千葉県立保健医療大学紀要
Online ISSN : 2433-5533
Print ISSN : 1884-9326
最新号
選択された号の論文の35件中1~35を表示しています
原著
  • 金澤 匠, 細山田 康恵
    2025 年16 巻1 号 p. 1_3-1_11
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究では,卵巣摘出ラットの肝オートファジー活性と血中オートファジー調節因子濃度の変化との関連性及び卵巣摘出が酸化ストレスに及ぼす影響について検討した.

     雌ラットを偽手術群(Group. 1-4でn=3-6)と卵巣摘出群(Group. 1-4でn=3-5)に分けて手術を施し,所定の日数(Group. 1-4: 1,3,7,14日)を経過した段階での肝オートファジー活性マーカー(LC3)や血中オートファジー調節因子(血糖,インスリン,プロゲステロン,コレステロール),酸化ストレスマーカー(d-ROMs)の変化を調べた.

     卵巣摘出群では,プロゲステロンの減少に加えてインスリンやコレステロールの増加が確認され,肝オートファジー活性低下の原因となっていることが示された.しかし,オートファジー調節因子の変化と肝オートファジー活性は必ずしも一致しなかった.さらに,手術後14日(Group. 4)では酸化ストレスの減少も見られたことから,肝オートファジーの低下が生体内酸化ストレスを低下させる可能性が示唆された.

  • ―異常歩行の原因分析に着目して―
    江戸 優裕
    2025 年16 巻1 号 p. 1_13-1_20
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     【目的】本研究は観察による歩行分析において,理学療法学生が異常歩行の原因を正確に推論するための着眼点を見出すことを目的とした.

     【方法】対象は4年次理学療法学生25名であった.対象者は擬似的な異常歩行の動画に対して歩行分析を行い,その内容を自己記入式質問紙に回答した.回答結果から,原因を正しく推論できている回答(正解)とできていない回答(分析不正解)を抽出し,記述内容について計量テキスト分析を行った.

     【結果】対応分析の結果,正解では「足底」「Toe off」「膝関節」等,分析不正解では「体幹」「股関節」「正常」「比較」等の特徴語が抽出された.共起ネットワーク分析の結果,いずれの回答においても「右」「左」「比較」が共起し,分析不正解では「正常」も共起していた.

     【結論】異常歩行の原因を推論するにあたり,左右差や正常との比較も重要と思われるが,4年次学生においては下肢末梢部の運動分析が重要な着眼点であると推論された.

  • 石井 邦子, 川城 由紀子, 川村 紀子, 北川 良子, 山﨑 麻子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_21-1_28
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     研究目的は,熟練看護職の産後抑うつ状態のアセスメントの構造を明らかにすることであった.21名に半構成的面接を行い,質的帰納的分析によりテーマを生成し,テーマの関係性を検討した.

     772のコードから,母親の徴候7テーマと関連因子5テーマが生成された.母親の徴候は,産後うつの予兆である【身体的ニーズの充足困難】と【強い育児不安】,産後うつの症状である【焦燥感の高まり】,【思考・感情の抑制】,【育児意欲の低下】,深刻な産後うつの症状である【自尊感情の低下】と【自殺念慮】であった.関連因子の【母親の特性】,【重要他者との関係】,【周産期の経過】,【子どもへのマイナス影響】,【抑うつスクリーニングの判定】は,母親の徴候と同時進行でアセスメントされた.

     熟練看護職は,産後抑うつ状態の観察ポイントと判断基準を熟知し,母親との信頼関係に基づく継続支援を提供する立場を活かして,巧みにアセスメントを行っていた.

報告
  • 柏木 彩音, 中島 美音, 加瀬 政彦
    2025 年16 巻1 号 p. 1_29-1_34
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究では、生成AIのテキスト分析能力を評価するため,病院や施設のホームページ上にある管理栄養士のインタビュー記事からのインタビュー回答文を,ヒトにより読み取るのに加え,生成AIでも読み取り,両者の結果を比較してみた.これにより,管理栄養士の現状について一定の知見を得られたことに加え,生成AIがインタビュー回答文の文脈の意味をある程度理解し,それを表現したテキストを生成できることが分かった.しかしながら,生成AIはテキストを読み取る際に,その文脈の背後の意味について過剰に推測を進める傾向があり,回答者の意図と異なる理解をしてしまうことがあることも示唆された.

  • 栗田 和紀
    2025 年16 巻1 号 p. 1_35-1_38
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     神奈川県で捕獲されたヒガシニホントカゲPlestiodon finitimusの雌1個体を飼育し,産卵と孵化の様子を観察した.産卵数,産卵した卵を守る行動,孵化までの期間,孵化幼体の大きさなど,本種に関する繁殖特性を初めて詳細に記録した.本種の繁殖生態は,これまで知られている日本のトカゲ属の中では,姉妹種であるニホントカゲに類似していることが示唆された.

  • 工藤 美奈子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_39-1_45
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     保育園の給食関係者を対象に,給食に絵本の料理を取り入れる食育活動の計画や効果の検証,および題材とした絵本や給食の内容について実態を把握することを目的として質問紙調査を実施した.その結果,1園を除く全園で計画的に食育活動を実施していた.約9割の保育園がねらいとした食育目標は,「食べものを話題にする子ども」と「食べたいもの,好きなものが増える子ども」の育成であった.給食を実施した29園中で提供した食べ物の上位は,そら豆18,ホットケーキ7,手作りパン5であった.食育活動の効果として高評価な項目は,「食べ物や給食への興味が広がった」「提供した料理等が苦手な子が食べられた」「家庭で給食が話題になった」の3つであった.食育目標の選択数と食育効果の選択数間で有意な相関がみられた.目標と効果の内容の一致より,給食に絵本の料理を取り入れる食育活動は,ねらいの結果が得られる有効な手段であることが示唆された.

  • ―千葉県を事例として―
    広川 由子, 井上 裕光, 鈴木 亜夕帆, 海老原 泰代, 渡辺 優奈, 岡田 亜紀子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_47-1_55
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本稿は,栄養教諭等の配置の現状と課題を,千葉県を事例として明らかにすることを目的とした.栄養教諭は給食業務だけでなく,子どもの現代的健康課題に対応するという重責を担う.ところが栄養教諭制度創設の際,義務標準法は改善されず,それゆえ現在も栄養教諭と学校栄養職員が併存し,栄養教諭よりも学校栄養職員の配置数が上回る地域が存在する.千葉県もその一つである.このような制度のもと,栄養教諭免許の意義は薄れ,栄養教諭だけでなく学校栄養職員の負担も大きいのではないかと考えられる.そこで,千葉県の現職の栄養教諭等へ質問紙調査を実施し分析した.その結果,栄養教諭への移行を希望する者の意思は継続しており,栄養教諭免許の意義は薄れていないこと,職務への負担感や困りごとについては,栄養教諭・学校栄養職員(免許あり)・学校栄養職員(免許なし)の三群間で比較分析した結果,多くの項目において差は認められず一様に負担感を持つことが示された.複数校掛け持ちに対する負担感は栄養教諭に顕著であった.今後の配置政策への意向については,栄養教諭は,「栄養教諭のみを新規採用する」ことを志向する傾向にあり学校栄養職員とは考えが異なるとみられる.よって,栄養教諭免許の意義は薄れていないものの,現場の負担感は少なくなく,とりわけ栄養教諭の負担は大きいといえる.栄養教諭等の負担軽減のためには国の配置基準の引き上げが肝要である.

  • ―学校給食の調理方式に着目して―
    広川 由子, 井上 裕光, 鈴木 亜夕帆, 海老原 泰代, 渡辺 優奈, 岡田 亜紀子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_57-1_65
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     栄養教諭は学校給食の管理だけでなく,子どもの個別の健康課題に応じるという重責を担うが各校に必置となっていない.これは義務標準法に定める栄養教諭の標準定数が低いためであり,栄養教諭の不足は常態化している.本稿では,公的な調査結果を再集計し経年的変化を素描することで,栄養教諭等の配置の現状と課題を明らかにすることを目的とした.また学校給食の調理方式にも目配りし,栄養教諭の配置率が上がらない要因も追究した.その結果,現行法制度には問題があるにもかかわらず,各自治体は栄養教諭の配置に努力してきたこと,しかしながら栄養教諭の配置率は学校給食の調理方式に影響され限界があることが明らかになった.千葉県を含む学校給食単独実施校が多数存在する自治体には,栄養教諭への移行機会のない市町村費学校栄養職員が多数配置されており,栄養教諭の配置率が低く留まる構造となっている.これに対処するには,栄養教諭等の国の配置基準を改善することが最も効果的である.また,市町村費学校栄養職員に栄養教諭への移行機会を設けるとともに,栄養教諭の新規採用数を増やすことが有効である.

  • 細谷 紀子, 河部 房子, 田口 智恵美, 佐伯 恭子, 木内 千晶, 市原 真穂, 大塚 知子, 大内 美穂子, 春日 広美, 西村 宣子 ...
    2025 年16 巻1 号 p. 1_67-1_75
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,地域包括ケア病棟における看護実践能力向上プログラムを開発することである.

     プログラムは2つのSTEPで構成し,STEP1:患者・家族への支援能力を高める,STEP2:地域包括ケアシステムを維持・発展させる連携調整・マネジメント力を高める,とした.プログラムの概要は,オンデマンド講義,事前学習,集合研修である.千葉県内の中小規模病院の地域包括ケア病棟に勤務する看護師を対象として実施し,評価指標は,満足度,プログラムを今後の看護に活かせるか,等とした.

     研究参加者は15名であり,看護師経験年数は平均14.6年,地域包括ケア病棟経験年数は3.6年であった.「プログラムを今後の看護に活かせるか」について両STEPともに90%以上の参加者が「そう思う」と回答した.両STEPでは他院の看護職との情報交換,STEP1は退院支援事例のディスカッション,STEP2は自組織の退院支援の仕組みや社会資源の強み等を記載する事前学習が高評価であることが示唆された.

  • 細谷 紀子, 山﨑 由佳, 川﨑 由紀, 福田 浩子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_77-1_85
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,地域の健康課題を明確化する力の強化と自己の成長・課題がわかることを意図して改変した中堅前期保健師研修会(以下本研修)の効果検証である.

     令和4年度本研修受講者のうち研究協力に同意を得た者を対象とした.終了後アンケートの自由記述を質的に分析し,保健師の総合的キャリア発達尺度(第2版)の研修前後の評価結果について平均値の差の検定を行った.

     研究参加者は37名であり,事業提案は「概ね」を含め78.4%ができたと回答した.自由記述から【根拠を客観的に提示・説明する能力向上への意欲】【中堅保健師としての意欲の高まり】等を確認した.尺度の評価結果は,合計点,政策及び組織管理と地域保健活動の小計点,26項目中9項目に5%水準で有意差を確認した.

