臨床リウマチ
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31 巻, 4 号
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誌説
総説
  • 菅野 祐幸
    2019 年31 巻4 号 p. 271-274
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

     関節リウマチ(RA)の滑膜炎は,滑膜表層部にある毛細血管周囲へのCD3陽性T細胞の浸潤から始まる.RA滑膜炎の組織学的特徴として多数の形質細胞浸潤,リンパ濾胞形成などが挙げられるが,これらは変形性関節症(OA)を含め慢性化した滑膜炎で認められる所見である.RA滑膜炎にのみ認められる所見(RA特異的な炎症所見)は明らかではなく,組織学的所見のみでのOAとの鑑別は困難である.RA特異的な組織所見を敢えて挙げるとすれば,滑膜下結合織での多彩な線維芽細胞の増殖で,RA病変形成に寄与する炎症性サイトカイン(IL-1, TNFα等)で活性化された結果と考えられる.また,RA滑膜での炎症細胞の多寡はRA罹患関節の骨破壊とは相関しない.骨破壊を担うのはパンヌスであり,増殖滑膜でのリンパ球,形質細胞浸潤の程度はパンヌス形成の程度とは必ずしも相関しない.従って,滑膜炎表層部の炎症細胞浸潤の程度から骨破壊性を評価することは困難である.最近の生物学的製剤による治療によりRA滑膜炎は劇的に改善されるようになった.各種製剤に認められる共通した効果としては,滑膜細胞の多層化の軽減やリンパ球・形質細胞浸潤の減少に加えて,線維化の進行がある.生物学的製剤の劇的な効果が示すことは,標的となる炎症性サイトカインのRA病変形成における重要性であり,サイトカインの影響を反映する組織学的所見に注目することが大切であろう.

原著
  • 香川 英俊, 山中 龍太郎, 玉城 雅史, 青木 康彰
    2019 年31 巻4 号 p. 275-284
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    【目的】地域の関節リウマチ(RA)診療/地域連携の現状を調査するとともに,患者の動き(方向/量)を規定する修正可能な因子を検討する.

    【対象・方法】当院膠原病内科との勉強会参加メンバー22施設23部門に2017年1年間のRA診療/病診連携についてアンケート調査を行い,13施設14部門(病院1:クリニック12,内科9:整形外科5,専門医4:非専門医10)より回答を得た(回収率61%).患者を動かす3場面(発症時,悪化時,安定期)での各施設の診療方針(方向),紹介患者数(量)をアウトカムと定義して,これらを規定する因子を検討した.

    【結果】回答の得られた施設全体での1年間のRA総患者数は1028人,前年からの継続832人,紹介初診130人,初発145人,逆紹介129人であった.専門施設にはRAの発症/悪化,非専門施設には患者の安定が主な紹介理由であった.初発患者の77%が専門施設で治療開始され,MTX/生物学的製剤が63%に使用されていた.非専門施設でもMTXが50%に使用されていた.専門医は3場面を自身で対応するのに対し,非専門医の診療方針(方向)は「経験患者数」が規定していた.経験患者数20人程度で,初発患者の初期治療にトライする傾向がみられ,50人程度で専門医に匹敵する治療が提供されていた.紹介患者数(量)は「逆紹介患者数」と強い相関がみられた.

    【結論】逆紹介患者数を意識しながら,それぞれにふさわしい患者を紹介しあって経験患者数を増やすことは,地域全体のリウマチ診療の質を高め,地域格差を縮小させる可能性がある.具体的には,経験患者数20人以上を一緒に目指してくれる少人数の信頼できる非専門医と密に連携することが,特に専門医/専門施設の少ない地域では効率がよいと思われる.

  • 西山 進, 相田 哲史, 吉永 泰彦, 宮脇 昌二, 當間 重人
    2019 年31 巻4 号 p. 285-293
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)の実態を調査した.

    【方法】The National Database of Rheumatic Diseases in Japan(NinJa)に登録された当科のRA患者852(男157,女695)名のデータを二次利用して調査を行った.

    【結果】高齢RA患者は腎機能低下が進行し,methotrexate(MTX)使用率,量ともに低値であった.75歳以上の高齢RAはステロイド使用率が高かったが,ステロイド量は年代と無関係に平均5mg/日以下の低用量に抑えられていた.生物学的製剤は若年者と高齢者で使用率に差がなかったが,高齢患者はtumor necrosis factor(TNF)を標的としない製剤の割合が多かった.75歳以上の高齢RAのうち60歳以下で発症した患者は60歳を超えて発症した患者よりも罹病期間が長く,身体機能の低下が顕著であった.

    【結語】腎機能低下がMTX低使用と関係し,罹病期間が長い高齢RAは身体機能低下が進行していた.

