上気道徴候を示す非短頭犬種に頭頸部X線および透視検査にて喉頭降下,咽頭背壁余剰,舌根後退,咽頭背壁と軟口蓋の一体化の4所見が認められるものを咽頭気道閉塞症候群と定義した。4年間でこれら画像所見を示す89例を抽出し,臨床像,治療,転帰について後向きに調査した。発症年齢中央値は9歳,ポメラニアンとヨークシャー・テリアで有意に好発し,主訴は慢性咳が最も多く,徴候では肥満,いびき,頻呼吸,睡眠呼吸障害,持続性痰産生性咳(productive cough),乾性咳が多かった。最終診断では気管虚脱が最も多かったが,全体の22%で該当する既存診断名がなかった。46例に体重減量が行われ3カ月後には高い減量率を示した86.7%で初期徴候は有意に改善した。一方,20例で睡眠時無呼吸や非心原性肺水腫を合併し,特に後者では60日生存率が66.7%と経過不良であった。早期に本疾患を認識し,肥満犬には減量を強く指示すべきである。
雑種,12歳の犬が食欲の低下,運動不耐性,発熱,発咳を主訴に来院した。血液検査では血小板減少症およびCRPの上昇が認められた。Anaplasma phagocytophilum(A. phagocytophilum)遺伝子陽性,抗A. phagocytophilum抗体陽性,好中球中に桑実胚が確認されたことから犬顆粒球性アナプラズマ症と診断した。解読されたgltAおよびgroEL遺伝子の塩基配列は,過去に日本で検出されたA. phagocytophilum株と遺伝学的に非常に近縁であった。本症例は西日本で初めてA. phagocytophilum感染症と診断した犬の1例である。今後,非流行地域においても本感染症の発生に注意する必要があると考えられた。
肝臓腫瘤の外科的治療を目的に肝葉切除術を実施した犬5症例において,術中推定出血量として術前と術後のヘマトクリット値(HCT)の差を算出し,術中の各モニタリング値とHCTの変化における相関性について調査した。HCTは術前と比較して術後有意な低下を認めた。術中は体温,心拍数,呼吸数,動脈血圧,経皮的動脈血酸素飽和度,呼気終末二酸化炭素分圧,呼気終末イソフルラン濃度,投与輸液量,そして中心静脈圧は最大値,平均値,最小値を測定した。中心静脈圧の最大値が高値で推移した症例においては術前と術後のHCTの差が有意に増加し,低値で推移した症例では術前と術後のHCTの差が低下する傾向を認めた。その他の項目について,有意な相関性は確認されなかった。犬の肝臓腫瘤の外科的治療における肝葉切除術において,中心静脈圧が出血に関連したHCTの変化に影響を及ぼす可能性がある。
グレード2または3の脾臓の血管肉腫に罹患した犬4例に対し経口低用量術後補助化学療法を実施した。経口低用量術後補助化学療法としてエトポシド,クロラムブシル,フィロコキシブまたはピロキシカムを用いた。4例の生存期間はそれぞれ307日,248日,285日,309日であった。ドキソルビシンを用いたこれまでの結果と同等あるいはそれ以上の生存期間であった。今後も期待の持てる治療法であり症例の蓄積が望まれる。
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