     本研修は,根拠に基づき健康課題を分析し事業を提案する力の獲得と保健師としての成長・アイデンティティの確立において一定の効果があると示唆された.

  • 西村 宣子, 富樫 恵美子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_87-1_94
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,看護師長経験者のセカンドキャリアに関する雇用の実態を明らかにすることである.

     A県内の病院,介護老人保健施設,介護老人福祉施設,訪問看護ステーション合計1,236施設を対象に自記式質問紙調査を実施した(回収率19.7%).定年年齢は多くの施設で60歳(57%)であることから,看護師長経験者が定年後に他の施設で看護管理者としての職位で働く職場が非常に限られていることが明らかとなった.看護師長経験者を雇用している施設は,雇用していない施設より今後の雇用の意向を示す施設が有意に多かった.病院では,看護師長経験者を「貴重な内部資源」と「人材確保」の観点から,継続的な雇用が進められていた.看護管理経験者が不在の施設では,看護師長の役割や能力の理解不足から,雇用に対して消極的な傾向であることが示唆された.看護師長経験者が,セカンドキャリアにおいて効果的に活用されるためには,雇用者がその能力を正しく理解できる仕組みの構築が求められる.

  • 田口 智恵美, 内海 恵美, 三枝 香代子, 大内 美穂子, 大塚 知子, 坂本 明子, 浅井 美千代
    2025 年16 巻1 号 p. 1_95-1_104
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    目的:コロナ禍に看護基礎教育課程を修了し千葉県内に就職した新人看護師が感じた困難を明らかにする.

    方法:2022・2023年度に千葉県内の医療機関に入職した新人看護師が感じた困難を,新人看護職員研修ガイドライン改訂版「基本姿勢と態度」16項目,「技術的側面」70項目,「管理的側面」18項目の合計104項目をMicrosoft Formsで調査した.

    結果:対象者は554名.「患者のニーズを身体・心理・社会的側面から把握する」「人工呼吸器の管理」「死後のケア」「決められた業務を時間内に実施できるよう調整する」「複数の患者の看護ケアの優先度を考えて行動する」の困難の割合が多かった.

    考察:コロナ禍に本学卒業生が新人看護師になって感じた困難に関する先行研究と概ね一致したが,「患者のニーズを身体・心理・社会的側面から把握する」は困難を感じる割合が高いことは,コロナ禍で実習時間が減ったことが影響したと考える.

短報
  • 西野 郁子, 石川 紀子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_105-1_109
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     慢性疾患をもつ子どもの小学校入学に向けた支援を検討するために,保育園看護師を対象として入学に向けた支援の経験を明らかにする目的で調査を行った.慢性疾患をもつ子どもの親への支援の経験がある5名の保育園看護師に対し,小学校入学に向けた支援の経験,および必要な支援が十分にできなかった経験に関する半構成的面接を実施した.

     調査の結果,子どもに対してセルフケア能力の習得を促す支援をしており,親に対して親が主体となって小学校や関係機関と打ち合わせができるように支援をしていた.また,養護教諭・担任等に直接または親を通して情報を伝達し,子どもの疾患・配慮について学校関係者の理解を得るための支援をしていた.

     一方で支援が十分にできなかった経験もしており,親と看護師の両者が協働して,スケジュールの見通しをもって入学に向けた準備を進めていけるための支援方法を具体化する必要があると考える.

  • 鈴鹿 祐子, 成田 悠哉, 渡辺 陵介, 西村 克枝, 須藤 崇行, 麻賀 多美代, 大川 由一, 岡村 太郎
    2025 年16 巻1 号 p. 1_111-1_116
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究は,高齢者の歯磨きをする様子を歯科衛生士(以下DH)が評価し,認知機能との関連性を把握することを目的として行った.対象は,11名(75.5±5.2歳)であり,歯磨きをする様子をDHが歯磨き行為の認知評価(以下CPT)を使用して評価し,MMSE-J,ACLS-5を作業療法士(以下OT)が実施した.CPTはOTがAllenの認知障害モデルを参照して作成したものでありレベルは5段階で評価し,歯磨き動作を中心に観察項目を設置した.CPTは,レベル5.0「問題なく1人で可能」7名,レベル4.4「指示があれば修正可能,多少のミスがある」4名であった.MMSE-Jは,軽度認知症の疑いがあるもの1名,軽度認知障害(MCI)の疑いがあるもの2名であった.MMSE-Jが23点,25点の者はACLS-5のレベルがそれぞれ5.0,5.4あり,CPTはレベル4.4であったことからDHはCPTを使用し,認知機能の低下に気付くことができる可能性があると考えられた.

資料
  • 金丸 友, 三池 純代, 飯村 直子, 原 加奈
    2025 年16 巻1 号 p. 1_117-1_123
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     保育所職員が精神疾患をもつ親とその子どもへの関わりで抱く困難を明らかにすることを目的とし,6名の保育所職員(保育士,看護師,精神保健福祉士)に半構造的面接を実施し,質的帰納的に分析した.保育所職員が抱く困難として【親の疾患の特性によりコミュニケーションが取りづらい】,【親の疾患の特性により生じる行動化に恐怖を感じる】【親への支援体制が整えにくい】,【疾患や治療を踏まえた関わり方が分からない】【親の不適切な関わりによる子どもへの影響に心を痛める】,【他の保護者や他の子どもとのトラブルの回避や対応に困る】,【親への対応により子どもへの保育や保育所の体制が整えにくい】,【他機関との連携において課題がある】のカテゴリが抽出された.職員が精神疾患をもつ親とその子どもの特徴と支援について学ぶ機会の設定,他機関との連携の強化,職員へのメンタルヘルス支援が必要であると考えられた.

  • 広川 由子, 井上 裕光, 鈴木 亜夕帆, 海老原 泰代, 渡辺 優奈, 岡田 亜紀子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_125-1_132
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     養護教諭及び栄養教諭の資質能力の向上に関する調査研究協力者会議(中央教育審議会初等中等教育局長が開催決定)は,2023年1月17日に「議論の取りまとめ」を公表し,栄養教諭の課題を整理している.そこでは,栄養教諭は食に関する健康課題のある児童生徒等への個別的な相談指導ができていない,また,栄養教諭自身の業務に対する自覚が十分に進んでいない,と指摘している.これらは厳しい批判ではあるが,栄養教諭でなければ実施できない業務についての重要な指摘であり,大学の栄養教諭養成制度を見直す契機と捉えることができる.そのため本稿では,現行の教育職員免許法及び同法施行規則を検討し,栄養教諭養成制度改革の基礎資料を提供することを目的とした.その結果,現行の法制度は,個別指導を十分こなせる力を育成するものとなっていないことを指摘した.その上で,個別指導力を十分育成するため,とりわけ二種免許状の課程や認定講習においてはカリキュラムを増やし,所要事項として個別指導を盛り込む必要があること,一種免許状の基礎資格は管理栄養士に引き上げることを提案した.

  • 西野 郁子, 石川 紀子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_133-1_138
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     慢性疾患をもつ子どもの小学校入学に向けた準備を行う親への支援に活用できることを目指して,支援ツールの試案(リーフレット型の印刷資料)を作成した.今回,支援ツールの完成への示唆を得るために,保育園看護師を対象として支援ツールの試案の活用方法・改善点を明らかにする目的で調査を行った.慢性疾患をもつ子どもの親への支援の経験がある7名の保育園看護師に対し,予め支援ツールの試案を送付しておき,後日,支援ツールの試案の活用方法,適切でない内容や不足していると考える内容に関する半構成的面接を行った.

     調査の結果から,支援ツールの試案は慢性疾患をもつ子どもの親への支援に活用できる資料となり得ると考えられた.また,支援ツールの試案への追加点・修正点が明らかになり,慢性疾患に共通して使用できる支援ツールの完成に向けた改善への示唆を得た.

  • 中山 静和
    2025 年16 巻1 号 p. 1_139-1_146
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

     本研究の目的は,自閉症スペクトラム(ASD)と診断された小児の睡眠障害への非薬物的介入に関する効果を把握することであった.

     国内文献の検索誌は,医学中央雑誌Web版を用いて「自閉スペクトラム症」「睡眠」をキーワードとした.海外文献の検索は,PubMed,CINAHLを用いて「Autism Spectrum Disorder」「sleep」をキーワードとした.選定した6件の対象文献を「養育者による行動介入」「物理的介入」「感覚に基づく介入」に分類した.

     「養育者による行動介入」では,就寝時フェーディングとポジティブルーティンの実施の効果が報告されていた.「物理的介入」では,音楽や振動による刺激により夜間覚醒の減少や睡眠時間の増加が報告されていた.加重布団を用いた「感覚に基づく介入」による明確な効果は示されていなかった.ASD児の睡眠障害に対する介入方法は十分に検討されていない.ASD児の個別性や家庭での睡眠環境に応じた介入方法の組み合わせによる援助を検討する必要がある.

第15回共同研究発表会
  • 酒巻 裕之, 鈴鹿 祐子, 佐々木 みづほ, 山中 紗都, 桒原 涼子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_147
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     歯科衛生士が担当する周術期口腔健康管理や集中治療室(ICU)では,経口気管挿管により気道確保されている患者がいる.経口気管挿管患者の口腔健康管理は,気管挿管関連肺炎(VAP)予防のために重要である.しかし口腔内に気管チューブが存在することから,口腔内の観察や口腔衛生管理は困難である.

     われわれは,経口気管挿管患者の口腔健康管理ができることを目標に,経口挿管状態を模したシミュレーターを用いて,挿管された気管チューブの状態や口腔内観察の方法,口腔清掃方法について指導している.

     これまで歯科衛生学科学生にマッキントッシュ型喉頭鏡を用いた経口気管挿管のデモンストレーションを行ったが,学生が確実に見学できたかが不確実な状況であった.

     そこで本研究ではビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管手技のデモンストレーションの有用性について検討することを目的として質問調査を行い検討した.

    (研究方法)

     歯科衛生学科3年生24名のうち,研究協力の同意を得た者からの質問調査回答を対象とした.

     歯科診療室総合実習における「救急救命処置」の課題学習の中で,DAMシミュレータ トレーニングモデル(京都科学,京都)にビデオ喉頭鏡(エアウェイスコープ,日本光電工業株式会社,東京)とマッキントッシュ型喉頭鏡それぞれを用いて,経口気管挿管手技のデモンストレーションを行った.

     課題学習後に,Microsoft Formsを用いて無記名式,一部自記式多肢選択式質問調査を行った.質問内容は,①経口気管挿管手技のデモンストレーションは有効か,②ビデオ喉頭鏡とマッキントッシュ喉頭鏡を用いた気管挿管の理解のしやすさの違い,③どちらのデモンストレーションがよいかとした.質問調査結果を単純集計し,検討した.

