誤嚥性肺炎を含む気道感染症の発症は個体の抵抗力の低下・機能の低下, 口腔内細菌叢など複数のリスク因子が関与して発症の危険度が上昇することが明らかになっている. これに対して, 専門的口腔ケアを提供して予防を行うことが必要であるが, 全ての要介護高齢者に対して提供することは人材的・財源的問題から困難である. そこで, ハイリスク高齢者を抽出して重点的に専門的口腔ケアを提供するために, 要介護高齢者施設における誤嚥性肺炎・気道感染症発症の関連要因のスクリーニングに関する検討を行った. 本研究では特別養護老人ホーム (以下特養) の入居者114名と, 介護老人保健施設 (以下老健) の入居者122名の合計236名を対象とし, 全身状態, 栄養状態, 口腔内状態, 口腔機能, 摂食状態について全28項目の関連性を検討した. その結果, 236名中35名に誤嚥性肺炎・気道感染症の発症が認められた. 多重ロジスティック回帰分析の結果, 施設の要介護高齢者において「低ADL (BI 20点以下)」,「Alb 3.0 g/dl以下」, 「舌運動範囲不十分」, 「食形態の軟食傾向」の4項目で誤嚥性肺炎・気道感染症発症の関連要因である可能性が示唆された. しかしながら, 2つの施設で28項目についてそれぞれの関連性を検討すると, 発症と有意な関連性が認められた項目 (p<0.01) は特養で2項目, 老健で5項目となり, 一致したのはそのうち1項目だけであった. そこで, 2施設の差を検討した結果, 発症率の高かった特養では, 9項目 (「低ADL (BI 20点以下)」,「意思疎通不可能」,「歯磨き拒否あり」,「開口保持困難」,「RSST 2回以下」,「口唇閉鎖能力不十分」,「舌運動能力不十分」,「うがい不可能」,「食形態の軟食傾向」) の全てで有意に調査項目該当者が多く認められた (p<0.01). これより, 施設の特性の違いにより, 施設ごとの状況は異なることも明らかになり, 今後の調査を行う場合には, より慎重な施設選択の必要性も示唆された.
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