血管肉腫は,肉腫全体に占める割合は約1%と比較的稀な皮膚悪性腫瘍であるものの,高齢化社会を迎えたため,さらには乳癌に対する放射線治療の増加のためか近年増加傾向にあるという報告も存在し,皮膚科においてしばしば遭遇する臨床的に重要な疾患の一つである.腫瘍性病変の中でもとくに診断が難しいにも関わらず進行が早く,有効な治療に乏しいのが診療上の課題である.
その発症誘因として,外傷,紫外線,血腫,放射線治療または慢性リンパ浮腫などが知られているが,これらの因子が血管内皮細胞やリンパ管内皮細胞においていわゆる「癌遺伝子」に直接的あるいは間接的に影響した場合に血管肉腫を発症する,というメカニズムが考えやすいと思われる.
血管肉腫の発症機序に関する最近の知見について,点変異・欠失変異や融合遺伝子などの遺伝子変異,さらにはepigeneticsおよび関連分子の3つの観点から論じたい.
メルケル細胞癌の起源は長い間,表皮基底層に存在する触覚受容細胞であるメルケル細胞であると信じられてきた.しかし近年の報告によると,メルケル細胞とメルケル細胞癌は無関係である可能性が高く,別の起源について議論がなされている.ここでは,諸説乱立するメルケル細胞癌の起源について,その主立った説を紹介するとともに,その起源によって異なる腫瘍の特性について,我々の研究内容を中心に解説する.
がん細胞は,持続的な増殖シグナル・ゲノム不安定性・細胞エネルギー制御などの機能を有すると同時に,免疫逃避機構・血管新生誘導などを通じて腫瘍促進的な腫瘍微小環境を形成する.また近年,同一疾患での多様性(腫瘍間不均一性)のみならず,同一患者内での多様性(腫瘍内不均一性)が解明され,がんゲノム進化の概念が確立された.乳房外パジェット病(extramammary Paget's disease:EMPD)では,新規治療標的分子になりうる各種分子が強発現していること,がんゲノム進化の時間的および空間的多様性が存在することが解明されつつある.本稿では,乳房外パジェット病の悪性化機序に関して,最近の知見を中心に概説する.
57歳,男性.来院の6日前より,38度台の発熱と四肢・体幹部の多形紅斑様皮疹が出現し,当科を受診した.高CRP血症,D-dimerの上昇,肺水腫を伴っていた.血液培養検査は陰性で,ペア血清にて各種ウイルス抗体価上昇は認めなかったが,日本紅斑熱の特異的IgG抗体価の軽度上昇を認めた.一方,末梢血単核球のPCR検査では日本紅斑熱リケッチアは陰性であり,日本紅斑熱に特異的な刺し口や典型的な皮疹もなかった.検査結果の矛盾から診断に苦慮し,次世代シーケンサー解析を施行した.その結果,末梢血単核球からRickettsia japonicaの遺伝子が検出され,日本紅斑熱と確定診断した.
33歳女性.深在性エリテマトーデスでヒドロキシクロロキン硫酸塩とステロイド少量内服中.コロナワクチン接種後から四肢,腰背部に皮下結節が新生,2回目接種3カ月後には下肢痛,弛張熱,発熱時の紅斑,高フェリチン血症を認め,成人スチル病の診断基準を満たした.皮下結節は著明なムチン沈着とlobular panniculitisを呈し,CT検査で両下肢の広範な脂肪織炎を認めた.ステロイドパルス療法とシクロスポリンを併用し約2カ月で改善した.コロナワクチン接種を契機に成人スチル病,マクロファージ活性化症候群を生じたと推測した.