草地に対する干ばつ被害程度を予測することを目的に,低水分ストレスの影響を組み込んだ牧草(オーチャードグラス)の乾物生産予測モデルを開発した.そして,気象および土壌条件の異なる2つのオーチャードグラス単播草地(台地褐色森林土と普通灰色台地土)について干ばつ年を中心にシミユレーションを行い,モデルの妥当性を検討した.1)モデルは,「土壌中の水移動」,「根の吸水」,「乾物生産」を表す3つのサブモデルから構成され,すべての計算は,厚さ5cmの土層を単位として行われる.2)土壌中の水移動サブモデルでは,ポテンシャル勾配に基づいて土層間の水フラックスを求めた後,各土層における水収支式から土壌水分量(マトリックポテソシャル)を決定する.3)根の吸水サブモデルでは,各土層の根の吸水量を求める.根の吸水量は各土層のマトリックポテソシャルが0〜-1000cmの範囲では最大吸水量に等しいが,-1000〜-16000cmでは土壌水分の低下に伴い直線的に減少するとした.4)乾物生産サブモデルでは,牧草の水利用効率と根の吸水量との積により乾物生産量を求める.牧草の水利用効率は土壌水分条件で変化するとし,各土層のマトリックポテンシャルが0〜-3000cmでは最大水利用効率に等しいが,-3000〜-16000cmの範囲では,土壌水分の低下につれて直線的に減少するとした.5)台地褐色森林土および普通灰色台地土のオーチャードグラス単播草地の干ばつ年におけるシミュレーションでは,牧草乾物重,深さ別土壌水分量および蒸発散量の推定値の推移は,両草地とも実測値とおおむね対応していた.また,干ばつ年と湿潤年を含む3カ年にわたる牧草乾物重の推定値も,実測値とほぼ一致していた.6)以上から,土壌水分の減少による乾物生産量の低下を吸水量と水利用効率の双方の減少によって表現した本モデルは,牧草の乾物生産に対する低水分ストレスの影響をほぼ適切に表し,干ばつ被害程度の予測に利用できると結論される.
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