2004年350名,2015年280名)を対象に質問紙調査を実施し,11年間のイメージ変化とカウンセリング来談意思との関連を検討した。分析の結果, 2015年調査では,2004年調査に比べて「援助の専門家」「利用価値のある場」という肯定的イメージが有意に高まり,「頼りたくない人」「信用できない場」という否定的イメージが低下していた。 カウンセリング来談意思とイメージの関連において,2004年では「頼りたくない人」というイメージが「性格」「進路」に関する来談意思を抑制していたのに対し,2015年調査にその傾向は認められなかった。また,2015年調査では「利用価値のある場」というイメージが高いほど,さまざまな悩みについて来談意思が有意に高まっていた。この傾向は2004年調査にはみられなかった。以上から,大学生のカウンセリング,カウンセラーに対するイメージは11年間を経て肯定的な方向に変化し,それによって来談意思が喚起されやすくなっていることが示唆された。

  • 尾野 裕美
    原稿種別: 資料
    2018 年 51 巻 1 号 p. 39-50
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,「キャリア探索の停滞」「所属組織からの低い評価」「友人・知人のキャリアとの上方比較」「ワークライフバランスの欠如」という状況におけるあせりやすさが,「切迫感」「キャリア構築への衝動」「キャリアの懸念」というキャリア焦燥感を介して,離転職意思へとつながるという仮説モデルに従い,ワーク・エンゲイジメントの高低による群別に検討した。就業者1195名を対象にインターネット調査を実施し,多母集団同時分析を行った。その結果,ワーク・エンゲイジメントの低い群は,「キャリア探索の停滞」「所属組織からの低い評価」「友人・知人のキャリアとの上方比較」「ワークライフバランスの欠如」のすべてが「切迫感」を介して,離転職意思に結びついていることが示された。また,ワーク・エンゲイジメントの高い群は,「友人・知人のキャリアとの上方比較」「ワークライフバランスの欠如」が「切迫感」を介して離転職意思を促していることが明らかとなった。

展望
  • 田所 摂寿
    原稿種別: 展望
    2018 年 51 巻 1 号 p. 51-62
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル フリー

    本論文では,初学者に対するカウンセラー教育内容について欧米諸国の研究を概観し,日本における実証的研究(evidence-based research)に向けて考察することを目的とした。カウンセラー教育の研究として,①専門教育の準備,②トレーニング手法,③トレーニングの内容とその成果の3つに分類し,それぞれの研究知見をまとめた。「専門教育の準備」としては,大学生へのカウンセラー教育の意義と内容およびゲートキーピングについての検討を行った。「トレーニング手法」としては,①ロールプレイ,②グループ体験,③個人カウンセリング,④臨床実習とスーパービジョンのそれぞれの効果について先行研究を比較検討した。「トレーニングの内容とその成果」については,従来のカウンセリングスキル基礎訓練を取り上げた。また,トレーニングを受けることによる変化として,人間的成長および専門家としての成長,自己の変化,認知の変化を取り上げた。 これらのカウンセラー教育の内容を日本において活用していく方法について考察を行った。

ケース報告
  • 銅島 裕子
    原稿種別: ケース報告
    2018 年 51 巻 1 号 p. 63-71
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2019/10/01
    ジャーナル 認証あり

    本症例は確認行為がやめられない強迫性障害のクライエントに対して,認知行動療法を行った。 クライエントは確認をする業務が主である職業に就いていたため,確認回数を常識的に残したいという本人の希望に沿って治療が進められた。面接の形式は約1年,全25回,1回50分の個人面接とした。認知行動療法のおもな介入技法として,確認行為には曝露反応妨害法を,否定的な認知には認知再構成法を,緊張緩和には呼吸法,自律訓練法など標準的な技法を活用した。しかし,曝露反応妨害法の“確認をゼロにする”という治療原理に本人の職業的責務が合わなかったため,職場や家族間の対人コミュニケーションの促進,運動などの多種の気晴らしコーピングを活用し,クライエントの生活の質が高まるよう社会性機能の視点からも治療を工夫し,確認行為を減らすことを目指した。検査としてY-BOCS(強迫性度)およびBDI-Ⅱ(うつ度)の心理尺度を用いて,治療前と治療後で検査得点の差の変化で効果をみた。結果,Y-BOCS 得点は17→12,BDI-Ⅱ得点は11→6 に下がった。本人の望む業務上必要な確認回数で治療を終結とした。

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