歯周疾患のために抜去された無縫冠, 縫成冠および鋳造冠を装着した歯牙を用い, 金属冠辺縁の形状とそれに伴う歯石の付着位置と状態を形態学的に検索した.機器は形態観察のために暗視野の落射光顕と走査電子顕微鏡を, カルシウム, リン, 亜鉛元素などの面分析および, 定量分析のためにはエネルギー分散形のX線マイクロアナライザを使用した.金属冠と歯牙の適合度は貴金属を用いた鋳造冠が最もよく, 次いで銀合金などによる鋳造冠, 貴金属を用いた縫成冠, 銀合金などの縫成冠, そして最も適合度の悪い無縫冠の順であった.無縫冠の大部分や縫成冠の一部では, 合着用セメソトが欠落した金属冠空隙内に歯垢の充満が観察された.これは無縫冠などでは歯牙との適合度が悪いので, 合着用セメソトが唾液に洗われて流出したためと考えられた.一方, 貴金属を用いた縫成冠では, 余剰な合着用セメントが金属冠下縁からはみ出ている例がしばしぼ観察され, その表層付近には歯石の形成が認められた.銀合金などによる縫成冠で特徴的にみられる歯石の付着位置は, 金属冠の辺縁や合着用セメソトの表面である.これらの歯石からは合着用セメント由来の亜鉛が検出された.合着用セメント表層付近での歯石の形成は, 唾液に触れていれば比較的短期間で行われることが, 口腔内および
in vitroで明らかにされた.合着用セメントの下部に接し, 歯面にも付着した歯石は無縫冠, 縫成冠装着歯牙に認められた.砂粒状結晶を主とする緻密な構造をもつこれらの歯石は, カルシウムとリソの比がアパタイトに近いこと, 亜鉛が検出されないこと・さらに, 縫成冠では歯石の表面が支台歯形成による切削面と同一平面で続いていることから, 金属冠装着前に形成されていた歯石と考えられた.金属冠下縁から歯面へかけて付着した歯石は・銀合金などの鋳造冠と貴金属を用いた縫成冠に多く認められ, その一部は切削された歯面に付着したり, 金属冠内側へも侵入していた.これらの歯石はその大部分から亜鉛が検出されたこと, 板状結晶 (リソ酸オクタカルシウム) が高頻度に観察されたことから, 歯石形成から抜去されるまでの期間は比較的短かったことが推察された.なお, 貴金属を用いた鋳造冠に付着した歯石の出現比率は最も低い値を示した.以上の所見から, 歯牙との適合度が比較的よい鋳造冠や縫成冠の辺縁に付着する歯石は, 歯垢とともに歯肉炎を悪化させる場合のあることが考えられた.それに対し, 適合度が最もよい貴金属による鋳造冠や, 適合度の悪い縫成冠と無縫冠装着歯牙に生'じた歯周疾患は, 装着後に付着した歯石や歯垢というよりはむしろ, その他の要因が強く働いたと推察された.
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