環境と安全
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4 巻, 3 号
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原著
  • 中川 浩行, 本田 由治, 酒井 伸一
    2013 年 4 巻 3 号 p. 171-176
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
     溶剤や溶剤の安定剤として汎用的に用いられている1,4-ジオキサンは、水に溶けやすいため、有害な重金属類等を含んだ無機廃液に混入する可能性がある。そのような廃液が無機廃液として、学内の処理施設に持ち込まれることを想定し、適切な処理方法を検討しなければならない。本研究では、大学で所有している130 L/バッチのUV/O3処理装置を用いて約30 mg/Lの1,4-ジオキサンの分解処理を行い、その分解特性を検討した。1,4-ジオキサンは、O3処理において時間とともに濃度が低下し、80分でほぼ完全に分解でき、排出基準値もクリアできた。UV照射とO3処理を併用したUV/O3処理では、さらに分解が促進され、30分の処理で1,4-ジオキサンが検出されなくなった。UV/O3処理による分解速度は、報告されているよりも大きく、本処理装置でのUV/O3処理が1,4-ジオキサンの分解に有効であることがわかった。
  • 内田 雅也, 三浦 苑子, 平野 将司, 井口 綾子, 山内 良子, 吉津 伶美, 中村 浩, 鏡 良弘, 草野 輝彦, 古賀 実, 有薗 ...
    2013 年 4 巻 3 号 p. 177-183
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
     薬用石鹸などに多く使用される抗菌剤のトリクロサン(TCS)とトリクロカルバン(TCC)は、使用量が大量であるため環境への排出量も大量である。そのため、抗菌剤の多くは、生活排水などを通じて、海洋に棲息する野生生物に多大な影響をおよぼす可能性が考えられる。これらTCSやTCCについて、世界の沿岸域に広く分布する海産甲殻類への影響を調べた報告は、魚類などに比べて極めて少なく、遺伝子発現レベルまで網羅的に調べた報告はない。そこで本研究では、TCSおよびTCCの影響についてアミDNAマイクロアレイを用いて詳細に評価することを目的とした。DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析の結果、TCS曝露において312、TCC曝露において264の発現変動を示す遺伝子を検出した。これら遺伝子群の中で、231の遺伝子が共通して発現変動を示していた。特にvitellogeninとclottable protein遺伝子の発現量増加が大きく増加していた。これらの遺伝子は、抗菌剤類のバイオマーカー候補となり得る。以上の結果から、TCSおよびTCCは環境中で検出されている濃度において、海産生物であるアミに影響を与える可能性が示唆された。今後、長期曝露における遺伝子発現解析を実施して、より詳細な環境リスク評価の確立を目指す。
  • 根津 友紀子, 林 瑠美子, 大島 義人
    2013 年 4 巻 3 号 p. 185-194
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
     大学の実験研究では様々な化学物質が使われており、化学物質の種類や実験作業の仕方により危険性を伴う可能性がある。本研究では、化学の専門家が化合物の構造式から想起する危険有害性の評価軸を定量的に明らかにするため、大学等の実験安全に関わる教職員を対象に、構造式を提示し、想起される危険有害性(毒性、刺激性、引火性、総合的な危なさ)を5段階で評価するアンケートを実施した。アンケートには、汎用的な化合物17物質(化合物群A)と、汎用的ではない化合物12物質(化合物群B、架空の物質を含む)を用いた。化合物群AではGHS基準の危険有害性と回答傾向が一致しており、汎用的な化合物の危険有害性は概ね正しく認識されていることが示された。一方、化合物群Bにおける探索的因子分析により、未知の化合物の危険有害性には、汎用的な化合物の物性に関する知識を元に類推する場合と、元素や官能基などの部分構造、炭素数など全体構造を元に評価する場合があることが示唆された。また、想起する総合的な危なさには、毒性、刺激性、引火性の評価軸が複合的に寄与していることが相関分析により示された。
     化学物質の使用経歴が多様な化学の専門家を対象とした本調査において、構造式から想起する危険有害性に統計的に有意な評価軸が確認されたことから、危険有害性に関する感性は、個別の研究経験に依存しない普遍的なメカニズムによって形成される可能性が示唆された。
  • 三浦 苑子, 内田 雅也, 平野 将司, 山内 良子, 吉津 伶美, 草野 輝彦, 古賀 実, 有薗 幸司
    2013 年 4 巻 3 号 p. 195-201
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
     トリクロサン(TCS)およびトリクロカルバン(TCC)は、薬用石鹸やシャンプー等様々な製品に幅広く使用され、産業廃水や生活排水を通じて環境中に広がり、水圏の野生生物に影響をおよぼすことが示唆されている。これらの研究は、水域生態系の生物を対象としたものが多く、化学物質の最終到達地点と考えられる海域に棲息する生物を対象とした研究は少ない。そこで本研究では、海産甲殻類アミを用いたTCSおよびTCCの生態影響評価を目的とした。急性毒性試験は、USEPAの試験法(EPA/600/4-90/027F)に準拠し、96時間曝露の半数致死濃度を算出した。成長・成熟試験は、USEPAの試験法(EPA method 1007)に準拠し、14日間半止水式曝露を行った。曝露期間中、生死と脱皮数の観察を行い、曝露終了後、体長、体重及び頭胸甲長を測定し、二次性徴の形態観察から雌雄比を算出した。それぞれの半数致死濃度はTCSで70 µg/L、TCCで12 µg/Lであり、現在報告されているTCSとTCCの水環境中濃度よりも高かった。成長・成熟試験の結果、TCSは0.5 µg/L、TCCが0.05 µg/Lで、各測定項目に有意な減少が認められ、半数致死濃度よりも極めて低濃度であった。本研究の結果、環境中濃度が低濃度であっても、長期的な曝露でアミに対する成長・成熟への影響をおぼすことが示唆され、水域環境への影響が懸念された。
