環境と安全
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6 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 小柴 佑介, 鈴木 雄二
    2015 年 6 巻 3 号 p. 135-140
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    [早期公開] 公開日: 2015/10/07
    ジャーナル フリー
    本研究では、大学実験室を火源とする大学の理工系構成員の火災に対するリスク認知および防火設備に対する知識を明らかにするために、横浜国立大学の化学系および機械系構成員に対して質問紙調査を実施した。また、それらの専門性による違いを統計学的に検討した。その結果、機械系構成員よりも化学系構成員の方が有意に大学実験室火災をより怖ろしく、かつ火災規模をより大きく評価していることが分かった。また、回答者の居室近くにある非常階段の設置場所については、化学系および機械系構成員ともに多くの人が知っていたが、消火器および屋内消火栓の設置場所に関しては、両構成員ともに把握出来ていた者の割合は半数前後に留まることが分かった。
  • 山田 悦
    2015 年 6 巻 3 号 p. 141-149
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    [早期公開] 公開日: 2015/10/04
    ジャーナル フリー
    検知管法による京都工芸繊維大学の実験室におけるクロロホルム、ジクロロメタンなど揮発性有機化合物(VOCs)11物質とフッ化水素濃度の経年変化(2005~2014年)について、外部業者による作業環境測定の結果と比較して解析した。本学ではドラフトチャンバー使用や代替溶媒の使用によりベンゼンなどのリスクは低下したが、2008年以降、使用量の増加やGPC(Gel Permeation Chromatography)の装置をドラフト内で使用することなどの困難さによりクロロホルムやジクロロメタンなどのVOCsによるリスクが増加している。大学において特に管理濃度を超える可能性が高いVOCsはクロロホルムであったが、検知管法によるクロロホルムの平均濃度が1 ppm 前後(管理濃度3 ppm)と高く、さらにメタノール、酢酸エチルなど他のVOCsが複合的に検出されている実験室は、外部測定でも改善が必要な管理区分として評価されている。本学での実験室における長期の検知管法を用いるVOCs濃度測定とその経年変化の解析から、検知管法は大学の実験室のリスク評価やリスク管理に有用であることが明らかとなった。
論説
  • 鶴田 俊
    2015 年 6 巻 3 号 p. 151-156
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    [早期公開] 公開日: 2015/09/08
    ジャーナル フリー
    技術の高度化に伴い、労働者の多くが高等教育を受けた者によって占められるようになっている。労働者が自身の利用する技術を理解し、故障や事故による災害の拡大を防止できる社会の実現が望まれている。ところが、発生事故を見ると基礎的知識が不足していたと思われるものがある。教育によって安全な社会を築くことは明治維新以来の日本国の目標である。日本では、伝統的に事故が起きると個人の責任追及に関心が集まる。現代社会では、個人は多くの人と制度や習慣を介して社会システムの要素として生きている。よって事故が起きたとき、社会システムとの関与が存在する。隔絶した地域で生活する場合と都市で生活する場合を比べると社会システムとの関与に軽重が存在する。同様に事故が起きたとき、個人の要素と社会システムの要素の関与に軽重が存在する。もし事故の背景に社会システムに要因の関与がある場合、その要因の関与を減少させ、事故再発防止を行うのが一般的である。最近発生した中等教育の実験中の事故について上記の視点から考えてみる。社会的に注目される研究成果を追い求めることよりも安全な社会の営みを支える基礎学力を修得させることの重要さを教員自ら認識し、生徒、学生を教育することが必要である。この機能を達成できるよう必要な公的枠組みを整備する必要がある。教育機関は、好奇心追求を安全に実現する知恵を身に着け、頭の中をおそれで充満させない教養を身に着けさせることが必要である。「灰燼に帰する」ことを防ぐ知恵を身に着けさせることが教育の目的である。
  • 飛田 潤
    2015 年 6 巻 3 号 p. 157-164
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    [早期公開] 公開日: 2015/10/07
    ジャーナル フリー
    東海地域は歴史的に災害が多く、近い将来の南海トラフの巨大地震も危惧されている。また日本第三の都市圏で、国際的にも重要な産業集積地域であるため、大災害時の広域被災による社会への影響は極めて大きい。このような地域の基幹大学にとって、災害時の確実な人命保護と危険回避のみならず、高度教育と先端研究の継続、研究環境や研究成果の保護は必須であり、そして地域社会への貢献も期待される。一方、大学は一般に多数の学生・教職員を擁する大規模組織であること、人口密度が高く、実験機器や危険物質等があり、昼夜を問わず活動が続くことなど、災害時のリスク要因が多い。また、部局の独立性が高く、研究・教育の成果を優先しがちで、学生などの構成員も流動的であるため、統一的な災害対応が徹底しにくい。本論ではこのような大学の状況を踏まえて、自然災害対応の考え方として名古屋大学の事例を取り上げ、体制・組織・規程類(コト)、訓練・教育・啓発(ヒト)、そして建物・設備・物品(モノ)の側面から整理して論じる。結論として、安全やリスク管理は大規模組織の重要なインフラであり、組織、施設、リスクの状況に応じて論理的な枠組みを構築すべきこと、長期的な視野に立って組織全体の合意と意識向上および訓練によるスキル定着をめざす必要があること、被害を極力減らす「減災」の考え方で迅速かつ継続的な準備が必要なことを示した。