    (結果)

     7名から回答(回答率29.2%)を得た.回答した全員がビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管手技について理解でき,マッキントッシュ型喉頭鏡を用いた方法より理解しやすいと回答した.経口気管挿管手技のデモンストレーションについて,今後の歯科衛生士として行う口腔健康管理に5名が「非常に役立つと思う」,1名が「やや役立つと思う」(計6名,85.7%)と回答した.また,経口気管挿管手技のデモンストレーションを見学することで,「経口気管挿管患者の口腔内のイメージができるようになった」の自由記述があった.

    (考察)

     歯科衛生士は,癌治療のための手術,薬物療法,放射線治療,心臓手術,人工関節置換術等,緩和ケア等において,周術期口腔健康管理のうち,口腔衛生管理を担当する.周術期口腔健康管理や集中治療室(ICU)では,経口気管挿管により気道確保されている患者がいる.経口気管挿管中の口腔健康管理は,VAP予防に重要である.しかし口腔内に気管チューブが存在することから,口腔内の観察や口腔衛生管理は困難で,歯科衛生士はそれに対応できるスキルを習得する必要がある.また,気管挿管による気道確保が行われる臨床の場には歯科衛生士の業務がないことから,歯科衛生士は経口気管挿管の手技に接する機会がないといえる.

     そこで学生にとって,経口気管挿管中の口腔内の状態を把握したり,気管チューブの挿入や声門を越えた気管内にチューブのカフが入るイメージができると,特に汚染物の咽頭部への流入しないようにすることを理解し,VAPを予防する口腔健康管理を行うことにつながると考え,経口気管挿管のデモンストレーションを行っている.しかし,マッキントッシュ型喉頭鏡による手技の見学では,演習に参加している学生が口腔内等の同じ場面を同時に確認できない,という課題があった.本研究の質問調査結果から,学生はビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管手技について理解できたことが確認され,課題が改善されたと考えられた.

     以上のことから,ビデオ喉頭鏡を用いた方法に変更することにより,学生は経口気管挿管手技中の口腔内や気管チューブの状態を把握でき,経口気管挿管患者の口腔内の状態を理解するのに有用であると考えられた.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理委員会の承認(2023-22)を得て実施された.

    (研究成果の公表)

     本研究の成果の概要を,第43回日本歯科医学教育学会(令和6年9月,名古屋)にて報告した.

  • 山本 達也, 荒木 信之
    2025 年16 巻1 号 p. 1_148
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     パーキンソン病は動作緩慢を主体に筋固縮・安静時振戦を呈する神経変性疾患であり,運動症状はドパミン作動薬の投与により軽快するが,根治療法は存在しない進行性の難治性疾患である.

     病理学的にはレビー小体が出現し,その主要構成成分がα-シヌクレインであること,α-シヌクレインが病態に深く関与しており,更に伝播により病変が広がっていくことが想定されている.

     パーキンソン病ではドパミンニューロンを中心としたカテコラミン作動性ニューロンが変性することが知られているが,カテコラミン作動性ニューロンが比較的選択的に障害される理由は明らかでない.

     近年,ドパミンの代謝産物がαシヌクレインの凝集に関与している可能性が指摘されている1).また,我々は電気刺激によりカテコラミン濃度が変動することを報告しており1,2),αシヌクレインも神経活動依存性に変化すると考えられ,日本神経学会で発表した3).昨年度は正常モデルで検討したため,今年度はパーキンソン病モデルラットを作成し検討した.

    (研究方法)

    ・実験は正常ラット3頭の内側前脳束にカテコラミン神経毒である6-hydroxydopamine(6-OHDA)をstereotaxicに注入しパーキンソン病モデルラットを作成して行った.

    ・タングステン電極付き透析プローブを黒質に刺入し,電気刺激前,刺激中,刺激後(各々90分)で黒質の細胞外電位測定,細胞外液採取を行った.

    ・細胞外液の採取はpush-pull microdialysis法により行い,αシヌクレイン測定はELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)法,カテコラミン測定は高速液体クロマトグラフィー法を用いて行った.

     刺激前,刺激中,刺激後の群間比較は一元配置分散分析(ANOVA)により行い,事後比較はDunnet法を用いた.相関解析はスピアマンの順位相関係数を用いた.

    (結果)

    1)カテコラミン・αシヌクレイン濃度

     刺激前の黒質αシヌクレイン濃度・カテコラミン濃度に対する,刺激中,刺激後の比を算出した.刺激後にレポドパは有意に低下し,刺激中のレポドパ,刺激後のDA(ドパミン),DOPAC(ジヒドロキシフェニル酢酸)は低下傾向であった.

     αシヌクレインは刺激中に低下傾向であった.

    2)カテコラミンとαシヌクレインの関係

     刺激中のみαシヌクレイン濃度とドパミン(ρ=0.56,p<0.05),DOPAC(ρ=0.57,p<0.05)との間に有意な相関を認めた.

    ・刺激後にはαシヌクレインとカテコラミンの間に有意な相関を認めなかった.

    (考察)

     刺激中・刺激後ともDAやDAの代謝物であるDOPACは刺激前と比較し低下傾向で,αシヌクレインも低下傾向であった.また刺激中のみ,αシヌクレインとDA・DOPACとの間に有意な相関関係を認めた.

     電気刺激により,DAやDOPACなどのカテコラミンとαシヌクレインは連動して変化することが示唆された.DAは運動症状発症に重要な神経伝達物質で,αシヌクレインは病理学的に神経細胞に沈着するが,刺激によるDAの変化が病理学的変化にも寄与している可能性が示された.

    (倫理規定)

     本実験は国立大学法人千葉大学動物実験規定にもとづく動物実験委員会に承認された(動5-243).

  • 田中 佑季, 佐塚 正樹
    2025 年16 巻1 号 p. 1_149
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     酸素は好気呼吸を行う生物にとって不可欠な分子である.また,酸素は好気呼吸の一部である電子伝達系の過程において副産物として発生する活性酸素種の生成に関わる.過剰な活性酸素は,細胞内の脂質やたんぱく質,DNAなどを酸化することで細胞に障害を与えるとされている.

     活性酸素種は食品に含まれるビタミン類やポリフェノール類のような抗酸化物質の摂取により消去され,これに伴い酸化ストレスを提言するとされている.本研究は千葉県産の野菜としてカブを使用し,生理学的抗酸化能(BAP)と抗酸化能に関わるとされるビタミンであるビタミンCを測定した.本研究の目的は持続的な抗酸化物質の摂取のために野菜の皮の抗酸化的な価値を示すことである.

    (研究方法)

    (1)材料

     カブは千葉県内の農場で測定の前日に収穫されたカブ品種‘ゆきわらし’を用いた.ゆきわらしは2023年の5~6月および11~12月及び2024年の5月に収穫された3玉サイズと5玉サイズの物を用いた.試料として用いたカブは全て同一の農場から得られた物である.

    (2)BAPの測定

     BAP測定のサンプルはカブの葉・茎を完全に除去し,中心から半分に切断して片側を皮むき,もう片側を皮つきのサンプルとして扱った.皮をむいた,あるいは皮がついたままのカブを所定の重量に測り取り,蒸留水と一緒にミキサーにかけ,遠心後の野菜液をろ過して得られた抽出液をサンプルとして使用し,フリーラジカル解析装置Free carpe diem(Diacron International社)とBAPの測定キットを用い,常法に従って測定した.

    (3)ビタミンCの測定

     日本食品センターにHPLCによるビタミンC(総ビタミンC,酸化型ビタミンC,還元型ビタミンC)の測定を依頼した.送付したカブは3玉サイズの個体で,測定の際はBAPの測定と同様に,葉・茎を完全に除去し,中心から半分に切断して片側を皮むき,もう片側を皮つきのサンプルとして扱った.

    (結果)

    (1)皮の有無による比較

     皮むきと皮つきのカブを比較したところ,1パーセント水準で有意差があった.

    (2)季節による比較

     5~6月および11~12月の2群に分けて比較をしたが平均に大きな差は見られず,有意差は無かった.

    (3)サイズによる比較

     3玉サイズおよび5玉サイズ2群に分けて比較をした,皮むきの群において平均値に若干の差が見られたが,有意差は無かった.

    (4)ゆきわらしのビタミンC量

     5~6月及び11~12月に収穫された3玉サイズのカブ,計4点のビタミンC量を皮むき,皮つきそれぞれHPLCによって分析した結果,皮つきの方がわずかに高い値になった.

    (考察)

     皮むきと皮つきカブのBAP値は平均して約1割程度皮つきの方が高い結果となったことから,カブの皮は果肉と比較して多くの抗酸化物質を含むことが示唆された.また,ビタミンCはカブに含まれる抗酸化成分として重要と思われたが,測定によって得られたビタミンC量はBAP値と比較して少量であった.このため,カブの抗酸化能はビタミン類ではなくポリフェノール類が強く影響すると考えられる.ヒトは呼吸による生命活動の副産物として活性酸素種を生成するため,日常的かつ持続的な抗酸化成分の摂取は必須である.今回食品としてカブを取り扱ったが大根や人参のような皮ごと食べることができる野菜も同様の傾向を示す可能性がある.これらの日常的に利用される野菜の皮の栄養学的あるいは美味しさによる利用価値を示すことは日常的かつ持続的な抗酸化成分の摂取に寄与すると考える.

    (研究成果の公表)

     (第71回日本栄養改善学会学術総会,令和6年9月7日,ポスター)

  • 室井 大佑, 近藤 夕騎, 鈴木 一平, 加藤 太郎, 岩佐 和哉, 原 貴敏
    2025 年16 巻1 号 p. 1_150
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     すくみ足を有すると訴えるパーキンソン病患者では,障害物を回避する際にゴール地点の視線停留時間は短縮し,直近の歩行路,足下や障害物を固視する傾向がある(Hardeman et al, 2020).興味深い現象として,すくみ足が実際に発現しない試行に関しては,歩行路のゴール地点への視線停留時間が延長していた症例が存在したと報告している.このような,すくみ足の出現の有無による比較は症例検討であるため,その一般性を確かめる必要がある.そこで,パーキンソニズムによりすくみ足を訴える症例を対象に,すくみ足が出現した際の視線行動について調べることを目的とした.

    (研究方法)

     対象は,すくみ足の症状を有すると訴える,国立精神・神経医療研究センター病院でパーキンソン病または進行性核上性麻痺と診断を受けた者とした.参加者はドアで作られた隙間の5m手前に立ち,30秒間静止立位で観察した(静止立位課題)後に歩行を開始し,ドアの隙間(肩幅と同じ幅)をぶつからないように合計6試行通過した(隙間通過課題).アイマークレコーダ(EMR-9,NAC社製)を用い,課題中の視線行動を測定し,視線区分:①歩行路,②ドア,③隙間,それぞれの注視時間を測定した.歩行課題時の各視線区分における,すくみ足あり試行となし試行の比較をするために,ウィルコクソンの符号付き順位検定を行った.また,静止立位または隙間通過課題における各視線区分の比較には,フリードマン検定を実施し,有意差があった場合,多重比較を行った.有意水準はそれぞれ5%未満とした.