  • 中村 郁勝, 須古 杏子, 森岡 淳子, 高岡 宏和
    2019 年31 巻4 号 p. 294-299
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    【目的】ポリファーマシー(PP)は,副作用発現率の増加に影響するが,関節リウマチ(RA)患者は,抗リウマチ薬に加え対症療法薬の使用など多剤併用となる要因が多い.今回,RA患者におけるPPの評価を「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を用いて行った.

    【対象・方法】2015年4月から2018年3月までの当院リウマチ膠原病内科外来患者のうちメトトレキサート投与中の75歳以上のRA患者77名において後方視的に薬歴調査を行った.

    【結果】処方剤数5剤以下群,6~9剤群,10剤以上群の該当は各々48名,13名,16名であり,各群における「特に慎重な投与を要する薬物」の処方割合は52%,85%,100%であった.併用薬剤の処方率は,プレドニゾロン(PSL)36%,非ステロイド性消炎鎮痛薬53%,葉酸73%,疾患修飾性抗リウマチ薬9%,生物学的製剤13%であった.PSL服用患者では消化性潰瘍治療薬85%,骨粗鬆症治療薬57%,睡眠導入薬29%,血糖降下薬21%が併用され剤数増加の要因となっていた.

    【考察】今回,PSLの副作用予防薬の併用がRA患者における多剤投与の要因の一つであることが分かった.また,「特に慎重な投与を要する薬物」の処方率が高いことから,RA患者においては,単なる剤数の評価ではなくこれらの薬物の継続についての評価を医師とともに検討する必要があると思われた.RAの早期診断・早期治療によるPSL長期使用の回避がPP対策の一つとなり,そのための抗リウマチ薬適正使用を目的とした薬学的介入が今後重要である.

  • 矢坂 健, 吉川 和寛, 三森 明夫, 福田 亜純, 中屋 来哉, 相馬 淳
    2019 年31 巻4 号 p. 300-306
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    【目的】成人スチル病(ASD)の治療に,トシリズマブ(TCZ)が有効であるとの文献報告がある一方で,投与後にマクロファージ活性化症候群を合併したとの報告もあり,安全性についての検討を要する.当科の経験を詳述することで,実臨床におけるTCZ使用法を検討する.

    【対象・方法】当科では7例のASD症例にTCZ治療を行った.その全例について,投与後3か月間のステロイド投与量,臨床データの変動を後方視的に解析した.

    【結果】年齢中央値(四分位)は44歳(41-59)で,3例が男性だった.5例が新規発症で,2例が再発例であった.すべての症例で,TCZ 8 mg/kgが1-6週の間隔で点滴静注された.7例とも,TCZ投与によりステロイドの迅速な減量が可能であった.1例は腹腔内感染症のため,投与を中止した.7例中6例で,TCZ初回,または二回目の投与後に,一過性の血小板減少が観察された(うち4例は同時にフェリチン値の再上昇を認めた).いずれも一過性であり,治療の継続が可能であった.

    【結論】急性期のASDでは,TCZ開始後にデータ異常(血小板減少とフェリチン再上昇)が高率にみられるが,十分量のステロイド治療下にTCZ投与を継続すると,データ異常は一過性であり,安全な寛解導入が実現した.

  • 冨田 大介, 志賀 俊彦, 田崎 知江美, 野﨑 祐史, 船内 正憲, 松村 到
    2019 年31 巻4 号 p. 307-313
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

     症例 30歳,男性.5年前頃から皮疹と関節痛の増悪と改善を繰り返し,3週間前から増悪を認め入院となった.血球貪食症候群を認め,全身性エリテマトーデス(SLE)等の膠原病が疑われたが各種自己抗体は抗核抗体を含め陰性であった.しかし,皮膚ループスバンドテスト(LBT)の陽性所見からSLEと診断された.本例のように血清抗核抗体が陰性だが,臨床的にSLEが疑われる場合は,LBTを含む病理組織学的検査を施行することが重要と考えられた.

  • 近藤 直樹, 工藤 尚子, 藤沢 純一, 遠藤 直人
    2019 年31 巻4 号 p. 314-320
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    【目的】関節リウマチ(RA)患者におけるセルトリズマブペゴル(CZP)の臨床成績を調査すること.

    【方法】18症例のRA(女性16例,男性2例)を対象とした.年齢は平均58.5±12.1歳(25-75歳).RA罹病期間は平均6.3年だった.このうち7例が生物学的製剤未投与(ナイーブ)であった.11例に生物学的製剤が延べ21剤使用されていた(エタネルセプト8,アダリムマブ4,トシリズマブ4,アバタセプト2,インフリキシマブ2,ゴリムマブ1).メトトレキサートは14例(平均投与量7.1 mg/週, 4-10 mg/週),プレドニゾロンは5例(平均投与量4.5 mg/日,2.5-5 mg/日)用いられていた.疾患活動性,EULARレスポンス,継続率,有害事象について調査した.

