欠損歯列に対する補綴方法の選択肢の1つとして, 歯槽骨を支持組織とするインプラント治療が行われている.従って, インプラント治療に伴う抜歯処置において, 歯槽骨がインプラント体の支持組織となり得る程度に修復するか否かを知ることは臨床診断上重要である.近年の高齢化社会において, インプラント治療は閉経をむかえた中・高年の女性患者にも多く適用されているが, 閉経による急激なエストロゲン欠乏が, 抜歯後の顎骨組織に与える影響は十分に解明されていない.そこでエストロゲン欠乏型骨粗鬆症の実験モデルとして広く用いられている, 成熟・卵巣摘出 (OVX) ラットと偽手術 (Sham) ラットを用い, 術後60日目に上顎第一臼歯の抜歯を行い, 抜歯後4~60日における抜歯窩歯槽骨を含む上顎骨体部の修復状態と骨構造の変化を, 光学顕微鏡, 走査型電子顕微鏡, 反射電子検出器による組成像をもとにした観察と骨形態計測, さらに微小部X線分析法によって評価した.その結果, 骨粗鬆症モデルラットの上顎臼歯抜歯後の抜歯窩歯槽骨を含む上顎骨体部の構造変化において, (1) OVX群では, 抜歯後の早期に骨形成が活性化されるが, 全期間を通じては骨吸収が増加した. (2) 骨形成と骨吸収は抜歯窩内のみならず, 抜歯窩周囲の骨表面の特定の領域で起こり, かつ互いに密接な部位的関連性が認められた. (3) OVX群において新生骨の骨量は, 骨形成が認められた抜歯窩周囲の頬側の骨表面と抜歯窩内ともに, Sham群に比べ有意に低下していた. (4) OVX群における新生骨の石灰化度は, 既存の骨膜により形成された抜歯窩周囲の頬側の骨基質でSham群より有意に低下していたが, 新たに分化した骨芽細胞により形成された抜歯窩内の新生骨では有意差が認められなかった. (5) 従って, OVXによる急激なエストロゲン欠乏は, 抜歯窩歯槽骨を含む上顎骨体部の修復と骨強度維持に対して危険因子となることが示唆された.
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