インスリン欠乏型糖尿病における硬組織の代謝を解析する目的で, ラットにストレプトゾトシンを静注して糖尿病を誘導し, 上腕骨外骨膜の骨芽細胞層, 下顎臼歯の歯根膜線維芽細胞, そして下顎切歯の象牙芽細胞とエナメル芽細胞における細胞形態とタンパク合成能の変化を光顕オートラジオグラフィーによって検討した.アイソトープには, プロコラーゲンとアメロゲニン (エナメルタンパク) に共通する前駆物質である
3H-プロリンを用いた.ストレプトゾトシン静注3週間後に
3H-プロリンを静注し, 20分および4時間後にラットをアルデハイド混合液で灌流固定して, 通法に従いオートラジオグラムを作製した.その結果, 対照群 (ストレプトゾトシン非投与群) ラットの骨芽細胞が立方形ないし類楕円形の細胞外形を呈し, 経時的にプロリンのゴルジ領域への取込みと類骨層への分泌が確認されたのに対し, 糖尿病群 (ストレプトゾトシン投与群) ラットの骨芽細胞は極度に扁平化したbone-lining cellの像を呈し, プロリンの取込みと分泌もほとんど観察されなかった.同様に歯根膜でも, 対照群ラットの線維芽細胞が紡錘形の極性化した細胞外形を示して規則的に配列していたのに対し, 糖尿病群ラットでは線維芽細胞の外形は萎縮性でその配列にもやや乱れが見られた.またプロリソの取込みと細胞外基質への分泌も, 糖尿病群の線維芽細胞では対照群のものに比べて著しく減少していた.これに対し, 下顎切歯の形成端における象牙芽細胞とエナメル芽細胞の細胞形態とプロリンの分泌には, 対照群と糖尿病群との間で差異が認められなかった.以上の結果から, インスリンが骨芽細胞と線維芽細胞のプロコラーゲンの代謝に促進的に作用すること, また歯牙の基質形成には直接関与しないことが示唆された.
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