    (結果)

     進行性核上性麻痺3症例が参加した(平均年齢71.3±4.2歳).隙間通過課題において,症例Aは6試行中3試行,症例Bは0試行,症例Cは2試行のすくみ足がみられた.すくみ足あり試行となし試行を比べると,すくみ足あり試行ではドアの注視が有意に短く(p=0.043),隙間の注視が有意に長かった(p=0.043).また,隙間通過課題におけるすくみ足なし試行では,各視線区分における注視時間の差はなかったが,すくみ足あり試行では有意差がみられた(p=0.010).下位検定の結果,歩行路に比べて,隙間を注視する時間が長かった(p=0.022).静止立位課題において視線区分による有意差はなかった.

    (考察)

     今回,パーキンソニズムによりすくみ足を呈した進行性核上性麻痺3症例の障害物回避時の視線計測を行った.すくみ足は全試行の28%(5/18)で見られた.すくみ足が出現した試行では,ドアや歩行路よりも隙間を注視しやすいことが分かった.歩行路や障害物を注視するという先行研究とは異なる結果であったが,すくみ足なし試行や,静止立位では,ドアや歩行路も含めてまんべんなく観察をしていたことを考慮すると,視線がどこかに固定されてしまう現象は,すくみ足あり試行における特徴であることが示唆された.この視線の固定により,患者は障害物回避に必要な空間情報を十分に得られず,結果としてすくみ足が誘発されている可能性がある.つまり,視覚的な情報収集の不足が,安全な歩行のための意思決定を困難にし,すくみ足の一因となっているのではないかと考えられる.

    (限界)

     本研究は3症例の検討であるため,今後は症例を増やして検討する必要がある.パーキンソン病患者等は眼球運動障害などの影響で,他にも7例計測を試みたが,データの取得が困難な状況であった.今後は,眼球運動障害の評価をしつつ,測定可能な症例を絞り込んでいく必要がある.

    (倫理規定)

     本研究は本学の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2022-12).

    (研究成果の公表)

     症例Aのシングルケーススタディを,第18回パーキンソン病・運動障害疾患コングレスにて発表した.

  • 細山田 康恵, 金澤 匠, 山田 正子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_151
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     令和元年国民健康・栄養調査によると,男性の33.0%,女性の22.3%が肥満者であり,糖尿病が強く疑われる者の割合は,男性19.7%,女性10.8%で健康問題となっており,糖尿病性腎症を起こすことに繋がる.日本透析医学会の令和2年度の統計では,透析患者数は347,671人に達し,糖尿病性腎症が最も多く40.7%を占めている.この問題を解決するために,抗酸化作用や内臓脂肪蓄積量の減少などを有するポリフェノールのフラボノイド系のカテキンに注目した.近年では,緑茶と緑茶に含まれる主要なカテキンであるエピガロカテキンガレートが,脂質の代謝調節やインスリンシグナル伝達系の改善に有用であることは示されている.今回の実験では,肥満2型糖尿病モデルラットにカテキンを摂取した際,血中アディポネクチンや腎臓の組織に与える影響などを調べることを目的とした.

    (研究方法)

     5週齢♂SDT fatty/Jclラットを用いて,4週間実験飼料を投与した.実験飼料には,AIN-93組成に準じた基礎飼料をControl群とし,2.5%カテキン添加した群をCatechin群とした.カテキンは(株)DHCの有機粉末緑茶を用いた.各群6匹ずつとし,飼料と水は自由摂取とした.実験投与終了後,体重増加量,飼料摂取量,肝臓重量,腎臓重量,後腹壁脂肪重量,肝臓脂質濃度,血清アディポネクチン,レプチン,インスリン,グルカゴン,抗酸化力(BAP),酸化ストレス度(d-ROMs)などの測定を行った.肝臓脂質濃度は,クロロホルム:メタノール(2:1)溶液で抽出後,酵素法キットを用いて測定,サイトカインやホルモンに関しては,ELIZA法を用いて測定,BAPとd-ROMsに関しては,ウィスマー社のフリーラジカル解析装置FREEを用いて測定を行った.また,腎臓の組織に関して,摘出後10%ホルマリン固定液に浸漬し,脱水,透徹,包埋し,小型滑走式ミクロトームESM-150Sで薄切した.腎臓の切片はPAS(Periodic Acid Schiff)染色を行い,光学顕微鏡(オリンパスDP22)を用いて観察を行った.

     データは,平均±標準誤差(n=6)で表した.統系処理は,PASW Statistics20を用い,群間の比較をStudentのt-testにより行った.検定の結果は,危険率5%未満を有意と判定した.

    (結果)

     終体重,総飼料摂取量,肝臓及び腎臓重量において,群間における差はなかった.後腹壁脂肪重量は,Control群よりCatechin群で有意(p<0.01)に低値を示した.酸化ストレス,肝臓のトリグリセリド濃度,インスリン濃度は,Control群よりCatechin群で有意(p<0.05)に低値を示した.抗酸化力,肝臓のコレステロール濃度,アディポネクチン濃度,レプチン濃度,グルカゴン濃度で群間における差は見られなかった.腎臓の組織観察において,Control群では,メサンギウム領域が毛細血管腔より大きくなり,糸球体が分葉化していた.ボウマン嚢の基底膜もやや肥厚しており,二重になっている箇所があった.Catechin群では,メサンギウム領域が毛細血管とほぼ同等になった.糸球体はほぼ正常の大きさで,メサンギウム細胞と基質の増加も,ほとんど見られなかった.また,一部はボウマン嚢の基底膜がやや肥厚しているようにみえた.

    (考察)

     終体重,総飼料摂取量に差がなかったことから,成長は同様にしたと考えられる.後腹壁脂肪重量,酸化ストレスが,Control群よりCatechin群で有意に低値を示したのは,カテキンの脂肪燃焼効果により,体内の脂肪蓄積が低下し,細胞の肥大化が抑制され,酸化ストレスの低下につながったことが示唆された.また,血中アディポネクチン濃度に差がなかったのは,飼育期間が短かったためと考えられる.

     腎臓の組織において,Control群はメサンギウム領域が毛細血管腔より大きくなり,糸球体が分葉化しており,メサンギウム増殖腎炎などが考えられる.Catechin群では,糸球体はほぼ正常の大きさで,メサンギウム細胞と基質の増加もほとんど見られなかったが,ボウマン嚢の基底膜の一部がやや肥厚しているようにみえたのは,糖尿病性腎症の初期の症状と推定される.カテキンを添加することで,メサンギウム細胞と基質の増加がほとんど見られなくなり,糖尿病性腎症を抑制することが示唆された.

    (倫理規定)

     本研究における動物試験は,本学実験指針に基づき「実験動物の飼養および保管並びに苦痛の軽減に関する基準を定める件」を遵守し,本学の動物実験研究倫理審査部会の承認(2023-A004)を得て行った.

  • ―部位および損傷組織を踏まえた検討―
    江戸 優裕, 菊池 咲葵, 松尾 真輔, 島田 美恵子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_152
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     関節弛緩性(JL: Joint Laxity)はスポーツ分野におけるメディカルチェックの項目として一般的であるが,スポーツ傷害発生との関係については否定的な報告も散見される1,2).こうした見解が分かれる要因の一つに,身体の部位や損傷組織を踏まえた検討がなされていない点がある.

     そこで,本研究ではJLとスポーツ傷害の既往歴(PH: Past History)との関係を部位別・損傷組織別に明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     対象は一般的な大学生399名(平均年齢19.8±1.4歳:男性181名・女性218名)であった.

     JLは東大式関節弛緩性テスト3)で評価した.手・肘・肩・膝・足関節は左右各0.5点,脊柱・股関節は1点とし,合計点をJLスコアとした.

     PHは過去5年間にスポーツ中に受傷したものをアンケートで収集した.姫野らの報告4)を基に損傷組織別(骨損傷・関節損傷・筋損傷・その他)に分類し,各回数を求めた(PH回数).

     JLスコアとPH回数は部位別(上肢・下肢・体幹)でも集計し,相関分析と群間比較を行った(有意水準5%).

    (結果)

     JLスコアは男性より女性で高かったが(男性:1.8±1.4/女性:2.7±1.5点),部位別でみると下肢のみ有意な性差が認められなかった.PHは対象者全体で延べ799件(Median=1,IQR=0,3)あり,足関節捻挫(270件),大腿部の肉離れ(71件),突き指(66件)の順に多かった.

     年齢・性別を制御したJLスコアとPH回数の偏相関分析の結果,いずれの項目にも明らかな相関を認めなかった(|r|≒0.1).

     JL有無・年代・性別を要因としたPH回数の3元配置分散分析の結果,骨損傷はJL無し群で多く(無し群:0.3±0.7/有り群:0.1±0.5件),体幹の骨損傷は男性で多かった(男性:0.1±0.4/女性:0.0±0.2件)(Mean±SD).

    (考察)

     JLが男性より女性で高いことは多くの先行研究5,6)を追認したが,下肢には明らかな性差がないことは新知見であった.PHの発生状況は大学スポーツ協会の報告7)と概ね一致した.

     JLスコアとPH回数の相関はいずれの部位・組織でも認めなかったものの,骨損傷はJL無し群で多かった.このことから,JLが低いと骨に力学的負荷が集中しやすい可能性は無視できないが,因果関係や体幹損傷の性差は受傷機転を踏まえた慎重な議論が必要である.また,JLに筋タイトネスが併存することを問題視する報告8)もあるため,今後より多角的な検討が期待される.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(No.2022-26).対象者には研究内容の説明後,書面で同意を得た.

    (研究成果の公表)

     本研究は第43回関東甲信越ブロック理学療法士学会・第30回千葉県理学療法学術大会(合同大会)で2024年10月5日・6日に発表予定である.

  • 島田 美恵子, 工藤 美奈子, 岡村 太郎, 成田 悠哉, 江戸 優裕, 荒川 真, 佐々木 みづほ, 浅井 美千代, 金子 潤, 河野 舞 ...
    2025 年16 巻1 号 p. 1_153
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2022年10月現在,我が国の65歳以上の国民における介護保険認定率は約19%であり,このうちの約59%が自宅で居宅サービスを受給している(介護保険事業状況報告:令和4年10月).加齢に伴い医療機関への受診率は高まり,東京都では,後期高齢者の約80%が2疾患以上の慢性疾患を併存,約60%が3疾患以上の慢性疾患を併存していることが報告されている1).健康寿命を延伸するために,ソーシャルキャピタルを醸成することの重要性が指摘されて久しいが,健常者と,障害や特に複数の慢性疾患を抱えた高齢者に対し地域においてともに健康を支援する手法は明らかではない.

