猫モルビリウイルス(FmoPV)は2012年に香港で初めて発見された新しいウイルスであるが,感染と猫の腎炎との関係が示唆されており今後の研究が重要である。私たちはFmoPVの病原性の解明のため,先ず疫学に重要な遺伝子検査法を9つのFmoPV株の共通配列によって作製し,以前の方法で検出を行った83サンプル中に新たな4株のFmoPVを検出した。FmoPV特異的抗原に対する抗体を検出するため,組み換えFmoPV P蛋白質を大腸菌で発現し,精製した蛋白質を用いてELISAの作製を試みた。腎炎猫の固定腎臓組織サンプルからFmoPVの検出を行い,82%(26/34)という高いパーセンテージでFmoPVが検出されたため,FmoPVの腎臓における病原性が確認された。現在,FmoPVの病原性のさらなる解明のため,培養細胞や実験動物を用いた病原性モデルシステムの構築を進めている
7歳のチワワを臨床検査所見よりリンパ腫と診断し,摘出した脾臓の病理組織検査結果に基づき濾胞中心細胞リンパ腫Ⅲに分類した。化学療法実施後の再燃時には全身の体表リンパ節の腫大を認め,膝窩リンパ節の病理組織検査結果よりび漫性大細胞B細胞性リンパ腫(DLBCL)と診断した。いずれの組織型もUniversity of Wisconsin -Madison プロトコール (UW-25プロトコール)に良好な反応を示し,再燃時にも同プロトコールを実施することで寛解が得られ,第1356病日現在症例の経過は良好である。
食後にみられる神経症状を主訴に来院した5カ月齢のトイ・プードル,雄に対し,門脈体循環シャントを疑ってCT検査を実施したところ,胸腔内および腹腔内のすべての臓器の配置に左右逆位を認めた。さらに,門脈体循環シャント(脾静脈-奇静脈シャント)と後大静脈欠損奇静脈連結および脾臓の形態異常も確認されたことから,本例を内臓錯位と診断した。門脈体循環シャントの治療法として短絡血管の結紮術を勧めたが,飼い主から同意が得られなかったため,内科的治療のみで経過観察を行うこととした。その後,一般状態は良好に推移していたが,3歳時に自宅にて急死した。本症例の死因については,内臓の配置が逆であることが直接的に関連しているとは断定できなかった。
11歳の雑種猫が右膝外側に形成された巨大な腫瘤を主訴に来院した。腫瘤のサイズはテニスボール大と非常に大きく,また,腫瘤付近の骨に骨膜反応等も認められたため,断脚術を強く提示したが,飼い主の同意が得られず,腫瘤のみの摘出術を実施した。病理組織検査の結果,腫瘤は起源不明肉腫と診断され,術後短期間で再発した。症例はその後断脚も含め,合計3回(初回手術を含めて4回)の手術を実施した。この症例に対し,再発抑制の効果を期待して,3回目の手術後から,免疫療法として,組換え型ネコインターフェロンωの皮下投与を実施したところ,4回目の手術時に摘出した腫瘍はもっとも悪性度が高かったにも係わらず,その後の局所再発は,約7カ月経過した時点でも確認されなかった。
9歳の去勢雄のノルウェージャンフォレストキャットが健康診断のため来院した。一般血液検査では変性性左方移動が認められた。 血液塗抹では好中球,好酸球,好塩基球および単球に核の低分葉が認められ,それらは1年以上継続してみられた。血液化学検査,画像診断,微生物検査(FIV, FeLVなど)および,骨髄検査の結果から偽ペルゲル・フェット異常を除外し,ペルゲル・フェット異常と診断した。
重度弁性狭窄(二尖弁)を伴う大動脈弁狭窄のバーニーズマウンテンドッグに対して,経食道エコーモニタリング下での経頸動脈バルーン拡張術を実施した。バルーン拡張中に心室細動がみられたが,電気的除細動により洞調律に回復した。バルーン拡張により左室流出路流速は536.8 cm/sから366.9 cm/sに減少し,弁の可動性も改善された。大動脈逆流を合併していたが,大動脈逆流速度はバルーン拡張前後で大きな変化は認められなかった。バルーン拡張の効果は再狭窄も含めて継続的に経過観察予定である。
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