長鎖アミノアルコールと長鎖脂肪酸がアミド結合して生成されるセラミドは、スフィンゴリン脂質とスフィンゴ糖脂質の母骨格を形成する。セラミドとしても細胞と細胞内小胞器官を覆う脂質二重層膜の少量ながら構成成分となる。一方、皮膚の最外層を覆う表皮の角層細胞間において、鎖長と水酸基化度の違う酸アミド結合型脂肪酸とスフィンゴシン塩基の違いによる多様な分子種からなるセラミドは物質透過バリアの主要な構成成分となる。これら構造物的な役割に加えて、セラミドとその代謝産物のスフィンゴシン-1-リン酸やセラミド-1-リン酸は生理活性脂質(脂質メディエーター)として、細胞の増殖、分化、細胞死、および自然免疫の調節を介して、生体の機能維持に重要な役割を果たしている。
皮膚は表皮、真皮、皮下の3つの組織からなる。多くの薬物の経皮吸収において、表皮角質層における物理的バリアが律速となる。一方で、ある種の薬物の経皮吸収に対しては、表皮や真皮における生物的バリアも考慮する必要がある。最近の研究から、後者においては、種々のトランスポーターが関与することがわかってきた。さらに、全身投与される抗がん薬の一部は重篤な皮膚毒性を示し、それらの皮膚分布や毒性にもトランスポーターが重要な役割を果たす。皮膚のホメオスタシスに働くトランスポーターは、創薬の標的となるかもしれない。本稿では、現在までに報告されている、皮膚トランスポーターとその機能について、最新の知見を紹介する。また、経皮吸収や皮膚分布、皮膚のホメオスタシスにおいて、トランスポーターがどのように関与するかについても論じる。
生物は単細胞生物から多細胞生物へと進化する過程において、生体内外を隔てる障壁として上皮組織を発達させてきた。単細胞生物では単なる脂質二重膜であった生体バリアは、ヒトでは粘膜上皮、重層上皮細胞等へと進化を遂げ、上皮は隣接する細胞間隙をシールする仕組み「タイトジャンクション(TJ)」を発達させている。1993年の月田承一郎先生らによるオクルディンの発見に端を発した上皮細胞バリアの生物学の進展と相まって、皮膚等におけるTJの分子基盤に関する知見が集積しつつある。本稿では、皮膚に焦点を絞り、TJの生理機能を概説するとともに皮膚疾患とTJ機能との関連性等について紹介したい。
結節性硬化症は、全身の過誤腫、TANDなどの神経精神症状、白斑を主症状とする常染色体優性遺伝性の疾患で、その病態はmTORC1の恒常的活性化による。最近の病態解明と診断技術の進歩に伴って、結節性硬化症の罹患率や各症状の頻度はその様相が変化してきている。さらに、いままで外科的治療などそれぞれの病変に特化した対症療法のみであった本症の治療薬として、mTORC1の阻害剤が登場した。mTORC1の阻害剤は本症のすべての症状に有効であるが副作用も全身に及ぶ。そこで、このmTORC1阻害剤の副作用を減らす目的で、本症の皮膚病変に対してmTORC1阻害剤の局所投与薬/外用薬が開発された。結節性硬化症の現状と本症皮膚病変の治療薬mTORC1阻害剤の外用薬の効果、安全性および今後の問題点などを解説した。
近年、アトピー性皮膚炎等の難治性皮膚疾患を対象とする核酸医薬品のニーズが高まっている。皮膚は低侵襲的な薬物投与を可能とする最大面積を有する器官である。しかし、皮膚の高度なバリア機能によってsiRNA等の親水性かつ高分子量の物質の皮内移行は厳しく制限される。このため経皮投与型の核酸医薬品についてはいまだ上市に至っておらず、克服すべき課題は多い。一般に、siRNAは生体内での安定性や皮内送達性を向上するためのDDS技術が必要であり、さまざまな研究がなされている。本稿では、皮膚疾患治療に向けたsiRNA送達システムの研究動向について筆者らの研究知見を交えて紹介する。
脂漏性角化症は、一般的に“年寄りイボ”や“シミ”と呼ばれ、致死的な病気ではないが、見た目が悪く、患者の精神的なQOL低下につながっている。治療は外科的療法が行われているが、頻繁な通院や高額な治療費を要するなど患者への負担が大きいことから、患者自身が自宅で行える簡便な薬物療法の開発が望まれている。しかしながら、脂漏性角化症では角質層が肥厚するため薬物が皮膚内へと十分に浸透することができず、満足な治療効果を得ることが難しい。本稿では、筆者らが開発を進めている微小な針により直接皮膚内へ薬物を送達するマイクロニードルを用いた脂漏性角化症に対する新規薬物療法の開発について紹介する。
イオン液体とは常温で液体の塩(えん)であり、高い物質溶解性やデザイン性をもつことから、水や有機溶媒に代わる第3の溶媒としてDDSへの利用が注目されている。難溶解性薬物の可溶化はイオン液体のDDS応用において最初に注目された特性であり、薬のイオン液体化による機能改変なども新たな方法論として提唱された。なかでも、経皮デリバリーは最も多くの検討がなされたイオン液体によるDDS利用の領域であり、疎水性イオン液体を中心に種々のイオン液体が経皮吸収促進効果を示すことが報告されている。さらに近年では、生体適合性の担保が重要課題であると認識され、コリンやアミノ酸を中心とした安全性の高いイオン液体を用いたDDSが報告されるようになり、イオン液体を用いたDDSは新しい研究領域として、大きな期待が寄せられている。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら