日本トレーニング指導学会大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2434-3323
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口頭発表
  • 小林 直生, 瀧 千波, 久野 峻幸, 岡崎 和伸
    p. 7-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/06
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場 へのアイデア】ランニングの接地はパフォーマンスに大きく影響する。長時間の練習を 行わなければならない長距離選手にとって、接地タイミングを把握することはトレーニングに 活用でき故障の発生リスクを低下させる可能性がある。 背景:ランニングにおける足部接地は、パフォーマンスに影響する重要な要素の一つである。 加えて足部接地が怪我の経験によって変化することも示唆されており(渡邊ら 2022)、各足の 接地を把握することで怪我の予防に繋がる可能性がある。 トレーニング指導の目的:月間走行距離が600kmを超過する陸上男子長距離実業団選手におい て、故障予防とパフォーマンス改善を行うことを目的とした。 対象者または対象チーム:陸上男子長距離実業団選手5名(身長:168.2 ± 3.0 cm、体重: 55.0 ± 3.3 kg、年齢:28.2 ± 4.0歳) 方法・期間:2024年4月に接地の測定を行い、その後、フィードバック(個人間の接地左右差、 被験者間の比較)を行い、トレーニング指導やドリルでの活用を行った。 測定環境: 2024年4月に全天候型陸上競技場にて測定を行った。 測定手順及び分析方法: 両足の母指球位置および踵位置に圧力センサを貼付し、小型無線機 能デバイス(AMWS020, ATR-Promotions)を装着させ、オフラインにて1000 Hzで記録した。普 段の有酸素トレーニングのペースでLT値以下となる時速13.3km(1kmあたり4′30″)を目安に設 定し、10分間ランニングを行った。対象者の各足における接地タイミングを抽出し、時系列デ ータから、各足のストライド間隔および1歩内の母指球位置(前足)接地タイミングと踵位置(後 足)接地タイミングを算出した。その後、前足接地タイミングと後足接地タイミングの時間ず れの平均値と標準偏差を算出し、各足の時間ずれについて対応のあるt検定を用い比較を行っ た。 結果:各足の1歩内の前足接地タイミングと後足接地タイミングの時間ずれにおいて有意差は 認められなかった(右足= -0.05(2.05),左足= -0.07(2.08),p > 0.05)。接地の左右差 と接地時間から個人毎の特徴を算出し、片足スクワットの回数変化や片足立ちハードルドリル 等の練習メニューの改善を行い、トレーニングの修正を行った。測定後2024年8月までに故障 が起こることなく5名全員がシーズン前半を終えることができた。 考察:今回の測定では接地の左右差と接地時間に分け、個人毎の傾向からトレーニング考案を 行い故障は防げたものの、PBの更新には及ばなかった。本研究では距離ごとの選手の区分は行 わなかったが、より長い距離を専門とする選手は接地が長く、トラックを専門とする選手は接 地が短く安定性に欠ける傾向があることから、今後、距離を考慮したトレーニングを考案し、 その有効性を検討する必要がある。
  • 緒方 博紀, 山下 大地, 横澤 俊治, 星川 雅子
    p. 8-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/06
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】体力テストによって評価された下肢伸展の等尺性力発揮および遠心性パ ワーが大きい選手は、方向転換時の水平床反力が大きいことが明らかとなった。方向転換時に は移動方向を変えるために特に大きな力発揮が必要になるため、エリート女子バスケットボー ル選手の方向転換能力を向上させるためには、最大筋力および遠心性パワー発揮を強化するト レーニングプログラムが重要だと考えられる。 【目的】エリート女子バスケットボール選手の方向転換能力向上させるトレーニング立案のた めに方向転換時の水平方向の床反力と下肢の力・パワー発揮特性との関係を検討することを目 的とした。 【方法】国立スポーツ科学センター・ハイパフォーマンスジムにて測定を実施した。対象は、 バスケットボール女子日本代表強化合宿に参加した選手16名(年齢:23.9±7.9歳、身長: 173.1±7.9cm、体重:67.6±1.5kg)である。方向転換能力の測定としてラテラルシャッフル 及び180°ターンを用いた方向転換動作において切り返し足の床反力を測定した。下肢の力・ パワー発揮の測定として床反力計を用いてアイソメトリックミッドサイプル(IMTP)とカウン タームーブメントジャンプ(CMJ)の測定を行った。 【結果と考察】相関分析の結果(表1)、ラテラルシャッフルにおける切り返しの平均フォース(体 重比)とIMTPピークフォース(体重比)、力の立ち上がり率(RFD)(体重比)との間には大き な相関関係(それぞれ、r = .55 〜 .67、r = .56 〜 .58)が示された。また、180°ターン のピークフォースとCMJ減速期ピークパワーとの間には大きな相関関係(r = .58)が示された。 CMJ加速期は相関がなかった。回帰分析の結果からIMTPピークフォース(体重比)は、各方向 転換の平均フォースに対して30〜60%の寄与が認められた。また、CMJ減速期ピークパワー(体 重比)は、180°ターンのピークフォース(体重比)に対して約30%の寄与が認められた。エリ ート女子バスケットボール選手を対象 としてIMTP等尺性最大筋力とRFD、CMJ 減速期ピークパワーの相対値は、方向 転換時の水平方向の床反力に関連する 重要な神経筋指標である可能性が示唆 された。
  • 林 和希, 加藤 健志, 有賀 誠司
    p. 9-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/06
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】本研究では、競泳Sprint種目の競技力とスクワット1RM、スタートのパフ ォーマンスと各種ジャンプ能力との間に有意な相関が認められた。競技パフォーマンス向上の ためには、これらの能力を向上させることが有効である可能性がある。 【目的】本研究の目的は、競泳選手の下肢筋力およびジャンプ能力の特性および、これらの測 定値とスタート動作のパフォーマンスとの関係について明らかにすることであった。 【方法】対象は、大学水泳部に所属する男子競泳選手18名であった(全日本学生選手権大会出 場レベル)。下肢筋力の指標としてスクワット1RM(SQ1RM)、ジャンプ能力の指標として、スク ワットジャンプ(SJ)、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)、リバウンドジャンプ(RJ) の測定を行った。スタート動作のパフォーマンスについては、キックスタートおよびシングル レッグスタートの10mのタイムを計測した。 統計解析:ピアソンの相関係数を用いて各測定値間の関係を分析した。平均値の差の検定には、 Studentのt検定またはWelchのt検定を使用した。WA pointsは中央値で2群に分け、距離別には Mid-long群とSprint群で比較した。スタートタイムの要因分析には強制投入法による重回帰分 析を用いた。キックスタートでは通過タイムを従属変数、体重、SQ1RM、CMJ、SJ、前脚・後脚 の片脚RJを独立変数とし、シングルレッグスタートでは体重、SQ1RM、CMJ、SJ、前脚の片脚RJ を独立変数とした。全ての有意水準は5%とした。 【結果】SQ1RMと長水路のWA pointsとの間には負の相関が認められた。また、Sprint群のSQ1RM はMid-Long群よりも有意に高い値を示した。ジャンプ能力の指標とした各項目の測定値とWA points間には有意な相関は認められず、群間には有意差は認められなかった。キックスタート とシングルレッグスタートのタイム間には有意な正の相関が認められ、キックスタートのタイ ムとSQ1RMとの間には有意な負の相関が認められた。シングルレッグスタートのタイムについ てはSQ1RM、CMJ跳躍高、前脚側RJ-indexとの間に有意な負の相関が認められ、SJ跳躍高との間 には有意な正の相関が認められた。 【考察】1)長水路種目のパフォーマンスとSQ1RMに有意な負の相関が認められ、Sprint群の SQ1RMはMid-Long群より有意に高い値を示した。Sprint種目の競技力にはSQ1RMが関係している 可能性が示唆された。 2)2種類のスタートのタイムにはSQ1RMが影響している可能性が示唆された。 3)キックスタートおよびシングルレッグスタートのタイムとジャンプ能力との関係について検 討したところ、キックスタートにおける前後の脚の機能に相違が存在する可能性が示唆された。
  • 杉崎 翔太, 高野 吉朗, 劉 振
