芸術工学会誌
Online ISSN : 2433-281X
Print ISSN : 1342-3061
70 巻
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芸術工学会誌70号
  • 天使と大地との「あいだ」
    寺門 孝之
    2016 年 70 巻 p. 42-49
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究は、14~16 世紀のイタリアの受胎告知画における、天使の飛翔表現の分析から、絵画空間の変容の過程と根拠を解明する事を目的とし、究極の目的は、絵画表現における天使とは何か、なぜ人間は天使を必要とするのかを考察し、時代を超えた天使像を提示することにある。  先の研究1) では、14~15 世紀のトスカーナの画家による受胎告知画における、天使とマリアの「あいだ」に注目し、 そこに表出される形象群が構成する絵画空間の解釈から、空間と時間の彼方へと絵を見る者を誘導する、天使表出の役割を解明した。  本研究では、受胎告知画における天使の飛翔表現を抽出し、それぞれの絵画空間を、天使の足許周辺の形象やその下の基盤面に着目し、観察・分析をした。その結果、明らかとした事は、① 15 世紀初頭の天使の飛翔表現から、天使の足許の「雲」とその下の地面の「不定形模様」とが強く連関し、基盤面を「空中」として表出する画家の意図を確認できる。②「不定形模様」の基盤面上の天使像は、動作をともなわない飛翔を潜勢し、マリアと等高的に配置され、マリアとの「あいだ」を生成し保持することができた。そのことは15 世紀を通じ受胎告知画において天使の飛翔表出が少ないことの根拠を成す。③天使とマリアのそれぞれの下で表現の分かれる「基盤面」は、天使と大地との「あいだ」の表現の工夫であり、15 世紀イタリアの受胎告知においては、「不定形模様」と「格子模様」の主に2 種の基盤面表現が、対立しつつ共存し、均質的ではない不連続性を強調する絵画空間を構成し得た。④16 世紀には、「不定形模様」の基盤面表出は失われ、絵画空間が線遠近法的な体系空間として完成するに従い、天使は現実的な飛翔の動作をともなって表現され、その足許には立体的な「雲」の描写が現れ、天使と大地の「あいだ」は「3 次元空間」として視覚表出が可能となった。
  • 余剰身体動作の役割をめぐって
    裵 永珍, 矢向 正人
    2016 年 70 巻 p. 50-57
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究は、韓国の打楽器である杖鼓の打奏時における身体動作とその音楽との関係を知ること、その結果を演奏の技芸継承や教育に役立てる方法を検討することを目的とした。まず、プロである熟達者の演奏家を被験者に、杖鼓の基本的な打法について、打奏時の身体動作と音響との関係を分析した。この結果から、杖鼓の打奏においては、音響の生成に直接関与しない余剰身体動作が、音楽の作り方に大きな意味を持つことが示唆された。次に、余剰身体動作を含むリズムの基本動作を芸の技能や継承に役立てるため、動作表を考案した。動作表を用いて、韓国音楽のリズム体系である長短の身体動作の構造を検討するとともに、その演奏教育における有効性を確かめた。検討の結果、余剰身体動作は、音楽のアクセントとは別に、身体のリズムを作るはたらきを持つこと、音楽のリズムを習得するときには考案した動作表が役立つことが確かめられた。
  • 鄭 菊振, 佐藤 優
    2016 年 70 巻 p. 58-65
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究は、看護師の職業性ストレスを軽減できる色彩環境に関する研究1) の続報で、看護活動の基盤であるスタッフステーション空間における医療家具の色彩をコントロールすることによって、病院内スタッフステーションのイメージを意図的に変えることができるかについて実験調査し、改善の方法を提案する。  調査1として、医療家具における色彩分布の実態について調査した。看護師の業務内容別に医療家具を分類し、医療家具5大メーカーが公開定量化した。  調査2として、病院内スタッフステーションの「現状」と「理想」のイメージについて、言葉による調査を行った。明度と彩度に関する修飾尺度について導き出した。  調査1 の結果として、家具の「基本色」は、N 系の高明度、Y、YR、R 系の高明度・低彩度の領域であり、「ポイント色」は、R、GY、PB 系の中・高明度、低・中彩度の領域に集中していることが確認できた。  調査2 の結果として、スタッフステーションの「現状」は、「清潔な、明るい、動的な、固い、締まった、冷たい、緊張する、落ち着かない、疲れる新鮮な、落ち着きのある、圧迫感のない、疲れない」イメージを望んでいることが明らかになった。  大手家具メーカーの医療家具による色の定量化は、病院の新築や移転で医療家具の転用と新規購入によって家具の色が混在する可能性についかない、疲れる、圧迫感のある、落ち着きのある、圧迫感のない、疲れない」の言葉が抽出できたことから、スタッフステーション空間を評価する際、「緊張感」、「落ち着き感」、「圧迫感」、「疲労感」を評価の尺度として有意であると考えられる。
  • 日本とチュニジアの比較調査
    BEN FRADJ SAMI, 相良 二郎
    2016 年 70 巻 p. 66-73
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー
    「現代社会の発展に関わらず、地球規模の大きな変化が障害の捉え方と障害のある人への差別解消に対して起きている」と、世界保健機構(WHO)の「障害に関する世界レポート」において示され、その中で障害のある人がいかに彼らの社会参加を妨げる差別と障壁に直面しているのかを明らかにした。多くの障害のある人が、権利が認められていない途上国に住んでいる。この不平等は、経済面、政治面、民主的でないなど複数の理由が挙げられ、社会の関心の低さもその中の一つである。この研究の背景は、あらゆる面で最近劇的な変化を遂げたチュニジアを一つの発展途上国のモデルとして、障害に対する社会的関心を高める方策を見出すことである。本論では、チュニジアにおいて障害に対する社会的関心に関連する取り組みの状況についての研究について述べる。著者ら は、社会的関心の度合いと障害のある人の社会的包摂の関係について統計的調査を実施した。比較を行うために、障害のある人がより包摂されるべき国々の一例としてのチュニジアと、インクルーシブデザイン(あるいはユニバーサルデザイン)の先駆者の一つである日本の両方において調査を実施した。
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