1)都市下水処理場(川崎市)の嫌気好気法のばっ気槽から出た汚泥を嫌気状態に保つとリンの放出がみられ,溶液中のP_2O_5濃度は200mg/l程度に達した.この濾液に石灰乳を加え,pH8程度でリンの80%程度を沈殿させることができた.共存している重金属類もこの処理によって90%以上が除去された.2)沈殿物の主体は,P_2O_5約18%およびCaO約43%を含む非晶性のヒドロキシアパタイトで,リン酸の95%以上はク溶性であった.重金属の濃度は鉄を除くといずれも微量で,ク溶率は60~95%であった.3)下水処理場での石灰凝集沈殿物中には,P_2O_5とCaOが上記試製品とほぼ等しい濃度で含まれ,ヒドロキシアパタイトは悲晶性であって,100%近いク溶率を示した.4)石灰凝集沈殿物を210μm以下と88μm以下に粉砕したものについて肥効試験を行った.水稲に対しては対照区の焼成リン肥(88μm以下)と同程度の成績を示し,リン酸吸収量の指数は98~102であった.体菜に対しては,収量(新鮮重)およびP_2O_5吸収量とも,対照の焼成リン肥区に比べてわずかに劣る成績を示したが,フロリダリン鉱石区を上回り,ガフサリン鉱石区と同等程度がやや優った.5)合成アパタイトのク溶率は,ヒドロキシアパタイトの場合には,非晶性のもの,また結晶性の微粉末(74μm以下,微結晶の大きさ300Å程度)ともにほぼ100%近い値を示した.フッ素を添加し,アパタイトの一部ないし大部分をフッ素アパタイトにした場合には,悲晶性の88μm以下のものは100%近いク溶率を示したが,非晶性の590~840μmのものおよび結晶性の微粉末はともにク溶率が顕著に低下した.6)合成アパタイトの肥効試験の結果,体菜のリン酸吸収量は,ヒドロキシアパタイトの非晶性(210μm以下),結晶性微粉末およびフッ素アパタイトの非晶性(210μm以下)のものはいずれも対照の焼成リン肥区と同等程度の成績を示した.結晶性微粉末でアパタイト中のフッ素アパタイトの比率が30%程度以上の場合は,リン酸の吸収量が大幅に低下した.7)以上の結果から,嫌気好気法と組み合わせた石灰凝集沈殿法は下水からの脱リン効果が高く,その沈殿物はリン酸質肥料として利用可能である.排水にフッ素が含まれていても,非晶性のアパタイトとして沈殿させることによって,肥効上の問題は少なくなると考えられた.
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