    p. 10-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】サッカー熟練者においてボールインパクト時の股関節および膝関節屈曲 角度が大きいほどボール飛距離が増加することが示唆された。今後、筋力やその他身体的要素 を考慮してさらなる検証を行う必要性があるが、ボールインパクト時の下肢関節角度がボール 飛距離向上のための主な要因になりうる可能性があると考える。 【目的】サッカーのキック動作には下肢関節角度が影響することが知られているが、下肢関節 角度とボール飛距離の関連性を検討した研究は多くない。本研究の目的は、インステップキッ クを3相に分け、関節角度と飛距離の関連性を明らかにするものである。 【方法】 実験または測定環境:ボール飛距離は屋外グラウンドにて測定し、関節角度測定は3次元解析 システムが導入されている室内にて実施した。 実験または測定参加者:対象者はサッカー熟練群9名(20.2±0.8歳、173.8±4.0cm、66.1± 7.4kg)および非熟練群5名(21.6±0.5歳、172.5±5.5cm、61.6±8.5kg)とし、熟練群の選定 基準は中学・高校の6年間以前からの継続的なプレー経験がある者とした。 測定方法:下肢関節角度の計測は3次元動作解析システム(Vicon Nexus)を使用し、股関節と 膝関節角度を最大股関節伸展位(以下MHE)、最大膝関節屈曲位(以下MKF)、ボールインパクト 時(以下BI)の3相で検証した。カメラは8台で、反射マーカーは計35箇所に貼付した。室内の 環境を考慮し、キック動作には市販の風船を用いた。 統計解析:統計解析は、初めにt検定を用いて熟練群と非熟練群のボール飛距離を比較した。 次に3相計6つの関節角度とボール飛距離を熟練群と非熟練群に分け、それぞれの関連を検討す るためにPearsonの積率相関係数を用いた。 【結果】ボール飛距離は熟練群45.2±3.4m、非熟練群28.4±1.5mであり、有意差がみられた (p <0.05) 。ボール飛距離と股関節・膝関節角度で有意な正の相関を認めたのは、熟練群にお けるボールインパクト(以下BI)の股関節屈曲角度(r=0.72、p <0.05)と膝関節屈曲角度(r=0.65、 p <0.05)であった。このときの熟練群におけるBIの股関節屈曲角度は32.9±13.5°、膝関節屈 曲角度は47.1±15.2°であったのに対し、非熟練群はそれぞれ35.2±7.5°と 56.7±11.4°で あった。 【考察】風船を使用したキック動作の測定に関する報告は多くないが、BIにおいて本研究熟練 群の角度と同等の値を示した先行研究が存在する為、本研究は測定方法として妥当性があると 考えられる。また、結果において、BIの熟練群と非熟練群の膝関節角度で値に差が出た要因は、 熟練群でキック時に下肢多関節運動が生じた結果、効率的な膝関節伸展運動が可能となり、非 熟練群よりも膝関節屈曲角度が小さくなった影響だと推察できる。
  • 篠原 純司, 高野 将伍, 中村 駿一
    p. 11-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】足関節の背屈可動域制限は、足関節捻挫の後遺症の一つとして生じる。 背屈可動域制限は、 足部・足関節の機能をはじめ、歩行や走行にも影響を及ぼすため、その評 価は重要である。Weight Bearing Lunge Test(WBLT)による母趾壁距離の測定は、簡便に背 屈可動域が定量化できる方法として知られているが、目視によるメジャーの読み取りエラーの 可能性や、測定値の標準化がされないといった問題点を有する。そこで、本研究では、これら の問題点を改善するため、Modified Weight Bearing Lunge Test(mWBLT)を開発した。mWBLTは、 新たな背屈可動域評価方法として現場での活用が期待される。 【目的】本研究は、mWBLTによる背屈可動域評価方法の信頼性について検証することを目的とし た。 【方法】 測定環境:大学内トレーニング実習室。 測定参加者:大学生19名38脚(男性12名、女性7名、年齢21.58±1.22歳、身長166.81±8.59㎝、 体重60.26±8.74㎏)とした。対象者の選出基準は、下肢に整形外科的疾患のない健康な大学生 男女とした。 測定方法:mWBLTは、以下の方法にて実施した。1) 壁に90°の角度で設置したmWBLT測定板の 上に、踵部と示趾が一直線状になるよう測定足を位置させる、2) 踵部を床に接地した状態で 下腿を前傾させ,、壁に膝を接触させる、3)踵部が地面から離れることなく壁に膝を接触する ことのできる最大の位置まで1cm単位で示趾を後方に移動させる、4) mWBLT測定板のスライダ ーに設置されたレーザー距離計にて外果と壁の距離(外果壁距離)を測定する、 5)外果壁距離 を外果腓骨頭距離にて除し標準化した値(mWBLT値)を算出する。mWBLTでは、これまでWBLTに は含まれていなかった、4)と5)のプロセスを加えることにより、測定値のデジタル化と標準化 を行なった。また、3)の肢位において、ゴニオメーターによる背屈可動域(ゴニオ値)、並び に、デジタル角度計による下腿の角度(下腿角度)を測定し、mWBLT値と比較した。ゴニオ値は、 移動軸を外果と腓骨頭を結ぶ線、基本軸を外果から床に並行な線とした。下腿角度は、下腿の なす角度を脛骨粗面から15cm遠位にて測定した。 統計解析:mWBLT値とゴニオ値、mWBLT値と下腿角度との比較において、ピアソンの積率相関係 数を算出した。有意水準はp<0.05とした。 【結果】mWBLT値とゴニオ値は、強い負の相関を示した(r=-0.89、p<0.01)。また、mWBLT値と 下腿角度においても、強い負の相関を示した(r=-0.92、 p<0.01)。 【考察】本研究の結果、mWBLT値は、ゴニオ値および下腿角度との高い一致性が示され、その信 頼性の高さが示唆された。mWBLTを使用する利点は、測定値の読み取りが楽であり、読み取り エラーのリスクを減少させること、さらに、標準化した測定値を用いることで測定データを他 者と比較できるようにしたことである。これらは、根拠に基づくトレーニング指導や研究デー タとしての活用の一助になると考える。今後は、さらなる信頼性を兼ね備えたmWBLTの確立に 向け研究を進めたい。
  • 高野 将伍, 中村 駿一, 篠原 純司
    p. 12-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/10
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】Modified Star Excursion Balance Test(以下、mSEBT)とは、 片脚立位 時における遊脚のリーチ距離を測定し、動的姿勢制御を評価するテストである。簡易な準備で 測定可能であることから、研究だけでなくフィールド上での測定にも広く用いられている。し かし、筆者らの研究活動やスポーツ現場でmSEBTを測定した経験から、mSEBTにおける評価は背 屈可動域と深く関連していることが予想され、動的姿勢制御の測定という定義は適切ではない 可能性が推察される。本研究の結果は、mSEBTから得られる測定値の意味をより深く理解する ために有用であると考える。 【目的】本研究では、mSEBTと荷重時背屈可動域の関係性を明らかにし、mSEBTにおける評価の 意味を再考することを目的とした。 【方法】 測定環境:大学内講義室。 測定参加者:健康な大学生男子サッカー選手120名240脚(年齢:19.78±0.79歳、身長: 173.54±5.79cm、体重:66.76±5.75kg、競技歴:12.33±2.05年)。 除外基準は1)神経筋系の 疾患がある場合、2)三半規管の疾患がある場合、3)脳振盪を6か月以内に起こしている場合、 4)その他、姿勢制御に影響を及ぼすケガや疾患を有している場合とした。 測定方法:mSEBT は1本の角材に爪先で押すことができるスライダーを装着し、レーザー距離 計にて最大リーチ距離を測定した。前方、後内側、後外側の3方向への最大リーチ距離を3回測 定し、各方向の平均値を算出した。平均値は脚長で除し標準化して分析に使用した。荷重時背 屈可動域はWeight Bearing Lunge Test(以下、WBLT)を用いて評価した。WBLTは、壁を0cmとし て垂直にメジャーを床に張り、その上で前方ランジを行い、踵が浮かずに壁に膝が接する最大 距離を測定した。 統計解析:mSEBTの各方向とWBLTとの関係についてピアソンの相関係数(r)を算出した。有意 水準は5%未満とした。 【結果】WBLTと前方mSEBT(r=0.45, p=0.001)は中程度の正の相関を示した。WBLTと後内側 mSEBT(r=-0.035、p=0.59)、 WBLTと後外側mSEBT(r=-0.029、p=0.66)に有意な相関はなかった。 【考察】本研究の結果、mSEBTにおける前方最大リーチ距離とWBLTに中程度の相関があることが 示された。このことから、前方mSEBTは動的姿勢制御に加えて、荷重時背屈可動域が関係する 総合的な機能評価である可能性が考察された。今後は慢性足関節不安定症を有する対象者に基 づく検証が必要である。
  • 山下 敦也, 塩瀬 圭佑, 冨賀 理恵, 畑本 陽一, 檜垣 靖樹, 廣津 匡隆, 藤田 英二