     障害や疾患があっても,身体的な負担がなく精神的ストレスも少なく測定できる指標として「身長」がある.身長は若年時と比較して2cm以上短縮していれば脊柱管狭窄症が疑われること,不良姿勢に強く影響されること,起床直後が就寝前よりも伸長していることなど,個体内の変動は大きいが対象者の身体状況を反映できる指標である.対象者にとって体重よりも測定に抵抗がなく衣服着脱の必要がなく簡易であり,また家庭で測定することは少ない.何よりもわかりやすく,対象者の興味・関心をひく指標である(島田他,千葉体育学研究 2015).

     本研究は,健常者および障害及び慢性疾患を患いながら地域で生活する高齢者が,ともに健康を支援する手法として簡易な身長の変化に着目した.本研究の目的は,身長を介護予防の指標とした取り組みの基礎資料として,10年間の身長の変化と生命予後の関係について明らかにすることである.

    (研究方法)

     千葉県および新潟県に在住する高齢者を対象とした長期縦断調査における身長の変化を検討した.

     1998年より実施された新潟調査における対象者600名のうち,70歳から80歳まで毎年身長を測定したもの201名(1年で10 cm以上減少した者を除く)と,そのうち90歳まで生存し会場検診を受けた者51名,また,2011年より月に2回,定期的な運動教室に参加している者25名(千葉調査)について,身長と生命予後について検証した.

     身長はポータブル身長計(seca213 seca株式会社 千葉)により,着衣で測定し,測定時間は特定しなかった.年ごとの身長の平均値と標準偏差を求めた.また,男女生存状況別に年齢と身長の変化の回帰式をもとめ,共分散分析により傾きの差を検討した.有意水準は5%とした.

    (結果)

     対象者の約80%に,高血圧・糖尿病などの健康障害がみられた.新潟調査において,70から80歳までの身長の変化は,90歳まで生存した(A群)男性20名で0.09±0.10 cm/年の減少,女性31名で年間0.16±0.09 cm/年の減少であった.90歳までに死亡が確認された(B群)男性88名は0.12±0.12 cm/年の減少,女性62名で0.22±0.15 cm/年の減少であった.10年間の身長変化の回帰式の傾きは,群間(P=0.047)と女性の群別(P=0.023)に有意差がみられた.千葉調査において80歳までの調査期間中の身長の減少と生存状況は,男性生存群8名は0.37±0.44 cm/年の減少,死亡群3名は0.35±0.01 cm/年の減少,女性生存群13名は0.40±0.34 cm/年の減少,死亡群2名は0.55±0.03 cm/年の減少であった.

    (考察)

     新潟調査と千葉調査では10年間の身長の減少率は異なったが,いずれも女性において生命予後と身長の減少との間に有意な関係がみられた.70歳からの10年間の身長の変化は90歳までの生命予後に影響することが示唆された.身長を減少させない,姿勢を意識させることの有効性について検証を重ねる必要がある.

    (倫理規定)

     本研究は千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号 2023-7).

    (研究成果の公表)

     ACSM 2024 Annual Meeting 2024.5.26. Boston

  • 菊池 裕, 菅原 満希乃, 田淵 梨央, 工藤 美奈子, 生魚 薫, 一條 知昭, 石岡 憲昭, 山崎 丘
    2025 年16 巻1 号 p. 1_154
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     食品衛生法が改正され,2021年6月から全ての食品等事業者に危害要因分析重要管理点(HACCP)に沿った衛生管理が義務化された1).小規模食品事業者には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が求められ,それらの実施状況を確認する上で,施設や調理器具等の衛生状態を視覚的に確認する簡易検査が求められている.本研究は市井の食品事業者がHACCPに対応した衛生管理をすることを目的とし,簡易的な環境微生物の測定方法を検討した.

    (研究方法)

    1.施設

     小規模食品事業所として,病院の給食施設並びに飲食施設1(フランチャイズ)及び2(個人経営)を選定した.

    2.環境微生物の採取と汚染状況の把握

    1)空中浮遊微生物数の算出

     エアサンプラー(株式会社アイデック空中浮遊菌サンプラーIDC-500B)を用い,作業中の模擬施設及び喫食中の飲食施設で空中浮遊微生物を衝突法で寒天培地に捕集し,吸引空気量1,000 L中の好気性微生物数と真菌(かび,酵母)を測定した.

    2)製造施設の微生物汚染状況の把握

     食品・環境衛生検査用フードスタンプ「ニッスイ」(日水製薬株式会社)を用い,各施設でパススルー,生食台及び配膳台を対象とし,病院では移動台を,飲食施設では客飲食卓をそれぞれ対象に加えて,一般細菌数及び真菌数(培地面積10 cm2)を測定した.

    3)スワブATPふき取り検査による汚染状況の把握

     フードスタンプと同じ場所をルシパックpen(キッコーマンバイオケミファ株式会社)のスワブでふき取り(100 cm2),ルミテスター(キッコーマンバイオケミファ株式会社)でATP量を測定した.

     すべてのデータは,Excelの統計関数を用いて解析した.

    (結果)

     エアサンプラーで測定した好気性微生物数及び真菌数は,作業中と作業後で有意な増減が認められなかった.

     フードスタンプで測定した一般細菌数及び真菌数が示す清掃後の清潔度は,病院では移動台を除く測定箇所で基準値に達していた.飲食施設では清掃後の残存率が減少して基準値に達した測定箇所もあるが,パススルーや客飲食台で残存率が上昇した箇所もあった.

     ATPふき取り検査の結果は,病院では移動台を除く測定箇所で残存率が減少し,清掃後の生食台及び配膳台はATP量の推奨基準値に達していた.飲食施設では清掃後の残存率が減少した測定箇所はいずれも推奨基準値には達せず,パススルーや客飲食卓では残存率が上昇した箇所もあった.

    (考察)

     今回行った3種類の検査方法は,食品施設の微生物汚染状況を把握可能で,衛生管理の重要性を視覚的に訴える資料としての運用も可能であることが示唆された.特にスワブATPふき取り検査は操作も簡易で,作業終了直後に測定箇所の汚染を視覚的に捉えられる.衛生管理の重要性を示す説得力のある資料として各施設の従業員に示すことが可能なことから,小規模食品事業者が導入して活用することが期待される.

    (補遺)

     今回測定した飲食施設は汚染度が高く,清掃後に一般細菌数及び真菌数並びにATP残存率が上昇した箇所も見受けられた.同じ布巾を洗浄せずに終日使用していること,アルコールの噴霧が十分でないことが要因と考え,これら飲食施設で再度の測定を行なった.先と同じ測定箇所に消毒用エタノールを噴霧し,布巾ではなく使い捨てのキムタオルで拭き上げ後に,スワブATP拭き取り検査を行った.基準値に達した箇所はなかったが,客飲食卓一箇所を除いて清掃後の残存率は減少し,清掃に用いる布巾の管理やアルコール噴霧の重要性が示唆された.

    (利益相反)

     本研究に関連して開示すべき利益相反関係にある

    企業等はない.

  • 広川 由子, 井上 裕光, 鈴木 亜夕帆, 海老原 泰代, 渡辺 優奈, 岡田 亜紀子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_155
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本研究は,栄養教諭及び学校栄養職員(以下「栄養教諭等」)の配置の現状と課題を,千葉県を事例として明らかにすることを目的とする.栄養教諭は給食業務だけでなく,子どもの現代的健康課題に対応するという重責を担う.ところが栄養教諭制度創設時に国の配置基準は改善されず,それがゆえにいまだ栄養教諭と学校栄養職員が併存し,栄養教諭の配置数を学校栄養職員の配置数が上回る地域が存在している.千葉県もその一つである.複雑な制度のもと,栄養教諭免許の意義は薄れ,栄養教諭だけでなく学校栄養職員にも負担が生じているのではないか.本研究はこうした問題意識のもと,千葉県の現職の栄養教諭等へ質問紙調査を実施し分析を行い,今後の改善策を提示することを目指した.本研究は千葉県という一県を事例とするが,複雑な要素の多い千葉県から引き出される現場の諸相は一県に留まるものでなく全国に共通するものである.本研究の成果により栄養教諭制度再考の視座を獲得したい.

    (研究方法)

     本研究では,まず顕在的側面として栄養教諭等の関係法令を整理し,現在の全国の栄養教諭等の採用・配置状況を概観した上で千葉県の現況を描出した.それを踏まえ潜在的側面の解明を狙って,「栄養教諭免許への考え方」「職務への負担感・職務上の困りごと」「今後の栄養教諭等の配置政策への意向」という観点から質問紙調査を実施した.以上の研究成果を総合的に検討し,結論として栄養教諭制度の改善策を提案した.質問紙は千葉県内の全ての義務教育諸学校及び共同調理場の合計約1,200校(施設)に郵送し,栄養教諭等合計423人から郵送及びウェブで回答を得た(調査時点で栄養教諭311人,学校栄養職員375人,回答率61.66%).データ収集は令和5年8月1日〜令和5年9月15日に実施した.

    (結果)

     関係法令の整理と全国の栄養教諭等の採用・配置状況から千葉県が小規模の給食単独実施校を多数有し,多くの市町村費負担学校栄養職員を配置していること,それゆえ容易に学校栄養職員から栄養教諭への移行が進まない状況が看取された.質問紙調査の結果からは,市町村費学校栄養職員に栄養教諭への移行試験の受験資格がなく栄養教諭免許取得のメリットが薄いこと,しかし全体でみると免許取得や栄養教諭への移行を希望する者の意思は継続しており,免許の意義が薄れているとはいえない状況が示唆された.職務への負担感や困りごとについては,栄養教諭・学校栄養職員(免許あり)・学校栄養職員(免許なし)の三群間で比較分析した結果,多くの項目において差は認められず一様に負担感を持つことが示された.複数校掛け持ちに対する負担感は栄養教諭に顕著であった.今後の配置政策への意向についても栄養教諭は,「栄養教諭のみを新規採用する」ことを志向する傾向にあり学校栄養職員とは考えが異なるとみられる.

    (考察及び結論)

     以上の結果から免許の意義は薄れていないと思われるものの全体の負担感は少なくなく,とりわけ栄養教諭の負担は大きい.これが一部の学校栄養職員が栄養教諭への移行を望まなくなる要因ではないかと推察される.本研究で明らかになったことを踏まえ今後栄養教諭等への聞き取り調査を行う予定であるが,この環境では全ての子どもの健康課題に応じるのは困難だと考えられる.栄養教諭等の負担軽減のためには国庫負担のない県費負担栄養教諭の加配が有効であるが,もっといえば国の配置基準の引き上げが肝要であり,その前提として学校給食を無償化に留まらせず,国の義務とすることが必須である.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施したものである(承認番号:2023-11).本発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

    (研究成果の公表)

     日本教育学会第83回大会,2024年8月29日広川単独口頭発表(於名古屋大学).