  • 山本 仁
    2015 年 6 巻 3 号 p. 165-168
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル フリー
    改正労働安全衛生法が公布され、その中で化学物質のリスクアセスメントが義務化された。大学においても対応が急がれているが、厚生労働省が示すリスクアセスメントの具体的事例では、長期ばく露による慢性障害に重点が置かれている。そのため、大学の教員が持つ実験室で起こり得る危機に対する意識とは乖離が存在する。実験室のリスクアセスメント自体は、大学の安全衛生管理上重要な取り組みであることから、大学の実情に適合した合理的なアセスメント手法の確立が望まれる。本報文では、大学の教員が持つ実験事故のリスクに対する印象や事故事例に基づいたリスクの高いポイント、さらにはこれから目指すべき大学におけるリスクアセスメントの方向性について述べる。
  • 村田 静昭
    2015 年 6 巻 3 号 p. 169-173
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    [早期公開] 公開日: 2015/10/04
    ジャーナル フリー
    国立七大学環境安全衛生担当者連絡会議(以下、七大学連絡会とする)では、労働安全衛生法(以下、安衛法とする)の改正に伴い義務付けられた特定化学物質に関するリスクアセスメントとその結果に基づくリスク軽減対策について検討を開始した。そこでの議論のポイントは、大学の化学物質による実際の事故のリスクと学生教職員などの研究活動の実態に基づき、安衛法遵守と教育研究活動への影響が極力少ない方法を見出すことに置かれた。本論説では、2016年6月の法令施行に合わせて実施すべき、リスクアセスメントおよびリスク軽減の第1段階の方向性について中間的な私見を述べた。
  • 濵田 勉
    2015 年 6 巻 3 号 p. 175-179
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    [早期公開] 公開日: 2015/09/28
    ジャーナル フリー
    化学物質のリスクアセスメントが義務化されるが、その普及にあたってはいくつかの課題がある。まず、我が国にはリスクアセスメントの前提となる安全についての理解が十分普及していない。目の前に迫った危険に対応し、それのみをもって安全と理解し、さらには対応したことをもって絶対的な安全状態が確保されたとする受け止め方が少なくない。安全とは何か、どのような状態を指すのかを定義し、安全の構造的な成り立ちを分析した国際的理解水準から大きく乖離した状況にある。この理解水準を正さねばリスクアセスメントの適切な実施は望めない。また、リスクアセスメントは、リスクの度合いを評価し、整理するためのツールであり、整理された情報をマネジメントに生かすことが前提である。しかし、リスクアセスメントを行っただけで労働災害や職業性疾病が直接的に防止されるとする受け止め方が少なくない。情報の活用とマネジメントの重要性が欠落しており、この誤解を正さねば、やはりリスクアセスメントの適切な実施は望めない。
報告
  • 甲斐 穂高, 大田 政史, 中道 隆広, 森 美由貴, 吉 嚇哲, 竹下 哲史, 石橋 康弘
    2015 年 6 巻 3 号 p. 181-188
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    [早期公開] 公開日: 2015/10/04
    ジャーナル フリー
    塩化ナトリウム水溶液を電気分解して得られる次亜塩素酸電解水は殺菌効果がある。塩化ナトリウムと同じハロゲンの塩である臭化ナトリウム水溶液を電気分解して得られる臭素酸電解水にも殺菌効果がある。本研究では、3室型2隔膜式電解槽を用いて臭素酸電解水を生成するための電荷量と生成する臭素酸の濃度の関係を明らかにし、また生成した臭素酸電解水の殺菌効果について検討した。生成した電解水中の臭素酸濃度は、与えられる電荷量に比例して増加していくことが明らかになった。また、中間槽からのナトリウムイオンの陰極槽への輸率が、中間槽からの臭化物イオンの陽極槽への輸率よりも大きく、電荷を運ぶイオン量に差が生じていた。このイオン量の差を補うための陽極槽陰イオン交換膜表面近くで水分子の電気分解反応が生じる作用によって発生した水素イオンが中間槽へ移動することで、中間槽の臭化ナトリウム水溶液のpHは酸性を示した。大腸菌、枯草菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌を対象にして基質濃度を同じにした次亜塩素酸電解水と臭素酸電解水の殺菌評価試験を行った。その結果、次亜塩素酸よりも基質濃度を低く調製した臭素酸電解水で十分な殺菌効果が認められた。また、長期保管して基質濃度が著しく低下した臭素酸電解水でも十分な殺菌効果が認められた。これは、長期保管した電解水中の水素イオン濃度が電解水生成直後と変わらないレベルで高いことが、十分な殺菌効果を示した要因であると考えられる。
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