    p. 13-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】レジスタンストレーニング期間中における約860kcal以内のエネルギー付 加は、筋肉量の増加を促進させない可能性が考えられる。 【目的】日常の食事量を増やす、または、補食をとるなどのエネルギー付加は、レジスタンス トレーニング期間中の筋肉量の増加に有効な食事手段である可能性が指摘されている。しかし、 どの程度エネルギーを付加すればよいか明らかになってない。本研究では、レジスタンストレ ーニング期間中のエネルギー付加量の違いが身体組成に及ぼす影響を調査した。 【方法】レジスタンストレーニング未経験、または、6ヶ月以上未実施の男子大学生30名(年 齢:19.7±1.5 歳, 身長:172.2±5.6 cm, 体重:64.3±8.2 kg)を対象とした。介入期間は12 週間とし、週3回レジスタンストレーニングを実施した。トレーニング種目は、チェストプレ ス、ラットプルダウン、アームカール、レッグプレス、レッグエクステンション、レッグカー ルの6種目とした。強度、回数、セット数は75%1RMを10回3セットとし、セット間の休憩時間は 2分とした。介入は、通常の食事のみ(CTRL)、食事と別に中程度のエネルギー付加(MID,エネル ギー:496 kcal, たんぱく質:60 g, 脂質:0.6 g, 炭水化物:63 g)、高程度のエネルギー付加 (HIGH,エネルギー:857 kcal, たんぱく質:60 g, 脂質:0.6 g, 炭水化物:153 g)の3条件とし、 対象者を無作為に割り当てた。介入前後では、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて 体重、脂肪量、筋肉量を評価した。統計分析は、繰り返しのある二元配置分散分析を用いた。 【結果】介入前後において、体重の変化量は、CTRL:0.3±2.2 kg、MID:2.2±2.9 kg、HIGH:1.9 ±3.7 kg、脂肪の変化量は、CTRL:-0.1±1.6 kg、MID:0.7±1.2 kg、HIGH:-0.2±1.8 kgであり、 筋肉の変化量は、CTRL:0.5±1.8 kg、MID:1.7±1.9 kg、HIGH:1.8±1.9 kgであった。介入前 後において、体重と筋肉量で有意な増加がみられたが(時間の主効果;いずれも、p<0.05)、脂 肪量は増加しなかった(時間の主効果;p>0.05)。また、体重、脂肪量、筋肉量において、条 件間で変化の程度は同じであった(交互作用;いずれも、p>0.05)。 【考察】本研究では、レジスタンストレーニング期間中のエネルギー付加量の違いによって、 筋肉の変化量に違いがみられない可能性が示唆された。この背景として、エネルギーを付加し た代償反応として、エネルギー消費量の増加、または、日常のエネルギー摂取量が減少したこ とが考えられる。その結果、3条件のエネルギー出納バランスにおいて、組織量の差異をつけ るほど違いがみられなかった可能性がある。
  • 山下 貴司, 加藤 岳, 小菅 悠太, 藤野 泰成, 大久保 剛, 瀬戸 宏明, 越智 英輔
    p. 14-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】本研究の結果から、復興公営住宅の居住者の生理学的特徴が明らかにな った。運動は社会的結びつきを強めるツールとしてもきわめて有用であることから、トレーニ ング指導者の果たす役割や可能性は高い。 【目的】本研究の目的は、宮城県気仙沼市の復興(災害)公営住宅居住者を対象とし、身体機 能および骨格筋形態・機能の現状を把握することである。 【方法】2024年8月18日から19日に開催した運動教室に参加した54名を対象とした。対象者はア ンケート調査により、復興公営住宅に居住する高齢者(復興群:n=19、年齢=78.9±7.1歳、 身長=152.2±1.0cm、体重=55.1±12.4kg、BMI=23.6±4.0)、および一般住宅に居住する高 齢者(一般群:n=35、年齢=75.1±6.6歳、身長=153.2±0.7cm、体重=54.9±8.1kg、BMI= 23.4±3.0)の2群に分類した。測定項目は血圧、心拍数、握力、等尺性膝伸展筋力(MVC)、力 の立ち上がり速度(RFD:0-50ms、0-100ms、0-150ms、0-200ms、0-250ms、0-300ms)、ロコモ 度テスト(2ステップテスト、立ち上がりテスト、ロコモ25テスト)、超音波機器による筋横断 面積、筋厚、筋輝度とした。取得したデータは、Shapiro-wilk検定で正規性を確認した。各測 定項目の群間比較には、対応のないt 検定を行い、有意水準は5%未満とした。また、Cohen’s d の効果量を算出し、>0.2で小、>0.5で中、>0.8で大とした。 【結果】復興群のMVCは一般群よりも有意に低値を示した(p =0.043;d =0.617)。RFDはすべて の時間間隔において復興群で有意に低値を示した(0-50ms:p=0.046;d=0.513、0-100ms: p =0.008 d =0.833、0-150ms:p =0.007 d =0.857、0-200ms:p =0.008;d =0.838、0-250ms: p =0.013;d =0.785、0-300ms:p =0.012;d =0.794)。2ステップテストは復興群で有意に低値を 示した(p <0.001 d =1.191)。その他の測定項目においては、群間の有意差は認められなかった。 【考察】復興公営住宅の居住者は、新たな地域コミュニティを作る難しさがあり、生活が孤立 していくこともある。本研究では、気仙沼市の復興公営住宅居住者の下肢筋力および力の立ち 上がり速度の低下を確認した。森山ら(2016)は、南相馬市の仮設住宅居住者を対象とした研 究において、1日平均歩数や移動能力の低下ならびに男性の膝関節伸展筋力の低下を報告して いる。加えて金森ら(2018)は、気仙沼市において6割の団地が公共交通機関の徒歩圏外にあり、 徒歩アクセシビリティが低下していることを報告している。このことから、気仙沼市の復興公 営住宅の居住者は、居住地移転による生活環境の変化に伴う身体活動量の低下などにより、筋 力・筋機能の低下に影響している可能性がある。
  • 菊地 竜太, 菅野 昌明, 愛甲 竜雲, 松村 希良軌, 島 典広, 仲 立貴
    p. 15-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】スミスマシン・ショルダープレスにおいて、バーベルを肩の高さに構え た姿勢から、肘関節を完全に伸展するまで挙上するフル可動域(Full)とバーベルをアゴの高 さに構えた姿勢から、肘関節が140°伸展するまで挙上するパーシャル可動域(Partial)で、 三角筋中部、僧帽筋上部、上腕三頭筋の筋活動量、および速度、パワー、フォースを比較した。 その結果、三角筋中部と僧帽筋上部についてはFullの方が高値を示した。また、速度、パワー はFullがPartialよりも高値を示したことから、ショルダープレスにおいてはFull条件でのト レーニングが推奨される。 【目的】ショルダープレスは、三角筋、僧帽筋上部、上腕三頭筋などが主働筋となるエクササ イズであり、専門書にはバーベルを肩の高さで構えた姿勢から肘関節が完全伸展するまでバー ベルを頭上に挙上することが示されている。しかし、近年SNSを通じてバーベルをアゴの高さ で構え、挙上時は肘関節を完全伸展させないように行う方が主働筋は常に張力を発揮し続けて いることから、高い効果が得られるといった情報が発信されている。そこで本研究ではスミス マシン・ショルダープレスにおける可動域条件の違いが主働筋の筋活動量、および速度、パワ ー、フォースに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 【方法】レジスタンストレーニング経験を有する男子大学ラグビー選手7名(19.9±1.1歳)を 対象に、スミスマシンで行うショルダープレスをFull、およびPartialそれぞれの最大挙上重 量(1RM)の70%の負荷を用いて、2条件ともに3回行った。挙上動作は最大速度で、下降動作 は2秒で行うように指示した。表面筋電図を用いて、3部位の被験筋の筋活動量を測定し筋活動 量の指標としてRMS%MVCを算出した。また、GymAware(Kinetic Performance社製)を用いて速度、 パワー、フォース(いずれも平均とピーク)を測定した。2条件の比較には対応のあるt 検定 を行った(p < 0.05)。また、サンプル数に影響されない2条件間の差の大きさを比較するた めに効果量(ES)を算出した。 【結果】ショルダープレス1RMは、PartialがFullよりも有意に高かった。三角筋中部、僧帽筋 上部、上腕三頭筋のRMS%MVCは、2条件すべての被験筋で有意差は認められなかったが、三角筋 中部(ES=0.53)と僧帽筋上部(ES=0.50)は、いずれも中程度の差が認められFullの方が高値 を示した。上腕三頭筋の筋活動量は2条件で類似していた。また、平均速度、ピーク速度、平 均パワーはFullがPartialより有意に高値を示した。ピークパワーは有意ではないものの、ES は大きな差が認められFullの方が高かった(ES=0.86)。平均フォースはPartialがFullよりも 有意に高く、ピークフォースについては差が認められなかった。挙上開始から終了までのバー ベルの移動距離(LD)はFullがPartialよりも有意に大きかった。 【考察】本研究では、FullがPartialよりも三角筋中部と僧帽筋上部の筋活動量、および速度や パワーが高値を示した。一方、平均フォースでPartialが高かった要因は、両条件の1RMの有意 差に伴う実験時の負荷が影響を及ぼしていると考えられる。それにもかかわらずピークフォー スは2条件間に差が認められないことから、長期的なフル可動域でのショルダープレストレー ニングは神経・筋機能の優れた適応を引き出す可能性が示唆された。
