暖地稚苗移植水稲における安定・多収穫栽培技術を確立するために,基肥と追肥窒素の割合および裁植密度シンク(出穂期の m^2 当たりの籾数)とソース(出穂期の葉面積指数)の相対的な発達,すなわちシンク/ソース比に及ぼす影響について明らかにするとともに,シンク/ソース比と乾物生産,収量構成要素および収量との関係について検討した. 1)シンク/ソース比は主としてソースに支配され,ソースの大きくなった密植区ほどシンク/ソース比は低下した.一方,基肥と追肥窒素の割合がシンク/ソース比に及ぼす影響は,基肥窒素0%区では,ソースの発達が低下して,シンク/ソース比は向上しが,基肥窒素20〜100%区の範囲ではシンク/ソース比への影響は小さかった.そして,3.5万粒以上のシンクを確保した場合のシンク/ソース比は訳50〜80(粒/dm^2)の範囲にあった. 2)基肥窒素割合が多いほど出穂期の地上部乾物重は重くなったが,窒素吸収量は少なくなった.また,登熟期間の窒素吸収量は基肥窒素割合の多い区ほど大となる傾向がみられたが,乾物生産量には一定の傾向は認められなかった.一方,基肥窒素割合にかかわりなく密植区ほど出穂期の地上部乾物量は重く,窒素吸収量には裁植密度の影響は明瞭に認められなかった. 3)基肥窒素0%区では m^2 当たり籾数(シンク)は試験区中最も多く確保されたが登熟歩合の低下により減収した.そして,期肥窒素割合が20〜100%区では収量構成要素や収量構成要素に及ぼす影響は登熟歩合および玄米千粒量に認められ,疎植区ほど劣った.その結果,疎植区の収量は密植区や標準植区に比べて低位にあった. 4)シンク/ソース比は出穂期乾物重とは有意な負の相関関係を示したが,窒素吸収量や出穂期後の乾物生産量との間には明瞭な関係は認められなかった.また,シンク/ソース比の高い区では単位シンク(1穎花)当たりの出穂期の葉鞘+桿乾物重(貯蔵炭水化物量)が少なく,登熟歩合が低く,同一のシンク量ではシンク /ソース比の低い水稲に比べて収量は劣る傾向にあった.
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