ラット舌背粘膜固有層およびその下層の筋層内に発現分布する弾性線維の発現走行状態, 形状ならびに加齢的変化について光顕的に検索を行った.材料は, 生後0日齢から500日齢まで飼育したSD系ラットの舌を用いた.全摘出した舌を前方部, 中間部, 後方部に3分割前額断した.なお, 葉状乳頭の一部は水平断になるように切断した.通法に従いセロイジン切片とした後, ワイゲルトのレゾルシン・フクシン染色を行い弾性線維を染出した.なお, 材料の一部 (50日齢, 600日齢) は, 透過電顕および走査電顕用試料とした.その結果, 生後0日齢の舌背粘膜固有層内には弾性線維の発現が認められ, その線維の一部は筋層内へ侵入走行するのが認められた.弾性線維の発現量は, 生後0日, 5日齢では舌背前方部, 中間部ともに中等度の発現量を示し, その走行形態は, 繊細な弾性線維が直線状, 彎曲状, 分岐状, 蛇行状を呈して錯走し, 一部は網状構造をなしている.舌背後方部固有層では繊細な弾性線維とやや太い弾性線維が多量に発現し, その線維の走行形態は舌背前方部, 中間部のものとほぼ同様であったが, 生後5日齢では, さらに糸屑状を呈する弾性線維が認められた.また, 筋層内へはやや深く侵入走行する弾性線維がみられた.生後10日から500日齢までの舌背粘膜固有層には多量の弾性線維が認められ, 舌背前方部, 中間部ともにやや強度の発現量を示し, 舌背後方部では弾性線維はさらに増加して極めて強度の発現量を示した.これらの線維の走行形態は直線状, 彎曲状, 分岐状, 蛇行状, 糸屑状を呈し, 網状構造をなすものが多く観察された.また弾性線維は加齢的に太さを増し, その数も増加する傾向がみられた.筋層内へ侵入走行する弾性線維の数も加齢的に増加し, 筋層深く侵入走行する傾向がみられた.OTE染色された生後50日齢の有郭乳頭部の弾性線維を透過電顕で観察すると, 弾性線維は電子密度の高い無構造物質 (エラスチン線維) と微細線維 (microfibrils) から構成されていることが示唆された.舌背前方部・中間部に発現する弾性線維に比べて舌背後方部の方が常に弾性線維の発現量が多い.特に有郭乳頭内には多量の弾性線維が認められる.舌背後方部に多量の弾性線維が発現する原因は恐らく咀嚼した食物の食塊を飲み込む時, 舌後方部 (舌根部) は最も可動性の高い部位であり, かなり大きな圧 (嚥下圧) が舌根部上皮下層に加わるため, その圧を緩衝する必要性が生じることにより, 生理的, 機能的に多量の弾性線維が発現するものと思われる.
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