  • 鈴木 亜夕帆, 細山田 康恵, 渡邊 智子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_156
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     緑茶は,わが国で古くから嗜好飲料として国民に親しまれてきた.しかし,家計調査1)を見ると,2010年以降,緑茶は茶葉の消費よりもペットボトルや缶の茶飲料の消費が高まっている.

     近年,緑茶(煎茶)を粉末状にした「粉末茶(粉茶)」は,茶葉の廃棄がなく簡便に調製できるため,給食などで「お茶」として提供されることも多い.また,煎茶を急須で淹れた場合,煎茶の成分で湯に抽出された成分のみを摂取することができるが,粉末茶を湯に溶かしすべて飲む場合は,茶葉の持つ多くの成分を摂取することが可能になる.このことから,健康志向を背景に,緑茶の栄養成分を「まるごと摂取できる」というイメージから粉末茶への関心も高まっている.

     日本食品標準成分表2)では,煎茶「茶葉」「浸出液(茶葉から抽出した液体)」,抹茶(粉末)の成分値の収載はあるが,粉末茶を使用した液体の成分値の収載はされていない.

     そこで,従来通りの煎茶の浸出液,同じ茶葉を粉末にした場合の浸出液における成分含有量の違いについて,無機質を中心に成分分析を行い,茶葉の栄養成分がどの程度摂取可能かを明らかにすることを目的とした.

    (研究方法)

     試料:煎茶A(静岡県産深むし茶,1,000円/100 g),煎茶B(静岡県産深むし茶,2,000円/100 g).粉末茶は,茶葉用のセラミックミル(HARIO OMC-1-SG)を用いて,サンプル抽出日前日に茶葉を粉末にして冷凍保存した.

     抽出方法:茶葉は,プラスチック製急須を90℃の蒸留水200 mlで温め,湯を捨ててから,茶葉5g+90℃蒸留水215 mlで1分間抽出し,4回に分けてろ紙に出した(1回ごとに急須を振り,茶葉を急須内に均一にしながら排出した).4回目は20回急須を振った.

     粉末茶は,300 mlビーカーを90℃の蒸留水200 mlで温め,湯を捨てて,粉末茶2.5 g+90℃の蒸留水215 mlを入れた直後にガラス棒で混ぜ,その後1分間抽出し,ろ紙に出した.

     成分分析:水分は常圧加熱乾燥法,灰分は直接灰化法,無機質は原子吸光法,ビタミンC・スクロース・総糖度はRQフレックス法で実施した.

    (結果)

     茶葉浸出液(従来法)と同程度の抽出になるように粉末茶の量を調整した場合,茶葉浸出液(従来法)を100とすると,水分:煎茶ABともに100%,灰分:煎茶A94%・煎茶B77%,マグネシウム:A69%・B62%,ナトリウム:A73%・B92%,カリウム:A68%・B63%,ビタミンC:A80%・B77%,総糖質およびスクロース量:検知限界以下となった.

     茶葉の価格の違いによる比較をした場合,煎茶A浸出液を100とすると,マグネシウム:葉115%・粉103%,ナトリウム:葉135%・粉169%,カリウム:葉110%・粉102%となった.

    (考察)

     本研究では,粉末茶浸出液は従来法の茶葉浸出液より低くなった.これは,従来法と同程度の味になるように粉末茶抽出の際の粉量を茶葉抽出の1/2量にしたこと,抽出後にろ過を行い液体のみを分析したことも関連があると考えられた.通常,粉末茶はろ過することは少なく,抽出液中に混入した粉末茶も一緒に摂取することができるため,急須でろ過を行う茶葉抽出液より多くの無機質を摂取できると考えられる.

     茶葉の違いによる比較では,価格により浸出液の水分量は変わらないが,価格が高い茶葉のほうが,茶葉でマグネシウム,ナトリウム及びカリウムに,粉末茶でカリウムの含有量が多くなったことから,摂取目的に合わせて茶葉を選択することも可能であると考えられた.

令和5年度学長裁量研究抄録
  • ―他職種との連携・協働に焦点を当てて―
    石井 邦子, 川村 紀子, 北川 良子, 川城 由紀子
    2025 年16 巻1 号 p. 1_157
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     「妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援」の実現をめざし,子育て世代包括支援における多職種の連携システムが構築されつつある.助産師は,地域における母子保健に長年従事してきた実績を持ち,子育て世代包括支援を担う専門職のひとつと位置付けられている.しかし,新たな連携システムの中でどのような活動をしているのか,まだ解明されていない.

     本研究の目的は,子育て世代包括支援に参画している助産師支援活動の実態,特に子育て世代包括支援を担う他の専門職との連携・協働の実態を把握し,子育て世代包括支援充実のための課題を明らかにすることである.

    (研究方法)

     研究対象は,周産期領域における助産師実務経験3年以上と,子育て世代包括支援経験1年以上を有し,研究協力に同意した助産師であった.

     半構成的面接法により,基礎的情報と子育て世代包括支援の実際(担当事業,事業の対象者,支援の内容,他職種との連携・役割分担の有無と内容),子育て世代包括支援全般や他職種との連携・協働に関する考えを聴取した.子育て世代包括支援に関する語りを抽出し,意味内容を損なわないように要約してコードとし,事業毎に,類似性や異質性に基づきカテゴリー化した.

    (結果)

     研究対象者は助産師8名であった.実務経験年数は平均11.4±8.6年,所属機関は保健センター6名,産後ケア施設1名,病院1名であった.

     子育て世代包括支援の実際は,274のコードが抽出され,7の事業毎に支援内容と他職種との連携・役割分担に区別し,94のサブカテゴリー,41のカテゴリーに集約された.7の事業は,妊娠届出時の面接,妊娠中の個別支援,母親学級・両親学級,新生児訪問,産後の個別支援,産後ケア,事業全般であった.主なカテゴリーは,助産師が行う支援内容では,【リスクの査定を行う】【支援が必要な妊婦を抽出する】【妊婦のニーズに合わせて支援する】【母子のニーズに合わせて支援する】【母乳育児支援を行う】【母親の頑張りをねぎらう】等であり,他職種との連携・役割分担では,【保健師から依頼された支援を実施する】【他職種から依頼を受けて特定妊婦を支援する】【保健師と一緒に支援する】【他施設・他部署の担当者と情報共有して支援する】【助産師のみで対応できない支援を他職種に報告・依頼する】【母子に必要な専門的支援へつなぐ】等であった.

     子育て世代包括支援に関する考えは,108のコードが抽出され,18のサブカテゴリー,5のカテゴリーに集約された.カテゴリーは,【助産師の専門性を活かした協働ができている】【助産師の専門性を向上させたい】【助産師による支援が増える仕組みを望む】【他職種・他機関との連携充実を望む】【産後ケアを充実させたい】であった.

    (考察)

     助産師は,妊娠初期から産後の子育て期において,対象者のリスクを査定し,より支援が必要とされる母子を抽出した上で,個別のニーズに則した支援を行っていた.産後の支援では,母乳育児支援を行いながら母親の頑張りをねぎらい,対象者の身近な存在となり育児を支えていると考える.他職種との連携・役割分担において,保健師や他職種から助産師のケアを依頼され,また他職種と共有しながら共に支援を行っていた.そして,助産師だけで対応できない場合やハイリスクケースを必要時専門的支援へつなげ,他職種との連携を図っていた.互いの職種の専門性を理解し,密に情報共有・意見交換するなど,協力し合いながら対象者のニーズに合わせた支援の充実を図ることが重要といえる.

     助産師は子育て世代包括支援や他職種との連携・協働を実践する中,助産師の専門性を活かし他の専門職と協働できていると考えていた.一方で,助産師の専門性の向上や助産師による支援の増大,他職種・他機関との連携の充実等が課題としてあげられた.そのため,子育て世代包括支援において助産師の専門的支援が必要とされる対象と支援内容,他職種との連携の充実を図るために解決すべき課題を明確にすることが今後の課題である.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会にて承認を受け実施した(2023-21).

  • 細谷 紀子, 佐伯 恭子, 田口 智恵美, 山本 千代, 木内 千晶, 河部 房子, 大塚 知子, 大内 美穂子, 市原 真穂, 春日 広美 ...
    2025 年16 巻1 号 p. 1_158
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     団塊の世代が75歳以上となる2025年を目前に控え,地域包括ケアシステムの構築を推進することは喫緊の課題であり,地域包括ケア病棟をはじめ医療機関に勤務する看護職はその推進のために今までにない専門性や実践能力が求められている.このため,看護学科社会貢献委員会では,文献検討や令和3年度学長裁量研究により,地域包括ケアを担う看護職に求められる実践能力1)について明らかにした.また,看護学科では千葉県で働く看護職の研修ニーズを調査2)しており,看護職が少ない施設ほど研修受講率が低いという課題を明らかにしている.

     そこで,本研究は,先行研究の知見を基に「地域包括ケアを担う看護職に対する実践能力向上プログラム(以下,プログラム)」を開発し,千葉県内の中小規模病院に勤務する看護職を対象として試行的に実施・評価することを目的とした.

    (研究方法)

    1.プログラムの開発

     令和5年度看護学科社会貢献委員を中心とした11名の看護学科教員による研究チームを発足し,プログラムを考案した.本プログラムによる実践能力の変化(研修の効果)を測定するため,21項目からなる「地域包括ケアを担う看護職に求められる実践能力の自己評価項目(以下,自己評価)」を作成した.

    2.プログラムの試行と評価

     千葉県内200床未満の病院の地域包括ケア病棟に所属し,臨床経験が3年以上あり,地域包括ケアを推進することが期待されている看護師(1病院につき2名以内)を対象に,2023年12月~2024年1月にプログラムを行い,評価インタビューを2024年3月に実施した.集合研修参加前後のアンケート,評価インタビューの内容,自己評価の評価結果を分析した.

    (結果)

    1.開発したプログラムの概要

     プログラムはSTEP1:患者・家族への支援能力を高める,STEP2:地域包括ケアシステムを維持・発展させる連携調整・マネジメント力を高める,の2部構成とし,それぞれ「オンデマンド講義の視聴」「事前学習(ワークシートの記載)」「集合研修(グループワーク)」により構成した.

    2.プログラムの試行と評価

     8病院から看護師15名の研究参加を得た.職位は,主任7名(46.7%),スタッフ6名(40.0%),師長2名(13.3%),看護師経験年数は平均14.6年(±6.2),地域包括ケア病棟経験年数は平均3.6年(±1.6)であった.全員がSTEP1と2に参加した.事後アンケート結果である「プログラム全体の満足度」は,「満足」の割合がSTEP1では80%,STEP2では100%であり,「今後の看護に活かせるか」はSTEP1,2ともに9割以上が「そう思う」と回答した.両STEPにおいてディスカッションのすすめ方やワークシートへの改善案の意見を得た.

