【現場へのアイデア】最大有酸素性パワーと最大無酸素性パワーの絶対値だけでなく、それら
の差分であるAnaerobic Power Reserve(APR)を分析することで、選手の体力特性を把握するこ
とに繋がり、APRを考慮することで各選手の長所や短所に着目した高強度インターバルトレー
ニング(HIIT)処方に繋がる。一方で、APRを把握することはトレーニング強度調整に役立つが、
APRは個人内で変化し得るため、実際のトレーニング処方時には選手のトレーニング状況やコ
ンディション等を考慮する必要がある。
【背景】HIIT処方では各選手の体力特性評価を基にトレーニング変数調整を行うが、最大有酸
素性パワーを超える強度でのHIITは、無酸素性代謝も強く動員されるため適切な強度設定が難
しい。近年、APRを基にトレーニング処方を行うことで、個人に最適化した負荷設定に繋がる
ことが言及されているが、APRの競技種目別の傾向やAPRに基づきトレーニング処方した事例の
報告は少ない。そこで、本報告の目的は、エリート選手における競技種目別のAPRの分布を明
らかにし、競技・種目・男女間の違いや特徴を示すこと、APRに着目したトレーニング処方の
実際について報告することとした。
【方法】当施設で測定を行ったエリート選手63名(男性30名、女性33名)を対象にし、競技種
目ごとに持久系、水辺系、球技系、格闘技系、スキー・スノーボード、審美系・その他に分類
した。漸増負荷テストと6秒全力ペダリングテストを同日に実施し,体重あたりの最大有酸素
性パワー(MMP)と体重あたりの最大無酸素性パワー(6sMP)をそれぞれ測定し、APR(6sMPと
MMPの差分)を6sMPで除してPercent Anaerobic Power Reserve (%APR)を算出した。得られたデ
ータは種目及び性別ごとに記述統計した。
【結果・考察】%APRは、男性では68.5±7.5%(MMP:4.6±0.6W/kg, 6sMP:14.8±1.9W/kg)で、そ
の他(n=2, 陸上混成選手)が最も高く(75.8±1.8%, MMP:4.1±0.1W/kg, 6sMP: 16.9±1.7W/
kg)、持久系選手(n=1)が最も低い値(38.6%,MMP:6.6W/kg,6sMP:10.7W/kg)を示した。女性では
64.3±4.8%(MMP:3.9±0.5W/kg, 6sMP:11.0±1.5W/kg)で、その他(n=2, 陸上混成選手,BMX)が
最も高く(71.3±3.0%, MMP:3.6±0.6W/kg, 6sMP:12.4±0.8W/kg)、審美系選手(54.0±4.7%,
MMP:3.5± 0.2W/kg, 6sMP:7.7±0.3W/kg)が最も低かった。持久系・審美系選手では%APRが低
い傾向にあり、高いパワー発揮やスピードが重要な競技では男女とも%APRが高い傾向が見られ
た。各競技が要求する体力特性を反映していると考えられ、各競技種目での目標値を設定でき
る可能性があるため、引き続き検証が必要である。一方、同じ競技種目内でも個人の特性によ
り%APRは異なり、個人内でもトレーニング状況により%APRが変化することがあり、適宜強度や
プログラムを調整していくことが必要である。当日の報告では格闘技系・スキー・スノーボー
ド種目選手の事例を取り上げる。
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