麻酔科医の役割は, 単に手術中の麻酔を担当する立場から, 手術前後を含めた周術期管理を担当するように変貌している. その中で予後に影響を与える重要な管理対象は体液バランスである. 麻酔科医は体液バランスの正しい知識を身につけなければならない. 手術侵襲自体は体液を貯留させるが, 体液が過度に貯留すると良い予後は期待できないことが認識されるようになってきた. 周術期に使用される輸液製剤には, 晶質液と膠質液がある. 晶質液は, 動的な血漿増量剤 (dynamic volume expander) であり, 理論的に考えられているほど循環血液量を増やす効果はない. 投与速度に依存して血液量を増やすので血圧低下を一時的に回避するには有用であるが, 時間の経過とともに急速にその効果はなくなる. 一方, 膠質液は静的な血漿増量剤 (static volume expander) であり, 血漿増量作用はより長く期待できる. これらの性質を理解する必要がある. Dynamic volume expanderに頼った術中の循環管理では晶質液の大量投与となり, 術後のナトリウムと水の貯留が問題となり, 術後の合併症を増やすことになる. 細胞外液量は成人で約12∼ 18 Lである. 晶質液500 mlがこの大きな細胞外液分布領域に加わったとしても循環へのインパクトは小さい. 循環は主に神経と内分泌でコントロールされており, 尿量は腎臓を中心としたホルモンで調節されている. したがって, 輸液で病態に介入することは, 多くの場合遠い間接的な介入にすぎないことになる. 輸液の功罪を十分に認識し, 輸液療法を考えていく時代になってきている.
抄録全体を表示