    (考察)

     本プログラム参加者の傾向として,看護師経験年数は豊富にあるものの,地域包括ケア病棟の経験が浅く,これまで獲得している看護実践能力に加え,地域包括ケア病棟特有の実践能力向上へのニーズがあることが確認された.結果から,総合的に満足度の高いプログラムであることが示唆されたが,改善の余地があり,今後は参加者を増やし,実践の変化等,アウトカム評価に基づくプログラムの有効性を検証していくことが課題である.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(申請番号2023-22).研究参加の任意性の保障等,倫理的配慮を実施した.

    (研究成果の公表)

     本研究の一部を第44回日本看護科学学会学術集会(2024年12月熊本市にて開催)にて発表した.

  • 河部 房子, 今井 宏美, 渡辺 健太郎, 仁井田 友紀, 真田 知子, 山本 千代, 石田 陽子, 松田 友美
    2025 年16 巻1 号 p. 1_159
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     研究者らは,2018~2022年度にかけて科学研究費補助金による助成を受け,看護師の臨床判断に基づくフィジカルアセスメント(以下,PA)能力育成に向けた教材開発に取り組み,その成果として教材アプリを開発した.この教材アプリはPA技術修得の一助として期待されるが,その教育効果についての検討はされておらず,評価は課題として残されている.そこで本研究では,PA技術修得を目的とした授業において本教材アプリを活用し,その有用性や効果を検証することを目的とした.

    (研究方法)

    対象:A大学にて2023年度開講の看護技術論Ⅱ(PA技術)を履修中および履修後の1~2年次生

    方法:PA技術学修中の1年次生,終了後の2年次生に対して,アプリを活用した腹部PA実施を依頼した.アプリの難易度やユーザビリティに関してMicrosoft Formsによる調査を行った.ユーザビリティは先行研究1)を参考に7項目(好感度,役立ち間,内容の信頼性,操作のわかりやすさ,構成のわかりやすさ,見やすさ,反応性)とした.

    アプリ概要:6日前にイレウスで入院した患者.3日前に胃管が抜けて昨日より食事が開始となった.本日のバイタルサインは,体温36.8度,脈拍65回,血圧118/64 mmHg 呼吸数16回である.検温の場面で,食事開始後の状況を観察するとともに,腹部のPAを実施する.

     この状況に対して,問診から始まり,視診,触診,聴診を実施.各段階で選択肢があり,いずれかを選びながらフォーカスアセスメントを進める.最終的に実施結果をリーダーに報告し終了.全20通りのアセスメントがあり,報告内容に応じて,不足している内容や間違っている内容が指摘される.

     学生の操作履歴は,選択肢の各ポイントでの表示ビュー件数と,そのポイントの平均所要時間が残る.

    分析方法:PA実施は報告内容毎の割合で算出した.Microsoft Formsによる調査は,各質問項目の得点を学年で比較検定した.自由記載は質的に分析した.

    (結果)

     対象学生は,1年次生24名,2年次生30名であった.教材アプリの実施状況として,利用回数は1~3回が49人(90.7%)と最も多く,初回に適切なPAを実施した学生は,22人(41.5%)であった.アプリの難易度については「ちょうど良い」が33人(61.1%),「やや簡単」が16人(29.6%)であった.今後も使用したいかについては47人(87.0%)が肯定的に回答した.ユーザビリティ7項目は,いずれも5段階中3.5~4.3であり,見やすさと反応性に学年間で有意差が見られた.自由記載では,良かった点では,【腹部PAとして学んだことの復習】【実際のPA実施のイメージ形成】【アプリ使用による学習の簡便性】【アプリの構成】が,改善点では【事前説明の不足・わかりにくさ】【動画再生の遅さ】【選択肢の少なさ・物足りなさ】【解答の不足】が,それぞれ4カテゴリー抽出された.

    (考察)

     結果から,本アプリの難易度は2年次生の方が簡単と答えた学生が多かったものの,1年次生は75%がちょうど良かったと答えたことから,演習の中で活用するには適切な難易度であると考える.またユーザビリティ評価からは,反応性と見やすさに学年間での有意差はみられたものの,反応性については使用時の回線への負荷による影響と思われる.本アプリの構成は概ね適切であり,本教材アプリを活用することにより,現実の患者への実践機会が限定されるPA技術の実際のイメージ化をはかり,技術修得の促進に有用であることが示唆された.

    (倫理規定)

     千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認を受け実施した(承認番号2023-28).

    (利益相反)

     本研究内容に申告すべきCOI状態はない.

    (研究成果の公表)

     本研究の一部は,日本看護学教育学会第34回学術集会にて発表した(2024年8月20日,東京都).

  • 田口 智恵美, 内海 恵美, 大塚 知子, 大内 美穂子, 坂本 明子, 三枝 香代子, 浅井 美千代
    2025 年16 巻1 号 p. 1_160
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     本研究は,看護師の国家資格を得て,千葉県内の病院に入職した新人看護師が,職場で抱えている困難を明らかにし,本県の臨床現場に則した看護基礎教育の在り方を検討することを目的に実施したものである.

    (研究方法)

    対象:2023年度に県内病院に入職した新人看護師.

    方法:県内病院名簿記載の約290施設のうち,2022年度に同調査実施時に看護管理者の協力同意を得られた52施設の対象者に無記名式Webアンケート調査を実施した.

    期間:2024年1~2月.

    内容:対象者の属性(選択式),看護師として働いて困難を感じた項目(厚生労働省新人看護職員研修ガイドライン改訂版を参考に作成,選択式),印象に残っている困難体験,看護基礎教育課程で教えてほしかった内容,学生時代に身につけておくべきだったと思う看護実践能力,卒業後にあったらよいと思う支援(以上自由記述).

    分析方法:量的データは単純集計,自由記述は設問ごとに代表的な記述内容を抽出した.

    (結果)

     1,150名に配布し,310名から回答を得た(回収率27%).

    1.対象者の属性 在籍した学校種は,4年制大学が157名(50.6%),看護系専門学校が142名(45.8%),高等学校専攻科が11名(3.6%)であった.所属施設規模は病床数300床以上が228名(73.6%),200床以上300床未満が45名(14.5%),100床以上200床未満が25名(8.0%),100床未満が12名(3.9%)であった.

    2.看護師として働いて困難を感じた項目 半数以上が困難を感じたと回答した項目は114項目中21項目であった.そのうち7割以上の看護師が困難を感じた項目は「死後のケア(74.5%)」「人工呼吸器の管理(70.3%)」,「決められた業務を時間内に実施できるように調整する(71.6%)」であり,次いで「複数の患者の看護ケアの優先度を考えて行動する(69.3%)」「体動,移動に注意が必要な患者への援助(例:不穏,不動,情緒不安定,意識レベル低下,鎮静中,乳幼児,高齢者等への援助)(64.8%)」「気管挿管の準備と介助(61.9%)」であった.

    3.印象に残っている困難体験 死後のケアでは家族対応や死と向き合うことが挙がった.人工呼吸器の管理ではアラーム対応,器械の取り扱い,学ぶ機会の少なさなどが挙がった.業務管理では,ケアの多さや多重業務でやりたいケアが終わらない,複数患者のアセスメントが追い付かない,予定外の指示で計画の修正ができない,などが挙がった.不穏の患者に対しては暴れたときの対応や状態のアセスメントなどが挙がった.

    4.看護基礎教育課程で教えてほしかった内容

      記録の書き方,報告の仕方,点滴の準備・作成・実施・管理,採血,多重課題,優先順位の考え方,コミュニケーションスキル,心電図の読み方,急変時の対応,薬の作用・副作用,業務の実際,家族対応,経管栄養,エンゼルケア,などが挙がった.

    5.学生時代に身につけておくべきだったと思う看護実践能力

      急変時の対応と判断については134名(43.2%)が挙げた.そのほか,点滴に関すること,採血,導尿,ドレーン挿入・装着物のある患者への清潔ケア,創傷処置,優先順位の考え方,などが挙がった.

    6.卒業後に学校からあったらよいと思う支援

      同窓会,転職支援,苦手な看護技術の練習,などが挙がった.

    (考察)

     「死後のケア」「人工呼吸器の管理」は,田口らの本学卒業生を対象とした先行研究ではともに9名中4名が困難を感じたと回答しており,割合は半数に満たなかった.対して,「決められた業務を時間内に実施できるように調整する」は先行研究では9名中7名が困難を感じており,今回の結果から本学卒業生だけでなく千葉県内の新人看護師にとっても困難な実践であることが明らかになった.また,学生時代に身につけておけばよかった看護実践能力は,今回の結果では急変時の対応と判断を記述した対象者が4割を超えた.上述の先行研究でも「急変時の対応・状況判断力・技術力」が挙がっており,急変時の対応については課題であると考える.

    (倫理規定)

     研究者所属施設倫理委員会の承認を得て実施した.(承認番号2023-13)

  • 酒巻 裕之, 鈴鹿 祐子, 松木 千紗, 桒原 涼子, 鈴木 英明
    2025 年16 巻1 号 p. 1_161
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     2022年の千葉県における高齢化率は27.5%であり,年々増加している.高齢者が口腔を良好な健康状態に保つためには,歯数を維持するとともに口腔機能にも着目する必要がある.Oharaらは,地域在住高齢者の口腔健康の調査で,「歯の数」よりも「硬いものがかみにくい」,「お茶や汁物でむせる」,「口が渇く」などの口腔機能の低下が口腔健康に強く関与していたと報告している.口腔の機能が低下すると,そうでない人と比較し低栄養状態である割合が2.17倍高いと報告されており,早期の口腔機能低下状態のときに,適切な栄養指導や口腔機能を改善する訓練の指導が求められている.

     そこで,第5回歯科衛生士研修会では,第1回歯科衛生士研修会と同様の「口腔機能低下症」をテーマとして,口腔機能低下症に関する検査法の確認ならびに検査結果の評価の習得を目的としたリカレント教育プログラムを実施した.また本研修会では,千葉県の「歯・口腔の健康づくり推進条例」の改正や,「第3次千葉県歯・口腔保健計画」について,行政の立場から現状と課題を含めた講義を行った.

     本報告では,研修会の概要と研修会終了後に実施した質問調査の結果について報告する.

    (研究方法)

     第5回千葉県立保健医療大学歯科衛生士研修会に参加した13名を対象とし質問調査を実施した.

     本研修会は2024年3月に実施した.内容は,「口の中の構造と役割」,「口腔機能低下症と精密検査法」について講義を行い,口腔機能低下症に対する精密検査法それぞれについて参加者相互で実習を行った.その後,「検査結果の評価や口腔健康管理」,「令和6年度診療報酬改訂に伴う口腔機能低下症の検査に関する変更点」の説明と,共同研究者から「千葉県歯・保健計画」の概要から口腔機能低下症に関わる内容について講義を行った.