  • 松村 希良軌, 菅野 昌明, 陣野 瑛杜, 島 典広, 仲 立貴
    p. 16-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】大殿筋やハムストリングが主働筋に含まれているスティッフレッグデッ ドリフト(SLD)の筋活動量を、フラットな床面に立って行う条件(FLA)、足関節背屈位で行 う条件(INC)、および足関節底屈位で行う条件(DEC)の3条件で比較した。その結果、筋活動 量は大殿筋やハムストリングを含むすべての被験筋において足関節条件に差は認められなかっ た。したがって、SLDは足関節条件を変化させることよりも、先行研究で示されているスタン ス幅を広げたり、ステップ台の上で行うなどのエクササイズテクニックにより、大殿筋やハム ストリングの筋活動量を増加させることが推奨される。 【目的】大殿筋やハムストリングが主働筋に含まれている代表的なエクササイズのひとつがス ティッフレッグデッドリフト(SLD)であり、SLDはスポーツ現場で多発するハムストリングの 筋損傷の予防にも有効とされている。SLDは通常フラットな床面で行うことがレジスタンスト レーニングの専門書で示されている。一方で近年トレーニングの実践現場からは、つま先をプ レート上に乗せてINCで行った方が、大殿筋やハムストリングの刺激が増加するといった意見 が、SNSを通じて国内外から発信されている。しかし、SLDにおける足関節条件の違いが大殿 筋やハムストリングなどに及ぼす影響については明らかになっていない。そこで本研究では、 SLDにおける足関節条件が主働筋などの筋活動量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし た。 【方法】日常的にレジスタンストレーニングを実施している男子大学ラグビー選手9名(19.7± 0.5歳)を対象に、SLDの最大挙上重量の70%の負荷を用いて、足関節条件をFLA、INC、DECの3条 件で、それぞれ3回行った。SLDは両脚を腰幅に広げ、つま先を正面に向けた姿勢で立ち、バー ベルをオルタネイティッドグリップで握り、股関節を屈曲させながら膝関節を若干屈曲させて 上体が床面と平行になるまで前傾した。なお、INCとDECの条件では、4cmの木製プレート上に、 INCは母趾球と小趾球を乗せて、DECは踵を乗せて行った。挙上動作及び下降動作は2秒間とし、 メトロノームのテンポに合わせて行った。表面筋電図を用いて大殿筋、大腿二頭筋、半腱様筋、 外側広筋、腓腹筋内側頭の5部位の筋活動量を測定し、各筋の筋活動量の指標としてRMS%MVCを 算出した。また、股関節・膝関節の可動域は電子角度計を用いて計測した。SLDの足関節3条件 の比較には、対応のある一元配置分散を行った(p <0.05)。 【結果】大殿筋、大腿二頭筋、半腱様筋、外側広筋、腓腹筋内側頭の筋活動量(RMS%MVC)に、 条件間で有意差は認められなかった(大殿筋:p = 0.89、大腿二頭筋:p = 0.36、半腱様筋: p = 0.55、外側広筋:p = 0.54、腓腹筋:p = 0.57)。また、股関節や膝関節の可動域も条件 間に有意差は認められなかった(それぞれ、p = 0.11、p = 0.59)。 【考察】SLDにおける足関節の3条件は、大殿筋やハムストリングを含む5部位の被験筋の筋活動 量に有意な影響を及ぼさなかった。そのため、トレーニングの実践現場での感覚やSNSから発 信されているエクサイズテクニック情報とは異なる結果が示された。しかし、本研究では足関 節条件による各被験筋の筋活動量に個人のばらつきが認められたことから、今後さらなる研究 が必要である。
  • 平良 怜南, 松森 史晃, 砂川 力也
    p. 17-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】速度基準を用いたスクワットジャンプトレーニング(VBT)では、トレー ニング量に関わらず、最大筋力や筋機能特性の向上が確認された。これは、軽重量かつ少ない トレーニング量でも効果が促進されることを意味する。したがって、本研究で実施したスクワ ットジャンプは、ピリオダイゼーションの観点からも合理的かつ効率よく、パフォーマンス向 上に寄与することが期待される。 【目的】本研究は、速度基準を用いたスクワットジャンプトレーニングが最大筋力、スプリン トタイムおよびジャンプパフォーマンスに及ぼす影響について明らかにすることを目的とし た。 【方法】実験環境:研究機関のトレーニング室(2024年9~12月)。実験参加者:健常な男子大 学生24名[年齢:20.1±1.1歳、身長:171.7±6.3cm、体重:66.0±7.8kg、スクワット(SQ) 1RM:90.4±15.4kg、SQ1RM体重比:1.38±0.21]実験手順及び分析方法:トレーニング介入前 後に身体組成、SQ1RM、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)、ロードジャンプ(Load-J)お よび20mスプリント(0-20m、0-10m、10-20m)を測定した。2グループに分け、速度低下率を5% (VLC5%)と15%(VLC15%)と設定した。トレーニングはスクワットジャンプとし、挙上速度を 基準に重量を設定した。セッション(S)1~2は、1.4~1.5m/sの速度に対応した重量で5rep× 3セット、S3~S6は1.3~1.4m/sの速度に対応した重量でVLC(5% or 15%)-rep×3セット、S7 ~S10は同条件で4セット、S11~S16は同条件で5セット実施した。トレーニング中はリニアポ ジショントランスデューサーでパラメータを記録し、各セット後に主観的疲労度(RPE)を聴取 した。統計分析:グループ間、トレーニング介入前後のパラメータおよびミクロサイクルのト レーニングデータの差の検定には、2要因分散分析混合モデルを使用した。 【結果】対象者のトレーニング前後の数値(VLC5%、VLC15%)は以下の通り。なお,本研究は、 第12回日本トレーニング指導学会にて報告(対象者2名)した内容にすべてのデータを加え分 析したものである。SQ1RM(+18.1%、+16.1%)、CMJの跳躍高(+4.6%、+12.1%)、Load-Jの ピークパワー(+31.3%、+33.6%)、20mスプリントタイム(-1.3%、-1.7%)およびその前半 区間(-1.5%、-2.5%)。いずれも、トレーニング後に統計的に有意なパフォーマンス向上が 認められ、グループ間に差は認められなかった。 【考察】本研究は、速度基準を用いたスクワットジャンプトレーニングが下肢の最大筋力およ び爆発的な力発揮能力の向上に寄与することを示した。軽負荷のスクワットジャンプは下肢三 関節伸展筋の爆発的筋活動を促進し、VBTを活用することでトレーニング量に関わらず少ない トレーニング量でも十分な効果を獲得し、疲労の蓄積も抑制できると考えられる。
  • ヘンダーソン フレデリック, 山下 大地
    p. 18-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】フライホイール (FW) スクワットにおける様々な条件下での負荷を明ら かすることで、トレーニング指導者は最適な処方を決定することができるようになる。 【目的】異なる慣性負荷および2つの実施条件下でのFWスクワット中の力発揮の特徴を明らかに する。 【方法】実験または測定環境:3次元動作分析システム(VICON13台、250Hz、Kistler社製フォ ースプレート2枚、1000Hz)。実験参加者:15名の男子大学生バスケットボール選手(年齢: 18.8±0.8歳、体重:80.1±6.7 kg、身長:182.9±5.9 cm)。方法:0.05、0.10、0.15 kgm²(そ れぞれLサイズのディスク1、2、3枚)の慣性負荷で、「スムーズ」方式または「ディレイド・ エキセントリック」方式(エキセントリック局面開始1/3から負荷を受け止め始める)でFWパ ラレルスクワットを8回実施した。 測定方法:フォースプレートより鉛直の地面反力を取得し、 モーションキャプチャシステムによりFW上のマーカーを追跡し、ディスクの角速度を取得した。 統計解析:最初の3回と最後の反復は除外した。条件毎に時間で正規化し、50msの移動平均で 平滑化し、データには一般化加法モデル (GAM)を適用した。 【結果】大きな慣性負荷条件ではより大きな地面反力を発揮していた(図)。コンセントリック 局面では通常のスティッキングポイントで地面反力に小さな谷が見られ、動作の約1/3付近で 地面反力のピークが見られた。スムーズ条件のエキセントリック局面では、最も深い部分で地 面反力のピークがみ られた。ディレイド 条件では、エキセン トリック局面のピー クがより早い段階で 見られた。 【考察】エキセント リック局面での地面 反力のピーク出現地 点は、実施方法によ って調整可能であ る。中程度以上の慣 性負荷は、異なる速 度で似た力曲線を生 じさせる。
ポスター発表
  • 三井 悠輔, 三谷 諒
