有機物の無機化に伴う草類への窒素 (N), リン (P), イオウ (S) 供給を添加有機物の N, P, S 利用率の有機物間,要素間差異とその化学肥料対照区 (対照区) に対する割合から解析するため,N, P, S 含量および炭素 (C)/N 比の著しく異なる,鶏糞堆肥,牛糞堆肥,イタリアンライグラス残根 (残根) を残積性未熟土 (鉱質土) と黒ボク土に添加し,シコクビエ (Eleusine coracana G_<AERTN>) を栽培し,シコクビエによる N, P, S 吸収量から添加有機物の N, P, S 利用率を算出した.また,添加有機物中の N, P, S 量に相当する各要素量を試薬で添加した化学肥料対照区を設け,同様の方法で N, P, S 利用率を算定し,比較検討した.その結果,1) 添加有機物の N 利用率は鶏糞堆肥と牛糞堆肥で 9.1%, 残根で -0.2% と残根で著しく低かったのに対して,対照区の N 利用率はいずれの有機物でも1回刈りで約 60% ,その後 80% 前後と同程度に上昇した.したがって,添加有機物の N 利用率の対照区に対する割合は 12% 以下と著しく低く,その有機物間差異は添加有機物の利用率の場合と同様の傾向を示した.2) 添加有機物の S 利用率は鶏糞堆肥,牛糞堆肥,残根でおのおの 23, 9, 9% と鶏糞堆肥で高く,牛糞堆肥と残根で低かった.また,対照区の S 利用率は2回刈りで 40% 程度,4回刈りでも残根では 95% と高かったが,鶏糞堆肥,牛糞堆肥では約 60% と低く,鶏糞堆肥,牛糞堆肥では S 利用率が N の場合よりも過小評価されやすい.この場合,添加有機物のS 利用率の対照区に対する割合が重要となり,その値は鶏糞堆肥と牛糞堆肥でおのおの 36, 14% とN利用率よりも高かった.3) 鉱質土に有機物を添加した場合の添加有機物のP利用率は,鶏糞堆肥,牛糞堆肥,残根でおのおの 35, 58, 44% であり,対照区ではおのおの 23, 51, 68% と添加有機物のP含量が高いほど低かった.したがって,添加有機物のP利用率は N, S に比較しても,また添加P量の多いほど過小評価されやすい.添加有機物のP利用率の対照区に対する割合は,残根,牛糞堆肥,鶏糞堆肥でおのおの 64, 115, 152% と鶏糞堆肥で著しく高かった.これらの傾向は黒ボク土に有機物を添加した場合にさらに顕著となった.すなわち,添加有機物のP利用率の対照区に対する割合は,残根では 47%, 牛糞堆肥では 140%,鶏糞堆肥では 176% と,鉱質土の場合よりもさらに上昇した.以上の結果,添加有機物の N, S 供給は対照区に比較して鶏糞堆肥や牛糞堆肥でも 35% 以下と低く,とくに C/N 比の高い残根では著しく低いこと,それに対して,添加有機物の P 供給は対照区と比較して,残根でも 60%, 牛糞堆肥では 115% 以上であり,とくに鶏糞堆肥ではリン酸吸収係数の高い黒ボク土で 176% と著しく高いことなどが明らかとなった.
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