  • 牧野 育代, 矢作 裕司
    2013 年 4 巻 3 号 p. 203-211
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
     近年のレジャーブームにより、釣り堀、キャンプ地などのレジャー施設を有することとなった山岳森林地帯における複数の河川流域において水質調査を行った。その水質データをもとに、データの標準化が容易である多変量解析の手法を用いて水質解析を試みた。主成分分析により水質変化のパラメータを抽出し、水質区分を試みた結果、3河川のうち2河川については、水質が良好な森林渓流とレジャー施設の影響を受けている水域とに区分することができた。しかしながら、残りの1河川については、水質に特定の傾向が見られず、水質変化のパラメータの抽出が不可能であった。水質データによる主成分分析においては、主成分3までで累積寄与率が86%と高かったにも関わらず、水質変化のパラメータが抽出できなかった理由としては、この河川が上流、下流あるいは自然水域、人為的水域に関わらず差異の見られない水質となるような地質や地下水の影響を強く受けていることが考えられる。
論説
  • 飯本 武志
    2013 年 4 巻 3 号 p. 213-220
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
     核物質であるウラン、トリウムを含む物質の法的な位置づけと特徴、その安全管理について、概要と留意点を整理した。少量の核燃料物質の使用と管理上の留意点、ウランまたはトリウムを含む原材料、製品等の特徴と安全確保の考え方、さらには、管理下にない核物質が発見されたときの対応に焦点を絞っている。たとえ少量であっても核物質は「核」という用語のもつ語感がゆえに、なんらかの問題が発生した場合には社会的インパクトが極めて大きくなる。また、そもそも国際的な約束に基づく数量的な出入管理が厳しく要求されている物質であることも十分に認識しておくことが重要である。物質管理や被ばくに対する考慮など、法令やガイドラインに基づく対応などを適切に履行する一方で、当該物質の特徴や放射性物質としてのハザードのレベルを十分に理解して、現場の状況に応じた合理的な管理を心がけることも重要な視点である。
  • 大前 慶和
    2013 年 4 巻 3 号 p. 221-228
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
     従来の分析的戦略においては、計画と統制というマネジメント機能が重視されていた。しかしながら、今日の経営環境は非連続的な変化が特徴であり、現代企業は創発的戦略を活用しようとしている。ここに創発的戦略とは、考える組織から生じたアイデアを基につくり出された戦略をいう。この新しいマネジメント理論を前提にすると、大学における教育にも変化が必要であるといえる。自己判断と自己責任によって自発的に挑戦できる人材育成が求められているのである。
     筆者は、ゼミ生の教育に環境プロジェクトを活用し、現代社会に求められる人材の育成をしようと試みている。環境プロジェクトのテーマは生ごみの活用であり、現在ではエコスイーツ活動を展開している。生ごみのアップサイクルがその内容である。鹿児島市を中心として約60社のスイーツ店を巻き込む大きなイベントに成長しており、筆者とゼミ生が一体となって取り組んでいる。大学生という肩書きには重いプロジェクトであるが、確実な成長も見せており、教育的に意味のある取り組みだと考えられる。
報告
  • 山田 悦, 布施 泰朗, 柄谷 肇
    2013 年 4 巻 3 号 p. 229-235
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
     京都工芸繊維大学では「環境マインド」をもつ人材を育成することを目的として、環境マネジメントシステム(EMS)を構築し、2001年9月にISO14001を正式認証取得した。教職員に加えて研究室に配属されている4回生と大学院生を構成員としている。環境関連の講義科目に加え、EMSの教育・研修として毎年4月に「基本研修」を全構成員対象に行い、その後、実験系サイトの教職員、学生に排水管理、化学物質・高圧ガス管理、液体窒素の取扱い、及び廃液の分別と処理法などに関する「実験系サイト研修」を行っている。2005年からは9月に「作業環境測定に関する講習会」を行い、大学院生が中心となり検知管を用いて作業環境測定を行っている。毎年10月中旬には「緊急事態対応訓練」として、消火器を用いての消火、避難などの訓練を行っている。2012年度からは4月の第4水曜日を『環境安全教育デー』とし、通常の講義は行わず、全学で環境安全教育に取り組む日とし、これまでの教育研修に「非実験系サイト研修」や1回生への「防災訓練」などを加え、「環境安全マインド」をもつ人材育成に努めている。
  • 藤井 邦彦, 中村 修, 中山 政勝, 川上 貴教
    2013 年 4 巻 3 号 p. 237-246
    発行日: 2013/09/30
    公開日: 2013/10/25
    ジャーナル フリー
     大学等の研究機関の多くは、機関内の適切な試薬の管理を目指して、クライアントサーバ型の化学物質管理システムを導入し、試薬類の一元管理を行っている。しかし、これまで各大学等におけるシステムの導入・運用状況、メンテナンス・管理体制、および運用上の問題点については、不明な部分が多かった。
     本報告では、国立大学法人を主とする各大学等における化学物質管理システムの運用管理状況についてアンケートによる実態調査を行った。その結果、各大学等のシステムの運用における人員構成・配置、管理体制等が明らかとなった。特に、試薬マスタの管理に関しては、マスタ総登録件数、更新頻度、メンテナンス体制などの管理ポリシーが大学等によって大きく異なっていることが明らかとなった。
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