成人顎関節の円板後部結合組織におけるコラーゲン細線維と弾性線維の立体構築を走査電子顕微鏡によって詳細に観察し, 円板後部結合組織の立体線維構築の機能について検討した.形態異常と位置異常の認められない顎関節円板と円板後部結合組織を材料とし, 光学顕微鏡でコラーゲン線維と弾性線維の分布を観察するために弾性線維染色, 走査電子顕微鏡でコラーゲン細線維の立体構築を観察するためにトリプシン処理あるいはKOH-トリプシン処理, 弾性線維の立体構築を観察するためにKOH-コラゲナーゼ処理を各々行った.顎関節円板の後方肥厚部は部位によって線維構築が異なるが, 後方肥厚部の後下方の部位には, 円板後部結合組織に向かうほぼ前後方向に配列する細線維束が認められた.後方肥厚部の後部から円板後部結合組織の前端にかけては, 細線維束は密な直線状配列から, 疎な蛇行状あるいは螺旋状配列へと変化していた.弾性線維は細線維束と同様に直線状, 蛇行状あるいは螺旋状を呈していたが, 細線維束の配列が疎になるとともに直径が増加する傾向が認められた.円板後部結合組織を便宜上, 上関節腔側から下関節腔側に向かって順次, 第1層から第4層まで区分した.上関節腔側の滑膜層直下, 第1層では, 前後方向に蛇行して配列する薄板状あるいは円柱状の細線維束が関節面に平行な平面上で集合し, 細線維束による層板様構造が形成されていた.弾性線維は細線維束近傍では細線維束と並走し, 細線維束間では不規則に配列していた.円板後部結合組織の第2層では, 内外側方向に配列する板状の細線維束と, 円板後部結合組織中で最も太く, 蛇行状, 板状あるいは網状を呈する弾性線維とによる線維構築が認められた.円板後部結合組織の厚径の中央付近に相当する第3層では, 板状, 直線状, 蛇行状あるいは螺旋状の細線維束が不規則に立体交錯していた.弾性線維は太く, 直線状あるいは蛇行状を呈していた.線維間には脈管や脂肪組織が介在していた.第4層における細線維束は, 前後方向あるいは内外側方向に配列する, あるいは斜走する細線維束によって板状の細線維束が形成されていた.弾性線維は細く直線状を呈しており, 大部分が前後方向に配列していた.円板後部結合組織の線維構築は, 前後および内外側方向の牽引負荷の緩衝や伸縮の許容, 円板後部結合組織の前後的, 上下的および内外側的な位置の制御, 静脈叢における血流の増減や細線維束間の組織液流動による内部の膨縮に対しての適応, あるいは下顎頭の後退時における緩衝帯, として機能する可能性が示唆された.
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