    p. 20-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】週2-3回、8週間以上のパーソナルトレーニングは、レジスタンスト レーニングを通じて睡眠の質を改善できる可能性が高い。特に夏場は暑さや湿度の影響で 睡眠の質が低下しやすい。トレーニング中は、冷房や空調管理を徹底し、適切な水分補給 を推奨する。自宅でも寝室の温度管理や通気を良くするためのアドバイスを行い、睡眠環 境の整備をサポートすることが望ましい。また、クライアントの睡眠の質を定期的に評価 し、トレーニングによる変化をフィードバックすることが望ましく、個別の改善点や次の ステップを提案することで、より効果的に睡眠の質向上を促すことができると考えられる。 【背景】現代社会において、睡眠の質は多くの人々にとって重要な健康課題であり、当フィ ットネスジムでも、睡眠の質改善を切実に求める会員は少なくない。Kovacevicら(2018) は、最近のシステマティックレビューにおいてレジスタンストレーニングが睡眠の質を向 上させると報告している。そこで、当ジムが提供するレジスタンス運動を含むパーソナル トレー二ングが当ジム会員の睡眠の質改善に寄与しているかを調査することを目的とした。 【方法】当ジムの会員14名(男性6名、女性8名)を対象とし、全員が週1-2回レジスタンス運 動を実施した。対象者は入会時と、入会から4週間以上経過時にピッツバーグ睡眠質問票日本 語版(PSQI-J)に回答した。PSQI-Jから算出されるスコアを睡眠の質の指標とした。入会時と再 計測時のPSQI-Jスコアの変化を評価するために、対応のあるt検定を実施した。p 値が0.05未満 を有意とした。 【結果】PSQI-Jスコアの平均値は、入会時が7.76 (標準偏差[SD]: 4.64)、再計測時が7.76(SD: 3.84)であった。入会時と再計測時のPSQI-Jスコアの差は統計的に有意ではなかった(p > 0.05)。 【考察】当ジムが提供するパーソナルトレーニングによる睡眠の質改善は見られなかった。 これは、レジスタンストレーニングにより睡眠の質改善を報告した先行研究(Kovacevicら、 2018)の結果とは一致しておらず、2つの理由が考えられる。1つ目に、対象者のトレーニング 量が不十分であった可能性がある。Kovacevicらのメタ解析では、採用された文献のほとんど (10文献中7件)が週に3回のレジスタンス運動を行い、8週間以上の介入を行っていた。2つ目に、 本研究における再測定は全て夏付近(7-9月)に行われたことである。Liら(2021)は、暑い 季節に睡眠の質が悪化することを報告しており、本研究で実施したトレーニングによる睡眠の 質改善を相殺していた可能性がある。今後は、睡眠の質を経時的に評価し、トレーニング量や 季節の影響を詳細に検討していく必要がある。
  • 三谷 諒, 三井 悠輔
    p. 21-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】パーソナルジムの高齢クライアントにはバランス能力が低い方が多く見 られ、若年層にも同様にバランス能力が課題となるケースがある。閉眼片足立ちテストは簡便 ながらバランス能力を有効に評価できる手法であり、特に姿勢保持時間の成績が高い人と低い 人ではっきりとしやすい。そのため、クライアントのバランス能力を把握するための手段とし て適している。定期的にこのテストを実施することで、バランス能力向上を目指したトレーニ ングプログラムの効果を評価し、必要な介入や指導内容の改善に役立てることができると考え られる。 【背景】加齢に伴うバランス能力の低下は高齢者の転倒リスクを高めることが知られている (Konrad et al., Laryngoscope ., 1999)。転倒による骨折は要支援・要介護状態を招くことが 多く、バランス能力の改善が非常に重要と考えられる。近年では高齢者層のスポーツ・健康志 向の高まりもあり(経済産業省、2014)、当ジムの会員も3割以上を高齢者が占めている。また、 当ジムでは初回体験時に閉眼片足立ちテストを実施して、会員のバランス能力を測定している。 そこで、会員のバランス能力と年齢の関係を調査した。 【方法】当ジムの会員47名(男性17名、女性30名)を対象に、初回体験時に閉眼片足立ちテス トを実施した。対象者は利き足で片足立ちとなり、その姿勢保持時間を記録した。テスト中に 目を開けた場合、軸足の位置を変えた場合、軸足と反対の足を地面に接地した場合、手が壁や 地面に接地した場合に終了とした。記録した姿勢保持時間を用いて年齢との相関関係を分析し た。p < 0.05を有意水準とした。 【結果】閉眼片足立ちテストの平均姿勢保持 時間は、17.3秒(標準偏差:22.7)であった。 また、姿勢保持時間と会員の年齢との間に は有意な負の相関関係が認められた(図)。 【考察】本調査では、当ジム会員において年 齢が高くなるにつれてバランス能力が低下 することが示唆された。これは、閉眼片足 立ちテストの姿勢保持時間が年齢とともに 減少するという報告(厚生労働省、2022) を支持する結果であった。一方で、20代か ら50代においては、バランス能力の成績に ばらつきが見られた。これには、日常生活 での運動量(Zhu et al., Int J Environ Res Public Health . 2021)や過去の運動歴が影響し ている可能性が考えられるが、当ジム会員においては追加の検討が必要である。
  • 有賀 雅史, 澤田 友紀
    p. 22-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】本研究は、ボデイメイクにおける適正な計画的減量法、筋力トレーニン グ法のケーススタディであり、競技と健康的な日常生活との両立についての有意義な情報であ る。 背景:現在、筋力トレーニングの愛好者が若年男性では人口の20%を超えると言われているが、 筋肥大や減量についての科学的検証は少ない。本研究は健康的なボデイメイクを実践検証する ためのケーススタディである。 トレーニング指導の目的:ベストボデイ競技者の身体組成と競技成績の10年間の経緯と検証は、 今後のトレーニング指導の参考例となる。 対象者または対象チーム:筋力トレーニング歴30年以上で過去10年間定期的にベストボデイ競 技会に出場中の現在46歳の健康な男性を対象とした。 方法・期間:2015年から2024年の期間の身体組成、食事記録、筋力トレーニング記録、競技会 での成績を検証した。筋力トレーニングは、競技会に合わせピーキングやテーパリングを考慮 し実施した。主なトレーニング方法は、部位別(肩、腕、胸、背中、下肢)の分割法により計 画し実行した。 測定方法及び分析方法:体重測定および食事記録は毎日実施し、生体インピーダンス法による 身体組成(脂肪量、除脂肪体重など)は定期的にほぼ同時刻に測定記録した。記録競技会の成 績と比較した。また、トレーニング記録はトレーニング量として記録した。各測定値は、期間 ごとに平均値によりその経緯を判定した。 結果:10年間で16回の競技会に出場したが、体脂肪率が6%を境に競技成績の優劣が決定する ようである。近年の競技会では体重が60kg未満、体脂肪率が5〜6%程度のコンデイションが主 観的達成度と実際の成績に合致していた。 考察:本研究の対象者は、10年間にわたり試行錯誤を行い、適正な減量計画(食事摂取量と身 体組成との関係を観察し、摂取エネルギー量と消費エネルギー量の増減の調節と栄養バランス 確認、過度な減量を実施せず体重のリバウンド現象を予防)及びと筋力トレーニングの継続に よるベストボデイ競技において着実に順位を上げ成果を達成してきた。ベストボディでは、絶 対的な筋肉量や身体組成の適正な管理のみだけでなく、審美的ボディバランスやポージング(魅 せ方)の精度も重要であり、これらが競技成績に影響する。  本研究の結果は、ボデイメイクを目指す愛好者や競技者の参考となることが推察される。
  • 中村 大輝
    p. 23-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】トレーニングや競技に関する知識を、周囲の友人や知人に聞いたり YouTubeなどの長尺動画を見て得る学生選手が多いため、学生選手のトレーニングや競技に関 するリテラシーを高めていくような取り組みが必要であると考える。また、学生選手がパーソ ナルトレーナーを選ぶ基準はパーソナルトレーナー自身の競技成績が最も重要視されているこ とから、保有資格や安全面などの重要性も伝えていく必要があると考える。 【目的】学生ボディビル・フィジーク選手がトレーニングや競技に関する知識をどのように得 ているのか、またトレーニング指導者(パーソナルトレーナー)に何を望んでいるのかを明ら かにすることを目的とした。 【方法】学生ボディビル・フィジーク選手権大会に出場した選手12名(年齢20.5±2.25才)を 対象に、Googleフォームにてアンケートを実施した。トレーニングや競技に関する知識をどの ように得ているのかという設問については、10個の選択肢を用意し複数回答可とした。トレー ニング指導者(パーソナルトレーナー)を選べるとしたら何を基準に選ぶかという設問につい ては、11個の選択肢を用意し複数回答可とした。 【結果】トレーニングや競技に関する知識をどのように得ているかとの設問に対し、「友人や知 人など周囲の人に聞く」と「YouTubeなどの長尺動画を見る」という回答が最も多かった(12 名中7名)。トレーニング指導者(パーソナルトレーナー)を選べるとしたら何を基準に選ぶか という設問に対し、トレーニング指導者(パーソナルトレーナー)自身の競技実績という回答 が最も多かった(12名中8名)。 【考察】トレーニングや競技に関する知識を、自身の身近な人物から聞いて得る選手が多いため、 選手がトレーニングや競技関連で関わっている人達によって知識に差がでる可能性がある。ま た、YouTubeなどの長尺動画を見て知識を得るという選手も多いため、誰の動画をよく見るか・ 何系の動画をよく見るかなどで知識に差がでる可能性がある。トレーニング指導者(パーソナ ルトレーナー)を選ぶ基準に関しては、トレーニング指導者自身の競技実績を重要視している 選手が多いため、選手はボディビル・フィジーク競技の競技力向上のために、競技者でかつ実 績を残している人物から学ぶことを望んでいると考えられる。
