これまでに公表されてきた統計情報や既存の知見から地域別,畜種別の飼養条件,ふん尿処理法等に関するパラメータをもとめ,家畜ふん尿に由来するN,P,Kについて発生量,処理物別,仕向先別の量を推定した.また,統計情報による堆肥発生量から本報における推定法の妥当性を検討した.農業地域別の飼料量に基づいて算出した搾乳牛の家畜ふん尿およびN,P,Kの発生原単位は農業地域により変動がみられ,特に北海道と都府県の差が大きかった.地域別,畜種別にみたふん尿の処理対象重量は乳牛の場合,北海道では処理施設を利用しない処理が多く,北陸,東海,近畿,四国では処理施設を利用した処理が多かった.九州は「スラリー」の占める割合が高いことが特徴的であった.肉用牛では乳牛と同様の傾向であった.発生したふん尿Nのうち約3〜4割が発生から処理の過程での「揮散」となった.また,乳牛,肉牛では「経営耕地還元」が多く,特に乳牛で顕著であった.豚では浄化施設による処理割合が高いこと,鶏では「販売・交換等」の割合が高いことが特徴的であった.算出した堆肥のN,P,K量と統計値から計算される堆肥のN,P,K量と各成分の比率を比較した結果,乳牛ではN,P,Kで,肉用牛ではN,Kで,鶏ではNでほぼ同様の値が得られた.Pは肉用牛,豚,鶏では本報の値が低かった.液状の処理物の施用可能量と「販売・交換等」を除いた発生量を比較した結果,N施用量を基準として算出した場合,関東・東山,東海,近畿では発生量が施用可能量を上回った.これらの地域では経営耕地還元だけでは発生する尿,スラリーを処理できないことからふん尿処理体系の変更を検討する必要がある.
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