皮膚付属器は,個体発生の過程において調和のとれた上皮―間葉系相互作用の結果として形成される.皮膚,ひいては個体の恒常性を維持するには必須の小器官であるが,形態学的・組織学的に複雑な構造を有し,毛周期に代表される固有の自己再生様式や,脂腺,汗腺における特徴ある分泌様式など独自の生理的・機能的特徴をもつため,学習しにくいとされるトピックの1つでもある.本稿は毛包・脂腺・汗腺について臨床医として知っておきたい知識にフォーカスし,理解の手助けとなるようまとめたイラストとその図説である.
76歳男性.咽頭癌に対し抗PD-1抗体(pembrolizumab)を開始6カ月後に,手足の凍瘡様紅斑,手指の腫脹と浮腫性硬化,足底のチアノーゼが出現した.手指,前腕からの生検組織像は真皮膠原線維の膨化・肥厚と増生がみられ,手指はさらに真皮上層の血管の増数と真皮中層の付属器周囲の単核球浸潤が顕著にみられた.血液検査では全身性強皮症に特異的な自己抗体は認めなかったが,強皮症様病変と考えた.また,抗PD-1抗体投与開始後から口腔の乾燥症状が出現し,唾液腺生検で導管周囲に単核球浸潤を認め,抗SS-A/SS-B抗体も陽性であった.ドライアイは認めなかったが,抗PD-1抗体によりシェーグレン症候群も誘発されたと考えた.
58歳男性.1カ月前より咽頭痛と下肢脱力感が出現.前鼻鏡検査で粘膜発赤と肉芽腫様構造,CTで両側上顎洞と篩骨洞に陰影と多発肺結節を指摘されPR3-ANCA陽性であった.当科初診3日前より両下肢に触知性紫斑が出現し,皮膚生検で真皮内に著明な血管壁のフィブリノイド壊死を伴う白血球破砕性血管炎を認めた.鼻粘膜生検で多核巨細胞を含む出血性壊死性肉芽腫性炎症を認め,多発血管炎性肉芽腫症と診断された.本邦における多発血管炎性肉芽腫症を集計し,皮疹と病理組織像およびANCAとの関連性について検討した.
結節性痒疹(Prurigo nodularis,以下PN)診療の潜在的治療ニーズを明らかにすべく,本邦皮膚科医とPN患者にアンケート調査を実施した.PNが人生および日常生活に与える影響として,多くの医師・患者が身体的症状を指摘した.精神的症状や日常活動制限については,患者は抽象的な質問よりも具体的な質問の場合に人生および日常生活に影響すると回答した割合が高く,医師ではその逆の傾向が見られた.医師は具体的な状況を想定した問診を行うことでPN患者の潜在的な治療ニーズを顕在化させ,患者と共に目指すべき治療ゴールを設定できる可能性がある.