Diatom
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36 巻
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
短報
  • 大塚 泰介, 北野 大輔
    2020 年 36 巻 p. 1-12
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/16
    ジャーナル フリー

    滋賀県草津市の立命館大学びわこ・くさつキャンパス内にある鉱質土壌湿原(立命館BKC湿原)の珪藻植生を調査した。この湿原は,キャンパス建設以前からこの場所にあった湿原と,キャンパス敷地内の他の場所から表土ごと移植された2つの湿原から構成される。この場所本来の湧水に加えて汲み上げられた地下水の供給により涵養され,定期的なモニタリングと管理により植生が維持されている。試料採集と水質調査を2013年11月8日に行った。3つの採集地点の水質はいずれも弱酸性(pH 5.4–6.1)で,電気伝導度は地点間で大きく異なっていた(4.8–17.5 mS m-1)。ヌマガヤとオオミズゴケに付着する珪藻を採集して観察した。出現した計30属108種の珪藻(うち9種は種レベルで未同定)全てを,光学顕微鏡写真付きのチェックリストとして示した。出現種数が最も多かった属はPinnulariaで20種,次いでEunotiaが12種であった。珪藻の属の組成は琵琶湖集水域の泥炭湿地のそれとよく似ていたが,種組成はかなり異なっていた。これまで強酸性水域からのみ報告されてきたPinnularia osoresanensisなど,琵琶湖集水域の他の湿地環境から知られていない珪藻がいくつか見つかった。

  • 山本 真里子, 大塚 泰介
    2020 年 36 巻 p. 13-21
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/16
    ジャーナル フリー

    Autochthonous diatom flora in Fujimae Tidal Flat, a river-mouth tidal flat in central Honshu, Japan, is displayed as a checklist with microphotographs. We evaluated the diatom flora using the combination of three preparation methods; a nuclear staining method by hematoxylin solution, a sieving method, and a hydrogen peroxide cleaning method. In total 82 diatom taxa were regarded as components of the autochthonous diatom flora. Among them, 52 taxa detected by the nuclear staining method must have been alive on the tidal flat sediments mainly as an epipelon or a sedimented plankton. Sixty eight taxa detected from sieved samples with the relative frequency of >0.5% were putatively living there mainly as an epipsammon.

原著論文
  • 千葉 崇, 西内 李佳, 辻 彰洋
    2020 年 36 巻 p. 23-34
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/16
    ジャーナル フリー

    珪藻は風によって移動し,微粒子として大気中に存在することが報告されている。しかしながら,大気を浮遊している珪藻の量,種組成,起源,移動距離および浮遊に必要な気象条件は未解決のままである。したがって,まず,大気中に浮遊する珪藻の量を知る必要がある。表層大気中の微粒子として珪藻の特性を明らかにするため,日射量が最も高い月として2019年8月4日から27日までの期間,日射量が最も低い月として2020年1月8日から31日までの期間を選定し,微粒子を採取するための調査を秋田県で行った。その結果,大気中に浮遊する珪藻の量は僅かであり,浮遊微粒子の主成分ではないことが示された。また,日射量が少なく,降雨があり,風速が速い条件下において,大気中の珪藻の量は増加した。これらの気象条件下では,土壌珪藻の生体も観察された。さらに大気中から得られた珪藻の平均サイズは約32.2–41.5 µmであり,粒子の挙動を考慮すると土壌珪藻の多くは短距離のサスペンジョンを繰り返して移動している可能性がある。

  • 林 辰弥, 大野 正夫
    2020 年 36 巻 p. 35-45
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/16
    ジャーナル フリー

    北大西洋亜極域の鮮新統上部―更新統下部から新種の珪藻Eupyxidicula atlanticaを記載した。この新種の栄養殻は半球形であり,内部に唇状突起を備えた管状突起や,五点形に配置された大きな小箱胞紋,および殻套に単純な外部開口を備えた唇状突起を持つ。休眠胞子は,殻上に散在する唇状突起を追加で持つ。管状突起はEupyxidicula属の種を分ける上で最も重要である。Eupyxidicula atlanticaでは,1つ(たまに2つ)の管状突起が殻の中心に垂直に見つかり,その中央部にフック,先端部にはノッチを持つ。管状突起のこれらの特徴は,E. atlanticaの細胞群体の連結が,Eupyxidiculaの別種,例えば,多くの管状突起を殻面/殻套境界に持つE. turrisE. nipponicusよりも,弱かった可能性を示唆する。Eupyxidicula atlanticaは,その独特な管状突起だけではなく,胞紋の内側の多孔師板によっても現存種のE. turrisE. nipponicus, E. palmerianaから区別できる。Eupyxidicula atlanticaの多孔師板は胞紋の六角形の床に限定されるが,現存種の多孔師板は殻の中心から縁にわたって連続的に分布する。化石種では,Stephanopyxis apiculataE. atlanticaに似ており,どちらの種も殻の中心に管状突起を持つ。ただし,E. atlanticaとは対照的に,S. apiculataはフックとノッチ構造の無い管状突起を0~4本持ち,その長さは殻の湾曲の程度に依存している。