    【結果】DAS28はCZP導入時4.34から導入後1.5か月で3.73(p=0.0008,対応のあるt検定,以下同様),3か月で3.10(p=0.0037),6か月で2.53(p=0.0006),12か月で2.67(p=0.0019)と有意に低下した.Moderate responseが13例,72.2%で得られた.継続率は24週で67%,1年で61%であった.CZPの無効中止は5例,有害事象中止は2例(1例はCZP注射時疼痛,1例は基礎疾患の気管支喘息悪化)であった.

    【結論】CZPは導入後6か月で平均DAS28において寛解が得られたことから,治療抵抗性のRAにおいてもCZPは有効であると示唆された.

  • 高桑 由希子, 大岡 正道, 山崎 宜興, 内田 麻理奈, 安藤 貴泰, 川畑 仁人, 黒川 真奈絵
    2019 年31 巻4 号 p. 321-327
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

     顕微鏡的多発血管炎(MPA)に異なる組織型の固形癌(進行性大腸癌と肺扁平上皮癌)を合併した例を初回報告する.本例は癌を治療せずMPAを治療し,ステロイド漸減中に肺アスペルギルス症を合併し死亡した.固形癌のMPA発症・悪化への関与が考えられ,既報の解析より癌治療で抗好中球細胞質抗体関連血管炎が改善する可能性が示された(p < 0.05).MPA診断時は複数の固形癌合併の可能性も考えた全身検索を推奨する.

  • 河田 里美, 香川 智子, 鎌田 美和, 塩田 昌代, 大平 光代, 神野 智子, 永安 美樹, 高畑 さゆり, 仁木 友美子, 武井 あゆ ...
    2019 年31 巻4 号 p. 328-335
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

    目的:高齢関節リウマチ(RA)患者は,身体的・社会的な問題を抱えており,チーム医療が重要と考えられるが確立された手段はない.今回我々は,チーム医療を円滑に進める上で,患者の身体機能・精神状態・認知度を把握するために当院オリジナルの問診票に加えて高齢者総合機能評価簡易版(Comprehensive Geriatric Assessment7, CGA7)による評価を行い看護診断し,チーム医療を行ったので,報告する.

    対象・方法:RAで当院に初回入院した患者で協力を得られた9症例(73~84歳,平均年齢82.2歳)を評価対象とした.入院時,看護師により当院オリジナルのRA問診票を聴取し,加えてCGA7による評価を行った.評価により身体機能と認知機能に問題がないグループⅠ(GⅠ),認知機能に問題はないが身体機能の低下があるグループⅡ(GⅡ),認知機能低下及び自己管理能力や身体機能低下に問題があるグループⅢ(GⅢ)に患者を分類し,チーム医療を行った.

    結果:GⅠが2症例,GⅡが5症例,GⅢが2症例であり,GⅠには一般的な患者指導を行った.GⅡには,身体機能の回復のため,リハビリ指導と転倒予防の生活環境整備指導を行った.GⅢは,医師による内服薬の見直し,家族を含めた薬剤師による内服管理指導,栄養士による栄養指導を行った.

    考察:入院する高齢RA患者に対し,RA問診票とCGA7を使用して看護診断し,個々の症例に合わせて入院中のチーム医療と入院後の指導を行う事は適切な患者の評価と円滑なチーム医療遂行に有用であると思われる.

誌上ワークショップ 関節リウマチと骨:最新のトピックス
  • 岡本 一男
    2019 年31 巻4 号 p. 336-342
    発行日: 2019/12/30
    公開日: 2020/02/05
    ジャーナル フリー

     骨は運動器としてだけでなく,造血幹細胞や免疫前駆細胞の分化・維持の場を提供する免疫組織の役目も果たす.さらに骨と免疫系は,サイトカインや受容体など多くの制御因子を共有し,不可分な関係を築いている.骨と免疫系の相互作用や共通制御機構に関する研究は骨免疫学と称され,主に関節リウマチの病態研究を中心に発展してきた.TNFファミリーサイトカインのRANKLは破骨細胞分化だけでなく,リンパ節や胸腺などの免疫組織形成にも必須の機能を果たし,まさに骨と免疫の共有因子の代表格に相当する.一方,RANKLの過剰な活性化は破骨細胞亢進により,関節リウマチの骨破壊や閉経後骨粗鬆症,がん骨転移に伴う骨病変など引き起こす.現在ヒト型抗RANKLモノクーナル抗体はこうした骨量減少疾患の治療薬として用いられている.またRANKLは膜結合型タンパク質として発現する他,細胞外領域でタンパク質分解酵素により切断を受け可溶型タンパク質として産生される.これまで,可溶型RANKLと膜型RANKLの生体内での役割の違いが不明であったが,最近我々は可溶型RANKLを選択的に欠損させたマウスを作製し,可溶型RANKLの生理学意義及び病理学意義を明らかにした.本稿ではRANKLの骨免疫学的機能を概説するとともに,がん骨転移における可溶型RANKLの特異機能について最新の研究成果を紹介する.

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