文化資源学
Online ISSN : 2433-5665
Print ISSN : 1880-7232
18 巻
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論文
  • 辻 泰岳
    原稿種別: 論文
    2020 年 18 巻 p. 1-16
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    本稿では建築家のアントニン・レーモンドとノエミ・レーモンドが収集した器物が展示された「Japanese Household Objects」展(1951年)を題材として、かれらが文化外交(カルチュラル・ディプロマシー)にどのような思いを介在させようとしていたのかを明らかにする。先行する成果として、たとえば2006年に開催された「Crafting a Modern World」展はジェンダー・スタディーズの観点をふまえ、アントニンだけではなくノエミの関与を含めてかれらの活動を包括的にまとめている。そこで本稿はこの成果に続き、ペンシルバニア大学のアーカイブズやMoMA Archivesに保管される資料を用いて、レーモンド夫妻の実践が占領期の社会と不可分の関係にあったことを示す。この「Japanese Household Objects」展は、ジョン・D・ロックフェラー三世とブランシェット・ロックフェラーが推進しようとしていた文化による外交をいちはやく視覚化する機会でもあった。ただしこの展覧会はノエミの打診に応じたフィリップ・ジョンソンが開催に至る準備を進めたため、自分たちの目で見た日本を紹介したいと考えていたアントニンとノエミは「日本の食卓を表していない」と不満を漏らした。他方、この会期中にはレーモンド夫妻がイサム・ノグチと共に設計を進めていたリーダーズ・ダイジェスト東京支社も竣工する。アントニンとノエミは「Japanese Household Objects」展に続き、このホールで開催された「現代日本陶磁展」にもかかわるが、要人が集まるこの展覧会もやはり、外交の渦中にあった。本稿では外交が文化を資源として扱うことでそれを規定し直す過程に着目しながら、こうした経緯を詳らかにすることによって、当時の外交が建築や絵画、彫刻、工芸といった造形の区分を再編する契機でもあったことを描く。あわせてアントニンとノエミが文化の当事者として外交に織り込もうとした思いと、それが後に及ぼした影響を考えたい。

研究報告
  • 筬島 大悟
    原稿種別: 研究報告
    2020 年 18 巻 p. 17-30
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    近年、世界遺産委員会会合において、特に世界遺産リストにおける締約国の推薦資産の審査の際、当該資産の価値の解釈について、各国の主張と条約の諮問機関の意見の対立が顕著にみられるようになってきた。本稿では、そもそも世界遺産条約作成時において、条約の作成者たちが条約の運用をどのように考え、何が国際的に価値のあるものなのかを議論していたかを明らかにするために、各諮問機関によって最初のクライテリア草案が提示された史料である『モルジュレポート』の分析を行った。分析の結果、当時の諮問機関の専門家たちは、多くは固有な価値といった普遍性を評価する基準を作成しながらも、一部に「カテゴリー資産」、「人と自然との関係」など代表性を評価する視点を有していた。したがって、グローバル・ストラテジー以前から、すでに代表性を評価する視点を有していたことが示された。

  • 比護 遥
    原稿種別: 研究報告
    2020 年 18 巻 p. 31-41
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    近代化の装置としての博物館におけるモノの移動を通した国際文化交流の事例として、外務省外交史料館に所蔵されている史料「日仏両国間ニ於テ美術品選択交換約定一件」(1882-1885)をもとにした考察を行う。ルーヴル美術館に「日本室」を作るために、日仏間で美術品交換を行うというフランス側からの提案は、日本側にも承諾され、いったんは交渉が妥結したが、最終的に決裂した。この経緯から、第一に、文化交流が政治や外交の外部にあるという先行研究の前提と異なり、文化と外交は不可分の課題であったことがわかる。第二に、交換品についての両国の認識から、「美術」の捉え方にも関わる齟齬が読み取れる。両国ともに産業に役立てる狙いは共有していたとはいえ、技術進歩のために工芸品を求めた日本側に対して、フランス側は日本の歴史的物品にある芸術的価値を認め、その意匠を取り入れることを意図して、古美術品を獲得しようとした。

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