  • 井川 貴裕
    p. 24-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】幼児期においてサッカーを実施することで疾走能力と方向転換能力が向 上する可能性が示唆された。また、平日および休日の外遊び時間が運動能力に影響しているこ とから、幼児の運動能力を向上させるためには、保護者に対する外遊びの重要性を伝え外遊び 時間の増加や、サッカーに含まれる様々な運動(走る、止まる、反応するなど)を含めた遊びを 日常的に取り入れる必要がある。さらに、敏捷性を高めるためには日常の遊びだけでなく人や 物に対して反応をする遊びを実施する必要が考えられる。 【目的】幼児期は様々な運動を経験することにより運動能力が向上することが報告されている。 本研究は、習い事や平日および休日における家庭での外遊び時間が運動能力にどのような影響 を及ぼしているのかを検証することを目的とした。 【方法】測定環境:S幼稚園プレイルーム(室内) 測定参加者:年中クラスに所属する4歳児23名 (身長107.8±4.3㎝、体重18.0±2.8㎏)測定方法:疾走能力として10m走(Witty光電管)、方 向転換能力としてプロアジリティ2.5m法(Witty光電管)、敏捷性として4センサーアジリティ (REAXION)の測定を行った。幼児が実施している習い事および家庭での外遊び時間(平日、休 日)にいて、保護者を対象としたアンケートを実施した。 統計解析:運動系習い事(サッカー群5名、体育教室群6名および非運動群7名)、平日および休 日の外遊び時間(平日:40分以上群8名および40分未満群15名、休日:61分以上群11名および 60分以下群12名)で群分けを行った。運動系の習い事は一元配置分散分析、外遊び時間は対応 の無いt検定を用いて運動能力の比較を行った。統計的有意水準は全て5%未満とした。 【結果】習い事においてサッカー群は他の群よりも10m走が有意に速かった (p<0.05)。ま た、プロアジリティ2.5m法においてサッカー群は非運動群よりも有意に速い傾向が認められた (p=0.069)。平日の外遊び時間において40分以上群は40分未満群に比べて10m走およびプロアジ リティ2.5m法が有意に速かった (p<0.05)。休日の外遊び時間において、61分以上群は60分以 下群に比べて10m走が有意に速かった(p<0.05)。4センサーアジリティにおいてはいずれも有 意な差は認められなかった。 【考察】幼稚園での遊び以外で習い事や一定時間以上の外遊びを実施することで幼児期の疾走 能力および方向転換能力が向上する可能性が示唆された。敏捷性を向上させるためには、方向 転換能力だけでなく認知知覚要因が含まれるため、これらを含めた運動遊びの環境設定や種類 の選択が必要になると考えられる。本研究において、年中クラスに限定しており、外遊びの種 目や運動環境について調査していないため、更なる検討が必要である。
  • 片山 昭彦, 好岡 郁弥, 安部 武矩
    p. 25-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【トレーニング現場へのアイデア】幼児期・児童期は、神経系機能が著しく発達し、動作の習 得および動作の質の向上に適した時期である。しかしながら、運動の基礎となる走動作指導の 現場においては、計測タイムなど、簡易に得ることができるデータのみを用いた量的評価が一 般的である。走動作の質を客観的に評価するためには、指導者としての専門的な観察眼が必要 となる。スマートフォン等を用いた動画撮影とAI姿勢推定エンジンを用いた簡易なシステムに より、質的な走動作のフィードバックが可能となれば、現場での指導に、動作の質という「具 体性」をプラスすることが可能となる。今回の検証は、計測タイムではなく、瞬間スピード(以 下スプリントスピード)にて、解析を実施した。 【目的】幼児期・児童期の子どもたちのスプリント走動作に関して、簡易なAI動作評価システ ムを活用した質的動作指導の有効性について検討する。 【方法】幼児期・児童期の子どもたちの走動作を側面から動画撮影し、AI姿勢推定エンジンを 用いて動作解析した。動作解析時に評価すべきスプリント動作評価ポイントは、日本スポーツ 協会による児童の運動指導関係資料、および先行研究を参考に検討した。本研究において使用 した評価ポイントは、できる限りシンプルな状態で現場指導にフィードバックするために、指 導ポイント数をできるだけ絞った。「姿勢」「両膝間の距離」「後方膝角度」「股関節角度」「腕 の振り」以上5項目に限定した。スプリント走能力を評価するアウトカムとなるスプリント走 パフォーマンス値は、スプリントスピードとした。本研究に用いたスプリント動作撮影機材 については、現場での活用、設定が容易であることと撮影機材の汎用性を前提として、三脚 を用いたスマートフォン1台による撮影とした。姿勢推定AIエンジンは、Vision pose (NEXTSYSTEM Co) を使用した。 【結果】幼児期・児童期190名(月齢: 109.6 ± 20.6、女性: 26.3%)のデータを解析した。ス プリントスピードを目的変数とし、性別、月齢、身長および5項目の指導ポイント値を説明変 数として、重回帰分析により検討した。性別、月齢、身長により調整した結果、「姿勢」(β = 0.16, p < 0.01)、「両膝間の距離」(β = 0.14, p = 0.01)、「後方膝角度」(β = -0.24, p < 0.01)、「股関節角度」(β = -0.13, p = 0.02)、以上4項目が重要な決定因子となった(R2 = 0.59)。 【考察】幼児期・児童期のスプリント動作指導において、動作解析により特定の指導ポイントと、 スプリントスピードの関連が示唆された。簡易なAI動作評価システムを用いた幼児期・児童期 の指導において、質的なスプリント動作指導の有効性が示唆された。
  • 玉置 昭平, 南 照美, 角谷 裕之, 三宅 加奈子, 脇本 敏裕, 濱田 大幹, 杉本 研
    p. 26-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】サルコペニア・フレイルの改善症例から、高齢者に対するトレーニング 指導のアイデアを提言する。医療機関と連携し、限られた器材の環境でも実施でき、日常生活 にも反映できた内容を述べる。また、効果的な指導の為のアウトライン作成にも役立てたい。 背景:サルコペニア・フレイル状態の高齢者に対するトレーニングは、疾患、認知機能、意欲、 疼痛、栄養状態などを考慮する必要性が高い。それらを包括的に配慮しながら実施し、効果を 検討した。 トレーニング指導の目的:重症サルコペニア・フレイル状態の改善を目的とした。 対象者または対象チーム:80歳代男性、BMI:18.2kg/m2、SMI:6.46kg/m2、握力:右23.8kg左 27kg、4m快適歩行速度:0.58m/秒、下腿周囲径:右30cm左30cm 、5回立ち上がり:27.69秒、顔面 神経麻痺に関する入院をきっかけにコンディション悪化(重症サルコペニア)。J-CHS5/5によ りフレイルと診断されていた。 方法・期間:呼吸及びストレッチ、低強度トレーニング(仰臥位)、立位コーディネーション 及び筋力トレーニング、栄養指導を実施した。週1回各50分とし、約4か月間実施した。リラッ クスできる内容から開始し、主に自重を用いた動作制御トレーニング、ボール及びミニハード ルなどを用いたコーディネーショントレーニングと多様な内容を実施した。 測定環境:医療機関併設の運動施設(名称:フレイルセンター)にて測定を行った。 測定手順及び分析方法:ヒアリング→下腿周囲径→握力→片脚立位→5回立ち上がり→4m快適 歩行速度→体組成の順に測定した。体組成の測定にはTANITAマルチ周波数体組成計MC-780A-N を用いた。 結果:SMI:6.46→7.4kg/m2、握力:右23.8→24.2kg左27→27.5kg、4m快適歩行速度:0.58→1m/秒、 下腿周囲径:右30→32cm左30→31.5cm、5回立ち上がり:27.69→14.3秒であり、サルコペニア非 該当となった。グランドゴルフ再開、趣味である写真撮影による社会参加が見られている。 考察:対象者の状況に合わせ、包括的なトレーニングアプローチを実施する事は重症サルコペ ニア・フレイルに対して有効であることが分かった。多様なプログラム設定により、日常生活 に反映できる工夫をすることで、趣味活動及び社会活動参加の促しにもなると考えられ、それ らがより一層トレーニング効果を高めると考えられる。こういった症例の蓄積により、高齢者 に対するトレーニング指導のスタンダード構築の一助としたい。
  • 山本 隼年, 宮﨑 善幸, 鈴木 貴士, 岩井 優, 辰見 康剛
    p. 27-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/12
