1964〜1986年に北陸,九州,東北各農試において実施した,ケイ酸石灰の施用を基幹技術とする施肥試験 18 事例を対象に,その施用効果と供試した水稲稲質ならびにその後の生育・養分吸収の関係を解析した.1) 18事例のうち,増収効果を認めた9事例の平均増収率は 5% であった.残りの9例はケイ酸石灰の施用による玄米重の増加を認めなかった.2) ケイ酸石灰区と対照区では,ともに玄米重,屑米重,穂数,一穂籾数と苗の特定の形質との間に共通した有意な相関関係がみられ,収量構成の主要な部分が苗の形質によって影響されていることを示した.3) 水稲の収量・収量構成要素は有効分げつ期の乾物重・養分含有率と相関を示した.有効分げつ期の乾物重は,増収効果の有無にかかわらず,苗の乾物重と正の相関を示し,かつ,増収効果の認められた場合には苗のN% と正,苗の Mg% と負の高い相関関係にあった.これに対し,増収効果のみられない場合は,有効分げつ期の乾物重が苗の P%, K% と正の相関関係にあったが,その有意水準は低かった.4) 増収効果を認めた場合の水稲苗は,3地域,4品種を通じて,乾物重と N% との間に正,Mg% との間に負,N% と Mg% との間に負,K% と Mn% との間に正のそれぞれ有意な相関のあることが認められたが,増収効果が認められない場合の水稲苗ではわずかに P% と K% との間に正の相関を認めるのみであった.すなわち,増収効果を認めた場合の苗は,認めない場合の苗にくらべて高い栄養生理的活性を有していると推察した.5) 以上のことから,水稲苗の栄養生理的性質が移植後の生育に強く影響していることが推察され,ケイ酸石灰施用による水稲の増収効果が現われる条件の一つとして,苗の栄養生理的性質を考慮する必要があることを認めた.
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