矯正治療の目的には, 総合咀噛器官としての口腔機能の改善が第一に挙げられてきた.しかしながら現在の主流であるEdgewise法の矯正治療の現状では形態的改善に主眼が置かれ過ぎ, 咬合や顎運動などの機能面に関しては, その評価方法の問題も含めて十分とは言い難い.健全な咬合が歯および顎関節を介する神経筋機構の働きの上に成り立っていることを考えると, 機能評価法の確立は急務の課題であり, 今後矯正治療の診断や治療効果の判定に必要不可欠なものになると考えられる.本研究目的は, 表面筋電図パワースペクトル分析を用い, 新たな機能分析法の確立のために, まず最も適したパラメータを検索することを計画した.今回, パワースペクトルのパラメータとしては咬筋/側頭筋パワーバランス (M/T), Mean Power Frequency (MPF), スペクトルパターンの三つを選択し, 正常咬合者8名 (男性3名, 女性5名), 上顎前突, 下顎前突, 叢生などの咬合異常者10名 (男性4名, 女性6名) を被験者として分析を行った.そして両群の比較を行うことによりこれらのパラメータの特徴, 有効性についての検討を行い, パワースペクトル分析を用いた機能分析法の適切な指標をうることを目的とし実験を計画した.その結果以下の知見を得た. (1) 正常咬合者のスペクトルは一峰性もしくは二峰性のパターンを示し, MPFは比較的低い値を示した.またM/Tは1.0以上の値を示す傾向にあった. (2) 咬合異常者のスペクトルはピークの見られない帯状のパターンを示す傾向にあり, MPFは比較的高い値を示した.またM/Tは1.0以下を示す傾向にあった. (3) MPFは正常咬合者で低く, 咬合異常者で高い傾向にあったが, 筋繊維の性質等に影響をうけることが示唆された. (4) M/Tは全般的に咬合異常者で低く, 側頭筋優位を示したが, 咬合異常の種類との関連性が示唆されたことより, 咬合機能のみでなく骨格形態とも関連のあるパラメータであることが考えられた. (5) 以上より表面筋電図パワースペクトル分析のパラメータは, それぞれの特徴を考慮した上で機能分析法に用いられるべきと考えられた.
抄録全体を表示