急性呼吸窮迫症候群や喘息など,重要な肺疾患は多数あるが,疾患の機構解明が進んでおり,単一遺伝子導入により治療効果が得られると期待される,嚢胞性線維症やα-1-アンチトリプシン欠乏症と,肺がんに対して遺伝子治療臨床試験が先行している.肺は,経血管投与または経気道投与により,比較的容易に非侵襲的遺伝子デリバリーが達成されうると期待される臓器であり,デリバリー上の生体障壁,遺伝子産物である蛋白の動態的および機能的性質,繰り返し投与の必要性などを総合的に考慮して,投与経路,ベクターを選択・製剤化し,各疾患に対しさらに最適化したデリバリーシステムを構築していくことにより,将来の肺疾患に対する遺伝子治療実現に繋がるものと考えている.
本稿では,デリバリーの観点から,遺伝子治療の対象となる肺疾患の治療遺伝子・標的細胞,また,肺の構造について整理し,肺への遺伝子デリバリー技術の現状について概説する.
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