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】プレオーバーロード期間を通して過負荷を与えた後に、2週間のテーパリ ング(強度:維持、量:40~50%低減、頻度:維持)を行うことは、球技系アスリートが試合 に向けてコンディションを向上させる際に有用であった。 背景:ピーキングに関する実践研究は、陸上や水泳などの個人種目のアスリートを中心に行わ れており、ラグビーをはじめとした球技を対象とした報告は少ない。また、スポーツ現場での 実際のピーキングの実践例が報告されることもない。一方、これらのデータが報告されること は、スポーツ現場で活動しているS&Cコーチやトレーナーがピーキングの計画を立てる際に一 つの知見となるため有益であり、報告することには高い意義があると考える。 実践報告の目的:エリート女子ラグビー選手におけるパリ五輪2024に向けてのピーキングの戦 略とその結果を提示することを目的とする。 対象者:対象者は、パリ五輪2024ラグビー女子7人制日本代表選手12名とバックアップ選手2名 の計14名(25.5±3.9歳、163.1±4.6cm、63.4±4.6kg)とした。 測定手順及び分析方法:本報告は五輪8週前から試合当日までの間に行われた全てのフィール ドセッションのトレーニング負荷を報告する。この期間中は、プレオーバーロード期間(PO期間) を経た後にテーパリング期間を2週間行い試合に臨む計画とした。テーパリング期間中のトレ ーニング負荷は、GPSデバイス(Vector S7、Catapult社)によって計測した。トレーニング強 度は①平均移動速度(m)、②最高速度(m/s)、トレーニング量は①High speed running(HSR、m) によって管理した。対象者のコンディションは、主観的コンディション(疲労度、メンタル面 など)により評価した。テーパリングの戦略は先行研究に基づき立案した。 結果:テーパリングの戦略は、PO期間に対して強度と頻度を維持し、量を45%低減させる計画 とした。HSRは、PO期間が7500mの計画に対して7566±321m(101%)と計画通りの負荷管理を 行うことができた。テーパリング期間はPO期間に対して45%減の4050mの計画に対して5025± 213m(124%)とトレーニング量が多くなった。コンディションを示す変数(主観的疲労度) は、テーパリング開始日をベースラインとした際に試合当日は67%増と有意に高い値を示した (F13,169=10.12、p<0.01、ESf =0.88)。また試合当日のデータはテーパリング期間中で最も高値 を示した。 考察:本報告では、ピーキング戦略やトレーニング負荷を示す変数の選択について、その意思 決定を行った理由を具体的に提示し、実際のトレーニング負荷の結果を示した。対象者のコン ディションが五輪の試合当日に最も高値を示しており、ハイパフォーマンスの発揮に向けたピ ーキング戦略の有用性が裏付けられた。
  • 山﨑 和也, 池田 克也, 白木 駿佑, 田中 修二, 西川 直人, 秋元 萌子, 山岸 卓樹, 山下 大地
    p. 28-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/12
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】最大有酸素性パワーと最大無酸素性パワーの絶対値だけでなく、それら の差分であるAnaerobic Power Reserve(APR)を分析することで、選手の体力特性を把握するこ とに繋がり、APRを考慮することで各選手の長所や短所に着目した高強度インターバルトレー ニング(HIIT)処方に繋がる。一方で、APRを把握することはトレーニング強度調整に役立つが、 APRは個人内で変化し得るため、実際のトレーニング処方時には選手のトレーニング状況やコ ンディション等を考慮する必要がある。 【背景】HIIT処方では各選手の体力特性評価を基にトレーニング変数調整を行うが、最大有酸 素性パワーを超える強度でのHIITは、無酸素性代謝も強く動員されるため適切な強度設定が難 しい。近年、APRを基にトレーニング処方を行うことで、個人に最適化した負荷設定に繋がる ことが言及されているが、APRの競技種目別の傾向やAPRに基づきトレーニング処方した事例の 報告は少ない。そこで、本報告の目的は、エリート選手における競技種目別のAPRの分布を明 らかにし、競技・種目・男女間の違いや特徴を示すこと、APRに着目したトレーニング処方の 実際について報告することとした。 【方法】当施設で測定を行ったエリート選手63名(男性30名、女性33名)を対象にし、競技種 目ごとに持久系、水辺系、球技系、格闘技系、スキー・スノーボード、審美系・その他に分類 した。漸増負荷テストと6秒全力ペダリングテストを同日に実施し,体重あたりの最大有酸素 性パワー(MMP)と体重あたりの最大無酸素性パワー(6sMP)をそれぞれ測定し、APR(6sMPと MMPの差分)を6sMPで除してPercent Anaerobic Power Reserve (%APR)を算出した。得られたデ ータは種目及び性別ごとに記述統計した。 【結果・考察】%APRは、男性では68.5±7.5%(MMP:4.6±0.6W/kg, 6sMP:14.8±1.9W/kg)で、そ の他(n=2, 陸上混成選手)が最も高く(75.8±1.8%, MMP:4.1±0.1W/kg, 6sMP: 16.9±1.7W/ kg)、持久系選手(n=1)が最も低い値(38.6%,MMP:6.6W/kg,6sMP:10.7W/kg)を示した。女性では 64.3±4.8%(MMP:3.9±0.5W/kg, 6sMP:11.0±1.5W/kg)で、その他(n=2, 陸上混成選手,BMX)が 最も高く(71.3±3.0%, MMP:3.6±0.6W/kg, 6sMP:12.4±0.8W/kg)、審美系選手(54.0±4.7%, MMP:3.5± 0.2W/kg, 6sMP:7.7±0.3W/kg)が最も低かった。持久系・審美系選手では%APRが低 い傾向にあり、高いパワー発揮やスピードが重要な競技では男女とも%APRが高い傾向が見られ た。各競技が要求する体力特性を反映していると考えられ、各競技種目での目標値を設定でき る可能性があるため、引き続き検証が必要である。一方、同じ競技種目内でも個人の特性によ り%APRは異なり、個人内でもトレーニング状況により%APRが変化することがあり、適宜強度や プログラムを調整していくことが必要である。当日の報告では格闘技系・スキー・スノーボー ド種目選手の事例を取り上げる。
  • 松森 史晃, 平良 怜南, 砂川 力也
    p. 29-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/12
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】クラスターセット(CS)によるスクワット(SQ)運動では、1セット当た りの反復回数を少なくすることによって、高い速度での挙上を維持しながらトレーニングをす ることが可能になる。よって、速度優位のパワー向上を目的とする場合には、セットレストを 短縮しても少ない反復回数のCS戦略が有効となる。 【目的】CSでの休息再配分法は同一のワークアウト時間内において速度低下を抑制できる可能 性がある。本研究は、CS における休息再配分法の違いがスクワット運動での挙上速度に与え る影響について検討することを目的とした。 【方法】実験環境:研究機関のトレーニング室(2024年8~11月)実験参加者:運動習慣を有 する健常な男性8名(年齢:20.8±2.0歳、身長:172.3±3.3cm、体重:72.4±11.7kg、 SQ1RM: 123.8±18kg、SQ1RM/BW:1.7±0.1)とした。測定方法:事前に身体組成、SQ 1RMを測定した。 試技は挙上速度を基準に0.65~0.75m/sに対応する重量に統一し、反復回数およびセット数の 異なる6条件(12×2、8×3、6×4、4×6、3×8、2×12)とした。これらの条件は、セット間 の休息合計時間が500秒となるようにセット数によって休息時間を再配分した。試技中はリニ アポジショントランスデューサーを用いてパラメータを記録し、各セット終了直後に自覚的疲 労度(RPE)を聴取した。これらの試技は、ランダムかつ別日にて行い、試技の間隔は少なく とも48時間以上とした。統計解析:各条件の速度変化、RPEおよび速度域に対する反復回数の 差については、1要因の分散分析を用い、最初と最終挙上の速度の差については2要因の分散分 析を用いて検討した。 【結果】CS条件の1回目の挙上に対する速度変化は、12×2が6回目以降、8×3が4回目以降、6×4、 4×6が3回目以降、3×8、2×12が2回目以降に有意に低下した。最終挙上の速度を比較すると 12×2、6×4より4×6、3×8、2×12は有意に高く、8×3より3×8、2×12は有意に高い値であ った。速度域に対する反復回数では、速い速度域では、12×2、8×3、6×4より3×8、2×12が 有意に多く、中程度の速度域では12×2、8×3、6×4より2×12が有意に少なく、遅い速度域では、 12×2、3×8より3×8、2×12が有意に少なかった。RPEの比較では、1セットに対して、12×2、 8×3は2セット目以降、6×4、4×6では3セット目以降、3×8では4セット目以降、2×12では6 セット目以降に有意に上昇した。RPEは、最終セット後において条件間の差は無く、1セット目 終了では12×2は6×4、4×6、3×8、2×12より有意に高く、8×3、6×4は3×8、2×12より有 意に高い値を示した。 【考察】CS条件における4×6、3×8および2×12は1レップ目に対する最終レップ速度低下率が 小さくなることが考えられる。また、高速度域の反復回数では少ない反復回数のCS条において 多く挙上していることが明らかになった。このことからセットレストを短縮しても速度低下の 影響は少なくなると考えられる。
