近年, 口唇裂口蓋裂患者の治療は, 顎裂部骨移植, 歯牙欠損部のメタルインプラント, 仮骨延長法などの新しい治療法が導入され, これまでと大きく変わろうとしている.昭和大学口蓋裂診療班 (SCPT) も最近これらの新しい治療法が採用されるようになってきた.しかしながら, このような治療システムの変化のなかで, 矯正歯科医のみならず患者・保護者においても少なからず戸惑いや不安などが予想される.そこで今や口唇裂口蓋裂治療の一部として定着した感のある顎裂部骨移植に対する患者サイドの受け止め方あるいは考え方を知る目的で, 患者保護者に対するアンケート調査 (事前調査) を行った.また同時に施術者側の意識を知るためこの手術の成否に親密に関わりをもつ矯正歯科医に対しても調査を施行し, 次のような結果を得た.1.保護者の考え : 1) 骨移植の必要性はある程度理解されているが, 障害の改善に対する期待感と同時に手術に対する不安を抱いていた.2) 未だ骨移植術を受けていない患者の保護者は, 積極的に手術を受けたいとする気持ちの者が多かった.3) 骨移植の説明について, 保護者としては『生下時』, 患者には『理解の得られる時期』に, 矯正歯科医や外科医から受けるのがよいと考える者が多かった.2.矯正歯科医の考え : 顎裂部に対する骨移植の必要性を認めるものの, それを患者や保護者に対して勧める立場上, 矯正歯科医は, 実際の結果が期待に反した場合, 患者や保護者に対する説明, 外科医に対する報告や治療方針の見直しなど, 術後の対応処置に苦慮している一面が伺われた.
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