     本研究会終了後に,Microsoft Formsにて無記名設定の質問調査を実施した.一部自記式多肢選択式とし,質問は参加者自身の振返りからの理解度を検討する内容で,年齢,勤務状況,研修会全体の満足度,研修会前後の理解度,今後の研修会に対する要望や研修テーマとした.

    (結果)

     本研修会の参加者は13名であり,9名(75.0%)から質問調査の回答を得た.回答者は歯科診療所や行政,歯科衛生士養成校に勤務する歯科衛生士であった.研修会全体ならびに研修会の内容の満足度は,「非常に満足」と「やや満足」を合わせて8名(88.9%)であった.本研修会前の状況は,「口腔機能低下症と検査法の概要」は全員が知っていた.「口腔機能低下症に対する改善法」は,7名(77.8%)が知っていると回答した.研修会後は,「口腔機能低下症に対する検査法の概要」と「口腔機能低下症に対する改善法」はそれぞれ8名(88.9%)が,「診療補助について」は7名(77.8%)が理解できたと回答した.回答者全員が検査の実習が有意義で,本研修会の内容を今後の歯科衛生業務に活用できると回答した.

    (考察)

     千葉県では,成人期における歯周炎の有病率が増加傾向にあり,歯の喪失による口腔機能の低下が起こり,オーラルフレイル対策が重要であるとされている.したがって,口腔健康管理や必要な口腔機能訓練を行い,口腔機能の維持を図ることが求められている.

     本研修会は,口腔機能検査に関する検査法について講義だけではなく実習を取り入れたことから,口腔機能低下を呈する患者の歯科診療補助について情報整理ができたと考えられ,研修は有意義であったと推察された.また,現在,自治体による住民に対する口腔機能検査や歯科口腔健康診査が実施されていることから,口腔機能低下症に関する検査や口腔機能訓練を担当する歯科衛生士の役割は大きくなってきていると考えられた.

     また本研修会では,県と本学の連携の開催となり,行政に勤務する歯科衛生士のみならず,参加者全員が新たな情報を得ることができた.

    (倫理規定)

     本研究は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認(2023-12)を得て実施した.

    (研究成果の公表)

     本報告の概要は,第15回日本歯科衛生教育学会総会・学術大会(大阪)において発表した.

  • 成田 悠哉, 室井 大佑, 松浦 めぐみ, 坂崎 純太郎
    2025 年16 巻1 号 p. 1_162
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    (緒言)

     新型コロナウイルス(以下,コロナ)の流行により,緊急事態宣言の発出や外出自粛要請など住民の生活を変化させた.高齢者はウイルスの直接的な影響とコロナの流行による活動制限の間接的な影響の両方に対して脆弱とされ,コロナ流行下の生活習慣の変化やストレスレベルの上昇により,健康リスクが高まることが懸念されている.

     先行研究では,コロナの流行が高齢者の顕著な体力低下につながることや1),活動制限による抑うつ,睡眠障害,孤独感が増加する等の知見が蓄積されつつある2).しかし,身体的または精神的健康への広範な影響に焦点が当てられたものが多く,血圧やコレステロール等の健康指標への影響は十分に明らかになっていない.また,コロナ流行前と流行下の高齢者の健康状態を比較した報告も少ない.

     本研究は,2018年から2021年までに毎年受診した高齢者の健診データを分析し,コロナ流行による健康指標の変化を明らかにする.

    (研究方法)

     2018年から2021年までA市で特定健康診査及び後期高齢者健康診査(以下,健診)を毎年受診し,データを研究に用いることに同意が得られた65歳以上の健診データを対象とした.コロナ流行前の2018年と2019年,コロナ流行下の2020年(9月から10月に受診)と2021年の4地点のデータを使用した.各年の年齢の不一致(17名)や受診間隔が10ヶ月未満の者(332名)は除外した.最終的な分析対象者は男性656名(平均年齢±標準偏差:72.6±5.1歳),女性602名(71.8±4.8歳)であった.

     健康指標は,各年のBMI,収縮期血圧,拡張期血圧,HDLコレステロール,LDLコレステロール,中性脂肪,AST,ALT,γ-GTP,HbA1cとし,4地点の中央値を男女別に比較した.各年のデータの比較には,Friedman検定を用い,有意水準はBonferroni法を使用して補正した(p<.0083,.05/6).

    (結果)

     男女ともに収縮期血圧,拡張期血圧,AST,HDLコレステロールは,コロナ流行の影響を受ける前の2018年から2019年にかけて加齢変化に伴う有意差は見られなかったが,これらの指標はコロナ流行前の2018年や2019年と比べて,コロナ流行下の2020年や2021年に有意に上昇していた.女性のみの所見として,ALTが2018年,2019年に比べて,2020年,2021年に有意に上昇していた.HbA1cは男女ともに経年で増加していたが,コロナ流行前と流行下に有意差は認めなかった.BMIや中性脂肪,LDLコレステロール,γ-GTPに関しても,コロナ流行前と流行下にて有意差を認めなかった.

    (考察)

     2018年から2021年にかけて65歳以上の高齢者の健康診査を分析した結果,男女ともにコロナ流行前と比較し,コロナ流行下に血圧,AST,HDLコレステロールが有意に上昇し,女性ではALTの上昇が確認された.これらの変化は,コロナ流行下による生活習慣の変化やストレスの増加と関連している可能性があり,他の研究の結果と一致している3)

     成人を対象とした先行研究ではBMIや体脂肪率の増加が報告されているが3),本研究の高齢者においてはコロナの流行前と流行下において変化はみられず,異なる傾向も確認された.選択バイアスや交絡因子を考慮したさらなる研究が求められる.

     本邦では感染拡大防止の観点から,健診の一時的な自粛が要請され,各自治体は対応を求められた.今後,パンデミックにより社会生活が変化した際に高齢者の健康状態を把握し,その対応方法を検討していくことは重要と考える.

    (倫理規定)

     本研究は,本学の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2023-08).

健康福祉部との意見交換会報告
  • ―保健・医療・福祉の連携拠点として―
    河部 房子, 大川 由一, 平岡 真実, 木内 千晶, 酒巻 裕之, 成田 悠哉, 室井 大佑, 岡村 太郎, 佐藤 紀子, 龍野 一郎
    2025 年16 巻1 号 p. 1_163
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/07
    研究報告書・技術報告書 フリー

    はじめに

     毎年開催している取組報告会は,今年で第5回目となる.保健・医療・福祉の連携拠点として位置づけられている本学の機能のさらなる発揮に向け,本学の取組を報告し,県の健康政策担当者との意見交換を行った.以下に概要を報告する.

    報告会の概要

    日時:2024年11月7日(木)11:00~12:00

    会場:県庁本庁舎11階 健康福祉部会議室

    出席者:健康福祉部16名(岡田健康福祉部長,鈴木保健医療担当部長,井本次長,出浦次長,健康福祉政策課2名,健康づくり支援課2名,疾病対策課,高齢者福祉課,障害福祉事業課各1名,医療整備課4名)

        保健医療大学13名(龍野学長,大川副学長,佐藤学部長他10名)

    報告内容

    1.大学の概要およびこれまでの取組と成果・卒業生調査結果について

     将来構想検討委員長 河部房子,

     自己点検・評価委員長 平岡真実

     今年度の本学の取組について,「人材育成」「シンクタンク機能」「地域貢献」の観点から,令和5年度の実績および6年度の取組状況を報告した.また,昨年度実施した卒業生調査の結果について報告した.

    2.主な取組の紹介

    ⑴ 研究的取組

     リハビリテーション学科作業療法学専攻 成田悠哉

     昨年度から継続して行っている「Covid-19前後の特定健康診査・後期高齢者健康診査のデータ解析から導出された健康指標の現状と課題 ―自治体との協働から―」について,結果の概要を報告した.

    ⑵ 専門職の質向上をはかる取組

     看護学科 木内千晶,歯科衛生学科 酒巻裕之,

     保健医療専門職の実践の質向上につながる取組として本学で実施している研修について,昨年の報告に引き続き,その成果を中心に報告した.

    今後に向けた意見交換(抜粋)(進行;大川副学長)

    1.「Covid-19前後の特定健康診査・後期高齢者健康診査のデータ解析から導出された健康指標の現状と課題 ―自治体との協働から―」結果について

    ・いすみ市のベースラインとして,生活習慣病リスクが高い原因は何か.自治体として解決・改善する手段があるか.県でも「健康ちば21」の中で「自然に健康になれる千葉県づくり」に取り組んでおり,自然に解決できる政策的なアプローチがあれば好事例だと思う.

    ⇒自治体との話の中で,飲酒習慣や味の濃さなど,食習慣が生活習慣病リスクと関連している可能性も挙げられていた.今後の関わりとしては,ほい大プログラムの継続やいすみ市で実施している健康フェアの広報を考えている.自然に健康になるというのは大事なので,今後の展開を検討していきたい.

    ・いすみ市の調査は他の自治体も関心が高いと思うが,他の自治体からのアプローチはあるか.また保医大以外の研究機関で似たような研究は行われているか.今後の展開はどう考えているか.

    ⇒千葉大学では,公衆衛生学領域で全国規模での調査を行っている.その研究に協力している県内の自治体もあり,研究参加を通して各自治体のニーズや施策を検討している.病院と自治体が協働して体力測定を行うなどの事例もある.いすみ市の課題は明確になったが,どう介入するかは今後の検討課題である.今後の展開として,本学が分析を全て行うのではなく,最終的には自治体の保健師や関連職種の方を中心とした取組とし,それに本学が協力していけるような仕組みを考えている.

    ・旭市と千葉大学,企業(ノボノルディスク)が行っている糖尿病予防の取組を,国のモデル表彰事業として千葉県から推薦したこともある.こちらも今後の展開によっては好事例になるかもしれないため,今後も情報交換をしていきたい.

    ・自然に健康になれる健康づくりという点で,まさにこの研究は,県が市町村から集めているデータを活用し自治体と協働して行っていただいており,非常にありがたい.これを市町村が独自に行うこと最終目的であるため,市町村への情報発信が重要である.今後,力になれることもあると思うので相談していただきたい.

    2.地域包括ケアを担う看護職に対する実践能力向上プログラムについて

    ・独自にプログラムを検討されたという理解でよいか.病院の問題意識は高いと思われるが,今後普及する手立てをどのように検討しているか.

    ⇒ニーズ調査や先行研究をふまえ,本学が独自に開発したものである.今後の展開としては,プログラムのパッケージ化をはかり,臨床現場で看護師が研修を推進していけるような人材育成につなげたい.

    ・2つの研修について,同じ受講生が連続して受講するのか.パッケージ化について,例えば看護協会との連携や実現の見込みについてはどう考えているか.

    ⇒当初はそれぞれのニーズで研修を受けてもらうことを想定していたが,実施してみるとほとんどの対象者が両方の研修を受講していた.パッケージ化について,具体的な検討はこれからである.

feedback
Top