  • 田中 宏之, 鈴木 秀和, 南雲 保
    2020 年 36 巻 p. 47-67
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/16
    ジャーナル フリー

    北海道南部瀬棚町に分布する太櫓層から,新種Cocconeis setanensis Hidek.Suzuki sp. nov.,3種の組み換えTetracyclus haradaae(Pantocsek)H.Tanaka comb. nov., Geissleria longifissa(Hustedt) H.Tanaka comb. nov., Sellaphora americana f. delicatula(Moisseeva)H.Tanaka comb. nov. を含む羽状類の129分類群を見出した。内訳は41:無縦溝羽状類(2分類群の属不明分類群を含む),14:単縦溝羽状類,74:双縦溝類であった。Cocconeis setanensis sp. nov. は外形が楕円形~卵形で長さ17.5–28 µm,幅12–19 µm。条線は縦溝殻・無縦溝殻とも10 µmに約22本である。類似するCocconeis dirupta var. dirupta, C. dirupta var. flexellaとは,これらがS字状縦溝(縦溝殻),S字状軸域(無縦溝殻),細い十字節であることにより区別できる。新種,組み換えを行った分類群のほか30分類群については本層からの産出に関する情報を記し,77分類群(9未同定種を含む)は写真を示した。

  • 齋藤 めぐみ, 柳沢 幸夫
    2020 年 36 巻 p. 69-79
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/16
    ジャーナル フリー

    富山県八尾地域の海成層である音川層に挟在する火山灰層(OT1)より,Actinocyclus属の化石1種を報告する。この種が淡水生のAulacoseira属とともに産出することから,このActinocyclus属もまた淡水生であることが示唆される。これらの淡水珪藻は,陸上の湖沼に生育していたかその堆積物に含まれており,OT1火山灰層として堆積した火砕流に巻き込まれて海域に運ばれたと考えられる。このActinocyclus属化石は,保存が悪いために,新種として記載するにも至らなかったが,既存の種の中ではActinocyclus krasskeiにもっとも類似した形態学的特徴をもつ。その形態は,円盤状で直径は20–75 µmで,胞紋は束線で明確に区分されることなく放射状に並び,10 µmあたりの胞紋密度は11–14個である。唇状突起は,非常に短い無紋線の上に認められ,その外孔は胞紋より大きく殻面/外套境界のすぐ下の外套に位置し,内側は殻面に平行な幅広の扇状で,その断面が楕円形の茎部は短い。偽節は光学顕微鏡下で観察可能で,殻の内側から見ると一つの唇状突起の近くの単純な孔あるいは凹みの中の孔として認識される。殻外側の殻面/外套境界は厚くケイ酸が沈着し,胞紋の外孔は変形している。胞紋室は広く,スポンジ状構造を持たない薄い胞紋壁に囲まれている。音川層産のActinocyclus属は,A. krasskeiのほかA. tubulosusやほかの非海生Actinocyclusとも形態が似通っており,それらとの形態学的な比較を示す。本研究は,日本における非海成層ギャップにおける湖沼生珪藻を明らかにするための重要な報告である。

研究ノート
短報
  • 佐藤 善輝, 髙清水 康博, 卜部 厚志
    2020 年 36 巻 p. 85-91
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2020/12/16
    ジャーナル フリー

    This study shows diatom fossil assemblage of the 2011 Tohoku-oki earthquake tsunami deposits and underlying soil in Arahama area, Sendai Plain, Miyagi Prefecture, northeastern Japan. All the major component species with >2% in relative abundance, 27 species belonging to 22 genera, are freshwater species. Surirella angustata and Nitzschia nana are common species in paddy field soil of the inter-ridge marshes, and their abundance in tsunami deposits increases toward inland. This suggests that diatom assemblage in tsunami current became similar as that of soil landward during the tsunami run up the plain. On the other hand, Hantzschia amphioxys and Luticola mutica are abundant in soil on beach ridges. In the tsunami deposits, they showed higher abundance at the sites just behind the beach ridges, and gradually decreased landward. This suggests that they probably transported from beach ridges toward inland due to erosion by the tsunami current. Transport distance of terrestrial diatom fossils is estimated to be a few hundred meters.

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