口唇裂口蓋裂患者に対しては関連各科の医師, 歯科医師が緊密な連携をとり, 有機的に結びついた一貫した治療が必要不可欠である.今回我々は, 著しい上顎の上下的および前後的劣成長を伴う, 右側唇顎口蓋裂患者の咬合異常に対し, 矯正科, 口腔外科, 補綴科などによるチームアプローチにより改善を行った.その後10年以上にわたる長期経過観察をなし得たので報告する.症例は初診時年齢13歳8か月の女性.右側完全唇顎口蓋裂で, 口唇閉鎖手術を生後2か月で, 口蓋閉鎖手術を1歳6か月時に某大学病院形成外科にて受けている.初診時の顔貌は著しい中顔面の陥凹を伴う凹型の側貌を呈していた.諸検査の結果, 上顎骨の著しい上下的および前後的劣成長と, それに伴う下顎骨の前上方への回転による骨格性反対咬合と診断された.上顎歯列は重度のcollapsedarchとなっており, total crossbiteを示し, 前歯部のオーバージェット-18mm, オーバーバイト+5mmであった.また, 上下歯列に齲蝕が多発していた.矯正科, 第1口腔外科, 第2補綴科によるカンファランスの結果, 上顎にオーバーデンチャーを装着し上下的, 前後的劣成長の改善を図った後, 下顎の骨切りを行い咬合の改善を図る計画が立てられた.17歳3か月時に上顎にオーバーデンチャーが装着され, 術前矯正治療が開始された.19歳2か月時に下顎骨骨切術(SSRO)が行われた.8か月の術後矯正治療の後保定に入った.保定1年後に上顎に本義歯(コーヌステレスコープデンチャー)を装着した.本義歯装着後12年が経過しているが, 咬合は安定しており患者は, 治療結果にほぼ満足している.しかし, もっと早期 (乳歯列期あるいは遅くとも早期混合歯列期) からのチームアプローチによる管理・治療が行われていたならば, 大型の補綴物なしで咬合の改善が可能であったと思われる.あらためて口唇裂口蓋裂患者に対するチームアプローチの重要性が示された.
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