  • 小林 幸次, 長畑 芳仁
    p. 30-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/12
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】低頻度および短時間でのVelocity Based Training (VBT)の実施によって スクワットの挙上速度の向上が確認された。このことから、トレーニングの頻度や時間が限ら れているトレーニング現場においてVBTを取り入れることが有効であると考えられる。また、 VBTでは、挙上速度を数値として捉えることができるため、トレーニングに対するモチベーシ ョンの維持向上のツールとしても活用を推奨する。ただし、挙上速度を意識するがあまりにス クワットの深さが浅くなる傾向があるため、予め、スクワット時の最低移動距離を定めておく などの対策をとるべきである。 背景:VBTが筋力やパフォーマンスの向上に有効であることが示されているものの、VBTデバイ スを用いたトレーニングサポートの実践報告は少ない。今後、トレーニング現場で行われてい るVBTの効果や課題に関する知見を蓄積する必要がある。 トレーニング指導の目的:集団スポーツ現場におけるVBTの効果や課題について報告すること にした。 対象者または対象チーム:対象者は大学ラグビー関東リーグ戦1部に所属する大学男子ラグビ ー選手93名であった。 方法・期間:VBTは大学のトレーニングルームで実施した。種目はスクワットであり、週に1回 の頻度で実施した。挙上速度の計測には、VITRUVEを2台使用した。トレーニングは3つのグル ープ(1グループ約30人)に分けて実施した。メインセットの重量は、挙上速度が0.5m/s と なる重量で3レップ1セット実施し、3レップとも0.5m/sを超えた場合、次回のセッションでは 10kg重量を追加した。指導者の管理の下、100kgでのスクワット時の挙上速度の計測を5月、6月、 10月に実施した。期間は2024年の4月から10月であった。また、VBTの効果や課題については指 導者から聞き取り調査を行なった。 測定環境:対象者が所属する大学トレーニングルーム 測定手順及び分析方法:VITRUVEを使用し、100kgのスクワットの挙上速度を計測した。5月、6 月、10月の測定値の比較には、対応のある一元配置分散分析を用いた。 結果:スクワットの挙上速度は、5月(0.78±0.14 m/s)および6月(0.80±0.14m/s)よりも 10月(0.86±0.13m/s)の方が有意に高値を示していた(p<0.05)。対象者の多くはスクワット の挙上速度の更新を目標にトレーニングに励んでいた。一方、挙上速度に意識が向くことでス クワットの深さが浅くなってしまう対象者が存在した。 考察:100kgのスクワットの挙上速度が向上していたため、週に1度のVBTでも筋力を向上させ る効果があることが予想された。ただし、スクワットの深さが浅くなってしまう傾向が見受け られたため、浅くならないための対策を講じる必要がある。
  • 有賀 誠司, 藤井 壮浩, 小澤 翔
    p. 31-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/12
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】本報告では、女子バレーボール選手を対象に、両足及び左右の片足によ るリバウンドジャンプ指数(以降RJ-index)を測定し、片足測定値の両足測定値に対する割合 (以降片足両足比と呼ぶ)の算出を試みた。その結果、身長や体重、ポジションやスクワット 1RMとの有意な相関が認められた。今後、RJ-indexの片足両足比は、トレーニング現場において、 両足によるエクササイズと片足によるエクササイズの強度や量の配分を検討する際などに、有 用な指標として活用できる可能性があると考えられる。 背景と目的:バレーボール競技において、片足にてパワーを発揮する局面は、スパイク、レシ ーブ、水平方向への移動からの急激な停止や方向転換などにみられ、垂直方向への両足ジャン プなどにみられる両側性の動作と比較すると、より多様な局面において高頻度で観察される。 バレーボール選手の下肢機能の測定評価を行う際には、両側性の動作だけでなく、片側性の動 作についても考慮することが必要であろう。本報告では、女子バレーボール選手を対象に、両 足と左右の片足によるRJ-indexを測定するとともに、その片足両足比を算出し、その特性につ いて明らかにすることを目的とした。 対象者または対象チーム:対象は、全日本学生選手権における優勝実績を有するT大学バレー ボール部に所属する女子選手36名であり、ポジションによってアタッカー群21名とセッター・ レシーバー群15名の2群に分けた。 測定環境:測定は通常トレーニングを実施している施設内にて実施した。 測定手順及び分析方法:測定項目は、垂直跳と助走付垂直跳の跳躍高、スクワット1RM、両足 および左右の片脚によるリバウンドジャンプ指数であった。 結果と考察:測定を実施したところ、以下の結果を得た。 1) RJ-indexの片足両足比は、左0.32±0.06、右0.32±0.06であった。 2) 片足RJ-indexと身長及び体重との間には有意な負の相関が認められた。 3) ポジション別のRJ-indexの片足両足比は、左右ともにセッター・レシーバー群がアタッカ ー群よりも有意に高い値を示し、要因として身長及び体重の影響が関与している可能性が示唆 された。 4) RJ-indexの片足両足比とスクワット1RM体重比との間に有意な正の相関が認められた。 以上のことから、片足によるRJ-indexや片足両足比の数値には、形態やポジション特性、両足 によるスクワットの挙上能力が影響している可能性が示唆された。本報告の結果のメカニズム や競技特性との関係性の解明に向けては、利き手やプレースタイル、競技レベルとの関係につ いても検討を重ねることが必要であろう。
  • 物部 将大
    p. 32-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/12
    会議録・要旨集 オープンアクセス
    【現場へのアイデア】部活動指導において、競技練習のみならずスプリントドリルを実施する ことで、盗塁時間短縮に繋がることが示唆された。ドリルを用いる場合は、タイムだけではな く、ストライド及びピッチのどちらにトレーニング効果が生じているのかを把握する必要があ る。盗塁走などを実際に撮影し、個々の特徴を理解することでスプリントドリル導入によるト レーニング効果を高められる可能性が考えられる。走りやトレーニング時は正しい姿勢、強度 など様々な調整が必要であり、動画撮影などを通して、ストライドやピッチといった内容をフ ィードバックできる環境にてトレーニングを実施していくことが重要である。 背景:盗塁成功率向上により、得点できる可能性が高まることから、陸上短距離種目に用いら れるトレーニングが効果的であると考えた。 目的:スプリントドリル導入によって盗塁局面にもたらす効果について明らかにすること。 対象者:Ⅰ県立KS高等学校硬式野球部に所属する高校1年生11名(身長:172.6±4.5cm、体重: 65.3±5.9kg、競技歴:7.2±1.7年) であり、陸上経験を有する者はいなかった。 方法・期間:週4回スプリントドリルを3週間実施した。実施内容は、①30mごとにピッチ及び ストライドを意識させる120m変換走②片足ハイ二―(ミニハードル)③ラダーとし、3週間同 じ内容で実施した。 測定環境:Ⅰ県立KS高等学校野球場。 測定手順及び分析方法:トレーニング介入前後(pre、post)に一塁から二塁への盗塁走を行わ せた際の動画を高速度カメラ(JVC社製、GC-LJ25B)で撮影した。リードは一塁ベースから3.3m に統一した。被験者は投球動作に反応してスタートし、スライディングで二塁まで進塁した。 動画上のタイムコードを利用し、リアクションから二塁到達までのタイムを求めた。被験者は 2試技行い、到達タイムが短かったものを分析対象とし、平均速度、ストライド及びピッチを 求めた。トレーニング前後における到達タイム、各被験者の1歩ごとのストライド及びピッチ の比較は対応のあるt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。 結果: 盗塁走においてpost(4.03±0.10秒)はpre(4.12±0.10秒)に比べて有意に速かった (p<0.05)。2名はストライドが有意に減少し(p<0.05)、ピッチについては1名のみ有意に増加し た(p<0.05)。平均速度においてはドリル介入前後で有意な差はみられなかったものの、各被験 者内の比較では1名有意に減少し(p<0.05)、1名有意に増加した(p<0.05)。 考察:スプリントドリル導入によって、二塁到達タイムが短くなったことから、有効なトレー ニングであると考えられる。しかし、ストライド及びピッチについては、被験者ごとに異なる 結果となったが、全体を通してピッチの向上がみられたことから、ドリル導入がピッチに与え る影響が大きいと推察される。到達タイム短縮により、ドリル導入によってリアクションから スライディングまでの盗塁局面全体に作用した可能性が考えられる。
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